06 異世界魔法を凌駕する
「それでは皆さん、『火炎球』を発動してみましょう。杖をかまえて――」
「『火炎球』」
「『火炎球』」
「『火炎球』」
「いにしえの都より、この地に降り立て――『炎災の皇帝』!」
ゴオオオオオオオオオオオッ!!
クラスメートが小さな炎を呼び出している中、私は炎の王――イフリートを召喚。
校庭の周りを激しい炎で包み込んだ。
「ちょっと、アリスさん! 今は『火炎球』の訓練中ですよ!? そんな地獄の業火みたいなものを呼び起こされたら、困ります!!」
「え。あ、はい。ごめんなさい……」
「先生! 炎魔法の訓練なんですから、より強力な魔法を使えるのであれば、それに越したことはないんじゃないですか!?」
「リ、リーリカさん……まぁ、それはそうなんですけど……」
リーリカの抗議を受けて、先生は言葉に詰まってしまう。
……すみません、先生。
私も悪気があって『火炎球』を使わないわけじゃないんです。
ただ――私って元々、オルタナギアの人間じゃないから。
どうやら禁断教典『シュバルツアリス』に記された魔法しか、使うことができないみたいなんです。
「で、では皆さん。今度は気を取り直して、氷魔法『氷結晶』を使ってみましょう」
「はい! 『氷結晶』」
「『氷結晶』」
「ブ……『氷結晶』」
……出ない。
えーと、えーっと。氷魔法、氷魔法……。
「氷河の大地を切り裂いて、凍てつく息吹で世界を包め――『雪の女王』!!」
ヒュウウウウウウウウウウウッ!!
凄まじい冷気が校庭を覆い尽くし……木々や草花が一斉に凍りついてしまう。
ああ、もう!
もっと軽い感じの魔法でいいのに、またやっちゃった!!
「やっぱりアリスさん、すごいよね……」
「なんか次元が違うっていうか、世界が違うっていうか……」
ひそひそと遠くで話している女子の声が聞こえてくる。
確かに世界は違うんだけどね……私の生まれは、オルタナギアじゃないし。
っていうか……私、思うんだけど。
この世界――魔法のレベル、低すぎない?
魔法の世界っていうと、なんていうかこう、もっと派手な魔法を駆使するもんだと妄想していた。
だからこそ、『シュバルツアリス』に記した魔法の設定は、大迫力で凄まじい威力を持っているわけで。
それに比べて、ルミーユ学園で教えている魔法は、なんだかしょぼい。
ぶっちゃけ『火炎球』なんて、スラ○ムくらいしか倒せないんじゃないかな?
だけどクラスには、『火炎球』ですらうまく扱えない魔法使いも大勢いる。
「アリス、さすがだね」
ポンッと、リーリカが私の肩を叩いてくる。
リーリカは剣士だから、魔法はほとんど使えない。
「どう? ルミーユ学園に来て、思ったことは?」
「え? うーん……」
「レベル低すぎ、とか思ってない?」
ぎくっ!
なんで分かったの、リーリカ!?
「あははっ。アリスは相変わらず、分かりやすいねぇ」
「ち、違うの! だけどルミーユ学園のことを嫌がってるわけじゃ……」
「うん。それも分かってる。アリスはいい子だもんね」
リーリカはそう言って、はにかむように笑う。
そう――私は本当に、今の状況を嫌がってるわけじゃない。
むしろ、喜んでいるくらいだ。
だって、私の極まった中二妄想が具現化したら、異世界魔法を凌駕する力を持っていたんだよ?
この力がある今、私は編入早々、学年内でトップクラスの実力者。
冴えないぼっちな学園生活を送っていた私が。
中二妄想しか趣味も特技もなかった私が。
みんなから一目置かれる存在になるなんて――最高の、人生逆転劇じゃない!




