表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第1章 第2話「中二病を具現化させた私、異世界で人生逆転する」
10/80

04 波乱の自己紹介

「それでは、編入生を紹介する」


 教室の中から、先生の声が響いてくる。

 私はごくりとつばを呑み込んで、ゆっくりと教室の扉を開けた。


 階段状に並んだ机には、薄紅色のケープをまとった生徒たちが、三人掛けで座っている。

 ぐるりと教室を見回すと、窓際の席で手を振っているリーリカとユピの姿が。


 よかったぁ、同じクラスで。

 二人と別れて職員室に行ってから、不安で仕方なかったんだよ。リーリカとユピがいなかったら、私はまたぼっちに逆戻りだからね。


「じゃあ編入生、自己紹介を」

「え、あ、はい」


 じ、自己紹介……?

 私、そういう人前で話す的なイベント、ほんっとうに苦手なんですけど……。


「ほーら、アリス! 頑張れー!!」


 思わず尻込みをしていると、リーリカが立ち上がって、私に声援を送ってくる。

 ユピも隣に座ったまま、小声で何か言ってくれている。


 ……恥ずかしいけど。

 なんか嬉しいな、こういうの。


 ありがとうね。リーリカ。ユピ。


「初めまして。アリスと言います」


 そんな二人に背中を押されるように、私はゆっくりと話しはじめた。


「かなーり遠くの地方に住んでいたもので、あまりこっちのことを、知らないっていうか。ちょっと世間知らずなところが、あるかとは思うんですけど。少しずつ……皆さんに馴染んでいければと思います。どうぞ――よろしくお願いしますっ」


 最後は勢いよく、ぺこりと頭を下げる。


 できた……いつもだったら、あぅあぅ言うだけで終わってる私が、最後まで言い切ることができたよ!

 やりきったという思いで、胸の中がもういっぱいで――。


「よぉ、編入生。ドラゴンを一撃で倒したって、マジなのかよ?」

「……え?」

 私はおそるおそる顔を上げて、教室の後ろの方に視線を向ける。


 椅子に座ったまま、にやにやと嫌な笑いを浮かべている男子生徒。

 それに呼応するかのように、他の男子たちからもヤジのような言葉が飛んでくる。


「ドラゴンを一撃でぇ? そんな魔法、学生に使えるわけないじゃん」

「絶対ほら話じゃねぇか。自分でそんなこと言って回ってんのか?」

「うわっ。それって痛くね?」


 一瞬のうちに沸き立つ教室。


 あの……えっと。

 いつの間に噂になっちゃったの、ドラゴン退治の話?


 どこの世界に行っても、噂話が流れていく速さってすごいなぁ。

 ――なんて、他人事のように思う私。


 だってドラゴンを倒したことも、魔力計を壊しちゃったことも、あんまり実感がないんだもん。


 リーリカが褒めてくれるから、ちょっと調子に乗っちゃってたけど。

 私って元々は、ただの中二病ぼっち女子なわけだし。


「静かにしなさいよ!」


 そうして私が黙っていると――バンッ!

 リーリカが思いきりよく、机を叩いた。


「アリスが嘘をついてるっていうの? アリスの実力も知らないくせに、好き放題言っちゃってさ。これだから男子は嫌なのよ!」

「んだと、リーリカ! 編入生の肩を持つ気かよ」

「持つに決まってるでしょ。だってアリスは、あたしの大切な友達なんだから!!」


 リ、リーリカ……。


『大切な友達』という言葉に、ジーンと胸の中が熱くなる。


「それにね。あたしはアリスが、ドラゴンを倒すところを見たの。その圧倒的な魔法を見て、あたしが! アリスをルミーユ学園に誘ったの!!」

「本当かぁ?」

「信じられねぇな」


 訝しむ男子たち。

 その様子に、眉尻を吊り上げるリーリカ。


「まだ信じないっていうの!? 学園長だって、アリスの魔力を見たら、一発で編入を許可してくれたんだよ!? アリスってば魔力計を壊しちゃうくらい、すっごい魔力を持ってるんだから!!」


「魔力計を壊すぅ?」

「それこそ、ありえねぇだろ。いくらなんでも話を盛りすぎだぜ、リーリカさん?」

「はい、解散解散ー」

「――なんですってぇ!?」


「リ、リーリカ……落ち着くの」

「止めないで、ユピ! アリスをバカにしたあいつらを、あたしは許せない!! この『ルクシアブレード』の錆に、今すぐ変えてやるんだ!!」

「……んだよ。やるってのか!?」


 腰元の鞘から剣を抜き放ったリーリカに、今までふざけたように笑っていた男子も、顔色を変える。


 ひえぇぇ……私のことで、なんだか大変なことになってきちゃったよ。

 このまま止めないと、リーリカと男子で決闘にでも発展しかねない。

 下手したら、リーリカが大怪我しちゃう可能性だって……。


 それはいやだ。

 私のせいで、せっかくできた友達を、怪我させちゃうなんて!


 考えろアリス。リーリカと男子の衝突を回避して、この場を収めるためにどうしたらいいのか……!!


 ――――そうだ。


「み、みんな。ちょっと落ち着いて!」


 上擦った声で、私は叫んだ。

 渦中の編入生の言葉に、クラスは一瞬にして静まり返る。


 ……こういう空気、本当は苦手なんだけど。

 私は意を決して――片目を覆い隠すように右手を当てて、にやりと不敵に笑った。


「……くくっ。この私の魔力を、甘く見られては困るな」


「あん?」


 男子がうさんくさそうに、こちらを見ている。

 だけどもう、喋り出したら止まらない。


 中二心に、火が点いちゃったからね。


「リーリカの言うとおり、私は確かにドラゴンを倒した。魔力計も壊した。それはすなわち――私が大魔法使いとなる資格を、生まれながらに持っているということ。その私を捕まえて、ほら吹きなどと侮るとは言語道断! 私を恐れよ! 私を崇めよ!! 私は大魔法使い――アリスである!!」


 なんか喋っているうちに興が乗ってきちゃって、最後には左手を大きく広げ、胸を張って大見得を切った。

 シン、と静まり返る教室。


「……上等じゃねぇか。編入生のくせに、調子に乗りやがって」


 静寂を切り裂くように、一番最初にヤジを飛ばしてきた男子が、睨みを利かせながら立ち上がった。


「そこまで言うんなら、見せてみろよ。その、ドラゴンすら倒せるほどの、大魔法とやらをよ!!」


 え……嘘でしょ?

 私はおそるおそる、教室中を見回す。


 他の生徒も、リーリカやユピも、先生でさえも――「うんうん」って頷いてる。



 ちょ……ちょっと待ってよ。

 このプレッシャーの中で、私――魔法を使わないといけないの?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ