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白磁の竜角  作者: 黒猫水月
第三章 地底世界の冒険
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第五十八話「ラーヴァセルカ遺跡 前編」

大変長らくお待たせしました。続きとなります。

 ラーヴァセルカ遺跡突入後、クオン達は慎重に先へと進んでいた。探索が始まって日が浅い遺跡なので、情報が乏しい。マスクリンから貰った遺跡の情報では、浅い階層の魔物や罠ぐらいしか得られなかった。


「意外と魔物がいないね~?他のパーティが倒しちゃったのかな?」


 リッカの言う通り、クオン達はまだ魔物に遭遇していない。罠はちらほら見かけるが、どれもすでに解除されていた。ギルドによると、現在遺跡に潜っているパーティはクオン達を含め十二組。浅い階層は先行しているパーティによって粗方探索されたのだろう。


「多分そうなんじゃないかな。僕達の前に十一組もいるんだし。」

「純粋なるユニコーンも来てるんだっけ。私、あいつにアイゼンで追いかけまわされたから、遭遇したくないなあ。」

「大丈夫だろ。クオンと俺がいるし。一人にならなければ大丈夫さ。」

「そういうこと言わないでよ。孤立しそうじゃん。やめてよねバート。」

「わりぃわりぃ。」

「まあでも、ずっとこの様子だと、私たちが来たの徒労に終わりそうだよね。」

「まあ、その時はその時だよ。誰かが『蒼銀の焔』を手に入れれば、この閉塞した状況を打開できるかもしれないんだからね。」



 広い場所に出た。溶岩池が広がっており、中央に小さな島がある。そこまで堅牢な造りの橋が架かっていた。継ぎ目もなく磨かれた綺麗な橋だ。


 事前情報では、溶岩池の中にはガルネイレという魔物が生息しているらしい。岩のような硬い表皮を纏ったエビのような姿の魔物だ。人間を捕食はしないものの、縄張りに近づくと溶岩池から飛び出して攻撃してくる危険な魔物である。


「ガルネイレっておいしいのかな?」


 書類に描かれたガルネイレの姿を思い出しながら、リッカは呑気にそんなことを言う。ナツメは真顔で、カリンは苦笑いをしつつリッカを諭す。


「やめた方がいい。火傷するよ。お口の中、大火傷。」

「さ、さすがにやめた方がいいんじゃないかな。硬すぎて歯が折れると思うよ。」

「じょ、冗談だよ冗談~。さすがに食べないよ~。あはは~。」


 そんなやり取りをしつつ、クオン達は橋の前まで来た。クオンはいったん足を止めて、皆の方を振り向く。


「ここは気を付けていこう。情報だと、溶岩池の中に魔物が潜んでいるみたいだからね。カリン、探査魔法を頼める?」

「うん。任せて。」


 リッカも同じ探査魔法が使えるが、カリンの方が性能が良い。カリンは杖を構えて、魔法の詠唱を始める。淡く青い光がカリンを包む。詠唱が終わると、カリンの感覚が拡張され、広範囲の魔力を感知できるようになった。


「うわ。けっこう数がいるね。」


 予想以上の数を感知し、カリンは顔をしかめる。探査魔法が届く範囲だけで、三十体はいるようだった。


「どのくらいいる?」

「私の分かる範囲だと三十体くらいかな・・・今のところ、橋の近くにはいないみたい。私達には気づいてないよ。」


 クオン達は警戒しつつ、橋を渡り始める。いつでも迎撃できるように、各々が武器を手に持ち、可能な限り足早に橋の中央を歩いて行く。カリンがあっ、と声を上げる。


「五体、こっちに来てる。気を付けて、右から来るよ。予想、あと十秒くらい。」


 カリンの予想した秒数経過すると、溶岩池から何かが飛び出した。何かは橋の上に降り立ち、クオン達の行く手を遮る。その数五体。その体から滴った溶岩が橋の上に落ち、ジュウジュウと音を立てる。


「キシャアアアア!」


 事前の情報通り、溶岩池から現れたのはガルネイレだった。真っ黒な球体のように見える複眼をクオン達に向け、叫びをあげる。複眼の鈍い光沢がなんだか不気味だ。


「ま、すんなり通してはくれないか。そろそろ退屈してたしちょうどいいな。」

「行くよバート。カリンは引き続き索敵をお願い。ナツメとリッカは背後のフォローね。リッカはまず全員に氷神纏衣(グラキエスフォース)を頼むよ。」


 クオンとバートがガルネイレと睨み合っている間に、リッカが詠唱を始める。


「纏いしは氷神の理。我が冷剣(れいけん)凍盾(とうじゅん)と成れ。氷神纏衣(グラキエスフォース)!」


 普段なら攻撃力・防御力を底上げする武神纏衣(リインフォース)を唱えるのだが、ガルネイレは冷気に弱い。クオンはリッカに氷神纏衣(グラキエスフォース)を指示した。消費魔力は割高だが、武神纏衣(リインフォース)の効果に加えて冷気を付与できる強化魔法だ。リッカの詠唱が終わると同時に、クオンとバートが白い冷気を帯びる。


 冷気を見て、ガルネイレ達が怯む。クオンはその瞬間を逃さず、それぞれ一番近いガルネイレに斬りかかった。切断までは行かなかったが、パックリと殻が割れる。ガルネイレは傷口から血を吹いて倒れた。バートに長戦斧(ハルバート)で叩きつけられた個体は割れた殻をまき散らせながら、弾き飛ばされて溶岩池へと落ちる。その様を見て、残りの三体は警戒し後ずさった。


 クオンとバートが残りのガルネイレと対峙していると、索敵をしていたカリンが叫んだ。


「今度は三体!後ろから来るよ!」


 再び溶岩池からガルネイレの群れが飛び出す。今度はクオン達の背後にも着地する。挟撃される形となった。


「あ、やっぱ増えた。」

「さあ、いっくぞー!」


 新たに出現したガルネイレをリッカとナツメが迎撃する。リッカは氷神纏衣(グラキエスフォース)の冷気を纏いながら、右腕の関節部分に剣を叩きつけた。右腕が落ち、血が出ている孔に向かって剣を突き刺す。ガルネイレは断末魔の叫びを上げて倒れた。


 もう二体はナツメの方へと距離を詰めてくる。ナツメは慌てることなく、逆に向かってきたガルネイレの方へと走った。衝突する直前、ガルネイレの頭を蹴る。その反動で、ナツメは飛び上がった。矢筒から三本の矢を取り、弦を引き絞りながら上昇する。上昇速度が零になった瞬間に、次々に矢を放つ。


貫通矢(ペネトレイトアロー)。」


 貫通能力の他に、多少ながら重力も加味された矢は次々にガルネイレの頭を射抜く。矢は寸分の狂いもなく、堅牢な頭を貫いた。まるで鶏の卵の殻のようにやすやすと砕ける。頭を粉砕された二体は、奇声を上げて動かなくなる。

 ナツメは動かなくなったガルネイレから矢を引き抜く。矢の節約の為だ。専用の布で血を拭うと、矢筒へと矢を戻した。ちょうど、クオンとバートも残りのガルネイレを倒したところだ。ほっと一息つこうとしたところで、カリンが切羽詰まったように叫んだ。


「クオン!いっぱい敵が向かって来てるよ!」

「落ち着いてカリン。何体くらい?」

「えっと、三十体くらいいる!」

「げっ!さすがに多くねえ!?」

「また、増えた。」

「さすがにめんどくさいなー。」


 クオンは考える。先ほどの手ごたえなら、対処は出来そうだ。しかし、ここでは場所が悪い。目的地までどのくらいなのか不明な以上、浅い階層での消耗は避けるべきだと判断する。


「ここじゃまた囲まれる。一気に橋を駆け抜けよう。皆、対岸まで走るよ!」


 好都合にも、リッカが全員にかけた氷神纏衣(グラキエスフォース)の効果もまだ持続している。クオンとバートを先頭にして、クオン達は走り出した。溶岩池から次々に飛び出してくるガルネイレを叩き落としながら、橋の上を一目散に走り抜ける。


「ナツメ!対岸に着いたら流星矢(シューティングスター)をお願い!」

「任された!」


 無事、対岸の島へとたどり着く。クオン達が振り返ると、ガルネイレの群れが迫ってきていた。ナツメは弓を反転させ、弦を引き絞る。魔力の矢が形成されていく。最大まで引き絞ると、群れの中心に向かって射った。


流星矢(シューティングスター)。」


 魔力の矢が群れに向かって飛んでいく。群れの中心に到達すると、魔力の矢が爆ぜ、四方八方に魔力光線が放たれた。眩い光線がガルネイレ達を無慈悲に貫く。光が消えると、そこにはガルネイレ達の穴だらけになった(むくろ)が転がっていた。何とか撃退することができたようだ。索敵をしていたカリンがほっとした様子で口を開く。


「もう大丈夫みたい。他の反応は遠ざかってる。」


 ナツメの流星矢(シューティングスター)を見て、敵わないと思ったのか、他のガルネイレは退散したようだ。クオンはほっと胸を撫でおろす。


「ふう。何とかなったね。皆、大丈夫?」


 クオンは皆の状態を確認する。誰も怪我をしていないようだ。魔法で強化されていたおかげで、体力の消耗も少なくて済んだ。


「へへん。これくらい余裕だぜ。」

「いい運動になった。」

「数が多くてちょっと焦ったよ~。」


 辿り着いた島には石畳になっている領域があり、その中央にはぽっかりと下層へと続く階段が口を開けていた。まだまだ遺跡は序盤。気を引き締めて、クオン達は階段を降りるのであった。


*********


 階段を降りた先の階層は、迷路のように通路が入り組む構造になっていた。なっていた。マッピングをしながらクオン達は進んでいく。いつの間に住み着いたのか、魔物もちらほらと徘徊していた。


 その時、シュン!という音がしてリッカとナツメの間に光の壁が出現した。突然現れた壁にリッカは仰天する。壁にぶつかりそうになり、寸前のところでたたらを踏んだ。


「うお!?なにこれぇ?」


 目を丸くするリッカほど顕著ではないが、ナツメも突然の事態に驚いていた。光の壁は通路いっぱいに展開しており、クオン達とナツメは光の壁によって分断されてしまった。トラップを解除できないかどうか辺りを隈なく探すが、装置らしきものは見当たらなかった。ナツメは石を拾って光の壁に投げてみるがかつんと音がして跳ね返された。単純に通路を閉鎖する用途のようだ。クオンも反対側からペタペタと触ってみる。思ったより壁の魔力密度が高く、破壊は困難だと感じた。


「どうやら、そっちに行くのは無理そうだね。」

「ここは仕方ない。分かれて探索する。目的地は一つなんだから、いずれ合流できるはず。」

「ナツメ、一人で平気?」


 カリンは心配そうに言う。ナツメはこれ以上心配させないように、努めて冷静に言った。


「心配ない。平気。魔力も余裕あるし、矢玉もたっぷりある。」

「あまり無理しないでね。そっちは一人なんだから。」

「ん。分かってる。じゃ。また後で。」


 ナツメはクオン達に背を向けると、さっさと通路の先へと行ってしまった。


「さあ、僕達も行こう。早くナツメと合流しないとね。」


 *********


 クオン達と別れたナツメは慎重に歩を進めていた。魔力と矢に余裕はあるものの、合流するまでは節約したい。魔物に遭遇してもすぐ逃走するつもりだ。


 しばらく探索していると、広い場所に出る。そこには、離れたところに五人組の冒険者パーティがいるのが見えた。どうやら休憩しているらしい。話しかけようかと思ったが、パーティの中にひときわ目立つ姿の男がいるのを見て躊躇する。


(最悪。よりにもよって。)


 冒険者の中に一人、実用性のなさそうな金ぴかの鎧を着た男がいる。ナツメは自分の迂闊さと不運を呪った。あんな悪趣味な鎧を着ている男なんて一人しかいない。その場から立ち去ろうとしたところで、黄金の鎧を着た男がナツメに気づいた。その男は、爽やかな笑顔でナツメに話しかけてきた。


「おや。可愛いお嬢さん。こんなところで1人じゃ危ないよ。」


 実際に会ったのは初めてだが、ナツメはその男の顔を似顔絵でよく知っていた。リンドヴルム王国の冒険者ギルドでは悪い意味で有名人だからだ。冒険者パーティ『純真なるユニコーン』。そして話しかけてきたのはチェスター=バルテン。まさに女の敵とも言える男。リッカからアイゼンでの話は聞いている。ナツメは背筋がぞわっとした。今の気分は猛禽類に睨まれた小動物、もしくは竜に遭遇した狩人だ。笑顔の下では舌なめずりをしているように感じた。不快な感覚だ。ナツメは警戒する。


(これは、ちょっとまずい、かも。)


 ナツメは無表情を張り付けたまま、内心では焦っていた。向こうは男五人。この状況は明らかに危険だ。こんな最悪なタイミングで、一番会いたくない奴に出会ってしまった。


(何とか穏便に済ませたい・・・。)


 そこら辺の不良冒険者なら容赦なく張り倒してやるのだが、相手は腐ってもバルテン侯爵家の人間。できれば揉め事は起こしたくない。ご令嬢と比較して、性的魅力(セックスアピール)に乏しいというのがナツメの自己評価だ。男を扇情させるような格好もしていない。見逃してくれないだろうかと無駄な期待をする。


「私は一人でも大丈夫です。お構いなく。」


 角が立たないように、普段のぶっきらぼうな物言いをせず、殊更に丁寧な言葉遣いで断る。できれば笑顔で言いたかったが、そこまで器用な真似はできない。


「女の子一人じゃ危険だよ。」


 だがナツメの淡い期待も空しく、諦めてくれないようだ。チェスターの値踏みをするような視線が絡みつく。獲物を狙う猛禽類のような眼だ。他の四人も近寄ってくる。


(いや、危険なのはお前たち。)


 ナツメは内心毒づく。波風が立たないようにこの場を乗り切りたかったが、自分の身を守る方が大事だ。いつこの狼どもに襲い掛かられてもいいように、閃光瓶(フラッシュボトル)をそっと手の中に握り込む。もし変な素振りを見せたら、容赦なく頭にぶつけてやるつもりだった。


「いえ、大丈夫ですから。」


 踵を返して足早に立ち去ろうとしたその時、ナツメは反射的に護身用のナイフを抜き放ち、飛んできた何かを切る。それは小さな針だった。チクッと左腕に痛みが走る。


(不覚・・・まずった。)


 何の針かは分からないが、愉快なものではないだろう。刺さった針を抜き捨て、とっさに閃光瓶を放って逃げようとする。が、その時に体の異変を感じた。体全体が痺れて動かない。


「あ・・・う・・・。」


 ナツメはその場に膝をつく。そんなナツメの姿を見て、チェスターはにやりと笑った。


「ごめんごめん。仲間が手を滑らせてしまったみたいだね。」


(何をいけしゃあしゃあと。この変態め・・・。)


 ナツメに手が触れようとしたその時だった。突然、チェスターが横に吹っ飛んだ。チェスターは黄金の放物線を描き地面へときりもみしながら落下した。


「チェスター様!?」

「いったい誰だ!?」


 突然の襲撃に慌てるチェスターの仲間の足元には、矢が次々と突き刺さった。そして次の瞬間、けたたましい爆音と共に眩い光が辺りを満たす。


「うぎゃあああああ!?」

「目がああああ!?」


 ナツメもあまりの眩しさに目を閉じる。爆音で耳がキーンとなる。体は痺れるわ頭はクラクラするわで最悪の気分だ。なんとか痺れる体を動かそうと四苦八苦していると、ふいに誰かに抱き上げられた。そのまま運ばれる感じがする。


(いったい、誰?)


 辛うじて少し目は開いた。ナツメは自分を抱き上げている誰かの顔を見る。


(・・・・!?)


 そこにいたのは、超がつくほどの美少女だった。ナツメが知っている中で、一番美少女のドロシーにも比肩しうる容姿。金糸で織られたような髪に、白くて艶のある肌、透き通るような蒼い瞳。ドロシーが白銀細工なら、この目の前の美少女は黄金細工だ。美少女はナツメの視線に気づくと、優しく微笑む。声は聞こえなかったが、口の動きから、「大丈夫。」と言っているような気がする。これ以上悪い事態にはならないだろうと、何となくそんな予感がするのであった。


 チェスター達はついてきていない。謎の美少女がナツメを連れてきた場所は、温泉がこんこんと湧いている場所だった。美少女はきょろきょろとあたりを見回すと、適当な石碑を背にナツメをもたれかからせた。美少女はごそごそとポシェットから薬瓶を取り出す。


「口、開けれる?」


 運ばれている間に、美少女の声が聞こえるくらいには耳の調子はなんとか元に戻っていた。


「ん・・・。」


 ナツメは辛うじて動かせる頭でコクコクと頷く。すると、美少女は薬瓶のコルク栓を開けて、ナツメの口元に近づける。


「これ、飲んで。解毒薬だよ。」

「・・・・ん。」


 ほろ苦い液体がナツメの口の中へ流れ込む。解毒薬の瓶が空になったのを確認すると、美少女はナツメの口元から瓶を離した。


「少しすれば解毒剤が効いてくると思う。じきに動けるようになるはずだよ。それまで辛抱してね。」。


 ナツメは頷き、体が元に戻るまでじっと休むことにした。三十分ほど経つと体の痺れが取れ、舌も回るようになった。


「助けてくれてありがとう。」

「どういたしまして。困ったときはお互い様だよ。」


 美少女はそう言って破顔する。その笑顔にナツメが見惚れてしまう。同性でも見惚れる可愛さだ。ドロシーのような美少女で、嫉妬の火も点きようがない。


「ボクの名前はナヴィエ=ストークスって言うんだ。みんなはナヴィって呼ぶよ。」


 美少女の名前を聞いてナツメははっとする。ナツメはナヴィエという名前に聞き覚えがあった。リッカから聞いた友達の話。アイゼンのユウとナヴィエ。リッカは、ナヴィエは絶世の美少女に見えるけれど男だと言っていた。ハーフエルフだとも。目の前のナヴィエは、少し尖った耳が金糸の間からのぞいていた。エルフやエルフの血を引く者たちの典型的な身体的特徴である。


「ボクの顔がどうかした?」

「あなたってもしかして、リッカの友達のナヴィエ?」

「え?あれ?君、リッカの知り合いなの?」

「うん。私はリッカの友達。」

「ということは…。もしかして、君はナツメさんかな?」

「当たり。」


 ナツメがナヴィエの事を聞いていたように、ナヴィエもナツメの事をリッカから聞いていた。少し考えるそぶりは見せたものの、身体的特徴と雰囲気からナツメだと分かった。


「はは。こんなところで出会うなんて奇遇だね。」

「世間は存外に狭い。」


 初対面とはいえ、全く知らない相手ではないと分かり、ナツメは安心した。ナツメとナヴィエは情報交換をする。


「はるばるアイゼンから地底王国までパイロライトを仕入れに来たんだ。けど、知っての通り鉄道が止まっちゃって帰れなくなってね。」


 ナヴィエも相棒のユウと一緒にラーヴァセルカ遺跡の依頼を受けていた。ナツメとクオン達のように、探索の途中で分断されてしまったとのこと。ユウと合流しようと探索している間に、ナツメがチェスター達に絡まれている現場に遭遇したのであった。


「ナヴィ君って、男の子なの?」

「そうだよ。こんな(なり)をしているけどね。」


 肩を(すく)めて苦笑いを浮かべるナヴィエ。不躾(ぶしつけ)なことにも気が回らず、ナヴィエの全身を隈なく見てしまう。どう引き算しても男には見えない。声だって中性的で判断できない。


「本当に?リッカから聞いていたけど信じられない。」

「ホントホント。こんな嘘つかないよ。ほら、胸だってたくましいでしょ?」


 ナヴィエは自分の胸をポンと叩く。たしかに女性のような双丘のある胸ではない。だが、たくましい男の胸板かと言われれば微妙だった。冗談なのか、本気で言ってるのか分からなかったので、とりあえずたくましいとは言わなかった。


「こんなに可愛いのに・・・。リッカの言った通り男の子なのね。複雑な気分。」

「はは。よく言われるよ。」


 初対面で男性だと見抜ける者はいないだろう。実際、ナヴィエの様子を見るに、言われ慣れているようだ。気を悪くした様子は全くなかった。


「ここで提案だけど、もし良ければ、一緒に行動しないかい?さっきみたいな輩もいるかもしれないし、女の子一人じゃ危険だよ。」


 第一印象は悪くないし、チェスターみたいな事はしないと思う。だからこそ、ちょっといたずらをしてみたくなった。自分の体を両腕で抱いて、上目遣いでそう言ってみる。頬を染める器用な真似は出来なかったが。


「ナヴィ君は・・・変な真似しない?」

「し、しないよ!」


 ナヴィエは顔を赤くして反論する。耳の先っちょまで赤くなり、ピコピコと動いているのが可愛い。感情が耳に出やすいのかなとナツメは思った。


「ふふ。冗談だよ。」

「もう・・・からかわないでよ。」

「よろしくね。ナヴィ君。」

「こちらこそ。ナツメさん。」


*********


 ナツメとナヴィエが出会っていた頃、クオン達は次の階層への階段の前に来ていた。ナツメが来るかもしれないので、少し時間をつぶす。今のところ、誰も来る気配がない。


「ナツメ、大丈夫かな。」


 カリンは心配そうにつぶやく。リッカがそんなカリンの肩をポンと叩いた。心配性のカリンを安心させるように言う。


「だいじょーぶだって。ナツメはそんなにヤワじゃないよ。」

「・・・ん。そうだよね。」


 すると、誰かがクオン達の方へ近づいてくる気配がした。クオン達から見える場所に現れたのは、クオンと同年代くらいに見える少年だった。どうやら一人のようだ。背中に見たことない形式の銃を背負っている。ソロで遺跡に潜っているのだろうか。クオンがそう思っていると、リッカが驚きの声を上げた。


「あれ?もしかして、ユウ君かも?」


 リッカの友達の名前だ。アイゼンでの顛末は聞いている。リッカとユウが文通している事はクオン達みんなが知っていた。


「やっぱりユウ君だ。おーい。」


 リッカが手を大きく振りながら声をかける。ユウは驚きの表情を見せたと思うと、こちらの方へと走って来た。リッカの前で立ち止まる。


「リッカじゃないか。どうしてここに?」

「そっちこそ〜。一人?ナヴィ君は一緒じゃないの?」

「一緒だったけど、途中ではぐれちゃったんだ。」


 リッカが話を聞くと、パイロライトを仕入れに地底王国まで来ていたらしい。そこから依頼を受けた経緯はクオン達と一緒だった。ひとしきり話が終わったところで、ユウはリッカからクオン方に向き直る。どことなく、ユウの顔は緊張しているようにも見えた。


「えっと。皆さん。初めまして。ユウ=ファラデーです。よろしくお願いします。」

 初対面だが、ユウはクオンの顔を知っていた。リッカからの手紙にクオン、カリン、リリス、ナツメ、バート、カノンの似顔絵が添付されていたからだ。


「クオン=アルセイドです。リッカの弟です。こちらこそよろしくお願いします。」

「カリン=ハーヴィーです。よろしくお願いします。」

「バートランド=ラッセルだ。よろしく。」


 クオン、カリン、バートが順に自己紹介をする。ユウは緊張していた。クオンに心の準備をする前に対面してしまったせいだ。クオンはリッカの弟。つまりユウの好きな相手の弟。つまり将来の義理の弟になるかもしれない。心証を悪くしたくないという気持ちがそうさせていた。一方で、クオンの方はというと、初対面で緊張しているのかなと思っていた。


「そうだね。そんなに他人行儀じゃなくて大丈夫だよ。呼び捨てで構わないよ。」

「ああ、分かった。クオン。」

「僕もユウって呼んでいいかな?」

「もちろんだ。」


 互いの自己紹介が済んだところで、クオンはこれからの事をユウに尋ねた。ユウもクオン達と同様に、ここではぐれた仲間を少し待ってから先へ進むつもりのようだ。そこで、リッカが提案する。


「ねえねえ。ユウ君も目的は同じなんだし、ここからは一緒に行こうよ。」

「それは助かるけど、いいのか?」

「皆もいいでしょ?」


 クオン達に異論はなかった。信頼できる戦力が増えるのは良いことだ。クオンはユウの得物について聞く。冒険者もしていることはリッカから聞いてはいたが、戦闘スタイル等は聞いていない。パーティに加わるなら連携の為にも把握しておかなければならない。


「俺の得物は銃器だね。回転拳銃(リボルバー)散弾銃(ショットガン)だよ。実弾も魔力弾も使える。」


 ユウは腰のホルスターに入っていた回転拳銃(リボルバー)散弾銃(ショットガン)を手に持って、クオンに見せる。銃器を実際に見る機会はあまりないので、クオンは興味津々だった。得物としては剣や弓よりも強力な武器ではあるが、銃弾の補給や整備の関係であまり使われてはいない。ユウは工房都市アイゼンに住んでいるからこそ使えるのだろう。そう思いつつ、クオンはまじまじと散弾銃(ショットガン)を見る。


「散弾ってことは広範囲に攻撃できるの?」

「うん。集弾率は実弾でも魔力弾でも変更できるよ。」


 クオンは次々に質問する。いつの間にか、ユウの戦闘スタイルよりも銃器そのものへの話になっていた。そこにバートも加わり、三人で話が弾んでいた。その男の輪の外で、リッカとカリンは喧騒を眺めている。


「クオンとユウ君、気が合いそうで良かったよー。」

「男の子って機械好きだもんね。」


 リッカとしては、あまり心配はしていなかった。ユウとクオンは気が合うだろうと思っていたからだ。実際、ユウとクオンは打ち解けることが出来たようだ。


「それで、リッカってユウ君のどこが好きなの?」

「んにゃ!?」


 カリンがいきなりそんな事を言ってきたので、リッカは思わず変な声が出てしまった。慌てて口を手で押さえる。幸いにも、話に夢中なユウ達には気づかれなかった。


「ユウ君は友達だよ~。」


 そう言いつつも、リッカはカリンから目をそらす。あの日のでこちゅーの事を思い出し、恥ずかしくて頬が熱くなってきた。ユウに好意を抱いているのは確かだが、恋と呼べるものなのかまだリッカには分からない。カリンはいたずらっぽい笑みを浮かべてはいたが、それ以上追及はしてこないのであった。


 その後、クオン達は一時間ほど待っていたが、結局ナツメもナヴィエも姿を現す気配がなかった。他の場所から階層を降りたと期待して、先へ進むことにする。仲間にユウを加え、クオン達は階段を降りるのであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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