バートとシェリーの出会い その九
バートとシェリーは四階の幻獣ゾーンに足を踏み入れる。今まではフロア全体がそれぞれの種族が住んでいる環境に再現されていたが、幻獣ゾーンでは種族毎に囲い単位で環境が分けられていた。幻獣といっても生息場所が様々なので、統一できないのだ。
「何か見たい幻獣はある?」
「私はカーバンクルが見たいぞ!」
「じゃあ、最初はそこに行ってみるか。」
カーバンクルとは額に宝石、エメラルド色の体毛に長い耳を持った可愛い幻獣だ。幻獣の中でも女性に特に人気がある。シェリーも例に漏れず、カーバンクルが好きだ。カーバンクルは希少な幻獣で、主にノースシルト王国のノルテ森林かククル妖精国の超森林に住んでいる。飼育には特別な許可が必要だ。
バートはパンフレットを開き、カーバンクルのいる場所を確認する。カーバンクルの他にも、何種類もの幻獣がこのフロアにはいるようだ。かなり力を入れている事が分かる。
(ユニコーンって危険じゃないのか・・・?安全対策はしてあるだろうけど。)
ユニコーンといえば処女が大好きな一角獣だ。処女の膝の上に頭を乗せて寝てしまう。逆に処女でなければ、その額の鋭い角で突き殺してしまう。ユニコーンの他にも、サンダーバード、ケルピー、ストリクス等といった危険な幻獣がいるようだ。
「どうしたんだバート君。難しい顔して。」
「なんか危険な奴も混じってね?って思ってさ。」
「そうなのか?」
シェリーは横からバートの開いているパンフレットを覗き込む。載っている幻獣の名前を見てみるが、知らない種類の方が多かった。
「私が知ってるのはユニコーンとペガサスとカーバンクルだけだな。ユニコーンが危険なのは分かるが他にもいるのか?」
「ああ、サンダーバードは羽ばたくと雷が起こる。ケルビーは湖や川を溢れさせる。ストリクスは不幸を呼ぶって聞いたことある。」
「そんなのがいるのか。あっ、『危険のある幻獣の場合は全てテイムされているので安全です。』ってパンフレットに書いてあるぞ。」
「ほんとだ。まあ、そりゃ野放しにするはずはないよな。安全なら大丈夫か。」
シェリーの要望の通り、まずはカーバンクルのいる場所へと向かう。カーバンクルは森が再現された囲いの中を自由に歩き回っていた。係員の女性が話しかけてくる。
「カーバンクルコーナーへようこそ。ここではカーバンクルとの触れ合いを楽しめます。抱いてみますか?」
「ええっ!抱いてもいいのか!?」
「はい。優しくしてあげてくださいね。あと嫌がるので額の宝石には触らないようにして下さい。」
バートとシェリーは係員と一緒に囲いの中に入る。すると、三匹のカーバンクルが近寄って来た。係員はその内の一匹を抱き上げると、シェリーに渡した。カーバンクルは大人しく腕の中で抱かれている。額の宝石に触れないように優しく撫でる。ふわふわとした体毛が気持ち良い。カーバンクルも撫でられて気持ち良いのか、目を細める。
「きゅう~きゅきゅきゅ~。」
「あ~可愛い~。」
カーバンクルは円らな瞳でシェリーを見上げる。その可愛さに、すっかりシェリーはメロメロになっていた。シェリーの幸せそうな蕩けた表情に、バートは顔を綻ばせる。
「バート君も抱いてみるか?」
「おう。」
バートはカーバンクルを抱きかかえる。シェリーに抱かれた時とはうってかわって、カーバンクルはバートの腕の中で不満そうな表情をしていた。じたばたと足を動かして、シェリーの方へ行こうとしている。
「なんかこいつ、全然反応が違うんだけど。」
「あはは。その子は女性の方が好きなんですよ。」
シェリーに返すと、カーバンクルは大人しくなる。あまりにも分かりやすい反応の違いに、シェリーとバートは笑ってしまった。バートはシェリーの抱いているカーバンクルの頭を撫でる。
「お前な~露骨過ぎだろ。ん~?」
「きゅきゅきゅ~。」
すると、他の二匹もきゅきゅきゅと鳴き出した。一匹はシェリーの、もう一匹はバートの足元にすり寄る。バートは足元のカーバンクルを抱き上げた。頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細める。さっきのカーバンクルみたいにじたばたせず、大人しくバートに抱かれている。
「お前は俺の方が良いのか?」
「きゅきゅきゅ~。」
「そっちの子は男性の方が好きなんです。」
ふとシェリーの方を見ると、カーバンクルを二匹一緒に抱いていた。カーバンクル一匹でちょっと大きな猫ぐらいの重さなので、女の子のシェリーでは重そうだ。
「可愛いけど、重い・・・。」
「いっぺんに抱かなくていいんじゃないか?」
「だって、一緒に抱かないともう一匹が私を悲しそうな目で見るんだもの。」
他にもカーバンクルはいたが、バート達には近づいてこない。遠巻きに見ているだけだった。係員曰く、抱っこされるのが嫌いな子はあまり自分からは近づいて来ないそうだ。
「う~。もう限界だ~。」
シェリーはさすがに腕が疲れ、二匹のカーバンクルを下へと降ろす。係員がシートを用意してくれたので、その上で遊ぶ事にする。ボールを投げてあげたり、小動物の玩具で遊んだりする。ひとしきり遊ぶと、今度はシェリーの膝の上を狙って二匹が争い始めた。
「わわっ!?どうすればいいんだこれ!?」
「脚を伸ばせばいいんじゃないか?」
バートに言われ、シェリーは女の子座りから脚を伸ばす。カーバンクルはまっすぐに並んでシェリーの脚の間に座ろうとし始めた。
「あははっ!く、くすぐったいぞ!」
カーバンクルの柔らかな足がシェリーを刺激する。その内に二匹は動きを止めて寛ぎ始めた。バートの方は、カーバンクルがこてんと転がったのでもふもふのお腹を撫でようとする。頭や背中は良くても、お腹は嫌なようで、バートの手に噛みつこうとした。
「おっと!お腹は嫌なのか。転がって見せつけておいて、ひどいやつだなーお前は。」
「きゅきゅ。」
こうして、あっという間に時間が過ぎた。カーバンクルと遊ぶ事が出来て、シェリーはとても喜んでいた。囲いから出ようとすると、係員から手のひらサイズのカーバンクルのぬいぐるみを貰う。
「これ記念品です。どうぞ。」
「わ~可愛い!ありがとう。係員さん。」
「いえいえ。またお越し下さいね~。」
バートとシェリーは係員に見送られ、カーバンクルの囲いを後にする。歩きながら、シェリーは嬉しそうにカーバンクルのぬいぐるみを眺めていた。
「シェリーさんはそういう可愛いぬいぐるみが好き?」
「うん。好きだぞ。本当はもっと大きなぬいぐるみが欲しいんだけど、部屋に置き場所がないし、もし契約が終了して引っ越す事になったら邪魔になっちゃうからな。」
シェリーはアデラインの屋敷に住み込みで働いている。いずれは引っ越す可能性もあるので、荷物をあまり増やしたくはなかった。
「具体的にはどのくらいの大きさが良いの?」
「そうだな~。抱きつけるくらい大きいのがいいな~。でっかいカーバンクルに抱きつきたい。」
シェリーのささやかな願いを、バートは心に留める。今すぐは無理でも、いつか買ってあげたいと思うバートであった。
その後、バートとシェリーは適当に幻獣ゾーンを回る。ユニコーンは雪のように白く美しかったが、ずっと女性係員の膝の上で寝ていた。サンダーバードは羽ばたくと小さな雷が出て客を驚かせていた。ペガサスは美しい姿をしていたが、草を食んでいる姿は普通の馬と変わらない。ケルピーは栗毛の馬に見え、ストリクスは大きなフクロウで、夜行性のせいか寝ていた。
「どうだった?シェリーさん。」
「ストリクスも可愛かったけど、やっぱりカーバンクルが一番可愛いかったな。」
こうして、一通り見終えたバートとシェリーは最後のフロアである五階の仮想闘技場へと向かうのであった。
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