第五十七話『王都ナラクアヴィス』
大変お待たせしました。続きとなります。
ストラトス城を発ったヘイフォードは順調に飛行を続け、フェルマー大陸上空に差し掛かっていた。エアリーの目の前には、頭部カメラから見た外界の映像が投影モニターに映し出されている。地上には線路が幾重も伸び、その先に地底世界への入り口、大穴が見えて来た。ヘイフォードは大穴の直上でホバリングする。漆黒の闇が詰まる大穴の姿を頭部カメラは捉えていた。線路が孔の側面を螺旋状に走っている。
『これより、地底世界へ突入する。』
ヘイフォードはホバリング状態で大穴を降下していく。モニターに表示される絶対温度の数値が深度と共に上昇していく。ヘイフォードの魔法障壁による断熱効果が無ければ、エアリーは蒸し焼きになっているだろう。
大穴の底に到達すると、ナラクアヴィスまで通じる線路が、大きな暗闇の先にいくつも伸びている。ヘイフォードは線路に沿って先へと飛行する。真っ暗闇ではあるが、光学処理されたモニターにははっきりと見えている。しばらく飛行すると、進路上に橙赤色の光が見えた。モニターには溶岩の流れに飲み込まれて寸断された線路が映っている。
「これじゃあ列車が通るのは無理そうね・・・。」
『そうだな。だが、これくらいならマンテリウムの土岩技術でどうにでもなる。復旧の様子が見られないという事は、できない理由があるのだろう。』
ヘイフォードは溶岩流の上を飛行し、寸断された線路の向こう側へと進む。しばらく線路沿いに飛行を続け、王都ナラクアヴィスへと到達した。モニターに王都の一部分が拡大される。ナラクアヴィス支部の石畳の広い敷地が見えた。
『ちょうど良いスペースがある。あそこに着陸しよう。』
ヘイフォードはナラクアヴィス支部の上でホバリングし、降下していく。すると、ヘイフォードの推進音を聞きつけて、建物からギルド職員らしき地底人が出て来た。
「おいおいなんだこりゃあ。」
地底人はギルドに突如現れたゴーレムに、目を丸くして驚いていた。ヘイフォードは石畳の上に着陸すると、地底人の目の前で淡い光を胸から放つ。淡い光に包まれながら、エアリーはゆっくりと地面に降りた。ゴーレムと同じく突如出現したエアリーの姿に驚きつつも、地底人は問う。
「君は一体誰だ?」
「アイソスタシー所属、エアリー=ハイスカーネンと申します。お騒がせしてすいません。」
「俺はマスクリン=トーだ。ナラクアヴィス支部のギルド長を務めさせてもらっている。
それにしてもアイソスタシー・・・?君がか?」
マスクリンはもちろんアイソスタシーは知っている。なので、目の前の少女がその一員だとは俄かには信じがたかった。しかし、背後のゴーレムを見て、ある可能性に思い至る。
「いや、そのゴーレム・・・もしかしてタングステンマンか!?」
『そうだ。私の正式名称はプラット=ヘイフォード。私と彼女のコンビが、君の言うタングステンマンだ。』
プラットはエアリーとの脳内通話から体外発声に切り替え、マスクリンに説明する。
「そうだったのか。こいつは驚いたな。タングステンマンが来たという事は、アイソスタシーは地下世界の異変に気付いているのか?」
「はい。そうです。アイソスタシー団長ロスビーの命を受け、地下世界の調査に参りました。」
「ギルド長。現在の状況を教えていただけますか?」
「分かった。ここでは場所が悪い。私の部屋で説明・・・と思ったのだが、ヘイフォード殿は建物に入れないな。」
「大丈夫です。本体は収納できるので。」
エアリーは首元のチョーカーに触れると、ヘイフォードは光となって消える。サファイアの中にヘイフォードの本体が収納されたのだ。
「問題なさそうだな。こっちだ。ついてきてくれ。」
エアリーとプラットはマスクリンの後を付いていく。ギルド長室に案内され、マスクリンから王国の状況を聞いた。エアリー達の予想以上に深刻な内容だった。
「大地軟龍のアセノスフェア様が暴走・・・ですか。」
「ああ。原因は不明だ。リソスフェア様がなんとか止めようとしてくださってはいるのだが、正直、分が悪い。ゼノリス王は何か知っているようだが、何か事情でもあるようでな。王室の秘密にも関わる事なんだろう。」
『それならば、直接聞きに行くしかないな。王に取次ぎを願えるか?ギルド長よ。』
「ああ、構わないぞ。タングステンマンとあれば、ゼノリス王も何か教えてくれるかもしれん。ちょっと待っててくれ。王城に使いを出す。」
一時間ほどして、王城からの返事が来た。ゼノリス王との謁見を許可するという内容だった。エアリーはマスクリンに礼を言うと、すぐに王城へと向かった。歳若い少女のエアリーに門番は怪訝な表情をしたものの、名前を告げると中へと通してくれた。王城の中へと入ると、兵士に案内されて謁見の間へと向かう。その途中で、プラットはエアリーに脳内通話で話しかける。
『ゼノリス王には私の姿を見せよう。』
(謁見の間で顕現するの?怒られないかな?)
『ゼノリス王はタングステンマンの話は聞いていても、君のような少女だとは夢にも思っていないだろう。実際に見せた方が納得させやすい。』
(うーん。確かにそうかも。求められたらするよ。)
「ここが謁見の間となります。どうぞお入りください。」
兵士に促され、エアリーは謁見の間に足を踏み入れる。玉座の前まで進み、膝をついて頭を垂れる。
「お初にお目にかかります。ゼノリス王。アイソスタシー所属、エアリー=ハイスカーネンと申します。」
「遠路はるばるご苦労だった。私がゼノリス王だ。そなたら(・・・・)がかの有名なタングステンマンだと聞いたのだが、それは本当か?」
「はい。事実です。」
「ふむ。ギルド長からも聞いたが、俄かには信じられなくてな。ギルドカードを見せて欲しい。ついでに、良ければ、ゴーレムの姿を見せて欲しいのだが。」
「承知しました。ヘイフォード、召喚!」
エアリーが首元のチョーカーに触れると、虚空よりヘイフォードが出現する。
「なるほど。素晴らしいゴーレムだな。」
「さて、本題に入ろう。察しはついているが、アイソスタシーの君が派遣された理由を聞かせて欲しい。」
「はい。」
地下世界のギルド活動拠点であるナラクアヴィス支部が音信不通になり、線路の寸断が確認された事。その為に、地下世界に到達可能なプラットを従えるエアリーが調査を命じられた事を話す。
「ギルド長から地下世界の状況は伺いました。アセノスフェア様が暴れていると。」
「その通りだ。そのせいで線路の復旧もままならない。出来れば、アイソスタシーに支援要請をしたい。」
「失礼ながら、ギルド長は情報が回ってこないとおっしゃっていました。」
「・・・そうだな。アイソスタシーの君達になら話してもいいだろう。」
ゼノリスは話し始める。マンテリウム王家の伝承を。門石と呼ばれる遺物、そして門石を狙い、いつの日か奪いに来る者が来るという内容だ。
「そのような事が・・・。門石とは一体何でしょうか?」
「かのフェリウス帝国から我が王室が継承した、一種の転移装置だと伝わっている。それ以上の詳細は不明だ。使い方もさっぱり分からぬ。」
エアリーは転移装置の為にわざわざこんな大それた事をするのか疑問だった。もしかしたら何か他に機能があるのかもしれない。
「ただの伝承だと笑い飛ばすことができればよかったのだが、奴は誰も知らぬはずの遺物を要求している。偶然だとは思えぬ。何に使うつもりなのかは分からないが、アセノスフェア様を狂わせるような得体の知れない輩に、おいそれとやるわけにはいかぬ。無論拒否した。」
ここで、ゼノリスは自前の斧を取り出しため息を吐く。一撃を加えた斧だ。
「しかし、奴に渾身の一撃を食らわせたが、全くの無傷だった。手応えはあったのだがな。」
「無傷・・・ですか。」
「伝承によれば、奪いに来る者はこの世とは違う理で存在しているという。王家に伝わるもう一つの遺物『蒼銀の炎』でなければ倒せないらしい。」
「『蒼銀の炎』とは何でしょう?」
「ラーヴァセルカ遺跡にあると言われている秘宝だ。そちらの探索は冒険者たちに依頼している。普通の依頼を装ってな。あやつが存在を知っているかどうかは不明だが、念の為だ。」
エアリーは脳内通信でプラットと話す。プラットはゼノリス王のある言葉に反応していた。
『それにしても、この世とは違う理・・・か。』
(どうしたのプラット?何か引っかかる事があるの?)
『いや、なんでもない。』
何か奥歯にモノが挟まったような物言いのプラット。エアリーは気にはなったものの、この雰囲気では教えてくれないだろうと思った。
「事情は承知いたしました。本部に支援要請をしましょう。本部からの返答は少し時間がかかります。それまで、暫定措置として協力しましょう。何か、お手伝いできることはありますか?」
「可能であれば、アセノスフェア様への対応をお願いしたい。出来れば拘束して欲しい。」
王国軍ではアセノスフェアの居場所を捕捉することすらできていないのが現状だった。仮に対峙しても、王国軍の戦力では蹴散らされるだけだろう。現時点で、対抗できる戦力はプラットだけだ。
「承知致しました。ご期待に沿えるよう、善処します。」
「よろしく頼む。」
ゼノリス王は頭を下げる。エアリーは一礼すると、謁見の間から退出した。外で待機していた兵士に声をかけ、どこか広い場所はないかと聞く。すると兵士は王城の中庭に案内してくれた。中庭と言っても植物があるわけではなく、ごつごつとした岩がそこら中に置かれている。地上とは趣の違う中庭だ。
「アセノスフェア様もリソスフェア様も行方不明。それに闇の賢者か・・・。問題が山積みだね。まずは、ロスビー団長に報告しないと。カリスト、召喚!」
エアリーはヘイフォードの他にも、支援用のミニゴーレムを四体所有している。イオ、カリスト、ガニメデ、エウロパの四体である。その内の一体、カリストを召喚する。ミニゴーレム達は微妙な意匠の差異はあれど、ヘイフォードを三頭身にしたような風貌をしている。
「カリスト。ロスビー団長に現状を報告と支援要請に行ってちょうだい。気を付けていくのよ。」
「ピピピ。」
エアリーはカリストの頭を撫でながら言う。カリストは電子音を鳴らすと、背中から焔を噴き出す。そのまま王都の上空を飛翔し、カリストの姿はエアリーがヘイフォードで通って来た大穴の向こうへ消えて行った。エアリーはカリストを見送るとヘイフォードに乗り、アセノスフェアの捜索を始めるのであった。
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ダイアベイスの街を出発して一週間。ペトラとリノンの頑張りもあって、予定よりも早くクオン達は王都ナラクアヴィスへと辿り着いた。リノンはナラクアヴィスへ入ると、そのまま王城へと向かう。巨大な玄武岩門の前でリノンが停まると、門番が二人駆け寄って来た。
「君達、王城へは許可がないと・・・リソスフェア様!?」
「ご無事だったのですね!心配しておりました。」
門番達は竜車から出て来たリソスフェアを見て驚き、咄嗟に敬礼をする。
「王城へ入れて。至急、ゼノリス王とリングウッド博士に会いたいの。」
「承知しました。今すぐ門を開けます。玄武岩門、開け(オープン)!」
門番の一人がそう叫ぶと、堅牢そうな門がゴゴゴ、という音と共に開く。門が開放されると、リソスフェアは振り返って、竜車の中にいるクオン達に話しかける。
「皆さん、ここまで送ってくれてありがとうございました。おかげで助かりました。」
「では、またいつかお会いしましょう。」
リソスフェアはクオン達に慇懃に礼を言い、門を潜って王城内へと入っていった。再び音を立てて動き、門が閉じる。リソスフェアが見えなくなると、クオンはペトラに話しかける。
「ペトラさん。冒険者ギルドに行ってくれませんか。」
「はいよ~。お任せあれ~。」
リソスフェアから道すがら王国の状況を聞いたものの、最新の情報を得たい。地底世界の情報が集まるナラクアヴィス支部なら情報があるだろう。クオン達は冒険者ギルドのナラクアヴィス支部へと向かう。ナラクアヴィス支部の前に到着すると、クオン達はリノンから降りた。
「ご利用ありがとうございました。次回もごひいきにお願いしますね~。いつでもお待ちしております。」
こうして、ペトラとリノンは去っていった。クオン達はナラクアヴィス支部の中へと入る。支部の中は思っているよりも閑散としていた。レグニスの冒険者ギルドと同様に水晶掲示板が設置されており、様々な文字列が表示されている。何か情報はないかと、クオン達は掲示板を見る。そこにはマンテリウム王国の地図と現状が表示されていた。アセノスフェアが暴走している事への注意喚起や魔物被害が頻発する場所が示されている。次にリデンブロック鉄道の運行状況を見てみると、そこにはあまりよろしくない内容が表示された。
「まずいね。どうやら線路が寸断されてしまっていて、地上行きの電車は出てないみたいだ。無期限運休だって。復旧工事も出来てないみたいだ。」
「という事は、地上に行けない?」
「ええっ!?じゃあアティスに戻れないの!?そんな~。」
「・・・絶望。」
すぐにはアティスへ帰れないと知り、クオン達は落胆する。アセノスフェアの暴走が止まらない限り、鉄道は復旧しないだろう。
「じゃあ、しばらくここで足止めか。これからどうするよクオン。」
「ん~。しばらく滞在となると路銀も必要になるし・・・何か依頼を受けないといけないね。皆もそれでいいかな?」
六人が長期滞在をするには路銀が心許ない。依頼を受けて、滞在費を稼ぐ必要がある。クオンの提案に反対はなかった。掲示板を操作して依頼を探していると、クオン達に声をかける者がいた。
「君達、見ない顔だな。ここに来るのは初めてかい?」
声のする方を見ると、そこには髭をたっぷりと蓄えた地底人がいた。体は小柄だが、見事な筋肉の鎧で覆われている。その威容に気圧されながらも、クオンは尋ねた。
「えっと、あなたは?」
「俺はマスクリン・トー。ここ、ナラクアヴィス本部のギルド長を務めている者だ。」
いきなりのギルド長登場に驚きつつも、クオン達も各々自己紹介をする。わざわざ何の用なのだろうかとクオンは訝しむ。
「別に盗み聞きするつもりはなかったんだが、話が聞こえちまってな。依頼を受けるつもりなら、ちょうど君達にやって欲しい依頼があるんだ。」
「僕達にですか?」
「ねえ。おじちゃんは本当にギルド長なの?私達だまそうとしてない?」
リッカは皆が思っている事をずけずけと言う。クオン達はギルド長の顔を知らないし、その可能性は捨て切れない。するとマスクリンは、にかっと笑った。気分を害した様子もない。
「ははっ。確かにそうだよな!用心深いのはいい事だぜ嬢ちゃん。」
マスクリンはおもむろに懐から何かを取り出す。それはギルドカードだった。リンドヴルム王国のものとは違って、茶色のカードに交差したリソスフェアとアセノスフェアがデザインされている。
「証拠見せるから、ちょいと来てくれ。」
マスクリンはそう言って、受付の方へと歩き出す。クオン達も後を付いていく。マスクリンは受付にいる女性に声をかけた。
「ちょいとこのカードの情報を表示してくれ。」
「分かりました。」
受付嬢はギルドカードを受け取ると、横にある読み取り機の上に載せる。すると、カード内の情報が水晶板に表示される。そこにはしっかりと、『ナラクアヴィス支部ギルド長』と表示されていた。
「これで信じてくれたか?」
「それで、僕達にして欲しい依頼というのは?」
マスクリンは水晶掲示板まで戻ると、指で操作して依頼一覧表を出す。そこから、ある一つの依頼を選択した。
「詳しい話はギルド長室で話そう。」
クオン達はマスクリンに案内され、ギルド長室へと足を踏み入れる。マスクリンはパチンと指を鳴らすと、部屋の雰囲気が変わった。魔力によって障壁が部屋を包む。防諜に使われるような音や光を遮断する魔道具を使ったのだろう。
「済まないな。盗み聞きされては困るのでね。」
「ここまでする理由があるんですか?」
「その事についても今から話す。」
大きな机には水晶版が嵌め込まれていた。マスクリンは水晶板の前に座ると、指で触れて操作する。依頼の一覧表が表示され、そこからある依頼を選んだ。
「ラーヴァセルカ遺跡調査・・・は表向きの理由だ。本当の依頼内容は、遺跡最奥部にあるという秘宝の回収だ。」
「秘宝、とは具体的に何ですか?」
「『蒼銀の炎』と呼ばれるものだ。それ以上の事は分からない。」
クオンの知らない秘宝だった。皆に目で問いかけてみるも、全員が首を横に振る。誰も知らないようだ。マスクリンは話を続ける。
「この依頼は、ハルツ宰相を通じてギルドに連絡が来た。秘宝の回収はゼノリス王からの勅命でもある。だが詳細は不明だ。分かっているのは、その秘宝が今起きている事態の収拾には必要になる事だ。秘宝を探していることは出来るだけ内密にして欲しい。つまり、知られたくない誰か・・・今王国が直面している危機を引き起こした奴がいるってことだ。」
「情報が不足している事は理解している。その代わり、報酬ははずもう。秘宝が手に入らなくても咎めはしない。リスクヘッジの為、いくつか信頼できそうなチームに依頼を出している。どこか一組でも秘宝を回収してくれればそれでいい。」
アセノスフェアの暴走を止めない限り、鉄道は動きそうにない。
「アセノスフェア様の方は大丈夫なのですか?」
「そちらは心強い味方が対処している。最初は冒険者達に応援を出そうと思ったが、幸いなことに地底世界の異変を察知したギルド総本部から心強い応援が来てな。何と、タングステンマンが来たんだ。」
「ええっ!タングステンマンがですか!?」
マスクリンの口から有名な名前が出てクオン達は驚く。冒険者の間では知らぬ者はいない存在、タングステンマン。アイソスタシーの最高戦力。まさかここでその名を聞くとは思わなかった。
「ああ、だからそちらは心配しなくていい。」
それならば、秘宝を探した方が良いのかもしれない。クオンは皆の顔を見渡す。
「皆、どうする?危険はあるかもしれないけど、この状況をどうにかしないとアティスに戻れないし、僕は受けた方が良いと思う。」
「うん。私は賛成。リソスフェア様、困っているみたいだし力になりたい。」
「俺も賛成だ。さっさと何とかして帰りたい。」
「私もクオンと同じ~。」
「良いと思う。私も異存ない。冒険者たるもの危険は承知の上。」
こうして、クオン達はラーヴァセルカ遺跡調査の依頼を承諾したのであった。
*********
クオン達がギルド長と話をしている頃、王城へと入ったリソスフェアは謁見の間でゼノリス王と会っていた。ゼノリス王はリソスフェアの姿を見て安堵する。
「ご無事でしたか。心配しましたぞ。」
「心配かけてごめんねゼノ。私は何とか大丈夫よ。」
「正気を失っているというよりも、誰かに操られているような雰囲気だったわ。」
「やはりそうですか。実は・・・。」
ゼノリス王は闇の賢者を名乗る男に脅迫された事を話す。リソスフェアはアセノスフェアがおかしくなった原因を察した。
「きっとその男がアセノスを操ってるのね。アセノスをどうにかして正気に戻さないと・・・。エレナのところで魔力を補充したら、またアセノスを探しに行くわ。」
「その件でしたら、タングステンマンに支援を依頼しています。」
「タングステンマン?あのアイソスタシーの?」
ゼノリス王は、タングステンマンを通じてアイソスタシーに支援を要請した事、アセノスフェアへの対応を依頼した事を話す。
「そう、それは心強いわね。彼と協動してアセノスを何とかするわ。貴方達は魔物討伐と治安維持に集中してちょうだい。」
「承知しました。お気を付けて。リソスフェア様。」
謁見の間から退出すると、リソスフェアはある場所へと足を向けた。王城から少し離れた場所に、リングウッド博士の研究室がある。リソスフェアは研究室に足を踏み入れる。研究室の中では、一人の地底人女性が一心不乱に作業をしていた。リソスフェアはため息を吐くと、女性に近づく。
「エレナ。」
リソスフェアが名前を呼ぶと、小麦色の肌の女性—エレナは作業の手を止めて振り返る。カーマイン色の双眸を向けた。エレナ=リングウッド博士。高純度の人工魔石パイロライトを生み出したことで有名な研究者である。
「おうリソスか。久しいな。私に何か用か?」
ずっと研究室に籠っていたせいか、エレナは王国で何が起こっているのか知らない口ぶりだった。いつもと変わらない様子である。
「ちょっと厄介ごとがあってね。アセノスが暴れてるの。」
「は?あやつがか?珍しいこともあるもんだな。」
エレナは理解できないといった様子だ。リソスフェアは王国が今置かれている状況を説明する。何か思うところがあったのか、納得した様子だった。
「ふむ。なかなか頼んだ物が地上から届かないと思ったらそんな事になっていたのか。」
「魔力を補充したいから、パイロライトをできるだけ欲しいの。在庫はある?」
「地下の倉庫にあるぞ。好きなだけ食え。」
「ありがとう。恩に着るわ。」
リソスフェアはエレナに礼を言うと、階段を降りて地下倉庫へと向かう。広大な地下倉庫の一角には、黄色い輝きを放つパイロライトが大量に置かれている。リソスフェアの体が淡く輝くと、龍の姿に戻った。天井に頭をぶつけそうになりながら、身を屈めてパイロライトの山に顔を近づける。
(いただきます。)
リソスフェアは大きく顎を開け、口の中にパイロライトを放り込んでボリボリと食べる。豊潤な魔力が体に満ちていくのを感じる。リソスフェアもアセノスフェアも魔力は外界から吸収しているので普段は食事の必要はない。天然魔石を食べることはあるものの、人工魔石の方が遥かに補充効率が良いのだ。
(アセノス・・・必ず私が元に戻すからね。)
*********
マスクリンから遺跡の情報を受け取ったクオン達は王都を出発し、ラーヴァセルカ遺跡の近くまで来ていた。
「ふあ~それにしてもここ、すごい場所だねえ。」
「氷檻の指輪があっても、見てるだけで汗が出てきそうだぜ。」
遺跡があるのは王都から北西、溶岩平原と呼ばれる場所の先。そこら中に溶岩池があり、ぼこぼこと泡立っている。時折、溶岩の飛沫が上がる。リッカとバートが言うように、地上ではお目にかかれない風景だ。そんな場所を、クオン達は溶岩池の間を縫うように進んでいた。
「あ、見えて来たよ。あれじゃないかな。遺跡。」
カリンの指差す先の岩壁には様々な彫刻が彫られており、その中に遺跡の入口がある。しかし、遺跡の入口は上から滔々(とうとう)と流れ落ちる溶岩の滝によって塞がっていた。
「これじゃあ中に入れなくない?ギルド長のおっちゃん、この事言ってたっけ?」
クオンはマスクリンから貰った依頼書を見直してみるが、そんな情報はどこにも記載されていなかった。すると、近くに王国兵の詰め所があった。
「あそこにいる兵士に聞いてみようか。」
詰め所にいた王国兵に聞くと、どうやらつい最近溶岩の流れが変わったせいのようだ。他の冒険者がどうしたのかを聞くと、溶岩流が入口を塞いでから初めて来たのがクオン達とのこと。溶岩流をどうにかしなければ、遺跡に出入りできない。
(うーん・・・、僕の魔法で溶岩流を凍らせられないかな。)
クオン達は溶岩流が流れ落ちる場所の目前まで行ってみる。クオンは氷属性の魔法で凍らせようかと考えていると、ナツメが口を開く。
「ここは私に任せて。溶岩を凍らせるから、破壊をお願い。」
ナツメは一歩進み出ると、背中の矢筒から矢を一本取り出す。魔導弓に矢を番えて、魔力を込め始めた。番えた矢が白い冷気を纏っていく。
「凍結矢。」
ナツメは番えた矢を放し、一直線に飛んでいく。冷気を纏った矢が溶岩流に命中する。ビキビキと音を立てて、溶岩が凍っていく。ナツメはそれを確認すると、クオン達の方を振り向く。
「あまり時間は稼げないよ。早く早く。」
「そうだね。バート、思いっきりやっちゃって。」
「おっけー、任せろ!」
バートは長戦斧を構えると、凍った溶岩流に向かって走り出す。裂帛の気合と共に、長戦斧を叩きつけた。固まった溶岩流は粉々に砕け散り、遺跡の入り口が姿を現した。すかさずクオン達は入口へと滑り込む。
「何とかうまくいった。ぶい。」
ナツメは得意げにVサイン。そして凍っていた溶岩が溶け出し、再びゆっくりと流れだした。入口は再び溶岩のカーテンが下りて閉ざされる。帰る時もまた溶岩を凍らせる必要があるだろう。
「帰りもよろしくね。バート、ナツメ。」
「おう。」
「任せられた。」
「それじゃあ皆、気を引き締めて行こう。」
こうして、クオン達一行は『蒼銀の炎』を求めて、ラーヴァセルカ遺跡へと足を踏み入れたのであった。
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