01 満月の輝く庭園で
翌日は普通の学園生活だった。
チェリルは、いつもみたいに絡んできたりしなかった。
遠目に私を見て、「ふふん」と得意げに笑っていることはあったけど。
ああ――泣いても笑っても、明日はやってくる。
その明日こそが、私とチェリルの決戦の日だ。
それを思うと……普通の一日だっていうのに、なんだか落ち着かない。
昨晩の、リーリカの言葉を思い出す。
『あたしがチェリルの立場なら――正々堂々、本気のアリスと勝負したいよ』
正々堂々。本気の自分で。
勝負をする……かぁ。
満月の輝く寮の庭。
もう二十時になろうかという時間だけど、私はベンチに腰掛けて、禁断教典『シュバルツアリス』をぺらぺらとめくっていた。
私の考えた最強の魔法。
それらが書き綴られたノートを眺めながら、私はチェリルと戦う想像をしてみる。
この魔法だと、ちょっと強すぎるかな? 怪我させちゃうかも。
こっちだとどうかな? でもこれだと、チェリルに恥をかかせちゃうか。
逡巡する。
ぐるぐると。
だけど私の中で、どの魔法もしっくりこない。
そりゃあそうだよね。だって自分の方針が、定まってないんだから。
チェリルと本気で戦うべきなのか、勝ちを譲るべきなのか……その結論がまだ、出てないんだから。
「迷いが見えるね。アリス」
凜とした声。
私はハッとして、『シュバルツアリス』から顔を上げる。
草花も眠る、夜の庭園。
そこに佇んでいる、一人の絶世の美女。
「……カンナさん?」
「こんばんは。あまり夜風に当たると、風邪を引くよ」
カンナさんがつかつかと、こちらに歩いてくる。
腰元まで伸びたさらさらの青髪。
まつ毛に彩られた、大きくてぱっちりとした瞳。
細くて長い、真っ白で透けるような脚。
月光を浴びながら、しゃなりしゃなりと歩くその姿は――絵画に描かれた女神のように見える。
神々しい。
これこそが学園トップの実力者――カンナさんが放つオーラ。
「どうかした? ボーッとして」
「あ! い、いいえっ!!」
思わず見惚れてしまっていた自分に気付き、慌てて私はカンナさんから目を逸らす。
なんだかほっぺたが熱い。
赤くなっていることに、気付かれないといいんだけど。
「……うん」
小さく声を漏らしたかと思うと。
カンナさんが――くいっと。
私のアゴに手を当てて、自分の方へと顔を向けさせた。
髪の毛から漂う、ミントのように爽やかな香り。
アゴに触れている、温かくて柔らかい指先の感触。
鼓膜を震わす、蠱惑的な声色。
そして――何もかも見通しているかのように、神秘的なその瞳。
カンナさんのすべてが、私を溶かしていく。
ごくりと呑み込んだ唾液が、温度を持って喉元を通り過ぎていく。
永遠にも思える、その瞬間ののち。
「やっぱり迷ってるね。アリス」
カンナさんは呟いて。
ふっと――妖艶に微笑んだ。




