バートとシェリーの出会い その七
「では、スタート!」
係員の声と共に、再び軽快な音楽が流れる。ひょこひょことリトルモールが次々に顔を出し、バートは的確に叩いていく。次第に同時に出現する数も増えていくが、バートは一匹も逃さない。
「よっ。ほっ。」
すると、シェリーの時とは違ってリトルモール出現のテンポが不規則になる。バートが上手いので、係員が手元の水晶板を触ってこっそり操作したのだ。バートは慌てずに対応する。
「は~い。終了です。得点は~なんとパーフェクトです!おめでとう!」
「よっしゃあ!やったぜ!」
「すごいな。バート君。おめでとう。」
「ありがとうシェリーさん。」
「パーフェクトの景品はこれ!はいどうぞ!」
係員がバートに渡したのは、真紅の綺麗な宝石、柘榴石だった。ただの柘榴石ではなく、魔力が溜められていて魔石としても使えるようだ。
「地下世界で売られている、魔力付与済み柘榴石です。魔石として使うも良し、装身具として加工するのも良しの逸品です。」
「へえ~そりゃいいな。ありがたく貰うぜ。」
その後、ゾーンを回って火山弾避けゲームや鉱物当てクイズをする。小さな火山から発射される火山弾を避けるゲームは楽しかったが、鉱物当てクイズは鉱物の種類が多すぎるのと専門的知識が必要でかなり難解だった。
次は一階へと戻り、妖精ゾーンへと足を踏み入れる。フロアには七色に煌めく妖精樹が生え、小っちゃな妖精が光の粒を撒きながら辺りを飛び回っていた。まるで御伽話の中の世界のようだ。シェリーは、ぱあっと笑顔になる。
真っ白な猫が近づいてきた。白猫はシェリーの前でお座りすると、にゃーと鳴いた。シェリーは屈んで、白猫の頭を撫でる。白猫は金と銀のオッドアイを気持ち良さそうに細めた。
「可愛い猫ちゃん。」
「こんにちは。お嬢さん。」
「こんに・・・うわっ!?猫が喋った!?」
「あはは~びっくりした?猫じゃないよ。ボクは猫妖精のクスティ。よろしくねお客さん。」
「へえ。ここに猫妖精がいるなんてな。俺も初めて見たぜ。」
ククル大陸に住む妖精の一種族、猫妖精。見た目は普通の猫だが、猫獣人の姿になる事も出来る。普通の妖精は王都でもそこそこ見かけるが、猫妖精はかなり珍しい。
「ボクの遊戯で遊ばないかい?楽しいよ。」
クスティが肉球のある手で指示した先には、白猫がいっぱい描かれた『猫妖精を探せ!』という看板と広い舞台があった。クッションが沢山散らばっている。
「この看板の通り、遊戯は『猫妖精を探せ!』だよ。魔法で創り出された多くの猫の中からボクを探してね。見事制限時間内に探し当てることができたら景品をプレゼント。早く見つけるほど景品は豪華になるよ。どう?やってみるかい?」
「面白そうだな。やってみようバート君。」
「ああ。絶対捕まえてやるぜ。」
クスティに連れられて、バートとシェリーは舞台の上に移動する。舞台の上は柔らかい素材でできていて転んでも大丈夫なように配慮されていた。クッションが散らばっているせいで動き辛い。
「改めて説明するね。今からボクが魔法で二十匹に増えます。残りの十九匹は全部偽物だよ。正解だと思った猫を抱き上げてね。挑戦は二人一組で制限時間は三分間。制限時間内にボクを抱き上げたら景品贈呈。早ければ早いほど豪華な景品をあげます。」
遊戯の説明が終わると、肉球のある手を前に突き出し、クスティは魔法を詠唱し始めた。淡い魔力の光に包まれる。
「願うは蜃気楼の蝶。光を散らし我が身を欺け。幻夢蝶!」
詠唱するとクスティの分身が次々と現れ、あっという間に二十匹の猫になる。猫達の見た目は全く同じだ。さらに本体が分からなくなるように、クスティとその分身達は高速で互いの場所をシャッフルする。バートもシェリーも一生懸命に目で追うが、素早い動きについていけなかった。
「バート君。今の見えたか?」
「いや分からないな。こりゃ、片っ端から捕まえてみるしかないみたいだ。」
開始の合図と同時に、クスティ達はぱっと舞台中に散らばっていった。バートとシェリーは近くにいる個体から捕まえようとする。かなりすばしっこく、シェリーは捕まえるのに苦労していた。にゃーにゃー鳴いて逃げる猫を必死に追いかける。
「こら~待て~!とりゃ!」
シェリーはやっと一匹の猫に追いつき捕まえようとしたが、分身だったので腕がすり抜ける。そのままバランスを崩してクッションに突っ込んだ。すぐにがばっと立ち上がると、諦めずに違う猫を追う。
バートはというと、とにかく猫に手を伸ばすがどれも分身ばかり。魔力でも判断できないほど、クスティの分身は巧妙だった。
(どうにかして本物が分かれば・・・ん?)
ふとシェリーの方を見る。すると、シェリーのすぐ後を追う一匹の猫が目に入った。死角にいるようで、シェリーは存在に気づいていない。不審に思ってこっそり目で追っていると、その猫はあろうことかシェリーのワンピースを足元から覗こうとしていた。
「ちょっと待ったああああ!」
バートは出来る限りの速さで滑り込む。手を伸ばすと、すり抜けることなく不埒な猫を捕まえた。クスティはバートの腕の中で目を丸くしていた。たくさんいた分身も消え失せる。
「あ~捕まっちゃった~おめでとう。所要時間は二分十秒。景品を差し上げます。」
クスティはシェリーのワンピースを覗こうとしていた事などおくびにも出さない。おそらく気付かれていると思っていないのだろう。バートに逃すつもりはなく、クスティを追求する。
「なあお前、シェリーのワンピース覗こうとしてただろ?」
「え・・・ナンノコトカナー?」
「なっ!?」
クスティはバートから目を逸らす。どうやら自覚はあるようだ。シェリーは覗かれるとこだったと知り、ワンピースを手で押さえた。そして、ずかずかとバートに近寄ってクスティを受け取る。クスティは両脇の下に手を入れられてシェリーに持たれている状態だ。クスティの体は重力に従ってにょーんと伸びる。シェリーはその状態のクスティをキッと睨んだ。
「ごめんなさい~未遂だったから許してよ~。」
「分かった。許・・・すとでも思ったか!お前なんかモフってやる!」
シェリーは舞台の上にクスティを降ろすと、そのモフモフのお腹を気の済むまでモフモフした。モフモフモフモフ。
「にゃああ!?やめてぇ~!」
その後、バートとシェリーはクスティから景品を貰った。手のひらに乗るほど小さな猫妖精の人形だ。可愛いのだが、クスティに似ているのでシェリーは複雑な気分だった。
「まったく、あのエロ猫め。可愛い顔してスケベとか詐欺だよ。」
「まあまあ。甘いモノでも食べて気分転換しようぜ。あれ食べてみないか?」
バートが指差した先には『エルフのハニートースト屋さん』という小さな店があった。エルフの女性が店員をしていて、香ばしいパンの匂いが漂ってくる。シェリーのお腹がぐ~っと音を立てた。
「・・・食べる。」
「よし。決まりだな。」
バートとシェリーは一枚ずつハニトーを頼む。焼きたてのトーストにバニラアイスを乗せ蜂蜜をかけたハニトーは鼻とお腹をくすぐった。店員の話によると、ただの蜂蜜ではなく、妖精蜂という特別な蜂が作った蜂蜜で、普通の蜂蜜より甘みが強いという。
「美味しいな~。ずっと食べていたい。バート君もそう思わない?」
「ああ。すげえ美味い。」
ハニトーのおかげで、シェリーの機嫌はすっかり直った。ハニトーを食べた後は妖精楽団の演奏を聴いたり、エルフ達とかくれんぼで遊んだりした。妖精ゾーンを楽しんだバートとシェリーは、三階の魔族ゾーンへと向かうのであった。
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