02 中二病VSドラゴン
私はごくりと喉を鳴らすと、そーっと足を踏み出した。
くしゃっと、草の絨毯が音を鳴らす。
青々とした緑の香りが、私の鼻腔をくすぐる。
……えーっと。
私ってば中二妄想しすぎるあまり、幻覚まで見はじめちゃったのかな?
『中二病』どころか、完全に病気じゃん……さすがに私ってば、やばい気がする。
取りあえず、いったん頭を冷やそう。
そう思った私は、屋上を出ようと慌てて振り返った。
「……えっ!?」
そこにはもう、出口はなかった。
目の前にあるのは、やはり地平の彼方まで広がる平原のみ。
どうしよう、これじゃあ帰れないじゃない。
自分の妄想の中に閉じ込められるとか、どういう状況よ。
「――――グオオオオオオオオオオッ!!」
そんな私の背後から。
地を揺らすような轟音とともに、物凄い勢いの風が吹き抜けていった。
私は慌ててスカートの裾を押さえながら、振り返る。
そこにいたのは、真っ赤な瞳をした、ドラゴンだった。
…………ドラゴン?
「って、えええええええええ!?」
すっとんきょうな声を上げて、私はその場に尻もちをつく。
いや、だって。ドラゴンだよ?
私の四倍くらいはありそうな身体に、巨大な翼と牙を生やして。
獰猛な爪を地面に突き立てて、こっちを見てるんだよ?
こんな状況、ゲームか本の中でしか見たことないよ!
「グオオオオオオオッ!!」
低く重い声とともに、ドラゴンは口から炎を吐き出す。
火球は私の頬をかすめ、背後に着弾。
激しい火柱を上げて、地面に穴をぶち開けた。
「ちょ……しゃれにならないよ、これ!?」
こんなもん喰らったら、一巻の終わりじゃない。
自分の妄想で死ぬだなんて、冗談じゃな――。
「……ん? そうか。これ、妄想なんだっけ……」
あまりにリアルだから、現実のように受け止めてしまっていたけど。
よくよく考えたら、これ、私の妄想だった。
屋上に平原が広がってたり、いきなりドラゴンに襲われたり。
私の妄想、いきすぎ……?
「グオオオオオオオオオオ……」
ドラゴンが唸り声を上げる。
だけど先ほどまでとは違い、私の心は妙に落ち着いていた。
だってこれ、妄想なんだもん。
このドラゴンは実在しないわけだし、攻撃を喰らったって本当に死ぬわけでもない。
――だったらいっそ、ドラゴン退治といきましょうか!
私はドサッと、手提げ袋を地面に置いた。
そして……一冊の書物を取り出す。
禁断教典『シュバルツアリス』。
私の考えた最強の魔法ばかり書き記された、まさに禁断の書だ。
「閃光の瞬きは裁きの輝き……」
ページをめくり、私は呪文を唱えはじめる。
瞬間、カッと。
私の周囲に光のサークルが出現し、地面から風が吹き上がってきた。
……うっひゃあ。今日の妄想は、本当にやばいな。
リアリティが半端ないよ。
「グオオオオオオオオオオッ!!」
ドラゴンが口を膨らませ、まさに炎を吐きださんとしている。
だけど、もう遅い。
「――汝、灰燼と化せ。『機械仕掛けの太陽』!」
まばゆい光が、辺りを照らした。
その光に包まれると――巨大なドラゴンは、一瞬のうちに塵と消える。
風が吹き止む。
「……本当に使っちゃったよ。魔法」
その場にぺたんと座り込み、私はぽつりと呟く。
いや、妄想なんだけどね?
だけどいつもと違って、なんか手応えがあったっていうか。
夢だけど、夢じゃないみたいな感覚っていうか。
とにかく、あれだ――ちょーお、気持ちいい!!
私は禁断教典『シュバルツアリス』を抱き締めて、テンションMAXな気分のまま、空を仰ぐように顔を上げる。
ぱっちり。
私を見下ろしている少女と、目が合った。
「うわっ!?」
まさか誰かがそばにいるとは思っていなかったので、私は反射的にのけぞる。
そのせいで体勢を崩して、緑の絨毯に倒れ込んでしまう。
そんな私をキラキラとした目で見ながら――少女は興奮気味に叫んだ。
「すっごい! あたし史上、最高だわ!!」
「……はい?」
最高って……何が?