第六十二話『魔剣ファーレンハイト 前編』
お待たせいたしました。
ラーヴァセルカ遺跡から王都ナラクアヴィスへと戻ってきたクオン達。依頼達成の報告の為、冒険者ギルドナラクアヴィス支部へと向かった。
ギルドの建物に入ると、ちょうどマスクリンがいた。マスクリンは予想より早い帰還に驚いているようだったが、ギルド長室へと招き入れる。
ギルド長のマスクリンに経緯を話し、ラーヴァセルカ遺跡で手に入れた蒼銀の炎―――魔剣ファーレンハイトを置いた。
「こりゃあたまげたな...まさか蒼銀の炎が七宝の一つ、魔剣ファーレンハイトだったとは。」
専門家に詳細な鑑定をしてもらう必要はあるものの、見つけた状況的に可能性は高い。
「とりあえずご苦労だった。報酬を受け取ってくれ。」
マスクリンは報酬の入った袋をテーブルの上に置く。ずっしりと重そうだ。クオンが中を見ると金貨と銀貨が詰まっていた。数えると合計で五百万リン。一人あたり百万リンだ。とりあえず、しばらくは滞在費の心配はしなくて良さそうだ。
「王国の状況はどうなっているんですか?」
「アセノスフェア様の暴走は対処していたタングステンマンが止めたそうだ。今のところ状況は落ち着いている。線路の復旧作業も急いではいるが、完了日は未定だ。」
線路の復旧が始まったのは朗報だ。リデンブロック鉄道が動かないことには帰れない。まだ未定とはいえ一歩前進だ。
「さて、俺は依頼を出していた冒険者達に通達しないとな。ハルツ宰相にも報告しねえと。」
クオン達はギルド長室を後にし、これからの予定を皆で話そうと玄関ロビーに向かった。ロビーに着いて、テーブルに座ろうとしたその時。カリンの目の前に、先程マスクリンに渡したはずの魔剣ファーレンハイトが出現した。
「きゃあ!?」
カリンは思わず悲鳴を上げる。魔剣ファーレンハイトはゆっくりと向きを縦から横に変え、カリンの前で浮かんでいる。その様子を見て、他の皆も目を丸くする。
「え、なにこの剣戻ってきたの!?呪いの剣じゃん!」
「呪われていて離れない?」
「リッカもナツメも怖いこと言わないでよ...それに私は装備してないよぉ...」
カリンは魔剣ファーレンハイトの前から、スススと横に移動する。しかし、魔剣ファーレンハイトはふわふわとカリンの後を付いてくるのであった。カリンはクオンの近くに寄ると、泣きそうな表情でクオンの後ろに隠れる。クオンが横向きになっている魔剣ファーレンハイトの下に両手を出すと、ゆっくりと降りてきた。クオンが掴むと、剣の重さが戻った。
(カリンじゃなければ装備できないって訳じゃなさそうだし、どういう事なんだろう?まさか、竜角人に関係があるのかもしれない。)
クオンが考えを巡らせていると、ドカドカと足音を立てながらマスクリンが駆けつけてきた。
「おい!あの魔剣ファーレンハイトが消えっ...ってなんでお前さんが持ってんだ?」
「それが...」
クオンは今起こったことをマスクリンに説明する。その後、実験してみたが、ある程度距離が離れるとカリンの側に出現することが分かった。魔剣ファーレンハイト自体は誰でも持てるが、カリンから離れるとダメらしい。
「この嬢ちゃんがマスター登録でもされてんのか?」
「それはないと思いますけど...人工精霊による登録もありませんでした。それに、剣を抜いたのは僕ですし。」
フェリウス帝国製の武器の中には人工精霊が搭載されているモノがある。武器そのものにある程度の知性があり、戦闘補助を行ってくれる便利なモノだ。魔剣ファーレンハイトに関して言えば、人工精霊が搭載されていても不思議ではないが、そのような感じはなかった。
マスクリンは頭をかきながら、仕方ないといった表情でカリンに告げる。
「剣が嬢ちゃんから離れないならどうしようもねえな。俺と一緒にマンテリウム城まで行ってくれ。ハルツ宰相に蒼銀の炎、魔剣ファーレンハイトを引き渡さなきゃなんねえんだが、離れないなら事情を説明しないとな。」
カリンの方を見ると、不安そうな表情をしていた。カリンを一人で行かせる訳にはいかない。クオンは嫌な予感がしていた。なぜ魔剣ファーレンハイトはカリンにつきまとうのか。他の皆との違いといえば、カリンが竜角人であるということしか思い浮かばない。
「僕も一緒に行きます。パーティの仲間ですし良いですよね。」
本当ならば拒否したいところだが状況的に難しい。同行を願い出る。側にいれば万が一の時に何かできるかもしれない。
「ああ、構わねえぜ。」
クオンはリッカに目で合図を送る。クオンのアイコンタクトに気づいたリッカが手を挙げた。
「あー!私も行く行くー!」
「まあ三人くらいならいいか。あんまりぞろぞろ行っても迷惑になるから他は残ってくれ。」
クオンとリッカも一緒に行くことになり、カリンは少しほっとしたような表情を見せた。
クオン、カリン、リッカの三人は、マスクリンと共にマンテリウム城へと向かう。バート、ナツメ、ユウ、ナヴィエの四人はギルドで待機することになったのだった。
*********
クーネルを保護した後、エルヴィン達はフェルゼンからドラグへと戻ってきていた。ヴェンツェルに仔細を報告すると、翌日には魔法研究所のボルン所長のところへ預けに行くように言われた。
クーネルを連れて、エルヴィン達は魔法研究所へと向かう。クーネルはエルヴィンに背負われてスースーと寝息を立てていた。小さい羊がちょこちょこ横を歩く。
「なあ、魔法研究所って異能も研究してるのか?」
「ええ。異能も魔法の一種だと考えられているからね。先天的に使える魔法という感じね。スキル、って呼ばれたりもするわね。」
アイリスは道すがらそう説明する。詳しい仕組みは分かってはいないが、魔力を消費して様々な事象を引き起こすので魔法の一種に分類されている。
「元々は異能を再現するために考え出されたのが古典魔法っていう説もあるわ。真偽は分からないけれど、似ている部分も多いから。」
「へえ。そうなのだな。しかし、クーネルのドリームライトだったか?随分と変わっているな。」
ローズの言うとおり、クーネルの異能は変わっている。見た夢を具現化する異能。類似の魔法は思いつかない。
「夢現灯は珍しいわね。私も本で読んだことがある程度よ。魔法研究所に預けるのも、情報がなくて調べたいってからだと思うわ。」
「ボルン所長ってどんな人なんだ?」
ローズはケイトに会ったことがない。アイリスとエルヴィンが答える。
「そうね。可愛らしい栗鼠の獣人よ。」
「尻尾はもふもふだったぞ。触り心地も良かった。」
エルヴィンの言葉に、ローズは呆れてため息を吐いた。
「お前は会ったことあるのか?」
「一度だけ。シュメッタのガントレットを返してもらう時に会ったぞ。」
「初対面で尻尾を触ったのかお前は。」
「ち、ちゃんと許可は取ったし!」
「まったく、この尻尾好きめ。」
そう話しているうちに、魔法研究所に到着する。初めて訪れるローズは、研究所の異様な見た目に驚いていた。
「これ、研究所なのか?ただの真っ黒な立方体にしか見えないんだが。」
「私も最初は驚いたわ。冥き匣っていうフェリウス帝国の魔道具なんですって。」
小さい羊がポンと音を立てて消え、エルヴィンの背でクーネルが目を覚ます。
「ふわあ...やっと着いたのー。」
「お、起きたか。」
エルヴィンはクーネルを背中から降ろす。クーネルはんーと伸びをした。そして、魔法研究所を見て目をパチクリさせる。
「何か真っ黒なモノがあるの。でっかいの。」
「ここが魔法研究所よ。」
「入る場所がどこにもないの。」
「ふふ。大丈夫よ。ちゃんと入り口はあるわ。」
アイリスが黒い壁面に近づく。すると、紋様が浮かび上がり声が響く。
『アイリス=ガーランド、カルツァ=クライン、エルヴィン=ズィルバー、ローズ=ウィンゲート、クーネル=スイープの五名を確認しました。どうぞお入りください。』
シュンと音がして壁が開く。中は真っ黒で、クーネルはビクビクと怖がっていた。アイリスはそんなクーネルに左手を差し出す。
「手を繋ぎましょう。そうすれば怖くないわ。」
「うん、なの。」
クーネルはアイリスの左手を、自分の右手できゅっと握る。アイリスは微笑みながら、優しく握り返す。アイリスとクーネルに続いて、エルヴィン、ローズ、カルツァも中へと足を踏み入れる。
中の様相は、エルヴィンが以前来た時と全く変わっていなかった。真っ白な通路に矢印が浮かんでいる。
『所長室まで案内致します。矢印に従ってお進み下さい。』
エルヴィンが以前聞いたものと同じ声だ。クーネルは興味深そうに矢印に触ろうとしているが、手はスカスカと空を切っていた。
「んー。触れないの。」
「それは幻影魔法だから触れないわ。」
エルヴィン達は矢印に沿って通路を進む。矢印が途切れる先の壁面に扉が出現した。
「魔導兵団所属のアイリス=ガーランドです。入ってもよろしいでしょうか。」
「どうぞ。」
扉の向こうからケイトの声がする。扉がシュン、と開く。アイリスとクーネルが先に入り、エルヴィン達も続く。
「よく来たな。まあ座ってくれ。」
エルヴィン達は各々ソファへと座る。クーネルはちょうどケイトの向かい側だ。
「栗鼠さんなのー。かわいいの。」
「か、かわいいと言われる歳ではないが、悪い気はしないな。」
クーネルは目をキラキラさせている。ケイトは頬を緩めて満更でもなさそうだ。
「私がケイト=ボルンだ。ここの所長をしている。クーネルとローズは初対面だな。」
「クーネルなの。よろしくおねがいしますなの。」
「連邦騎士団所属、ローズ=ウィンゲートです。よろしくお願い致します。」
「うむ。よろしく。さて、本題に入ろう。ヴェンツェルから聞いてるとは思うが、クーネルは私が預かることになった。」
ここで、エルヴィンが疑問に思ったことを質問する。
「所長自ら預かるのか?」
普通がどうなのかは知らないが、所長直々に預かるのは変な感じがしていた。すると、バツが悪そうにケイトは言う。
「任せられそうな奴がいなかったんだよ。その、なんというか個性的なのが多いからなウチは。一応考えてはみたんだが...クーネルの教育上、悪影響が出そうなのばっかりでな。それで消去法的に私になった。」
魔法研究所は優秀だが変人や曲者ぞろい。エルヴィンとローズも噂で聞いていた。アイリスとカルツァは納得している様子だ。
「魔法研究所、カルツァみたいなのいっぱいいるからね...」
アイリスは遠い目をしながら言う。一方で、カルツァはまるで心外だという感じで言う。
「俺はまともだぞ。あいつらとは違う。」
「はいはい。そーですねー。」
アイリスは空返事だ。ケイトも苦笑いしている。エルヴィンとローズも、なぜカルツァがこんなに自信があるのか全くの謎だった。
「こほん。まあ、幸い私も独り身だし、家も無駄に大きいからな。クーネル一人くらい余裕だ。」
「クーネル、ケイトと二人で暮らすの?」
「身の回りのことをしてくれるメイドがいる。だから三人で暮らすことになるな。クーネルのパパとママが見つかるまでいていい。もちろん、クーネルが良ければ、だが。どうだ?」
「...よろしくおねがいしますなの。」
クーネルはペコリとお辞儀する。こうしてクーネルはケイトの家で暮らすことが決まったのであった。
「無理強いはしないのだが、もし良ければ、帝国での事を聞かせてほしい。...特に光を吐く怪物の事を。」
ケイトは優しく諭すように言う。クーネルは一瞬ビクッとしたが、意を決したように言う。
「あの怪物を倒してくれるの?」
「もちろんだ。あの怪物は私達にとっても危険だからな。」
「....話すの。」
クーネルはぽつぽつと帝国での暮らしを話し始める。オストシルト帝国ベルン男爵領ヒューゲル村。クーネルはそこで生まれ、父と母の三人で暮らしていた。異能『夢現灯』は母の一族の者に時折発現する異能で、今の時代はクーネルの母とクーネルが発現していた。二代続けての発現は珍しいらしい。
父は教師をしており、ヒューゲル村含め三つの村の学校で教鞭を取っていた。母は古代魔導具の研究者で、ベルン男爵領都チュリンに研究室があった。クーネルはいつも母にくっついて村とチュリンを往復する生活をしていたという。
クーネルが光を吐く怪物の絵を描く。アイリスはその絵を見て確信した。
「やっぱり、どう見てもファブリ=ペローね。キュラキュラって音はきっと無限軌道の音よ。」
オストシルト帝国が発掘したフェリウス帝国時代の兵器、光学戦車ファブリ=ペロー。十年前の戦争で、猛威を振るった恐るべき兵器だ。
「ファブリ=ペローは破壊されたんじゃなかったか?他に量産されていたのか?」
ファブリ=ペローの名前はドラグラント連邦では有名だ。たった一台に多くの人達が殺された。当時の戦争には、子供だったエルヴィンは戦争には参加してはいないが、冒険者の姉は義勇兵として参戦していた。無敵だと思っていた姉が怪我をして帰ってきた時は、人生最大の衝撃だったのを覚えている。
「量産できるようなモノじゃないと思う。もう一台発掘されたという方があり得るな。カイザーヴィルヘルムの連中は優秀ではあるが、さすがに彼らでもフェイリス帝国の兵器を再現できるほどじゃないはずだ。」
ケイトはそう推測する。ファブリ=ペローの心臓部の再現は困難で、十年前経った今でもあまり変わってないはずだった。
「カイザーヴィルヘルムの状況が分かるんですか?」
アイリスはケイトに尋ねる。オストシルト帝国の情報はあまり入ってこない。帝国の技術研究の中枢であるカイザーヴィルヘルムならばおさらだ。すると、ケイトは唇に指を当てて、「企業秘密だ」と言って教えてはくれなかった。間諜でも送り込んでいるのかもしれない。
「連邦騎士団と魔導兵団が協力してファブリ=ペローの捜索及び破壊をすることになるだろう。」
ここでカルツァが口を開く。誰もが抱いている疑問を言う。
「勝機はあるのか?魔法研究所が何か対策を考えているのは聞いたことあるが。一筋縄ではいかんだろう。」
「もちろん複数の案を検討しているぞ。詳細はまだ明かせないがな。贅沢を言えば、バルトリヌスの盾でもあれば心強いんだが。」
あらゆる攻撃を跳ね返すと言われている『バルトリヌスの盾』の事をケイトは口に出す。ファブリ=ペローの最大の脅威は、あらゆる方向に放たれる高出力の殺人光線だ。それを何とかしなければならない。バルトリヌスの盾さえあれば対処は余裕だろうが、どこにあるかも分からない七宝を当てにはできない。
「あるかどうか分からないものを当てにしてもしょうがない。魔法研究所で知恵を絞って準備しておるよ。」
カルツァとケイトの話を聞きながら、エルヴィンはフランの父親、前皇帝の事を考えていた。
(相討ちだったんだよな。フランの親父さん。)
先代の皇帝フェルディナンド=ドラグラント二世。オストシルト帝国による連邦都ドラグ襲撃において、ファブリ=ペローと交戦し帰らぬ人となった。
(フランが心配だな。)
フランはあの襲撃で家族を皆失っている。元凶のファブリ=ペローがまだ存在していると知ればどう思うのだろうか。
「ファブリ=ペローの事、フランにも報告するんだよな?」
「うん?ああ、陛下の事か。...報告しない訳にもいかないからの。」
ケイトはエルヴィンの言わんとする事が分かって険しい表情をする。
「エルヴィンにお呼びがかかるかもな。その時は、陛下を頼むぞ。気に入られているようだからな。」
クーネルとの話が一段落すると、クーネルが母のコレクションだったという魔道具を見せてもらう。クーネルは羊のバッグから出した携帯用家屋を床に置く。携帯用家屋は白く輝くと、元の大きさへと戻った。
「おお、これは携帯用家屋か。見るのは初めてだ。」
「魔導具を取ってくるの。」
ケイトは興奮した様子で携帯用家屋に触れている。その横でエルヴィンは首をひねっていた。
「これは一体どういう仕組みなんだ?」
「不明よ。作製方法はギーセンが秘匿しているもの。滅多に売られないから、希少な材料でもいるんでしょうね。」
エルヴィンの疑問に答えるアイリス。クーネルは携帯用家屋から魔導具を抱えて出てくる。クーネルはテーブルの上に魔導具を並べた。エルヴィンが他の魔導具を見てみると、クーネルが抱いていた羊のぬいぐるみもあった。
「これも魔道具だったのか。」
「そうなの。抱いて寝ると疲れが飛んでくの。」
魔道具達の中で、アイリスの目を引く一冊の本があった。見事な装丁が目を引く。金色の錠前が付いていた。
「これは魔導書かしら。」
アイリスが本を手にとって確かめる。錠前の鍵が閉まっていて開かないようだった。
「クーネルちゃん。この本って何だか分かる?魔道具じゃなくて魔導書のように見えるんだけど。」
「知らないの。でもママは大事な本だって言ってたの。鍵はどこにあるか分かんないの。」
「そう。残念ね。中身を見てみたかったのだけれど。」
「ちなみにマクラには向いてなかったの。」
「まあ、硬そうだもんね...」
他にも、姿を消せる光学マントや魔法を反射するエコーの指輪など実用的なものも多かった。一通り見終わると、クーネルに魔道具を返す。
「さて、今日はご苦労だったな。もしクーネルに会いたくなったら、私の家に来るがいい。」
「おねーちゃんたち、ばいばいなの。」
「またね。クーネルちゃん。」
こうして、エルヴィン達はケイトにクーネルを託し、所長室を後にしたのであった。
「尻尾がもふもふなの。触ってみたいの。」
「む。まあ構わないぞ。ほれ。」
ケイトはクーネルにくるっとした尻尾を向ける。ボリュームがあるので、触れるというより抱き付く感じになった。
「やれやれ。他の獣人にはするでないぞ。」
*********
クオン、カリン、リッカの三人はマスクリンと共にマンテリウム城を訪れていた。マスクリンの後ろを歩きながら、クオン達は身を寄せあって内緒話をする。
「魔剣ファーレンハイトの事がどう転ぶか分からないけど、カリンに疑いを持たれないようにしよう。リッカはあまり余計なこと喋らないようにね。」
「う...分かったよ...」
マスクリンの後に続いて、謁見の間に入る。謁見の間には、玉座に座る巌のようなゼノリス王と横に侍るハルツ宰相がいた。マスクリンとクオン達は玉座の前まで行く。
「マスクリン・トー、報告の為参りました。こちらの者たちは、蒼銀の炎を手に入れた冒険者たちです。」
「お初にお目にかかります。クオン=アルセイドと申します。」
「リッカ=アルセイドと申します。」
「カリン=ハーヴィと申します。」
クオン達の名前を聞いて、ゼノリス王は眉を上げるが何も言わなかった。ハルツ宰相がマスクリンに問う。
「冒険者たちを呼んだのには理由があるのか?冒険者たちの仕事は秘宝の入手までで、この件の詳細は秘密のはずだが。」
「そのことを含めて、説明いたします。」
「ふむ。申してみよ。」
ハルツ宰相の言葉を受けて、マスクリンは事の経緯を説明する。まずは、蒼銀の炎が魔剣ファーレンハイトの可能性がある事を話した。
「蒼銀の炎の正体は魔剣ファーレンハイトかもしれぬと。なるほど、あの七宝の一つならば、状況を打開できるかもしれませんな。」
ハルツ宰相の言葉にゼノリス王は頷く。ザラームと戦った際、普通の攻撃は通じない事を痛感していた。
「そうだな。彼奴は我の渾身の一撃を耐えておった。伝説の魔剣でもないと太刀打ちできないのかも知れぬな。しかし、剣か。キンバーライト卿に任せようと思ったのだが、得物が剣では十全に実力を出せんな。」
マスクリンは次に、魔剣ファーレントハイトがカリンから離れない事を話す。
「ですので、このままではカリン殿を参加してもらわなければいけません。幸い、近くにさえいれば、魔剣を扱う者は別でも良さそうです。」
「そうか。そういう事情ならば致し方ないな。」
ハルツ宰相は少し考えた後、提案をする。
「まずは魔剣ファーレンハイトをリングウッド博士に調べてもらおう。そうすれば魔剣を離せる方法が分かるかもしれん。もし、ダメならば、申し訳ないがカリン殿にもこれから行う作戦に参加してもらいたい。無論、その場合は秘密にしている情報も開示しよう。よろしいだろうか。」
予想通りの言葉がハルツ宰相から出る。クオンはここで提案する。
「ハルツ宰相。お願いがあります。カリンは僕のパーティの一員です。一人で参加させる訳には行きません。最低でも僕とリッカの参加を許していただけるなら、お引き受けいたします。」
ハルツ宰相はお願いという形を取ってはいるが、状況的に断るのは難しい。ならば、一緒に参加してカリンを守るしかない。パーティを組んでいるので不審には思われないはずだ。
「アルセイドという何は聞き覚えがある。クオン=アルセイド。君は、あのアスター卿の弟子であるな。」
不意に、ゼノリス王が言った。クオンは驚く。師匠のロイが有名なのは分かるが、まさかクオン自身の事を知っているとは思わなかった。
「もし君が参加してくれるのであれば心強い。魔剣ファーレンハイトを君に任せたい。」
「僕で良ければ。しかし、まだ免許皆伝には遠い身です。僕達だけでは力不足は否めません。」
アスター流剣術を学んでいるとはいえ、姉弟子のレティシアや師匠にはまだまだ及ばない。何をするのかは分からないが、きっと危険な相手と戦うのだろう。何の助けもなしに戦いたくはない。
「無論、そなた達だけに押し付けることはせぬ。我がマンテリウムの問題だからな。もし、魔剣が離れぬ場合は君達の参加をお願いしたい。キンバーライト卿以下、我が騎士団の精鋭と共に戦って欲しい。」
「承知いたしました。」
その後、いくつかハルツ宰相とマスクリンは言葉を交わす。そして謁見は終了した。
クオン達はマスクリンとここで別れる。兵士に案内され、リングウッド博士の研究室ヘと向かうのであった。
*********
クオン達三人は兵士に連れられて、マンテリウム城から少し離れた場所にあるリングウッド博士の研究室を訪れた。
クオンはリングウッド博士を知っていた。人工魔石パイロライトの発明で名を知られている研究者だ。
案内してくれた兵士が研究室の扉を叩く。
「リングウッド博士、いらっしゃいますか。」
中から返事はない。兵士はさらにドンドンと扉を叩くが、全く反応がない。
「留守、なんでしょうか。」
クオンがそう言うと、兵士は首を横に降った。
「いえ、外出の予定はしばらくないはずです。きっと研究に集中して聞こえていないのでしょう。いつものことです。失礼します!」
兵士は思いっきり扉を開けてズカズカと中へ入っていく。クオン達も後に続いた。
「リングウッド博士!ハルツ宰相からの命でこちらの方々を連れて来ましたぁ!」
「あーあーそう大声で言わなくても聞こえてるよ。」
兵士の言葉をうるさそうに聞いている地底人の女性がいた。カーマイン色の双眸をクオン達に向ける。兵士はクオン達とリングウッド博士を引き合わせるとすぐに帰った。
「私はエレナ=リングウッドだ。君達は?」
クオン達はエレナに軽く自己紹介をする。
「それで、私に何の用なんだ?ハルツの命らしいが。」
「実は、博士に見てもらいたいモノがありまして。」
クオンは魔剣ファーレンハイトを作業台の上に置く。エレナは興味深そうに観察する。
「ラーヴァセルカ遺跡で見つけた剣です。恐らく、魔剣ファーレンハイトかと。」
「何?あの七宝のか?根拠はあるのか?」
クオンはラーヴァセルカ遺跡で魔剣ファーレンハイトを見つけた経緯を説明する。蒼銀の炎が魔剣に変わった下りは、興味深そうに耳を傾けていた。
「炎の姿には戻らないのか?」
「それは分からないです。一度も炎の姿には戻ってないですけど、魔剣の能力も使い方も不明ですし。」
「そうか。調べがいがあるな。」
「あと、何故かカリンから離れないんです。」
「離れない?具体的には?」
「一定距離離れると、転移して眼の前に戻って来るんです。」
「ふむ...」
エレナは何やらルーペを取り出すと、魔剣ファーレンハイトを調べ始める。鞘から剣を抜き、隅々まで観察する。
「ちょっと剣を抱いて見てくれるか。」
「は、はい。」
エレナは魔剣を鞘に納めると、カリンに渡す。カリンは魔剣を抱くようにして持つ。エレナはルーペ越しにじっとカリンを観察する。じっと見つめられて、カリンは何だか居心地が悪い。
「何か感じないか?」
「いえ、特には何も感じないです。」
「うーむ。これはもっと詳しく調べる必要があるな。地下の研究室に行こう。そっちの方が設備があるのでな。」
地下の研究室は雑然としていて、よく分からない設備でいっぱいだった。エレナは作業台に魔剣を置くと、クオン達の方を振り返る。
すると、急に研究室の入り口が閉まった。そして、何やか魔法が発動する気配がした。
「これで大丈夫。ここなら誰にも聞かれまいよ。」
先ほどとは違うエレナの雰囲気に、クオンは嫌な予感がした。カリンがきゅっとクオンの袖を握る。エレナがゆっくりと口を開いた。
「さて、カリン君。君に一つ聞きたい。...君は普通の人間ではないな?」
エレナの発した言葉に、クオン達は息を呑んだ。
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