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中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第1章 第4話「引っ込み思案な私、試合に挑む決心をする」
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01 満月の輝く庭園で

 翌日は普通の学園生活だった。


 チェリルは、いつもみたいに絡んできたりしなかった。

 遠目に私を見て、「ふふん」と得意げに笑っていることはあったけど。


 ああ――泣いても笑っても、明日はやってくる。

 その明日こそが、私とチェリルの決戦の日だ。


 それを思うと……普通の一日だっていうのに、なんだか落ち着かない。


 昨晩の、リーリカの言葉を思い出す。


『あたしがチェリルの立場なら――正々堂々、本気のアリスと勝負したいよ』


 正々堂々。本気の自分で。

 勝負をする……かぁ。




 満月の輝く寮の庭。


 もう二十時になろうかという時間だけど、私はベンチに腰掛けて、禁断教典『シュバルツアリス』をぺらぺらとめくっていた。


 私の考えた最強の魔法。

 それらが書き綴られたノートを眺めながら、私はチェリルと戦う想像をしてみる。


 この魔法だと、ちょっと強すぎるかな? 怪我させちゃうかも。

 こっちだとどうかな? でもこれだと、チェリルに恥をかかせちゃうか。


 逡巡する。

 ぐるぐると。


 だけど私の中で、どの魔法もしっくりこない。


 そりゃあそうだよね。だって自分の方針が、定まってないんだから。

 チェリルと本気で戦うべきなのか、勝ちを譲るべきなのか……その結論がまだ、出てないんだから。


「迷いが見えるね。アリス」


 凜とした声。


 私はハッとして、『シュバルツアリス』から顔を上げる。


 草花も眠る、夜の庭園。

 そこに佇んでいる、一人の絶世の美女。


「……カンナさん?」

「こんばんは。あまり夜風に当たると、風邪を引くよ」


 カンナさんがつかつかと、こちらに歩いてくる。


 腰元まで伸びたさらさらの青髪。

 まつ毛に彩られた、大きくてぱっちりとした瞳。

 細くて長い、真っ白で透けるような脚。


 月光を浴びながら、しゃなりしゃなりと歩くその姿は――絵画に描かれた女神のように見える。


 神々しい。


 これこそが学園トップの実力者――カンナさんが放つオーラ。


「どうかした? ボーッとして」

「あ! い、いいえっ!!」


 思わず見惚れてしまっていた自分に気付き、慌てて私はカンナさんから目を逸らす。

 なんだかほっぺたが熱い。

 赤くなっていることに、気付かれないといいんだけど。


「……うん」


 小さく声を漏らしたかと思うと。

 カンナさんが――くいっと。


 私のアゴに手を当てて、自分の方へと顔を向けさせた。



 髪の毛から漂う、ミントのように爽やかな香り。

 アゴに触れている、温かくて柔らかい指先の感触。

 鼓膜を震わす、蠱惑的な声色。

 そして――何もかも見通しているかのように、神秘的なその瞳。



 カンナさんのすべてが、私を溶かしていく。


 ごくりと呑み込んだ唾液が、温度を持って喉元を通り過ぎていく。


 永遠にも思える、その瞬間ののち。


「やっぱり迷ってるね。アリス」



 カンナさんは呟いて。

 ふっと――妖艶に微笑んだ。

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