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白磁の竜角  作者: 黒猫水月
間章二
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バートとシェリーの出会い その十

 五階の仮想闘技場に上がると、大きな歓声が聞こえてきた。フロアの中央には白い床の大きなステージがあり、ぐるりとその周りを観客席が囲んでいる。ステージの脇には実況席が設置されていて、若い男が試合の実況をしていた。ステージの上では屈強な剣士とドラゴンにより激しい戦いが繰り広げられており、観客席では老若男女様々な人達が歓声を上げている。


 パンフレットによると、この仮想闘技場は魔法機械が作り出した仮想の相手と戦える場所であると記載されていた。仮想であるため安全性も高い。五試合連続で勝ち進むと、豪華な賞品が貰えるとの事だ。実況席の後ろには赤い絨毯が敷かれており、様々な賞品が置かれている。剣や槍といった武器、盾や鎧といった防具、魔石や魔道具といったアイテム、そして巨大なぬいぐるみ。


「あ、あれは・・・!」


 シェリーは賞品の中に鎮座する巨大なカーバンクルのぬいぐるみに目が釘付けとなる。まさにシェリーの理想とするぬいぐるみだ。シェリーの爛々(らんらん)とした目を見て、バートは尋ねる。


「シェリーさん。あのぬいぐるみが欲しいの?」

「い、いや!?欲しくないぞ!?大丈夫だ!」


 シェリーはぶんぶんと頭を振って否定する。バートはシェリーの表情からすぐ嘘だと分かった。バートはぬいぐるみの事を心に留め置いておく。いつか手に入れる機会があるかもしれないからだ。


(うーん。取ってあげたいけど今は無理だな。今度の機会にするか。覚えておこう。)


 バートとシェリーは空いている観客席に座って観戦する事にした。バートは得物の長柄斧(ハルバート)を持ってきていないし、一般人のシェリーが戦うのは論外だからだ。闘技場の水晶板(ディスプレイ)に表示された対戦表には、今ドラゴンと戦っている挑戦者の情報が載っていた。(シルバー)クラスの冒険者で、かなりの強者のようだ。


「お~迫力あるな~。ドラゴンなんて初めて見たぞ。バート君はどうだ?」

「俺は見た事あるぞ。地元に炎龍がいるからな。」

「えっ!?それって大丈夫なのか?」

「大丈夫。地元の皆と仲は良いし、俺の生まれる前からいるし。」


 バートは炎龍エルスィアを思い浮かべる。お人好しの龍だが、とても酒癖が悪い。バートが幼い頃、酒に酔ったエルスィアとレティシアが本気で喧嘩した事があったのだが、この世の終わりと思ったほどだ。今でもアティスから少し離れた平原にはその時に出来たクレーターが残っている。あの時の炎龍の凄まじさに比べたら、目の前で戦っているドラゴンなど赤子のようなものだ。


 その内、挑戦者とドラゴンの戦いに決着がついた。挑戦者の剣がついにドラゴンの堅牢な鱗を切り裂き、ドラゴンは横にズシーンと倒れたのであった。ドラゴンは光の粒となって消える。挑戦者が剣を高く上に突き上げると、観客から大きな歓声が巻き起こった。


「勝負あり!勝者ロジャー=ファレル!五回連続勝利を収めましたので、お好きな賞品を進呈いたします!」


 ロジャーと呼ばれた男は、賞品の中から一振りの剣を選んだ。バートとシェリーにはその価値が分からなかったが、周囲にいる観客の会話によると結構な業物(わざもの)らしい。


「では次の挑戦者に行きましょう!冒険者レイラ=ジュール!ステージにどうぞ!」


 レイラと呼ばれた冒険者は年若い女性だった。得物は槍である。一試合目のゴーレム、二試合目の灰色狼(グレイルーブ)には順調に勝ち進んだ。だが三試合目の相手、デカスライムには分が悪かった。槍による物理攻撃が全く効かなかったからだ。レイラは魔法に切り替えて、古典魔法(クラシック)炎球(フレイムスフィア)三角雷(トライサンダー)を連発したものの、デカスライムを削り切る前に魔力が尽きてしまった。結局、デカスライムに飲まれてしまい、降伏(ギブアップ)となった。なお、本来であればデカスライムは衣服を溶かすが、今回は仮想の相手なので衣服は溶けないように設定されていた。


 レイラの試合が終わったところで、時刻は十八時半になっていた。まだ挑戦者はいたものの、ここで切り上げることにする。あまりシェリーの帰りが遅くなってはいけないからだ。遊戯(ゲーム)館から出ると、外は夕陽に照らされていた。


「今日は楽しかったぞ。ありがとうバート君。」

「俺も楽しかったぜ。」


 シェリーはとても満足したようで満面の笑みだった。バートも笑みが零れる。ここに連れて来て良かったとバートは思った。


「じゃあ、そろそろ帰ろうか。屋敷まで送っていくよ。」

「それはさすがに悪いぞ。一人で帰れる。」

「俺が送って行きたいんだ。頼むよ。」

「わ、分かったよ。そこまで言うなら、仕方ないな。」


 バートとシェリーは並んで歩き出す。少し歩いたところで、シェリーは思い出したかのように声を上げた。


「あっ。そういえば忘れてた!」

「どうしたの?何か忘れ物?」

「違う違う。バート君へのお礼の事だよ。私の手紙に書いてただろ?」

「ああ。でも俺はお礼はいらないって返事しなかったっけ。」

「だめだ!バート君が良くても、私の矜持(きょうじ)が許さないんだ!」


 シェリーは強い眼差しでバートを見る。断っても無駄なようだ。せっかくなので、バートはささやかなお願いをしてみる事にした。


「じゃあ、屋敷に着くまで手を繋いでくれないか?」

「へ?手を?」

「ああ。」

「そんなんでお礼になるのか?」

「もちろんだ。」

「・・・わ、分かった。ほ、ほら。どうぞ・・・?」


 シェリーはおずおずと左手を差し出してくる。バートは優しく右手で握った。シェリーの柔らかい手から、体温が伝わってくる。シェリーもバートの男らしい手と体温にドギマギしていた。


「じゃあ、帰ろうか。シェリーさん。」

「・・・うん。」


 バートとシェリーは手を繋いだまま歩き出す。互いに恥ずかしく、終始無言のままであった。シェリーは借りてきた猫のように大人しくなっていた。


 アデラインの屋敷に着くと、入口のところで(ほうき)を持って掃除するクレアがいた。クレアはバートとシェリーの姿を見つけると、ドドドっと走って近づいてきた。


「おかえりシェリー。そっちが噂の彼氏かしら?」

「か、彼氏じゃねーし!」

「ん~?でも仲良さそうに手を繋いでるじゃん。ねえ?」


 クレアに指摘され、シェリーはぱっと手を離した。シェリーはバートと手を繋いでいた言い訳をしようとしたが、上手く言葉にならないようで口をもごもごさせている。そんなシェリーを尻目に、クレアはバートに自己紹介をする。


「私はシェリーの同僚兼友達のクレア=タイラーよ。よろしくね。」

「俺はバートランド=ラッセルだ。よろしく。」

「バートランド君の話はシェリーから聞いているわ。ぶっきらぼうだけど良い子だから仲良くしてあげてね。」

「それはもちろんだ。」

「じゃあまず、シェリーのスリーサイズを教えてあげる。上から~。」

「へ?」

「こらあああ!」


 いきなりとんでもない情報をバートに言おうとするクレア。シェリーは必死に大声を出して止める。


「だって、スリーサイズ知らないと服をプレゼントできないでしょ?」

「いや勝手に言うなよ!?必要なら自分で言うわ!」


 これ以上、クレアにバートと話をさせてはいけないと感じたシェリー。クレアの背中をぐいぐいと押して屋敷の方へと進ませる。シェリーはクレアを押しながら、首だけ回してバートを見る。


「バート君。送ってくれてありがとう。今日は楽しかった。じゃあ、またね。」

「ああ、またな。シェリーさん。」


 そして、シェリーはクレアと共に屋敷の中へと入っていった。シェリーの姿が屋敷の中へ消えるのを見届けると、バートは呟く。


「またね、か。」


 バートは嬉しさを噛みしめながら、家路につくのであった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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