バートとシェリーの出会い その十一
バートとシェリーは少しずつ距離を縮めていった。週末に双方の家に行ったり、王都で一緒に遊んだり。お互いにどんな人間であるかを知っていった。
そして、あっという間に一か月のお試し友達期間が過ぎた。今日はシェリーの結果を伝えてもらうことになっている。集合場所は王都南公園のリーンハルト一世像前。最初にシェリーと遊んだ時と同じ場所だ。早く着いたバートは緊張しつつシェリーを待っていた。
(あ~魔物と対峙した時より緊張する~。)
バートとしては手応えを感じてはいたが、シェリーから直接結果を聞くまでは油断できない。もし、シェリーに拒否されたらどうしようと思うと怖かった。
ふと持ってきた懐中時計を見ると、ちょうど待ち合わせの時刻になっていた。今日に限ってシェリーはまだ現れない。いつもなら待ち合わせよりも早く来るだけに、バートは不安が募る。
(もしかして何かあったのかな?)
すると、公園の東の方の入り口からシェリーがタタタッとこちらへ走って来るのが見えた。どうやら杞憂だったようだ。バートはほっと胸を撫でおろす。シェリーはバートの目の前に来ると、すまなそうに言う。
「ごめん。待たせたか?」
「いや。待ち合わせちょうどだぜ。」
シェリーは走ったせいか、肩で息をしていた。息を整える為に、両手を両膝に置いて前屈みになる。その間に、バートはシェリーを上から下まで見た。シェリーの服装は白いキーネックブラウスに緑のフレアスカート。前屈みになっているせいで、ブラウスの隙間から胸が見えそうになる。さすがに見てしまうのは悪いと思って、バートは目を逸らした。
「ふぅ・・・。」
シェリーは背筋を伸ばすと、真っ直ぐにバートを見る。走った熱がまだ残っているのか、頬がほんのり赤い。
「それで、お試し友達の事なんだけど、結果を言うぞ。」
「おう。覚悟はできてるぜ。」
シェリーは口をもごもごさせている。バートは急かしたい気持ちを抑え、シェリーが口を開くのを待つ。数秒が永遠に引き延ばされたような感覚を覚える。そして、ついにその時が来た。
「この一か月、本当に楽しかった。バート君とは気が合うと思う。だから、その、これからは本当の友達になって欲しい。」
「・・・。」
「バート君?」
シェリーの言葉を聞くや否や、バートは無言のまま、その場にへたり込んでしまった。シェリーは突然の事に驚く。
「お、おい!?急にどうしたんだ!?」
「あ、いや。ごめん。気が抜けちゃってさ。あはは。」
バートは立ち上がる。そして念の為、シェリーに先程の言葉の真意を確認する。
「合格・・・って事でいいんだよな?」
「あ、ああ。そうだぞ。合格だ。」
「はあ~。良かった~。」
「これ、シェリーさんにあげようと思ってさ。」
バートは懐から小さな木の箱を取り出す。手のひらの上に乗るくらいの大きさだ。蓋の表面にはガーベラの花が彫られている。きょとんとした表情でそれを見るシェリーに、バートは小箱を渡した。
「開けてみて。」
「う、うん。」
バートに促され、シェリーは蓋を開ける。中にはペンダントが収められていた。ピンクゴールドの鎖で、深みのある赤色の柘榴石が嵌め込まれている。高価そうなペンダントにシェリーは驚いた。
「こ、これ、高いんじゃないのか?」
「大丈夫だよ。それ、遊戯館の景品で貰った柘榴石だから。」
「ああ、そういえば貰ってたな。でも、なんで急に?」
「ルブルムさんの占いの館でさ、最悪の出会いがあるって言われてただろ?それがどうしても気になっちゃってな。」
シェリーはあんまり気にしてはいなかったが、バートはどうしてもルブルムに言われた事が気になっていた。そこで、王都の金細工店に柘榴石の加工を依頼し、いつも身に着けていられるペンダントにしてもらったのだった。
「それに、ラッキーアイテムが赤い宝石って言ってたからさ。俺を安心させると思って、貰ってくれ。頼むよ。な?」
普通なら気が引けるものの、バートが自分の為に用意してくれたペンダントだ。シェリーは素直に嬉しかった。シェリーはこくんと頷く。さっきよりも頬の赤みが増していた。
「ありがとう。バート君。このペンダント、貰うよ。それで、その、さっそく着けてみたいんだ。バート君が着けてくれないか?」
「あ、ああ。いいぞ。」
シェリーはバートにペンダントを渡すと、くるりと後ろを向く。バートはシェリーの背後から腕を回してペンダントを付ける。シェリーの良い匂いとうなじにバートはドキドキする。一方のシェリーもバートの息が首筋にかかるのと、回された腕から体温を感じてドキドキしていた。
「よし。出来たぞ。」
バートはシェリーの肩をぽんと叩く。シェリーはくるりとバートの方へ向き直った。ブリリアントカットされた柘榴石がシェリーの胸元で輝く。
「ど、どうかな?」
「すごく似合ってる。」
「そ、そうか。ありがとう。」
バートとシェリーはしばし見つめ合う。そして、二人同時に笑ったのあった。
その時、近くの茂みがガサガサと揺れる。急に気配を感じて、バートは草むらに視線を向けた。
「そこに誰かいるのか?」
バートは茂みに話しかける。すると、茂みから出てきたのは、何とクレアとドロシーだった。二人ともいたずらが見つかった子どものような、極まりの悪い表情をしている。
「く、クレア!?お、お嬢様!?」
「あはは。見つかっちゃいましたね。お嬢様。」
「ご、ごめんね?どうしても気になっちゃってさ。」
「い、一体いつから・・・。」
「本当の友達になってほしいってところからだね。」
「ほとんど最初からじゃん!」
「公園のど真ん中でイチャイチャしてる方が悪い。見てくださいって言ってるようなもんでしょう?そりゃあ、私もお嬢様もガン見しちゃうって。」
「い、イチャイチャなんてしてな~い!」
クレアとシェリーは言い合いを始める。その間に、ドロシーがバートの方へ近寄って来た。
「久しぶりだね。バート君。」
「ああ、久しぶり。ドロシーさん。」
ドロシーはシェリーに聞こえないように、声量を落としてバートに話す。
「ねえ。バート君。シェリーの事、好きなんでしょ?」
「ああ。この一か月でさらに好きになったよ。」
「ふふ。素直でよろしい。でもね、バート君。応援はするけど、無理強いはだめだよ?シェリーを泣かせたら、ただじゃおかないからね。」
ドロシーがそう言った瞬間、バートは背筋がゾクッとした。ドロシーは笑っていたが、底知れぬ何かを感じた。その美貌も相まって、恐ろしい。
「クレア、帰ろう。これ以上、二人の邪魔しちゃ悪いよ。」
「はーい。お嬢様。」
「じゃあ、後は二人で楽しんでね。それじゃ。」
ドロシーはクレアを連れて去っていった。シェリーはドロシーとクレアに見られた事が恥ずかしかったようで、また頬を赤くしていた。
「うう~。まさか見られてたなんて。恥ずかしい~。」
「二人ともシェリーさんのことを心配してたんだろ。大目に見ようぜ。茶化すような人間じゃないし。」
「はあ。猫に手をひっかかれたと思うことにするよ。」
恥ずかしさの熱を冷ます為か、シェリーはぱたぱたと手で顔に風を送っている。そんなシェリーに、バートはある提案をする。
「あのさ、友達になった事だし、互いに名前を呼び捨てにしないか?さんづけだと他人行儀な気がする。」
「そ、そうだな。友達だしな。私は構わないぞ。」
「決まりだな。じゃあ、俺から言ってみていいか?」
「ど、どうぞ。」
「シェリー。」
「う、何か恥ずかしいぞ。」
「その内慣れるよ。次は俺の名前を呼んでみて。」
「ば、バート。」
バートとシェリーは再び見つめ合う。そして、笑い合った。
「今日から改めてよろしく。シェリー。」
「うん。こちらこそよろしくな。バート。」
バートとシェリーは自然と手を繋いで公園を後にする。こうして、バートとシェリーは晴れて友達になったのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。思っていた以上に長くなってしまいましたが、これでバートとシェリーのお話は一旦終了となります。あと一話だけ閑話を投稿した後、第三章に入る予定です。




