表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第1章 第3話「異世界でちやほやされてる私、一方的にライバル視される」
19/80

06 眠れない夜は……

「それじゃあ、お休みなさいなの」


 ネグリジェ姿のユピは棺桶の中に入ると、ゆっくりと蓋を閉じた。

 棺桶で寝るのは、ヴァンパイアの習性なのか、ただのユピの趣味なのか……どっちなんだろうね?


「じゃあ、あたしたちも寝よっか」

「うん、そうだね」


 リーリカがパチンと、電気を消す。

 私はころんとベッドに倒れ込んで、すっと布団を引っ張り上げた。


 明かりの消えた部屋は、真っ暗で。

 見上げた天井は、輪郭さえも定かじゃない。


「……はぁ」


 怒濤のように押し寄せた今日の出来事を思い返し、私は深くため息をついた。


 明後日行われる、チェリルとの魔法試合。

 しかも立会人は、学園一の実力者・カンナさん。


 ――――嫌だなぁ。


 枕元に置いてある禁断教典『シュバルツアリス』を、そっと撫でる。


 私の魔法は、オルタナギアのものとは根本的に違う。

 ぼっちだった私が書き記した中二妄想に基づく、特殊なもの。

 授業なんかで使う分には問題ないけど……試合となると、どの程度うまく扱えるのか未知数だ。


 というかそもそも、私は『試合』そのものが好きじゃない。

 無用な争いでどっちかが怪我をするっていうのが、嫌なのもあるけど。

 どっちが上とか、そういうことに興味が沸かない。


 オルタナギアの常識を凌駕した魔法を使うことができて。

 編入と同時に抜きん出た実力を発揮して、ちやほやされて。


 嬉しかった。冴えなかった人生が一変して、満ち足りた気持ちだった。

 だけどそれは――チェリルより上に立ちたいとか、そういうことじゃない。



 二番でもいいんだ。


 みんなから褒められて、仲良くしてさえもらえれば、それだけで満足なんだ。

 一番を争って、チェリルとギスギスする方が……よっぽど嫌だから。


「アリス、眠れないの?」


 ――ぐるぐると思いを巡らせていると。

 隣のベッドから、リーリカの声が聞こえてきた。


 ころんと横を向くと、リーリカと目が合う。


「リーリカこそ。寝てなかったんだ」

「アリスがため息ばっかりついてるから、気になっちゃってね」


 そう言って「ふふっ」と笑うリーリカ。

 いつもはサイドテールの赤髪が、今はほどかれている。


 ちょっと髪型が変わっただけなのに、大人っぽい雰囲気。

 静まり返った寝室で、いつもと違うリーリカを見ていると……なんだか秘密を共有してるみたいで、ちょっとドキドキしちゃう。


「どうしたの? チェリルとのこと、まだ気にしてるの?」

「うん……そう」

「戦いたくないの?」

「できれば。争い事は嫌いだし」


「試合をしなかったとしても、チェリルは突っかかってくると思うよ。それだって十分、争い事じゃない?」


「そうだね……できればそれも、やめてほしいっていうか。チェリルが一番になりたいんなら、譲ったっていいから。みんなと仲良く、平和に暮らしたい」


「アリスは優しいね」


 優しい……のかな?

 単純に、臆病なだけだと思うけど。


「でも、それはチェリルがかわいそう」

「かわいそう?」

「うん。お情けで一番を譲られたって、チェリルは多分喜ばないよ」

「……どうして?」


 チェリルは一番になりたいんじゃないの?

 カンナさんに追いつくために、私が来る前の地位を取り戻したいんじゃないの?


「あんな性格してるけど。チェリルは一生懸命だから。だから――お飾りの一番じゃ、きっと満足しないよ」


 リーリカが眉尻を下げて、優しく微笑む。


「多分戦ったら、アリスが勝つよ。あたし史上、最高なんだから。アリスは」

「そしたらチェリルと、もっと仲が悪くなっちゃうでしょ?」

「意外とそうでもないかもよ? きっぱり負けた方が、すっきりするかも」

「そうかなぁ?」


「分かんないけどね。でも、あたしがチェリルの立場なら――正々堂々、本気のアリスと勝負したいよ。そっちの方が、ずっとすっきりする」


「そんなものかな」

「そんなもんだよ」


 いつも勝負事から逃げてきた私には、いまいち理解できない感覚だけど。

 リーリカが言うんなら、そうなのかもしれない。


「少しはすっきりした?」

「うーん。まだちょっと、もやもやしてるけど」

「そっか」


 リーリカがおもむろに、布団から起き上がった。

 月の光をうっすらと浴びたリーリカは、なんだか幻想的で――いつも以上に、きれい。


「おじゃましまーす」

「――!?」


 私が見とれている隙に、リーリカはするっと私の布団に潜り込んできた。

 そして、上目遣いに私を見上げて。


「……眠れるまで、添い寝してあげるよ」

「いやいや。なんか恥ずかしくって、余計寝づらいよ!?」

「あははっ」


 顔をくしゃっとして笑って。

 リーリカはギュッと――私の手を握ってきた。


 手のひら越しに伝わってくる、リーリカの温度。

 なんだかほわっと……温かい。


「大丈夫。あたしはいつだって、アリスの味方だから。アリスがどんな結論を出したって、ずっとそばにいるから」

「……うん」

「ユピだってきっと、そうだから」

「……うん」


 吐息のかかるほど近い距離で、リーリカの呟きを聞いていたら。

 不思議となんだか……眠たくなってきちゃったな。


「リーリカ。ありがとう」

「いいえ。どういたしまして」

「おやすみ、リーリカ」

「おやすみ、アリス」



 そうして――私はリーリカと、手を繋ぎ合ったまま。

 静かに眠りに、ついたのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ