リーリカ史上、最高の友達
今回はリーリカ視点の短編です。
やっぱり、アリスってすごい!
校舎を消滅させた上に、それを一瞬のうちに再生しちゃうなんて……並大抵の才能じゃないわ。
クラスのムカつく男子たちも、さすがに黙っちゃってたもんね。
おかしかったなー、あいつら。
あたしまでスカッとしちゃったよ!
そんなアリスの才能を、一番に見い出したのは……他ならぬ、あたし。
だからこのリーリカが――アリスの第一人者ってわけ。
「ねぇ、アリスさん。どうやったらそんなに、魔法がうまくなるの?」
「私たちにも教えてー。なんなら私たちと、パーティを組んで!」
「あ、え。えーっと……」
「すとっぷ、すとーっぷ!!」
クラスの女子たちに囲まれてしどろもどろになってるアリスに、あたしは助け船を出す。
「アリスが困ってるじゃない。アリスにお願い事をしたいんなら、まずはこのリーリカを通してもらわないと!」
「何よぉ。リーリカってば、アリスさんの保護者みたい!」
「ずるいわ、自分ばっかりアリスさんを独り占めして」
「ずるくないわよ。だってアリスは、あたしのものだもーん」
いたずらめかしてそう言って、あたしはアリスに抱きつく。
「ちょっ……だからリーリカ。人前で、恥ずかしいって」
「んー? じゃあ人前じゃなかったら、いいのかなぁ?」
「そういう意味じゃなくって……」
あははっ。恥ずかしがってるアリスも、かわいいなぁ。
透き通るように白いほっぺたが紅色に染まるのを見て、あたしはギューッと、アリスに回した手に力を篭める。
はぁ……アリスって本当、柔らかい。
やせてるくせに、その胸は自己主張が激しいし。
ふわふわと綿毛みたいな金髪からは、甘いにおいが漂っている。
その極上の触り心地と心地よい香りに、酔っ払ってしまいそう。
いや――あたしは既に、酔わされているのかもしれない。
アリスと出会ったあの日から。
あたしの心は……アリスによって、とろとろに溶かされている気がする。
「もぉ……リーリカの、ばか」
そう言って、あたしを振りほどき。
アリスは瞳を潤ませながら、自分を庇うように胸元で手をクロスさせた。
……うわぁ。
そんなポーズ取られたら、なんだか背徳的な気分になっちゃうって。
まったく――天然でこういうことするから、アリスには敵わないんだよね。
「……リーリカはどうして、私にベタベタするの?」
「かわいいから?」
「か……かわいいって。わ、私はそんな、たいそうな者では……」
「何言ってんの、嫌みか。アリスが美少女じゃなかったら、この世界に美少女はいないことになるよ? アリスかわいい。キスしたいくらい」
「キ……ッ!? え、ええええええ!? リーリカ、何言ってんの!?」
「……ぷっ。冗談に決まってるじゃないですか、アリスさぁん。それとも? 本気にしちゃった感じ?」
「~~~~もぉ! リーリカのばか!!」
あははっ。怒った顔も、なかなかチャーミングだよ?
冗談じゃなくなっちゃいそうなくらい……なんちゃって。
「リーリカって、アリスに対してはとっても距離が近いの」
風呂上がり、寮室で髪にブラシをかけていると、ユピがそんなことを言ってきた。
「そう? ユピにも結構、ベタベタしてると思うけど。かわいい女の子に目がないってのが、あたしの性分だもの。そんなに言うならユピも……かわいがってあげよっかぁ?」
「き――きゃああああああ!?」
おどけながらベッドに押し倒すと、ユピのネグリジェが膝元までまくれ上がる。
わぉ。なんだか、えっちい。
「や、やめてよリーリカ! か、噛んじゃうよ!?」
「別にいーよ。はい、どーぞ」
さらっと言って、ユピの口元に人差し指を当ててやると、「そうじゃないの!」って怒りはじめた。どっちなのよ、まったく。
「確かにリーリカはボディタッチ過剰で、ユピや他の女の子にもよくやってるの。だけどアリスに対しては、なんだか特別な感じがするの」
「そう?」
「そもそもアリスと出会ってから、まだ一週間くらいなの。それなのにリーリカってば、長年連れ添ったパートナーみたいな接し方してるの」
「長年連れ添ったパートナー、ねぇ」
言われてみれば、確かにそうかも。
なんだかアリスとは、知り合ったばかりって気がしないんだよね。
どうしてなんだろうね?
考えていると――ガチャッと、寮室のドアが開いた。
「ただいま。二人とも、なんの話してたの?」
「べっつにー? なんでもないよ」
「……? そう?」
その後は、三人でいつもどおり、ガールズトークに花が咲いて。
気が付けばいつの間にか、11時になろうかって時間。
誰からともなく話を切り上げると、部屋の電気を消す。
あたしとアリスは、それぞれのベッドに入って。ユピは、自分のベッドの上に置いた棺桶の中に入って。
「おやすみー」
カチッ。カチッ。カチッ。
時計の針の音が、今日はなんだかやけに耳につく。
布団の中で目を瞑っているけれど、頭はどんどん冴え渡っていって。
「……アリス、ユピ。起きてるー?」
横になったまま声を掛けてみるけれど、返事はない。
どうやらこの部屋で起きているのは、あたしだけみたいだ。
「よっと」
あたしは上体を起こし、ぐるりと室内を見回した。
いつもはサイドテールに結っているセミロングの赤髪が、首の動きに合わせてふわふわ揺れる。
カーテンの隙間から見える、月明かり。
物音ひとつ立てずに、鎮座している棺桶。
そして――すぅすぅと寝息を立てている、アリス。
「…………」
あたしは裸足に靴を履き、ゆっくりとアリスのベッドへと近づいた。
そして眠っているアリスのそばに両肘をついて、顔を覗き込む。
うわぁ、まつ毛長いなぁ。唇だってぷるぷるだし。
本当、絶世の美少女って言葉がしっくりくる子だ。アリスは。
「……アリス」
そんなアリスの顔を見ていると……ふいに不安が押し寄せてくる。
ユピの言うとおり、あたしってば調子に乗って、アリスにかまいすぎてたな。
出会ったばかりだっていうのに。お互いのこと、まだ深く知らないっていうのに。
恋人かっていうくらい――束縛しちゃってたのかも。
「アリス。あなたは、あたしのこと……どう思ってるの?」
本当はうざかったりした?
あたしと喋るより、もっと他の子と話したかったりした?
あたし、アリスに……迷惑掛けちゃってた?
「うーん……」
そんなことを考えていると。
アリスの口元が、むにゃむにゃと動いた。
そして――消え入りそうなほど小さな声で。
「リーリカぁ……大好き……」
カッと、ほっぺたが熱くなるのを感じる。
ドキドキドキと、胸が激しく脈打って、気を失ってしまいそう。
「ア、アリス……?」
あたしはおそるおそる、アリスに話し掛けてみる。
返事はない。
そしてころんと寝返りを打って、アリスは反対を向いてしまった。
「寝言か……びっくりしたなぁ、もぅ」
あんまり驚かせないでほしい。
心臓がいくつあったって、足りなくなっちゃうから。
深くため息をついて、あたしはぺたんと、ベッドにほっぺたから崩れ落ちた。
――ふわりと布団から香るのは、いつものアリスの甘いにおい。
あぁ……アリスって、やっぱりずるい。
アリスの甘い誘惑に、あたしはいつだって酔わされる。
「……アリスが悪いんだからね」
自分に言い聞かせるように、そう言って。
あたしはそっと、アリスの――頭を撫でた。
くすぐったいのか、肩を丸めて、布団に顔を埋めるアリス。
その横顔を眺めながら……あたしはふっと、頬が緩むのを感じる。
さっきの言葉だけで、あたしは満足。
明日からも、元気なあたしでいられる。
いつか、他に大事な人ができちゃうその日まで――どうか、そばにいさせてね。
そんな願いを抱きつつ、あたしはカーテンの隙間から外を見る。
空では真ん丸のお月様が、あたし史上最高に、輝いていた。
次からは再びアリス視点の話に戻ります。
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