第八話『アルセイド伯爵家』
続きとなります。
それは懐かしい記憶。翠の魔女の弟子になって一か月がたった頃、師匠は唐突に言い出したのだ。
「皆、私のことを翠の魔女って呼ぶけど、私は別にそう思ってないのよね。」
「え?そうなんですか?」
「そう。本当は『雪風の魔女』なの。この翠の森に住み着いてから勝手に翠の魔女って言われるようになったのよね。まあめんどくさいし、あながち間違いでもないし訂正はしてないんだけど。」
雪風と聞いて私はあるお願いを思いついた。それは、私が叶えたい夢リストにあるもの。
「ねえ師匠!雪を降らせることはできますか!私、雪を見てみたいんです!」
「雪ィ?できなくはないけど嫌よ。今は夏だから膨大な魔力がいるわ。それに気象に干渉する魔法って大変なのよ。」
「そうですか・・・。雪、一回は見てみたいなあ・・・。」
「アントラ王国では雪は降らないの?」
「降りませんよ~。だから見てみたいんです!」
ふわふわした雪に思いっきり飛び込むことと雪にシロップをつけて食べることが夢だったんだよね。
「雪国育ちの私としては信じがたい言葉ね。」
「え?師匠ってどこの生まれなんです?」
「王国の北部にあるシュネーヴィントって街よ。その名の通り、冬はたくさん雪が降るわ。温泉も湧いてて観光地にもなってるわね。」
「そうなんですね!行ってみたいなあ。」
雪と温泉!最高の組み合わせじゃないかな?
「住んでいると大変よ?雪降ろししないと家つぶれちゃうし。圧力がかかると雪は溶けて水になっちゃうから歩くと靴がべちゃべちゃになるし。」
まったくもう師匠ったら。場を盛り下げること言わないの!
「もう師匠!夢を壊さないでください~!」
「はいはい。じゃあもし今度の課題ができたら連れていてあげてもいいわよ。ループスの奴らも今は大人しいしね。」
「やったあ!約束ですよ?」
「ええ、約束するわ。一緒に行きましょう。」
たとえ、その約束が叶うことがなかったとしても、それは私の大事な思い出。
*********
アルセイド伯爵家はリンドブルム王国では古い貴族である。元々、王国建国前からアルセイド州を治めていた一族だ。本来、それほど古い家柄ならばもっと高い地位を持っているものだが、アルセイド伯爵家は事情が違った。代々の当主が国政よりも地元重視の方針のため、身の丈以上の地位を望まなかった。誠実な領地経営と実績から王家からの信頼は厚いが、現在も地方貴族のままだ。だがまったく国政に興味を持っていないわけでもない。領地の発展のためには時には国を動かす必要もある。
アルセイド州は四方をほぼ山脈で囲まれ他地方とは隔絶している。そのため、産業と言えば第一次産業の農業と畜産が主であったし、生産物も基本的にはアルセイド州内で消費されていた。クオン達の祖父———先代のアルセイド伯爵は中央政府に働きかけ、アルセイド州にまで王国中央街道を延長させた。王国の主要物流網とつながり、今まで輸送コストが高くつき他の地方へ売れなかった余剰生産物を販売できるようになったことと細々と続けられていた養蚕業と縫製業を結び付け、特産物としてアティス織を売り出したことが発展の推進剤となった。それまで物も情報も遅れがちだったアルセイド州はこうして飛躍的に発展したのである。
アルセイド伯爵家は現伯爵のアルバン、伯爵夫人のルビー、長男のアルノー、長女のリッカ、次男のクオン、祖父のアレクシス、祖母のアンネマリー、飼い猫のクロの七人と一匹の家族である。現当主のアルバンは基本的に自領の屋敷にいるが、夫人のルビーはアティス織の売り込みと特級裁縫師の仕事のために王都にいることが多い。跡継ぎのアルノーはリンドブルム王立大学に通いながら、王国やライン大陸各地を飛び回り人脈をせっせと構築中だ。祖父母のアレクシスとアンネマリーは隠居。リッカとクオンはハーヴィー博士の元で冒険者をしながら研究を手伝っている。クロはアティスの街にある本邸でのんびり毎日を過ごしている。
久しぶりに王都の屋敷で寝たリッカは、窓から差し込む朝日の光を感じて目を覚ました。
「ん?んん~?」
リッカは背筋をうーんと伸ばし目をこすりながら、ベッドから降りる。リッカはふあ~と欠伸をしながら、二階にある自室から一階にある食堂へ向かう。食堂に入ると、ルビーとクオンが席についていた。
「お母さん、クオン、おはよー。」
「おはようリッカ。」
「リッカちゃんおはよ~。」
ルビーはまだ半分寝ぼけているが、クオンはすでにしっかりと起きていた。
「奥様、お嬢様、お坊ちゃま。朝食の用意ができました。」
ミーチョがカートを押して食堂に入ってくる。口調は完全に仕事モードだ。手慣れた動きでテーブルに朝食を並べると一礼して去っていく。
「リンドブルム様、今日の大地の恵みに感謝いたします。」
「「リンドブルム様、今日の大地の恵みに感謝いたします。」」
ルビーに続けて食事前のお祈りをするクオンとリッカ。外では省略することもあるが、家で食べる時はきちんとお祈りをしている。
「お腹減ったよ~。」
リッカはそう言いながらバターを塗ったトーストをばくばく食い始める。朝食はトースト、目玉焼き、ベーコン、牛乳と言う一般的なものだった。
「ふ~。食った食った~。」
満腹になり満足げな様子のリッカにルビーは今日の予定を尋ねる。
「クオンちゃんたちは今日はお出かけするの?」
「うん。依頼でシュネーヴィントに行くことになったから。その準備。」
依頼というのは嘘だが、さすがに本当のことを言うことはできない。依頼のために買い物するのだと母のルビーには言っておくクオン。
「クオンちゃんとリッカちゃんはいつまでここにいる予定?」
「今週はいるよ。来週から出発の予定だね。」
「そう。明後日と明々後日は私もお休みだから二人の好きな料理を作ってあげるわね。」
「本当!?やったあ!」
「さて、私はお仕事があるからそろそろ行くわね。いくら王都といっても気をつけるのよ。」
そう言うとルビーは席を立ち、食堂から出ていく。入れ替わりに、朝食の片づけをしに来たミーチョが入ってきた。
「じゃあ、僕たちは出かけるね。夕方までには戻ってくるから。」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ。」
*********
朝日が部屋に差し込む頃、カリンは目が覚めた。むくっと上体を起こすと、まだ眠気が残る目を擦る。
「おはよー。」
挨拶を返してくれる人はいない。カリンはベッドからもそもそと出ると、洗面所へと向かう。王都は水道が完備されているので、わざわざ井戸から水を汲んでくる必要もない。
「・・・ふぅ。」
顔を洗ってさっぱりすると、鏡の中の自分の顔を見る。カリンが何やら呟くと、魔法が解けて不可視になっていた白い竜角が姿を現す。
「やっぱり無理に魔法で隠すのはきつい・・・。」
竜角人にとって竜角は重要な器官だ。魔法で無理やり魔力の流れを変えて偽装しているが、けっこう負荷がかかっている。次元門も転移最大距離がかなり縮まってしまっていた。
「何か代替策を考えないと・・・。いい魔道具ないかな・・・。」
もっと完璧に隠せる魔法があればいいが、自作しようにも時間がかかるしその手の魔法は苦手なのだ。それに魔法を常時展開するのはかなり大変だ。
「クオン君なら何か知ってるかな?でもまだ竜角の話題を出したくないな・・・。」
あいつに竜角を切断されそうになったあの時を思い出す。勝手に体が震えて、両腕で自分の体を抱く。
「・・・ループス帝国は滅亡したし、あいつだって三百年も経てば朽ち果ててるはず。」
カリンはそう自分に言い聞かせ、なんとか体の震えを止める。忌まわしい記憶を振り払い、もう一度、鏡の中の自分を見つめる。
「・・・大丈夫。私は大丈夫。」
自分に言い聞かせて落ち着いた後、身支度をして三階の研究室へ行く。鍵がかかっていたので開けてから中へ入ると、ぐーぐーと寝息が聞こえてきた。視線を寝息のする方へ向けると、研究室の一角にミニチュアハウスがあった。カリンが近づいて窓をのぞき込むと、ミニチュアハウスの中のベッドの上でシャーロットがぐーすか寝ていた。寝相が悪いのか腹が出ている。
「昨日から気になってたけど、これシャーロットのお家だったのね。」
しばらく観察していると、シャーロットは腹を手でポリポリしながらむにゃむにゃと寝言を言っていた。鼻ちょうちんも作っている。
「・・・本当におっさんみたい。」
見た目は美少女なのに、頭に残念がつくようだ。シャーロットを起こさないようにミニチュアハウスから離れると、カリンは本棚の方へと向かう。ジョシュアから一般教養の本があるかどうか聞いていたのだ。
「概要はクオン君達から聞いたけど、もっと勉強しないと。」
さすがに三百年も経っていれば、自分の知識も古くなっている。数学はさほど変わっていないだろうが、歴史や政治経済、魔法関係の分野は進んでいるだろう。最近の大陸情勢も把握しないといけない。
「知識を更新しないと。」
まずは世界地理の本を手に取ってみる。世界地図のページを開いてみると、自分の記憶よりも遥かに広大な世界になっていた。
「。・・・アントラ王国がないのは分かるとしても、スィン大陸が載ってない?」
アントラ王国は鎖国していたといっても、ただ王国政府による貿易統制をしていただけでまったく交流がなかったわけではない。カリンの知る世界は、アントラ王国を中心として、西方にライン大陸、東方にスィン大陸の範囲だった。
「スィン大陸にはタイシィンという大国と小国家群があったのだけどどうなったんだろう?」
首を傾げるカリン。最新の世界地図では、スィン大陸があった場所は空白の海域になっており、『危険海域』と記載されていた。気になって別ページにある説明を読むと、どうやらこの海域は遭難する船が多く、船乗りから恐れられているとの記述があった。海の悪魔が多数生息しているとの記述もあり、この海域の探索を阻んでいるという。
「もしかしてライン大陸の人たちはスィン大陸を知らない?そう言えば、師匠の話にも出てこなかったし、私も別に話すことはなかったな。」
カリンは師匠にアントラ王国のことを話すことはあっても、あまり詳しくないスィン大陸のことは話した記憶がない。師匠からもスィン大陸の話題はなかった。しばらく本を読んでいると、シャーロットが起きてきた。
「ふわあ~。あれ?カリンちゃん?来てたんだ。おはよ~。」
物思いにふけっていたカリンだったが、シャーロットの声ではっと我に戻り本を閉じる。シャーロットはまだ寝ぼけているようでふらふらと飛んでいた。水の入ったお椀の縁に器用に止まると、ぱしゃぱしゃと顔を洗う。
「それ、シャーロットさん用なの?」
「そうよ~。フィンガーボールならぬフェアリーボールよ。ミニチュアハウスには水道なんてないし、人間の洗面所使ったら蛇口をひねりすぎて流されそうになるし大変なのよ。だから博士が用意してくれたの。」
「でっかくはなれないの?王都の街中には人間大の妖精さんがいたけれど。」
「好いてる人間でもいない限り巨大化はしないわ。あれ結構疲れるのよ。」
「そうなんだ。自由に伸び縮みできるのかと思ってた。」
「私は風船じゃないわよ!」
シャーロットは妖精風船説を否定すると、またミニチュアハウスの中へ入っていった。ごそごそと音がした後、パジャマから着替えたシャーロットが出てきた。
「そういえば、シャーロットさんはククルに帰るとか言ってなかった?」
「ん?そうだけど?」
「結構かかるんじゃないの?海の向こうなら船でしょう?」
「ああ、妖精はね、ばびゅっとククルまで帰れる魔法の道を使えるのよ。妖精の道って言うの。妖精だけが使える高速移動通路よ。」
「他の種族は使えないの?」
「無理ね。最大まで広げても幅が狭くてつっかえちゃうわよ。それにククルとつながってるのはリンドブルム王国とドラグガルド連邦だけだし。」
「それは残念ね。」
(妖精の道か・・・。龍脈の小さい版かな?利用できれば、もう通れなくなってるはずの龍脈の代わりの移動手段になるかなと思ったんだけど。そううまく行かないか。)
「なになに?もしかしていろんな国に行ってみたいの?」
「・・・うん。今までずっと外の国にあこがれてたから。」
「そう。ならクオン達と一緒に居ればいいんじゃない?あの子たちもいずれ世界を回る気みたいだし。」
「そうなんだ。」
「まあ最低でも銅ランクにならないと国外の依頼受けれないけどね。クオンとリッカは銅ランク目指して冒険者頑張ってるし。」
(世界を回る・・・か。私と同じなのね。あの二人も。)
カリンがシャーロットにいろいろ質問していると、誰かが階段を昇ってくる音が聞こえた。研究室の扉が開き、クオンとリッカが姿を現した。
「おはようカリンさん。シャーロット。」
「おはよー。」
「おはよ。クオン、リッカ。」
「おはよう。クオン君、リッカさん。」
クオンにはカリンが身支度をすでに整えているように見えたので、すでに朝食を食べたかどうか尋ねる。
「もう準備できてるみたいだけど、朝食は食べた?」
その時、くぅーと腹の音が鳴った。クオン、リッカ、シャーロットの視線がカリンに集まる。慌てたカリンは何か言おうとするが、続けてくぅーくぅーと腹の音が鳴る。
「・・・朝食はまだだわ。」
言い逃れは出来ないと悟り、お腹が空いていることを白状するカリン。クオンは笑いながら、バックパックからサンドイッチの入った包みを取り出す。
「博士はよく食事の用意を忘れるから、もしかして朝食抜きになってるんじゃないかと思って。」
「ありがとうクオン君。」
「私も食べてないからちょっとくれ!」
「はいはい。どうぞ。」
カリンとシャーロットは少し遅めの朝食を摂るのであった。
*********
朝食を摂った後、研究室に残るシャーロットと別れて出発するクオンたち。目指すは第三区にある商店街だ。
「王都の商店街に行くつもりだけど、カリンさんは何か入用なものはある?」
「・・・魔道具を見てみたいんだけど、魔道具屋さんはあるかな?」
「うん。良いお店があるから連れて行ってあげるよ。何か欲しいものがあるの?」
「うん。まあね。」
「クオンは魔道具に詳しいから任せとけばいいよ。」
「リッカさんは何に詳しいの?」
「食べ物!そう!冒険で一番大事な要素!旅先でくっそまずい保存食なんか食べてみ?一気にテンション下がるわ!」
「リッカも最初の頃は口に入れば何でもいいって感じだったんだけど、とんでもない保存食に当たってからこだわるようになったんだよね。」
「・・・とんでもない保存食?」
「口の中の水分を根こそぎ奪うパッサパサのパン!固すぎて顎が外れそうになる干し肉!そして極めつけは芝生のような芝生!とんでもない目に何回もあったわ!」
「いや、芝生のような芝生って・・・。それ紛うことなき芝生じゃん。」
「あはは。あれはひどかったねー。見た目は芝生みたいでちぎって食べる保存食だったんだけど、味も芝生みたいだったんだよね。僕もリッカもすぐ吐き出したよ。」
「いやだからそれって芝生なんじゃ・・・。」
「保存食選びは大事だよ!カリンちゃん!」
「保存食選びは大事だよ。カリンさん。」
「あ・・うん。」
カリンが話を聞く限り、「それって芝生なのでは?」と思うのだが、どうやら二人とも芝生と認める気はないらしい。芝生みたいな保存食で押し切られたのであった。
「あ、着いたよ。ここが僕たちのおすすめのお店、『シュタインドルフ魔道具店』だよ。」
何やら厳ついガーゴイルが二体、入口の扉の両脇に置かれている店だった。
「あのガーゴイルはね、防犯装置なの。万引きすると目から熱線が出るんだよ。普段は雨樋から流れてきた雨水の吐水口になってるけどね。」
「へ、へえ。ずいぶんセキュリティが厳重なのね。」
「シュタインドルフさんは金ランクの冒険者だったんだ。その時に築いた人脈でいろんな魔道具を仕入れてるんだよ。中には貴重なものもあるから防犯はしっかりしてるんだ。」
店の説明をしながら、クオンを先頭に店へと入る三人。店内にはちらほらと人がいた。
「あの筋肉モリモリな人がここの店長のシュタインドルフさんだよ。」
クオンが指さした先には、視線だけで人を殺しそうな風貌の壮年男性がいた。クオンが説明するのと同時にシュタインドルフがクオン達の方を向く。その視線は鋭く、まるで体を貫通するかのごとくだ。カリンは思わず、クオンの背中にささっと隠れてしまう。
「おう、クオンじゃねえか。久しぶりだな。」
「ご無沙汰してます。」
「今日はリッカと・・・知らない子がいるな。」
すると、シュタインドルフはクオンの背中に隠れているカリンに気付く。さすがにこのままでは失礼だと思ったのか、カリンは顔だけ恐る恐るクオンの背中から出して挨拶をする。
「こ、こんにちは。」
「こちらは新しく知り合ったカリンさん。魔道具が見たいらしいので連れてきたんです。」
「そうかい。好きなだけ見ていってくれ。・・・あ、そうそう。クオン、リッカ。ちょっと顔を貸してくれないか?」
「どうしたんですか?」
「ハーヴィー博士に見てもらいたい魔道具があるんだがよ。最近、アリアドネ砂漠で発見されたらしいんだ。良ければちょっち持って行ってくれねえか?」
「いいですよ。今日は帰りに大学によるので。」
「じゃあ店の裏へ来てくれ。」
背を向けて歩き出すシュタインドルフ。クオンとリッカはその後についていく。クオンがふとカリンの方を振り返る。クオンには特に指名されていないカリンがついていこうかどうか迷っているのが分かった。
「カリンさん。ちょっと時間かかるかもしれないから店内の商品でも見てて。」
「ん。」
クオンの言葉で迷いは断ち切れ、とりあえず店内を見て回ることにしたカリン。
(魔力の流れを制御する魔道具はないかな。身に着けても違和感がないやつで。)
店内を散策するカリン。商品説明を見ながら、目的の物がないかを探す。そのうち、目についたのはリボンのコーナーだった。
(やっぱり身に着けるならリボンがいいかなあ。不可視の魔法がなくても物理的に竜角を隠せるし。でもどれが性能いいか分かんないな。)
「何かお探しですか?」
「きゃ!?」
背後から話しかけられ驚くカリン。振り返ると、そこにはにこにこと笑みを浮かべる女性がいた。さっきまで見かけなかったが、服装を見るに店員のようだった。
「店員さんですか?」
「はい。お困りのようでしたので話しかけさせてもらいました。」
左胸の名札には『ルビイ』と書かれていた。亜麻色の髪に翠色の瞳をした優しそうな女性だ。
(なんだかリッカさんに似てる?大人になったリッカさんみたいな感じがする。)
カリンは店員がリッカ似なのは不思議に思った。だが、リッカの家族であるとしたら貴族である。こんなところで働いているはずがないので他人の空似だろうと思った。
「あの、ここのリボンなんですが、もっと性能のいいものはありませんか?」
「魔力を制御するリボンですか?ええ、ありますよ。ですが一番性能の良いものは入荷待ちですね。」
「入荷待ち・・・。どのくらいで入荷しますか?」
「およそ一か月後ですね。」
「一か月・・・なら待とうかな。予約はできますか?」
「申し訳ありませんが、予約対象外品でして。」
「じゃあ入荷してすぐ売り切れの場合もあるんですか?」
「大丈夫ですよ。お望みの品は一か月後に手に入りますよ。」
「・・・は、はい?」
「ですから安心してください。」
ね?と笑顔で言われる。質問に対する答えになっていないような気がしたが、なんだか店員の独特な雰囲気に流されてしまった。カリンが頷くと、店員は一礼して去っていった。
「リボンは大丈夫ってことでいいのかな・・・?」
釈然としなかったが、気を取り直して魔法瓶コーナーへと向かった。。ちょうどクオン達が戻ってきたので、おすすめの魔法瓶を購入したカリンであった。
*********
買い物を済ませたクオン達が店から出ていくのを確認すると、シュタインドルフは店の奥に隠れていた人物に声をかける。
「クオン達は出ていったぜ。」
「ありがとう。今日は助かったわ。」
店の奥から出てきたのは、先ほどカリンに話しかけていたリッカ似の店員だった。
「しかし、なんでまた店員なんかやるって言い出したんだい?」
「ふふ。それはね、息子の将来のためよ。」
「ふーん?まあ、なんだかよく分からねえが目的は達成できたのかい?」
「ええ、ばっちりとね。これで今度の仕事は完璧にできそうだわ。」
「今回のよく分からんお願いは今度の仕事のためだったのかい?」
「ええ、そうよ。」
リッカ似の店員はクオン達が出ていった店の入口の方を見て呟く。
「息子に春を運んできた女神様に似合う最高のリボンを作るためのね。」
*********
クオン達三人はシュタインドルフ魔道具店を出た後、途中で街を散策しながらお昼を食べた。その後、雑貨屋と食料品店に寄ってから帰り道につく。食料品店ではリッカがカリンに『芝生みたいな芝生』を食べさせようと画策していたが残念ながら在庫切れだった。ふと、大学へと向かう三人に後ろから声がかかる。
「あれれ?クオン君とリッカちゃんじゃないですか?今お帰りですか?」
クオン達が振り返ると、そこにいたのは買い物袋を提げたミーチョだった。
「帰りだけど、大学へ一旦寄ってからだね」
「じゃあ途中まで一緒に・・・あれ?知らない子がいますね。」
「は、はじめまして。カリンです。」
「私はミーチョと言います。見ての通りメイドです。」
「クオン君達の家のメイドさん?」
「そうですね。・・・おや?この匂い・・・さてはあなた、クオン君ハーレムの新しいメンバーですね!」
「は~れむ?」
「そうなんですよ~。私も故郷に将来を誓い合った幼馴染がいるというのにいつ毒牙にかかるのかと心配で。」
「ミーチョ!変な事言わない!」
「そういえばクオン君の周りって女の子ばっかりだよね。」
「いやちゃんと男友達もいるから!まだカリンさんと会ってないだけだから!」
ミーチョが加わり騒がしくなる帰り道。クオンはリッカとミーチョににいじられ、たじたじだった。
「ところでミーチョさん。」
「何ですか?」
「将来を誓い合った幼馴染って実在してるの?」
「してますよ!」
そして、初対面のカリンに幼馴染の実在を疑われるミーチョなのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




