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中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第1章 第4話「引っ込み思案な私、試合に挑む決心をする」
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02 夜の小鳥

「迷って……る?」


 アゴに手を当てられ、見つめ合った姿勢のまま。

 私はカンナさんの言葉を、繰り返した。


「そう。まるで迷子の小鳥みたいな目をしている」

「……えっと」

「チェリルと戦うことが、そんなに嫌?」


 どきりと、心臓が音を鳴らす。


「『戦いが嫌い』という顔をしているね。人と争いたくない、争うくらいなら自ら身を引いた方がずっといい――おおかた、そんなことを考えているのかな?」

「ど、どうして、そんな……」

「分かるよ。顔に書いてあるから」


 つつと――カンナさんの細くしなやかな指先が、私のアゴから頬へと伸びていく。


 そして今度は、私の頬に手を当てて。


「……ほら。ここに書いてある」

「――――!? か、書いてないです!!」


 緊張と恍惚と恥ずかしさが、ない交ぜになって。

 頭がショートしそうになった私は、慌ててカンナさんの手を逃れ、後ずさった。


 胸元に両手を当てる。

 ――ドクンドクンと、まだ胸が高鳴っている。


「君の魔法。それはオルタナギアの基本法則から、はみ出したものだね」


 私から目を離すことなく。

 カンナさんが当然のことのように、言った。


 私の心臓が、悲鳴を上げる。


 ど……どどどどど、どうして、そのことをカンナさんが!?


「オルタナギアに存在する魔法。それを君は使うことができない。その代わり、より高次な――オルタナギアの魔法を凌駕するものだけを、君は扱うことができる。そうだよね?」

「カ、カンナさん。私の魔法、見たこと――」

「ないよ。だけど分かる。わたしには」


 エスパーか何かなのか、この人は。

 超然としたその佇まいに、私は空恐ろしさすら感じてしまう。


「そ、それはカンナさんの、考えすぎっていうか。私はただ、ちょっと田舎で聞きかじった魔法を、使ってるだけで。それがちょっと、他の人の魔法とズレてて……」

「慌てなくていいよ。だって魔法とは本来、そうあるべきなんだから」


 しどろもどろになっている私を、笑いもせず。

 カンナさんはそのまま、話し続ける。


「そもそもおかしいとは思わない? 形がないものを産み出す魔法に、定型があるということが。誰もがその定型に従って、右へならえで同じ魔法を使っていることが。魔法とはもっと、自由であるべき。そうでないのなら――それはもう、魔法なんかじゃない」


「は、はぁ……」


 分かるような、分からないような。

 私は曖昧な相づちを打つ。


 カンナさんは特に気分を害した様子もなく、私をじっと見つめている。


「大切なのは想像力。そして、創造力。想像と創造によって生じた奇跡的な反応こそが、魔法なんだよ」


 想像と創造。

 私の中二妄想が具現化した、今の状況みたいなことか。


 ――あ。

 ってことは、カンナさんが言いたいのは……。


「……私の魔法が、その奇跡的な反応ってやつだって。そう、言ってるんですか?」

「そうだよ。君は特別な存在だから」

「特別って……私は普通の、しがない魔法使いです」


「特別だからこそ、君は力を誇示しなければならない。チェリルとの試合も、本気で戦うべきだ。自身の力を見せつけ、研鑽し、より高みへとのぼっていくんだよ。すべては――オルタナギアを救うために」


 ――オルタナギアを救う。


 それって……魔王グランロッサとやらを倒して、百年にも及ぶ争いに終止符を打つってこと?

 そんな大それたことを、この私が?


「む、無理ですよ!? 私は戦うこととか、本当に怖いし苦手で。チェリルと試合することすら嫌なのに……世界を救うだなんて」

「今はそれでもいいさ。今はね……取りあえずは目先の、チェリルとの試合に集中してちょうだい」

「いや……だからそれも、本当は嫌で……」

「仕方のない子だね」


 カンナさんはうっすらと微笑み。

 右手をすっと、まっすぐ前にかざした。


 そして目を瞑り、小さな声で呟く。


「――――『解錠(シャンテ)』」



 瞬間。

 目も眩みそうな白い光が、辺り一面を包み込んで――。

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