01 かけがえのないもの
ルミーユ学園に編入してから、早一週間が経ったけれど。
ここでの暮らしは――私にとって、まさに天国だ。
魔法の実技は、いつだって他の子より頭三つくらい抜きん出た実力を発揮しているし。
座学だって、中二病をこじらせて『魔法事典』とかを読み漁っていた私に、理解できない理論はなかった。
「ねぇ、アリスさん。どうやったらそんなに、魔法がうまくなるの?」
「私たちにも教えてー。なんなら私たちと、パーティーを組んで!」
そんな私の周りには、常に人が集まっている。
あの地味で、いつもぼっちでご飯を食べていた、この私の周りに!
かつての自分に教えてあげたい。
お前は異世界に行って、人生逆転を果たすんだと。
きっと卒倒してしまうと思うけど。
……とは言っても。
私の本質がコミュ障であることに、変わりはない。
元の世界にいた頃に比べると、いくらか自信がついてきたとはいえ……やっぱり大勢から一気に話し掛けられたりすると、しどろもどろになっちゃう。
「すとっぷ、すとーっぷ!!」
そんな私を、いつもフォローしてくれるのが――リーリカ。
「アリスが困ってるじゃない。アリスにお願い事をしたいんなら、まずはこのリーリカを通してもらわないと!」
「何よぉ。リーリカってば、アリスさんの保護者みたい!」
「ずるいわ、自分ばっかりアリスさんを独り占めして」
「ずるくないわよ。だってアリスは、あたしのものだもーん」
コミュニケーション能力の塊みたいな振る舞いで、いつだってリーリカは私を助けてくれる。ほんっとうに、ありがたい存在!
ちょっと私に対する、ボディタッチが過剰だけど。
――ちょっとじゃなくて、かなり過剰だけど。
友達らしい友達がいたことのない私にとっては、そうしたスキンシップも「仲良しの証」って感じがして、なんだか心地よい。
人前であんまりベタベタされるのは、ちょっと恥ずかしいけどね。
「アリス。大丈夫なの?」
リーリカのおかげで質問攻めから逃れた私のところへ、ちょこちょことユピが近づいてきた。
なんだか心配そうな表情を浮かべて、上目遣いをしているユピ。
「いつも大変そうなの。たくさんの人に囲まれて」
「そうだね……あんまりこういう経験ないから、ちょっと疲れちゃうかも」
「そうなの? アリスだったらどこにいても、人が集まってきそうなのに。ちょっと意外なの」
「あ、あはは……」
私は思わず苦笑い。
昔の私の写真でも見せてあげたいよ。きっとユピもリーリカも、びっくりしすぎて倒れちゃうだろうな。
この見た目と、圧倒的な魔法の才能があってこそなんだよ。今の私の地位があるのは。
「ユピも最初、人に囲まれたりしなかった? ヴァンパイアとのハーフって、珍しいんでしょ?」
「……囲まれたの。思い出したくもない、悪夢だったの……」
あ。なんかごめん……。
遠い目をしているユピを見て、申し訳なくなる私。
そうだよね。ユピも昔の私と負けず劣らずな、人見知りだもんね。
大勢の人に囲まれたりしたら、そりゃあもう悪夢だったことだろう。
「魔王グランロッサの眷属であるヴァンパイア――それがユピのお父様。魔王を裏切って、人間と子どもを成した変わり者なの。そんな生い立ちだから、好奇の目で見られることも、蔑まれることも、どちらも多かったの」
「蔑まれる? どうして?」
「ヴァンパイアは畏怖される存在……その血が流れているというだけで、ユピを『魔王の手先なんじゃないか』と疑う人も、大勢いる。そういうものなの」
「何それ、ひどい!」
思わず私は、声を荒らげちゃう。
だってユピは、こんなに優しくて、穏やかな性格をしてるのに。
それを捕まえて「魔王の手先」だなんて――信じられない!
「ありがとうなの、アリス」
目を細め、八重歯を覗かせて笑うユピ。
「そんな風に言ってくれるアリスだから、ユピはアリスと友達になれた。それが、すっごく嬉しいの。ヴァンパイアの血が流れていようといまいと、気にせずに接してくれる――その心に、ありがとうなの」
「ちょっと、ちょっとぉ。誰かもう一人、お忘れじゃないですかぁ? ユピさん?」
おどけたようにそう言って、ギュッとユピを後ろから抱き締める声の主。
人波をどうにかかいくぐって来たらしいリーリカは、そんな体勢のまま、ユピの耳元でささやく。
「あたしだってユピのこと、差別したりせず接してきたつもりなんですけどぉ?」
「ひゃうう!? くすっぐったいの、リーリカぁ……リーリカにも、感謝してるの。『ヴァンパイアとのハーフ!? 何それ、すごい! あたし史上、最高だわ!!』なんて言って――いつも仲良く、してくれたから」
リーリカらしいなぁ、それ。
生まれとか抱えてるものとか、全部取っ払って。
ただその人自身を、まっすぐに見つめてくれる。
ユピだってそうだ。
自分が複雑な境遇だからこそ、他の人を差別したりしない。
人見知りながらも、他者と対等に関わろうとしてくれている。
「……リーリカ。ユピ」
「わっ!? ちょっと、ア、アリスまで!? なんで抱きついてくるのぉ!?」
「なんとなく、だよ」
「いいじゃんー。ルームメイト三人で、親睦を深め合うことも大切ってことで」
そうして私たちはぎゅうっと、三人で抱き締め合った。
その肌に触れる温もりは……私にとって、かけがえのないもの。
本当に、もう――リーリカもユピも、大好きだよ!




