第六十一話『ラーヴァセルカ遺跡 後編』
大変おまたせしました。続きとなります。m(_ _)m
オリヴィエ神殿は、暴走したアセノスフェアが一部を破壊した時と同じ姿で佇んでいた。エアリーを乗せたプラット、リソスフェアとアセノスフェアは神殿の前に降り立つ。
「待ちなさい。」
「ぐえっ!?」
今にも駆け込んでいきそうなアセノスフェアを制す。リソスフェアは不穏な気配を感じていた。プラットのセンサーにも、ある反応が検知されている。エアリーとリソスフェアは息を呑んだ。
『隠れてないで出てきたらどうだ?』
プラットがそう言うと、空間の一点が歪む。捻じれた空間が元に戻ると同時に、ザラームが姿を現した。ザラームはプラット達を見て、不敵な笑みを浮かべる。
「おやおや。誰かと思えば。新龍のお二方に、忌まわしきフェイリスのブリキ人形ですか。」
新龍二柱とハイエンドゴーレムを前にして、ザラームに慌てた様子は全くない。そんな余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)なザラームにリソスフェアは怒りを覚えつつも、冷静な声音で問う。
「あなたね。私の弟を狂わせて、ゼノリス王を脅迫したのは。」
「いかにも。王が素直に門石を渡してくれれば、マンテリウムの被害も最小限で済んだでしょうに。」
やれやれ、とわざとらしく肩を竦めるザラーム。リソスフェアはぐっとこらえる。次に問いかけたのはプラットだ。
『何故、門石を求める?あれで何をするつもりだ?』
「もちろん、神の世界に渡るためですよ。」
その言葉は、プラットの予想通りだった。エアリーは事情を知っていたが、リソスフェアとアセノスフェアはザラームの言葉の意味が分からない。
『ふん。今更、フェイリスの遺物に頼るとは滑稽だな。お前たちのお偉いご主人サマが滅ぼしたくせに。』
プラットはわざと嘲りの言葉を投げる。ザラームは眉を顰めたものの、怒りを表すことはしなかった。
『一応聞いておく。手を引くつもりはないんだな?』
「愚問ですね。」
『そいつは良かった!ディンギリオンフォーム!』
プラットは金色のオーラに包まれる。疑似的な神物質化。
そして、リソスフェアとアセノスフェアに叫ぶ。
『ここはエアリーと私に任せてくれ。』
「そうね。あなたに任せたわ。アセノス、行くわよ。」
「うん、分かった。」
リソスフェアとアセノスフェアは、迂回するようにしてオリヴィエ神殿へと向かう。ザラームは特に妨害もせず、一瞥もしなかった。
『スパイラルフィスト!』
ザラームに向けて、プラットは拳を射出する。鋼鉄の拳はザラームに直撃・・・する瞬間にザラームの展開した魔法障壁に阻まれた。拳と障壁の間で、火花が散る。次第に拳が魔法障壁へとめり込んでいく。ついに魔法障壁を突破し、ザラームへと拳が直撃する。ザラームは後方へと吹っ飛び、拳はプラットの腕に戻る。
「やれやれ。乱暴ですねえ。」
ザラームは何事もなかったかのように、むくりと起き上がる。予想以上にディンギリオンフォームの効果がない。
「そんな紛い物の力では、下位の雑魚ならともかく、私には傷一つ付けられませんよ。」
『やってみなければ分からないだろう?』
「そうですか。自信過剰ですねえ。ぜひその自信を打ち砕いてあげたいところですが、私は忙しいのですよ。」
ザラームの影が大きくなる。闇のような影。その漆黒の泉の中から、禍々しい姿のゴーレムが浮かび上がってきた。全身が鈍色の光沢で覆われ、肩や膝には鋭い突起。頭部は円筒形で、顔らしき十字の窓からは、大きな目玉が覗いている。
「プラット・・・まさかあれって・・・。」
『ああ、違うタイプだが、俺と同じハイエンドゴーレムだ。それにしても、随分と悪趣味な装飾だな。』
エアリーとプラットが出会った時に戦った機体と同型機だ。あまり原型は留めてはいないが、特徴的な円筒形の頭部ですぐ分かった。
「あなたのお相手は、この子に任せましょう。」
『なんだ?もう逃げる気か?』
「顔を見せてあげなくてはかわいそうではありませんか。姿を見せたのは私の情けですよ。では、生きていればまた会いましょう。」
ザラームの姿が歪んだと思うと、空間の一点に吸い込まれるようにして消失する。プラットは舌打ちしつつも、目の前のゴーレムを見据える。
「敵ゴーレムを分析するよ!」
機体データベース照合・・・合致1件
ゴーレムタイプ:武装強化型ハイエンドゴーレム
個体識別名:モホロビチッチ
生体スキャン結果・・・搭乗者状態:異常
消滅砲による完全消滅を推奨
異常。その表示にエアリーは青ざめた。おそらく、搭乗者は呪われている。プラットはエアリーが動揺していることを感じつつも、次の行動へと移っていた。
『レクトソード!』
ヘイフォードのバックパックの上部が開き、剣の柄が上方へと射出される。柄は向きを反転させると、そのまま落下し、ヘイフォードの右手の中に納まる。ヘイフォードが構えると、眩い光と共に剣身が形成される。ヘイフォードのオーラが剣を伝っていき、そして剣全体を纏う。
「グルルル・・・」
モホロビチッチの右脚部側面が開き、鈍色の何かが上方に射出される。モホロビチッチがそれを掴むと、柄の上部が展開し、刀身が形成された。ヘイフォードの直剣とは対照的に、モホロビチッチのそれは曲剣だった。濃い紫色のオーラが迸る。
プラットは怯まない。金色に輝くレクトソードを構え、バックパックの噴出孔から炎を吹き出しながら、ヘイフォードはモホロビチッチに突撃する。
「グガアアア!」
モホロビチッチは耳をつんざくような咆哮を上げると、曲剣を構え、ヘイフォードを迎え撃つ。
『ディンギリオンスラッシュ!』
ヘイフォードが上段に構えたレクトソードを振り下ろす。それをモホロビチッチは曲剣で受け止めた。金属の衝突する音が響き、せめぎ合いの境界から閃光をばら撒く。金色と紫色のオーラは混じり合うことなく、互いに互いを圧しあう。
刹那とも永遠ともいえる時間が過ぎ、弾かれるようにして互いに距離が離れる。ヘイフォードとモホロビチッチはオーラを纏ったまま、対峙する。
「ディンギリオンスラッシュが通じないなんて・・・。」
『どうやら、今までの奴とは違うようだな。エアリー、少しだけ頑張れるか?』
「うん、私は大丈夫。」
エアリーが目の前にあるコンソールに手をかざす。エアリーの手の甲に紋様が現れ、それに呼応するように、コンソールにも似たような紋様が表示される。エアリーは深く息を吸うと、目を閉じて、意を決して言葉にする。
「<精神融合>」
ドクン、と自分の心臓が脈を打つ感覚。そして、自分の体の中に暖かい何かが入ってくるような感覚。エアリーはそれを受け入れ、混じり合う。ヘイフォードの主導権はエアリーへと移った。エアリーは橙赤色に彩られる。髪も瞳も、鮮やかな橙赤色だ。
『さあ、行くよ!』
エアリーの声に呼応するかのように、ヘイフォードの魔導炉が唸りを上げる。ヘイフォードを包む金色のオーラが輝きを増す。金色の粒子は、ヘイフォードを球状に包み込む。
『レクトソード!』
エアリーの動きに連動して、ヘイフォードはレクトソードを構える。レクトソードを中心に橙赤色の光が渦巻いたと思うと、レクトソードは一瞬にしてその姿を変貌させた。剣身と鍔が重厚になり、質量が増大している。再び金色のオーラが剣を伝い、纏っていく。橙赤色と金色が混じり合い、レクトソードは金橙色に輝く。
対峙するモホロビチッチも、ただ見ているだけではない。紫色のオーラの一部が凝集し、もう一本の曲剣が出現する。ヘイフォードとは対照的に、まるで陽炎のように全身から紫が揺らめく。
『ディンギリオンブレイカー!』
「グガアアア!」
一本の大剣と一対の曲剣が激しく衝突する。凄まじい閃光と轟音がばら撒かれ、金橙色と紫色の境界面がせめぎ合う。永遠とも思える間、ぶつかり合った力は行き場を失い、周囲に破壊をまき散らす。
『ハアアアアアアアアアア!』
「グガアアアアアアアアア!」
エアリーは、普段の様子からは考えられないほどの裂帛の気合いでモホロビッチの曲剣にレクトソードを当て続ける。
崩壊は一瞬だった。一対の曲剣は耐えきれず砕け、モホロビチッチはレクトソードによってその体を肩口から腰にかけて斜めに斬撃を受ける。
「グ、グあ・・・あア・・・」
モホロビチッチは呻き声を上げる。切断面から上半身がずり落ちていく。声が聞こえなくなると、モホロビチッチの巨躯は粒子となって砂のように崩れた。紫色の粒子は金色へと変化し、周囲に散逸していく。
ヘイフォードの胸から光が放射され、エアリーの姿が現れる。エアリーはその場にうずくまると、胃の中のモノを盛大にぶちまけた。エアリーを覆う魔法障壁から外へ出た吐瀉物は岩の地面へと落ち、ジュッと嫌な音を立てる。
「げぇ...けほっ...」
プラットは黙ったまま、ヘイフォードの右手の人差し指でエアリーの背中をさする。エアリーが嘔吐する姿をできるだけ見ないように配慮して。こんな姿を見られたくないだろう。乙女ならなおさらだ。
エアリーは胃の中のモノをひとしきり吐いてしまうと、口の中の酸味を我慢しながら、魔法を詠唱する。
「変幻自在の御身よ。我より湧き出て完全なる形を成せ。水球。」
エアリーの目の前に、顔ほどの大きさの水の塊が出現する。エアリーが両手をお椀の形にしてその下に差し出すと、水球はゆっくりと手のひらの上に着地した。魔力で凝集された水は、形を崩さずぷるぷると震えている。エアリーは水球に口をつけ、何回かに分けて口の中を漱いだ。水球の水がなくなる頃には、幾分か口の中はマシになった。
「はぁ...はぁ...ふぅ」
ハンカチで口を拭うと、エアリーはよろよろと立ち上がる。プラットはヘイフォードの手首を回転させ、五指を下側にし、エアリーを受け止めた。エアリーはヘイフォードの大きな手にその身を預ける。
「ごめんねプラット。またみっともないとこ見せちゃったね。」
『気にすることはない。君はよくやっているさ。』
以前よりは大分マシになったとはいえ、精神融合の反動はまだまだ大きいようだった。最初にやむなく融合したときは酷い有様だった。
「神殿に入っていった二人が気になるけど、ちょっと休ませて。」
『構わない。ザラームの奴の反応もないからな。少し休むといい。』
エアリーの事を考えるとあまり無茶はしたくないが、ザラームのような使徒に備えておかなければならない。プラットの目的のためには、いずれ戦わざるを得なくなるのだから。
(さて、どうするべきか...)
プラットはエアリーの体調をモニターしつつ、これからの事を思案するのであった。
*********
オリヴィエ神殿に入ったリソスフェアとアセノスフェアは、まず龍の間へと向かう。そこからフェルスと思しき魔力を感じたのだ。龍の間へと続く大扉をアセノスフェアが勢いよく開けながら叫ぶ。
「フェルス!ここにいるのかい!」
アセノスフェアは普段の大人しい様子からは想像できないほどの大声を出した。龍の間に声が響き渡るが、返事はない。だが、龍の間の中央に目的の人物を見つけた。
「フェルス!」
開いた花のような寝台。ゼイトゥーン神殿のものと同じ構造のものだ。寝台の上で、巫女服を着た少女が横になっていた。オリヴィエ神殿の巫女フェルスである。
アセノスフェアは寝台へと駆け寄る。フェルスは呼吸をしていて、胸も規則正しく動いている。
「ん...。」
アセノスフェアが抱き起こすと、フェルスから微かな声が漏れる。そして、ゆっくりと目を開けた。
「フェルス!気がついたかい!」
「...アセノス...フェアさま!?な、なんで!?」
フェルスの目の焦点が合うと、目の前にアセノスフェアがいて驚いたようだった。アセノスフェアの腕の中でじたばたと暴れだす。だが、アセノスフェアはがっちりと抱いていてびくともしない。
「フェルス、どうしたの?どこか痛いの?」
「ちち、違います!アセノスフェア様、か、顔が近いですっ!」
フェルスは顔を真っ赤にしながら、両手でアセノスフェアの顔を押しのける。その様子にリソスフェアは安堵した。
「落ち着きなさいアセノス。フェルスが困ってるわ。離してあげなさい。」
「えー。」
「えー、じゃないの。」
アセノスフェアは渋々といった感じで、フェルスを腕から解放する。
「リソスフェア様...えっと、私、なんでここに...?」
リソスフェアはフェルスにこれまでの経緯を掻い摘んで話す。アセノスフェアの暴走のこと、ザラームのゼノリス王への脅迫のこと、エアリー達と協力してアセノスフェアを正気に戻したこと、オリヴィエ神殿へ来たことを順を追って話す。
「そんな大変な事になってたんですね...」
「フェルスは何か覚えてない?」
「アセノスフェア様をお出迎えする準備をしてたのは覚えているんですけど...気がついたらここにいました。」
フェルスは何も覚えていなかった。他の神官達の行方も分からないらしい。
「エアリーさんという方は大丈夫なのでしょうか。外で戦っているのですよね。」
「あのザラームとかいう奴は新龍を操る術を持っているわ。私達が戦うのは危険よ。エアリーさんを信じるしかないわね。」
リソスフェアは神殿の外の魔力を探っていたが、禍々しい方の魔力を急に感じなくなった。決着が着いたようだ。
「どうやら終わったようね。禍々しいのが消えたわ。」
「でもザラームじゃないよね。途中でいきなり出てきたよ。」
「手下でもけしかけたんでしょうね。」
オリヴィエ神殿から外に出ると、エアリーがヘイフォードの大きな手のひらに体を預けて休んでいるのが見えた。
「エアリーさん。無事だったのね。大丈夫?」
「はい。大丈夫です。ちょっと疲れてしまっただけですから。」
「ザラームはどうなったの?」
「リソスフェアさん達が神殿に入った後、厄介なゴーレムを置いてすぐ去っていきました。」
エアリーは体を預けていた手のひらから立ち上がると、フェルスの方を見る。
「はじめまして。龍の巫女さま。アイソスタシーのエアリー=ハイスカーネンと申します。」
「エアリーさんですね。私はフェルス。アセノスフェア様の巫女を勤めております。この度はご協力に感謝いたします。」
「ご無事で良かったです。」
「はい。ですが、消えた神官の方々が気になります...」
フェルスの表情が曇る。リソスフェアも神官たちのことが心配ではあったが、まずはフェルスをゼイトゥーン神殿まで送る方が先決だ。
「一度、ゼイトゥーン神殿へ戻りましょう。フォノンが心配しているわ。ゼノにも報告しないと。」
アセノスフェアはフェルスを背中に乗せたがったが、しがみつくのは大変だ。ヘイフォードが掴んで運ぶことになった。エアリーはヘイフォードに乗り込み、プラットがヘイフォードの右手を動かしてフェルスを優しく掴む。巨大な手に掴まれた経験などないので、フェルスは体を強張らせつつ、ヘイフォードの大きな人差し指に両手を添える。
「さあ、出発しましょう。」
リソスフェアはそう言うと、龍の姿へと変化する。アセノスフェアもそれに続いた。こうして、エアリー達一行はゼイトゥーン神殿へと戻るのであった。
*********
クオン達が光る通路を抜けた先には、三角錐の大きな建造物が溶岩池の中央にそびえていた。通路の出口からは石畳の道路が溶岩池を横断し、建造物まで伸びている。建造物の麓には石畳の広場がある。
「うわー明らかに何かありそうだねあそこ。」
リッカが建造物を指差す。確かに何かがありそうな雰囲気だ。
「カリン、魔物はいそう?」
「んー。今のとこそんな魔力は感じないかな。」
以前のように溶岩池からガルネイレが飛び出してくる可能性もある。いつ戦闘になってもいいようにしつつ、クオン達は慎重に石畳の道路を進んでいく。ポコポコと溶岩が沸き立つ音だけが聞こえていた。
結局、何事もないまま広場までたどり着く。広場の中央には、大きな石の球体が鎮座していた。不思議に思いつつも通り過ぎようすると、ブオンという起動音がして、急に球体から声がした。
『ここから先は立ち入り制限区域です。』
「うわっ!?びっくりしたあ!」
リッカが驚いて声を上げる。球体は石から金属のような質感へと変化していた。表面に幾何学的な文様が光っている。
『本機、ガードスフィアに翠の証を提示してください。』
ガードスフィアから光が照射される。そこに何かを入れろという事なのだろうか。しかし、翠の証などと言われても、皆目見当もつかない。
「そんなの持ってないよー。私の瞳なら翠色だけど絶対違うよねえ?」
リッカが不満げに言う。
『認証エラー。侵入者と断定。排除を開始します。』
ビーっとけたたましい警告音が鳴り響く。その瞬間、溶岩池から溶岩がまるで蛇のように立ち昇った。ガードスフィアの周囲を溶岩が取り巻いていく。
「あわわ、なんかやばい感じするよー!」
「みんな、気をつけて!」
危険を感じて、クオン達は武器を構える。カリンが防御の為の魔法を詠唱した。
「我を守りし聖なる光。願うは守護の腕。盾となりて我が世界に安寧を。守護神の光!」
クオン達が光の守護壁で包まれる。その間に、ガードスフィアの本体は見えなくなり、溶岩の球体へと変貌する。纏った溶岩を針のようにして、クオン達目がけて射出し始めた。クオン達は散開して溶岩の針雨を避けた。
ユウが散弾銃を撃つ。散弾は銃口から円錐状に広がりながら、ガードスフィアへと襲いかかった。しかし、溶岩に阻まれ本体まで届かない。散弾は溶岩に飲まれて溶けてしまう。
「ちっ。威力が足りないか。」
ユウは舌打ちする。切り札は先程のドラゴン戦で使ってしまってもうない。手持ちの弾丸では、溶岩の鎧ごと穿つには貫通力が足りない。
(ナツメがいてくれたら良かったんだけど。最善の手を尽くすしかないか。)
ナツメの氷結矢があれば、ガードスフィアを纏う溶岩に上手く対処できたかもしれない。
クオンは溶岩に対抗する為に、手持ちの魔法から効果のありそうなものを選択する。
「凍てつく冷気よ。我が剣を纏いて、鋭き輝きとなれ。氷神剣!」
クオンが魔法を詠唱する。クオン、リッカ、バートの武器が冷気を帯び、氷の刃を生じる。
「リッカとバートは僕と攻撃。カリンとユウは援護をお願い。」
カリンとユウは後方に下がり、クオンとリッカとバートの三人はそれぞれ三方向からガードスフィアに攻撃を仕掛ける。
バートが長柄斧を叩きつける。打撃した箇所は急速に冷却され、溶岩が固まり、そして砕け散る。だが、穴が開いた場所に周囲の溶岩が流れ込み、すぐ元通りになってしまった。さらに、ガードスフィアは高度を上げる。
「こらー降りてこーい!」
リッカが叫ぶが、機械のガードスフィアは意にも介さない。攻撃が届くユウが射撃するが、ガードスフィアは溶岩の雨を降らせる。溶岩は粘度が低いのか、サラサラで飛び散ってかなり危ない。地底人ではないクオンたちにはその飛沫がかかるだけでもかなり危険だ。氷檻の指輪でも流石に溶岩はまずい。
「天空より来たれ。飛翔する天使さえ墜とす風よ吹き荒べ!風神降臨!」
カリンが風魔法を詠唱する。強力な下降気流がガードスフィアを襲い、地面へと叩き落す。そこへ目掛けて、クオンとリッカが氷の剣で攻撃した。溶岩はどんどん固まって、ボロボロと崩れていく。
ガードスフィアが再び浮かび上がる。すると、溶岩の体積が減った分、周囲の溶岩池から溶岩が立ち昇り、ガードスフィアへと供給された。これではキリがない。
「どうする?これじゃキリがねえぜ。周りは溶岩だらけだ。」
溶岩池が無くなるまで攻撃するのは現実的ではない。その時、クオン達が通ってきた方向から一本の矢が飛来した。青白く輝く矢はガードスフィアを覆う溶岩に突き刺さると、瞬く間にガードスフィアを氷漬けにした。
「これは、氷結矢?ということは、ナツメ?」
クオンが矢の飛来した方向に目を向けると、ナツメともう一人の誰かがこちらへ走って来るのが見えた。ユウの言葉がその正体を明かしてくれた。
「ナヴィ、無事だったんだな。」
その言葉で、クオンはナツメと一緒にいる人物がナヴィエだと分かった。リッカが言っていた風貌とも一致する。ナツメはカリンの、ナヴィエはユウの隣に立った。
「ナツメ~!良かったよ~!何ともなかった?」
「あったけど、私は大丈夫。」
「あったの!?」
リッカが驚いていると、ガードスフィアの氷が割れる。本体が剥き出しになっていた。
「リッカ、話は後で!行くよ!」
「ほいさー!」
「カリン、さっきの風魔法をお願い!」
「分かった!もっと強力なの行くね!」
カリンが再び風魔法を詠唱する。先程より魔力を凝縮させる。
「天空より来たれ!飛翔する天使さえ墜とす風よ!吹き荒べ!風神降臨!」
威力を増した下降気流が、ガードスフィアを打ち下ろす。ガードスフィアは地面へと打ち付けられ、広場の石畳に亀裂を生じさせた。地面へと落ちたガードスフィアに、クオンとリッカが斬りかかる。
すると再び溶岩池から溶岩が立ち昇る。
「そうはさせないよ。氷柱矢。」
左右から集まろうとする溶岩に向けて、ナヴィエは連続で矢を放つ。鎌首をもたげた溶岩の蛇は、急速に冷却されて固まった。
「円弧打撃!」
炸裂弾でガードスフィアは吹っ飛び、天辺へと続く階段に衝突する。傷は付いているが、まだ機能停止には至っていないようだ。
「結構タフだなコイツ。」
すると、ガードスフィアはその場で高速回転し始めた。そして、目にも止まらぬ速さで飛び出すと、溶岩池へと飛び込む。
「しまった!」
クオンが叫ぶ。ガードスフィアが飛び込んだ溶岩池の表面が盛り上がり、溶岩の巨人が姿を現した。
「ええー!?それは聞いてないよ!」
巨人は拳を振り上げると、クオン、リッカ、バートの三人を目がけて振り下ろした。三人は散開して拳を避け、後方に下がる。
「クオン、どうする?」
「あいつの本体を引きずり出せればいいんだけど...難しいね。せめて位置さえ分かれば。」
すると、カリンがクオンに話しかけてきた。
「クオン、私に任せて。少し集中すれば、魔力の感じで分かると思う。」
「分かった。皆!あいつをとにかく攻撃して欲しい。」
「よっしゃ、派手に行くぜ。」
「おー!」
バートとリッカは巨人の拳を避けつつ攻撃。ユウ、ナツメ、ナヴィエは遠距離から攻撃する。
「ここ!光の神よ。我が腕に導きの光を。灯火!」
カリンの頭上に光球が出現し、まっすぐ巨人のある部分へと向かっていく。光球は右肩へと当たった。クオンはそこへ目掛けて剣を縦に振る。
「飛翔閃!」
カリンの灯火に導かれるように、魔力の斬撃が飛ぶ。飛翔閃の魔力刃は、固まった巨人の右肩に命中した。砕けた場所から、魔力刃が食い込んだガードスフィアが姿を現する。
「後はボクに任せてよ。」
ナヴィエはガードスフィアに向かって、弓を構える。弦を引き絞ると、その動きに合わせて魔力の矢が形成される。
「行け、魔法矢。」
魔法矢が魔力刃をガードスフィアに押し込む。そして、真っ二つに切断した。バチバチと火花が散ったかと思うと、爆発する。
「やったー!って危な!?」
リッカの方へ、爆発飛散したガードスフィアの部品が飛んできた。リッカは間一髪で避ける。部品はくるくると回転して止まった。
「もー、最後までびっくりさせないでよー。...さすがにもう何もないよね?」
リッカが剣で部品をつんつんと突く。すると、部品から光が照射される。光はリッカの右目を照らした。
「うわっ!?」
リッカは思わず仰け反る。カリンが驚いて駆け寄って来た。
「リッカ!?大丈夫!?」
「だいじょぶだいじょぶ。ちょっと眩しかっただけだよー。あーもう最後までびっくりさせるんだからこいつめー。」
ゴゴゴゴという音とともに、三角錐の壁の
一部がスライドして開いていく。そして、ガコンという音とともに動きが止まった。
全体が真っ白な空間。その中心に、それはあった。大きな燭台に、蒼く輝く銀色の炎が燃え盛っていた。
「あれがきっと蒼銀の炎かな。」
クオンの言葉に皆が頷く。伏兵が出てこないか警戒しつつ、燭台へと近づいていく。
「不思議な炎だね。そんなに熱も感じないし。」
カリンが言うように、不思議な炎だ。こんな色の炎は見たことがない。熱も感じない。一体何が燃えているのか皆目見当もつかない。
「で、これをどうやって持って帰るんだ?そもそもこれで何をするんだ?」
バートの疑問は最もだ。すると、どこからか声が響く。
『翠の資格ある者よ。ここに在るは、神さえ反す力...反神剣ファーレンハイトなり。我が希望の一欠片、そなたに託す。』
すると、蒼銀の炎は形を変え、一振りの剣となる。そして燭台がゴゴゴゴと音を立てて床の高さまで下がった。
「今、ファーレンハイトって言わなかった?もしかして、七宝の一つ、魔剣ファーレンハイト?」
リッカが興奮気味に言う。クオン達はこの展開に驚きを隠せなかった。
「分からないけど、可能性はありそうだね。」
ファーレンハイトの名前は七宝の一つとして有名だ。状況から考えて、その可能性は十分にある。蒼銀の炎が魔剣ファーレンハイトならば、ゼノリス王が求めたのも納得がいく。
「これで剣が抜けません、というオチはないよな?」
「さすがにそれはない、と思いたい。」
バートの言葉にナツメが返す。そんなやり取りを聞きつつ、クオンはファーレンハイトの柄を力強く握る。燭台から思いっきり引き抜いた。意外にもファーレンハイトはあっさりと抜ける。うまく行き過ぎて拍子抜けしてしまった。ファーレンハイトが蒼銀の炎に包まれたと思うと、鞘が形成される。抜き身だった剣は鞘に納められた状態になった。
「これで依頼達成だね。」
クオンはほっと息を吐く。後はラーヴァセルカ遺跡から出るだけだ。
「また来た道を戻るんだよね...あいつらに遭遇したらやだなー。」
「同感。」
リッカとナツメは露骨に嫌そうな顔をする。帰り道に遭遇する確率は高そうだ。カリンはまだ実害にはあっていないが、あんな男に会うのは嫌だ。
「心配しなくても、これだけ人数いれば大丈夫だよ。」
「そうだな。いざとなれば、俺達で守るさ。」
ユウとナヴィエが二人を安心させるように言う。すると突然、クオンたちの足元に大きな魔法陣が出現した。
「これは...転送用の魔法陣?」
魔法陣の幾何学模様には見覚えがある。ハーヴィー博士の研究室で見たものと同じだ。まずい、とクオンが思った瞬間、視界が光に満ちた。光が消えると、見覚えのある風景。クオンが振り返ると、ラーヴァセルカ遺跡入口にあった溶岩の滝が見える。どうやらあの魔法陣は帰還用だったようだ。
「やったー!戻ってこれたー!」
リッカは嬉しさでぴょんぴょん飛び跳ねる。変な場所に転移しなくて良かったと、クオンはほっと胸を撫で下ろす。
「さあ、ギルドに報告に行こう。」
目的のモノを手に入れたクオン達は、ラーヴァセルカ遺跡を後にするのであった。
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