バートとシェリーの出会い その八
バートとシェリーは階段を登り、魔族ゾーンに足を踏み入れる。フロア全体が夜になっていて、魔族の国の街並みが再現されている。魔族の建物は黒くてツルツルの立方体で、王国のものとはかなり趣が違っている。
「随分変わったゾーンだな。魔族の国ってこんな感じなのかな。」
シェリーはバートの横を歩きながら興味深そうに辺りをキョロキョロ見回す。見たところ、このゾーンの係員は角の生えた人間―-魔人が多いようだ。魔人に混じって、ちらほらと鬼もいる。そうやって魔族ゾーンを観察しながら歩いていると、妖艶な雰囲気を纏った美しい少女が二人に話しかけて来た。
「こんにちは。仲の良いお二人さん。」
バートとシェリーに話しかけた少女は、見たところ魔人でも鬼でもなかった。黒い髪、真紅の目、尖った耳、白い肌、口元から覗く牙という目立つ特徴から、バートはその少女の種族にピンと来る。
「君、もしかして吸血鬼?」
「そうだよ。王国じゃ珍しいかい?」
「すげえ。初めて見たよ。」
「私も初めて見たぞ。」
魔族の中でも吸血鬼の数は特に少ないのは有名な話だ。まさか王都の遊戯施設にいるとは思いもよらなかったので、バートもシェリーも驚いた。二人の良い反応に、吸血鬼の少女はちょっと嬉しそうだった。
「妾の名前はルブルム。ここで占い屋してるの。貴方達二人を占ったげるよ。どうだい?」
ルブルムが指差した先には小さめの黒い立方体の家。『占いの館』という看板が掲げられている。せっかくなので占ってもらうことにした。ルブルムに連れられて家の中に入る。家の中には紫色の布が掛けられた丸いテーブルがあり、周囲の壁に備え付けられた棚には杖や怪しげな品物が所狭しと置いてあった。雰囲気を出すためか、ロウソクがたくさん灯されている。
「今準備するから、そこに座って待っててね。」
ルブルムに促され、バートとシェリーはテーブルの前にある椅子に座る。ルブルムは棚から人の頭ほどの大きさがある水晶玉を土台のクッションごと持ってきてテーブルに置いた。ルブルムは二人の向かい側の椅子に座る。
「まずは名前を教えてくれないかしら?」
「俺はバートランド。」
「私はシェリーだ。」
「さて、バートランド君とシェリーさん。お二人の関係は恋人ってことでいいのかしら?」
「ぶっ!?ちちち、違うぞ!」
「あら?違うの?」
「友達だ友達!」
シェリーは顔を真っ赤にして否定する。そんな反応にルブルムは不思議そうな顔をした。事実とはいえ、ムキになって否定するシェリーを見てちょっと悲しくなるバートであった。
「ふ~ん。まあいいわ。で、何を占って欲しいかしら?」
「じゃあ、俺たちの相性を占ってくれ。」
「えっ・・・私たちの相性を・・・?」
「いいじゃん。知っておいて損はないだろ?」
「ま、まあ、そうだけど。」
「じゃあ、貴方達二人の相性を占うわね。」
ルブルムは居住まいを正すと、こほんと一つ咳ばらいをする。そして両手を水晶玉にかざすと、水晶玉の中心に紫色の光球が出現した。光球からは放射状に水晶玉の内表面に向かって幾つもの蛇のような紫電が伸びる。ルブルムが水晶玉に手を触れると、まるで吸い寄せられるように触れている部分へと紫電が移動した。ルブルムは目を閉じて、んーと唸っている。少し経つと、伸びている紫電が消え、ルブルムの目が開いた。
「結果が出たわ。貴方達二人は・・・心も体も相性抜群よ。」
「かか、体って何だ!?」
「そりゃ決まってるでしょ。もちろんセッ・・・。」
「あー!あー!あー!」
ルブルムの言葉を顔真っ赤にして大声で遮るシェリー。どうやら刺激が強かったようだ。バートはシェリーと相性抜群と言われ、内心喜んでいた。
「相性はもういいから!」
「そう?次は何を占ってみたいかしら?」
「・・・今年の運勢で。」
「シェリーさんの今年の運勢ね。じゃあ占うわね。」
ルブルムは再び両手を水晶玉にかざす。手のひらが触れた部分へ紫電が幾筋も伸びていく。ルブルムは先ほどとは違い、難しい顔をして唸っていた。そして紫電は消え、ルブルムは目を開いた。
「うーん・・・。貴方の今年の運勢は最悪ね。」
「さ、最悪!?」
「ええ。最悪の出会いがあると出たわ。気を付けておいた方がいいわね。ラッキーアイテムは赤い宝石ね。」
「最悪の出会いって・・・。」
バートとシェリーは互いに顔を見合わせた。シェリーが出会いで思いつくのはバートしかいない。さっきは相性抜群だと言われたのに最悪の出会いとは矛盾している。
「次はバートランド君ね。」
ルブルムはバートを占う。紫電が水晶の中を舞い踊り、そして消えた。ルブルムはバートの占い結果を告げる。
「バート君の今年の運勢は最高ね。一生を左右する素晴らしい出会いがあると出たわ。ラッキーアイテムは特になし。」
「素晴らしい出会いか・・・。」
きっとシェリーの事だろうとバートは思った。だが、素直には喜べない。理由は分からないが、シェリーにとっては最悪の出会いかもしれないからだ。複雑な心境なのであった。
その後は恋愛運と金運を占ってもらった。恋愛運はバートが最高でシェリーが最悪。金運は二人とも普通だった。
「また来てね。お二人さん。」
ルブルムに見送られ、占いの館を後にする。占いの結果があまり良くなかったシェリーよりも、むしろ対照的に、バートの方が気にしていた。
「どうした?バート君。もしかして占いの事、気にしてるのか?」
「そりゃ、あんな事言われたらな。」
「あはは。心配してくれてるのか。占いなんて気休めだし気にしなくていいぞ。」
「そうだな。」
シェリーは朗らかに言う。バートはここで自分だけ気落ちしてたらシェリーに悪いと思い、気を取り直すのであった。
この後、魔族ゾーンを回っているとお化け屋敷があったのだが、シェリーはお化けが苦手なようで断固拒否した。バートは残念に思ったが、シェリーが嫌がっているのに無理強いは出来ないので諦めた。良さそうな遊戯がないか探していると、大きな竜の像が目に入った。竜の像は顔を地面に付け、口を大きく開いている。
「こんにちは~。ここで遊戯していきませんか?」
魔人の女性係員が声をかけてくる。遊戯と言われても、辺りには竜の像しかない。バートとシェリーが不思議に思っていると、係員が竜の像を指差し、説明する。
「遊戯にはこの竜の像を使います。その名も『ドラゴンパニック!』です。ルールは簡単。この竜の歯を一個ずつ押します。ハズレの歯を押しちゃうと竜の口が閉じます。歯を十個押してハズレの歯に当たらなければ景品を差し上げます。どうです?挑戦してみませんか?」
「へえ。面白そうじゃん。俺やってみようかな。シェリーさんは・・・痛そうだしやめといた方がいいんじゃね?」
「そうだな。私は遠慮しとく。なんか痛そうだし。」
「大丈夫ですよ。厳密な設計によって、女性でも子供でも怪我をしない程度に痛いですから。」
「やっぱり痛いんじゃないか!」
結局、バートだけが挑戦することになった。バートは竜の口の中にずらりと並んだ歯を見る。どれかハズレなのか全く見当もつかないので、直感で選ぶ。バートは一番鋭い牙を思いっきり押し込んだ。
「よし、これだ!痛え!?」
勢い良く竜の口が閉じ、バートは右手を噛まれる。まさかの一発目でのハズレに、係員も苦笑していた。思ったより勢いよく口が閉じたので、シェリーは心配する。
「だ、大丈夫か!?バート君!」
「あ、ああ。これくらい大丈夫だ。」
「お客さんついてないですね~。もう一回やりますか?」
「もちろんだ。」
その後もバートは挑戦するが、結局のところ攻略は出来なかった。今回は諦めたものの、バートはいつか再戦してやると誓ったのであった。
「シェリーさん。結構時間も経ったし、そろそろ幻獣ゾーン行ってみる?」
「うん。行こう。幻獣が一番楽しみなんだ。」
魔族ゾーンは切り上げて、バートとシェリーは四階の幻獣ゾーンへと上がるのであった。
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