表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中二病を極めた私、異世界魔法を凌駕する  作者: 氷高悠
第1章 第1話「中二病をこじらせた私、異世界に行く」
1/80

01 冴えない日常の終わり

 ……あーあ。学校がテロリストに襲われたりしないかなぁ。


 んー、でもテロリストじゃつまらないか。

 じゃあ、悪魔とか魔物とか、そういうので。


 そっちの方が、魔法だったり呪われた力だったり、色々と盛り上がりそうじゃない?


 そして私は、そんな悪魔や魔物に立ち向かう。


 クラスメートたちには隠していたけど、私には秘められた『力』があって。

 その『力』を解放した私は、最強魔法の呪文を唱えて、闇より生まれたすべてのものを消滅させるの。


 阿鼻叫喚のクラスメートたちを、華麗に救い出した私。


 そうすれば当然、拍手喝采、雨あられ。

 羨望の目の集中砲火を浴びながら、私はみんなから賞賛を受けちゃったりして。


「すごいよ、有栖田(ありすだ)さん!」「有栖田さん、素敵!」「俺、実は有栖田さんのことが前から……」


 ――――なーんてね。

 頭の中では、私は神様なのに。




 机に頬杖をついた姿勢のまま、私――有栖田(ありすだ)真子(まこ)は、小さくため息を漏らした。


 またやっちゃったよ。授業中の妄想。


 ボーッとしている間に先生の板書が進んでいたことに気付き、私は慌ててノートを取りはじめる。


 そう。

 これが妄想じゃない、現実の私の風景。


 悪魔や魔物どころか、テロリストすらいない。

 いるのは髪が後退しつつある、中年太り気味の先生だけ。


 魔法? そんなもの、使えるわけないじゃん。

 私にできるのは、先生の眠気を誘うぼそぼそ声に耐えながら、ひたすら黒板の文字を書き写していく作業くらいだよ。


 妄想の中ではキラキラ輝いていた私だけど、見た目だってそりゃあもう、ぜんっぜん大したことない。


 ……ううん、言い過ぎた。


 大したことないどころか、冴えない・パッとしない・っていうか地味。


 たとえば、三つ編みに結った真っ黒な髪。

 前髪は何ヶ月も伸ばしっぱなしにしてるもんだから、目を覆い隠さんばかりの長さになっちゃってる。


 たとえば、高校二年生とは思えないほど低い身長。

 背が低いだけならともかく、胸元も年齢不相応にぺったんこだから、目も当てられない。


 そして、そばかす。

 気にしない……なんて言えるほど、私の心は強くない。

 どちらかというと、涙が出ちゃいそう。


 ――まぁ、そんな感じで。


 コンプレックスの塊な見た目をした、冴えない地味子な私は、今日も教室の隅っこでノートを取っている。

 黙々と。そう、ただ黙々と。


 だって、友達がいないから。




「はぁ……」


 授業終了を告げるチャイムが鳴ると、私はため息を漏らして、お弁当箱の入っている袋を取り出した。

 そしてガタンと席を立ち、こそこそと教室を後にする。


 教室の中から聞こえてくる、クラスメートたちが談笑する声。


 皆さん、楽しそうなことで。


 ……爆発すればいいのに。


 心の中で毒づいて、そそくさとその場を離れた。


 冴えないぼっちな私にとって、リア充さまたちの楽しそうな雰囲気は、猛毒に等しい。

 近くにいるだけで致死量に達しそう。


 ああ、神様。

 私はどうして、有栖田真子なんて名前なんでしょう?


 有栖田――なんて大仰な苗字、私には似合わないと思うんですけど。


 名前負けも甚だしい、私の人生。


 このままぼっちで高校を卒業して、中途半端な偏差値の大学に行って、三流だか四流だかの企業に就職して。

 来る日も来る日も、つまんない書類の山を処理するばかりの生活。


 結婚?

 そんなもん、できるわけないじゃん。私を好きになる奴がいたとしたら、そいつの職業は壺売りだね。


 そして安月給の独身生活を数十年過ごしたのち。

 私はひっそりと、人生を終えるのか。


「…………今すぐ死にたい」


 まぁ言うだけなんだけどね。

 死ぬ勇気すら、私にはないんだけどね。


 足早に廊下を進み、私はひとけのない階段を上る。

 向かう先は――学校の屋上。


 当たり前だけど、昼休みに入ったばかりの時間に、こんなところに人がいるわけがない。

 だからこそ、私は毎日、昼休みになるとここに来ている。


 なんでかって?

 ……ぼっち飯だよ。言わせないでよ、恥ずかしい。


「屋上に行ったら、異形の怪物がいればいいのに……」


 そうすれば、みんなの楽しいお昼が一変、地獄絵図と化す。

 パニックとなり、悲鳴を上げながら逃げ惑う生徒たち。


 そこに颯爽と登場――私!


「そんなときに、ちょうどいい魔法だったら……」


 呟きつつ、私は手持ちの袋の中から、一冊のノートを取り出した。

 その真っ黒な表紙のノートには、赤い文字で『シュバルツアリス』と書かれている。


 そう――これは、禁断教典『シュバルツアリス』。


 魔法の呪文やその効力について閃くたびに、私はここに書き記している。


 ……黒歴史ノートとか言わないで。

 私の数少ない、趣味のひとつなんだから。


「閃光の瞬きは裁きの輝き……汝、灰燼と化せ。『機械仕掛(サンライズ・)けの太陽(クロックワーク)』!」


『シュバルツアリス』に記された呪文を、周囲に人がいないことを確認しつつ、唱える。


 この魔法が発動すれば、まばゆい光が辺りを照らし……異形の怪物は一瞬のうちに塵と消える。


 そうすれば当然、拍手喝采、雨あられ。

 羨望の目の集中砲火を浴びながら、私はみんなから賞賛を受け――――。


「って、また妄想しちゃってるし。私……」


 本当に、頭の中では神様みたいな存在なのにな、私。

 そして私は、本日何度目か分からないため息をつきつつ、屋上へと続くドアを開けた。


 ――――刹那、吹き抜けていく緑香る風。


 その勢いに、私は思わず目を瞑ってしまう。


 やたら風が強いなぁ、今日は。

 ごしごしと目をこすって、私はゆっくりと目を開けた。


 そこにあるのは、広大な平原。


「…………はい?」


 私はもう一度、ごしごしと目をこする。

 そしておそるおそる、屋上があるはずの空間に目をやった。


 しかし――やはり一面に広がっているのは、地平の向こうまで見えそうなほどの平原。



 何これ。

 なんで屋上が、ファンタジー系RPGみたいな地形になってんの?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ