03 彼女は張り合う
「さぁアリスさん! 今日は雷魔法で勝負ですわ!!」
今日も今日とて、突っかかってくるチェリル。
私はため息をつきながら、ゆっくりと顔を上げる。
「勝負って……お昼休みだよ?」
「そうよ。アリスは今、あたしたちと楽しくお昼を食べてるの。邪魔しないでよね」
「そ……そうなの」
リーリカとユピも、一緒に応戦してくれる。
だけど、ミルミーを従えたチェリルは、そんなこと意にも介さず。
「授業中に勝負というわけにはいかないでしょう? 先生の言うことは、きちんと聞かなければなのですから」
「チェリルは真面目なんだよねー」
「だからこそ、今! 休み時間である今こそが、わたくしたちの勝負のときですわ!!」
もぉ、勝手なことばっかり言って……。
私は授業中だろうと休み時間だろうと、誰かと争うつもりなんかないんだけど。
「行きますわよ――『雷電弾』!」
バチバチバチッ!
チェリルが杖を振ると、紫電を放つ光球が、窓の外へと放たれる。
「どうですの? わたくしの『雷電弾』は、クラスの中でもトップクラスの大きさですわ! この魔力に、果たして勝て――」
「――汝は言った。『稲妻とは怒りではなく、衝動に吼えているのだ』と。我は知った。稲妻の答え、空との約束。そして一筋の、光の心。それは耳鳴りがするほどの、巨大な愛の咆哮である――『雷神は戸惑いがちに笑う』!!」
バリバリバリバリッ!!
一閃の稲妻が槍のような形状になったかと思うと、校庭の中心に突き刺さった!
その凄まじい勢いに、大地がビキビキとひび割れる。
ちなみに校庭には誰もいなかったので、ケガ人は出ていない。
それくらいは気を遣わないとね。
「はい、アリスの勝ちー」
リーリカがフォークをチェリルの方に向けて、得意げに言う。
ユピもこくんこくんと、何度も頷いている。
「別に私は、勝ち負けとかはいいんだけど……あんまり突っかかって、ほしくないっていうか」
「こ、これくらいの魔法で、わたくしが引き下がるとでもお思いで!?」
「できれば、そうしてほしかったなぁとは思うよ」
「冗談じゃありませんわ! わたくしは絶対に、アリスさんに負けるわけにはいきませんもの!!」
ああ、ダメだこりゃ。
チェリルの心には、余計に火が点いちゃったみたい。
「チェリルはアリスちゃんが来る前、魔法では学年トップだったんだよねー」
ぷるぷる肩を震わせるチェリルのそばで、ミルミーがあっけらかんと言う。
「だけど今は、アリスちゃんの方が上……みんなそう思ってる。それがチェリルは、気に入らないんだよー」
「……ミルミーの言うとおりですわ」
チェリルはギュッと拳を握って、歯噛みする。
「わたくしはもう一度、学年一の立場を取り戻したい。そして必ず――カンナ様の跡を継いでみせるんですの」
「カンナ様? 誰?」
バッと。
チェリルだけじゃなく、リーリカもユピもミルミーも、一斉に私の方を向く。
その目はまるで、珍獣を見るかのようなもの。
「アリス……カンナ様のこと、知らないの?」
「ルミーユ学園に入って日が浅いけど……さすがにそれは、どうかと思うの」
「世間知らずも甚だしいですわ! カンナ様への、侮辱ですわ!!」
「ボクもさすがに、それは引くなー」
えっ? えっ?
みんなから口々にそんなことを言われたら、さすがに動揺する。
私ってばひょっとして、常識なさすぎ?
「いい、アリス? カンナ様はルミーユ学園の三年生。そして、この学園一の実力を持っている、魔法使いよ」
リーリカがピンと人差し指を立てて、説明してくれる。
「学園一の実力――それは生徒に限った話じゃない。先生はおろか、学園長でさえも……カンナ様の魔力には敵わないと言われているわ」
「へぇー。すごいね、そんな人がいるんだ」
「ルミーユ学園の魔法使いで、カンナ様に憧れない人はいませんわ。いいえ、魔法使いだけではない。すべての生徒たちにとっての、学園の星……それこそが、カンナ様なんですから!」
熱弁を振るうチェリルに、他の三人も頷く。
そっか。そんなにすごい人が、この学園にはいるんだ。
学園の星とまで言われると、さすがの私もちょっと興味が出てくる。
「つまりね。チェリルはいつか、カンナ様のような学園の星になりたい。だけどそのためには、同学年のエースであるアリスちゃんが、目の上のたんこぶなんだよ。だから今――勝ち負けをはっきりさせたい」
ニコニコ笑顔を崩さずに、ミルミーがさらっと言う。
チェリルは腕を組んだまま、黙ってこちらを見据えている。
「小テスト対決も、魔法比べも、アリスが勝ったじゃないの。これ以上、どうしたいっていうのよ?」
「……魔法を使った、試合ですわ」
し、試合!?
「いやいや。私、争い事とか嫌いだし。それに万が一、怪我でもさせたら悪いし……」
「はぁ!? わたくしが貴方にボコボコにされると、そうおっしゃいたいの!? 随分と自信があるのですわね!!」
すごい剣幕で食って掛かってくるチェリル。
や、そうじゃなくってね?
どっちが強いとかじゃなくって、誰かとケンカすることが嫌なんだってば。
ああ、もう。どうやったら納得してくれるのかなぁ……。
――――そのとき。
「いいじゃない。戦ってごらんよ」
私たちの後ろから。
聞いたこともないほど透き通った声が、教室中に響き渡った。




