バートとシェリーの出会い その六
今日はバートが待ちに待った日。シェリーと遊びに行く日だ。間違っても待ち合わせに遅れないよう、いつもより早起きして身支度を整えていた。
「じゃあ、いってきます。」
バートは待ち合わせの三十分前に王都南公園へ到着するように家を出る。待ち合わせ場所のリーンハルト一世像の近くまで来ると、すでにシェリーが立っているのが分かった。しかも、見知らぬ男と言い合っているようだ。
(あれ?シェリーさん、もしかして絡まれてる?)
さらに近付くと、二人の会話の内容が聞こえて来た。気障な男がシェリーにしつこく言い寄っていたのだ。
「だーかーらー!人を待ってるって言ってるだろ!早くどっか行け!」
「別にいいじゃん。そいつより俺と遊んだ方が楽しいって~。」
シェリーは警戒する猫のように威嚇しているが、男は全く気にしていない。このままだとシェリーを力づくで連れて行こうとするかもしれない。バートはシェリーと男の間に割り込んだ。
「な、何だお前!」
「それはこっちの台詞。俺の彼女に何か用?」
シェリーを背にかばいつつ、バートは男を思いっきり睨み付ける。彼氏を装ったのは相手に諦めさせる為の方便だ。友達よりも恋人だと言った方が効果があるだろうとバートは考えた。
「い、いえ・・・何でもありません!失礼しましたぁ!」
バートの剣幕に男は怯むと、さっさと逃げ去って行った。せっかくの日なのに、最初から荒事にならなくて良かったとほっとする。バートはシェリーの方に向き直るって声をかける。
「シェリーさん。大丈夫だった?」
「あ、ああ。ありがとう。バート君。」
特に何もされていなかったが、何故かシェリーは顔を赤くしてもじもじしていた。一体どうしたのかとバートが思っていると、シェリーは遠慮がちに尋ねてきた。
「さっき、俺の彼女って・・・。」
「気を悪くしたならごめん。ああいう輩にはそう言った方が諦めてくれると思ってさ。」
「い、いやいいんだ。ちょっとびっくりしただけだ。ちょっと気分を落ち着けさせてくれ。」
「分かった。」
シェリーが落ち着くまで待つ。その間、バートはシェリーの服装をじっくりと観察した。空色のシャツワンピース。この前のメイド服姿も良かったが、このワンピース姿もシェリーに似合っていてかなり可愛い。すると、バートの視線に気づいたのか、シェリーと目が合った。シェリーはまた頬に赤みが差す。
「どうした?もしかしてこの格好、変だったか?」
「変だなんてとんでもない。すごく可愛いぜ。シェリーさん。」
「そ、そうか。その・・・」
シェリーは何か言いたそうにバートを見つめる。頑張って口に出そうとしているがなかなか言葉にならない。そんな感じだ。バートは慌てず、シェリーが言いたいことを言葉にできるまで待った。
「その、バート君もかっこいいぞ。」
バートの服装はネイビーのTシャツに白のズボン。自分なりに夏に合わせた服装にしたのだが、シェリーには好評のようだ。幻滅されなくて良かったと内心ほっとする。
「手間を取らせてすまなかった。もう大丈夫だ。」
「じゃあそろそろ出発しようか。どこか行きたいところとかある?」
「ん~。あまり遊ぶところに詳しくないんだ。バート君に任せてもいいか?」
「いいぜ。じゃあ、遊戯館に行かないか?」
「遊戯館?」
「最近できた遊戯施設だよ。いろんな遊戯があって面白いって噂なんだ。」
「へえ。面白そうだね。いいぞ。そこに行こう。」
公園を出て南大通りをまっすぐ歩くこと十分。二人は五階建ての大きな建物の前にいた。正面入口には『遊戯館』と書かれたプレートが掲げられている。扉が大きく開かれた正面入口から若者たちが次々に入っていく。バートとシェリーも入場料を払い、遊戯館の中へと入る。入口で貰ったパンフレットを見ると、遊戯館の詳しい説明があった。
B1階:地底人ゾーン
1階:妖精ゾーン
2階:魔族ゾーン
3階:獣人ゾーン
4階:幻獣ゾーン
5階:仮想闘技場
パンフレットの説明によると、B1階から4階は種族ごとに趣向を凝らした遊戯を楽しめるらしい。一番人気は、希少な幻獣と触れ合える幻獣ゾーンである。5階の仮想闘技場は、魔道具で創り出した相手と戦えるようだ。全体の規模を見る限りでも、一日では回れそうにない。
「シェリーさんはどこか行ってみたいとこある?」
「んー。幻獣ゾーン行ってみたいけど、混雑してるみたいだな。折角だし下から順に行かないか。」
「じゃあ、地底人ゾーンから行こう。」
受付横には大きな水晶板が設置されていて、各階の情報や混雑状況が表示されている。シェリーは幻獣に興味があったものの、幻獣ゾーンは混雑中と表示されていたのであった。
案内板に従って階段を降りていると、どんどこどんどこという太鼓を叩くような音楽が聞こえてきた。B1階に到着すると、すぐに地底世界ゾーンの入口があり、地底人の女性係員がいた。地底人は総じて小柄なので、子供に見える。係員は入ってくる客に笑顔を振りまいていた。
「ようこそ地底世界ゾーンへ。楽しんでいってくださいね~。」
入口は大きく開放されており、フロア全体が見えた。フロアはごつごつとした岩で覆われ、噴火する火山や溶岩の流れる川まである。忠実に地底世界が再現されていた。バートとシェリーは驚く。
「これすげーなシェリーさん。溶岩流れてるし。」
「うん。本物みたいだ。」
「溶岩は水飴を着色して流してるんです。面白いでしょ?禁止事項にも書いてありますが、溶岩は食べないでくださいね。水飴なので体に害はないですけど、みんながみんな食べ始めちゃったら溶岩なくなっちゃいますんで。」
入口横には禁止事項が表示された水晶版があった。火山の火口を覗き込まないとか溶岩を食べてはいけない等が表示されている。係員に禁止事項を説明された後、バートとシェリーは入口を通って地底世界ゾーンへと足を踏み入れた。
ゾーンの入口近くには『ホルンのモグラ叩き』と書かれたコーナーがあった。二人が近づくと、コーナーにいた地底人の女性係員に話しかけて来た。
「こんにちは~。モグラ叩き、やっていきますか?ストレス解消になりますよ。」
係員が手で示した先には十六個の穴があり、そこからモグラ達が顔を覗かせていた。このモグラ達は地底世界の魔物、リトルモールであることにバートは気付いた。
「なあ。モグラ叩きってことはそこのハンマーでリトルモールを叩くんだろ?大人しい魔物だし可哀想じゃないか?」
「ご心配なさらず。皆Mなんで平気です!」
「・・・。」
「えっ・・・。」
無言のバートとシェリーの反応に焦ったのか、係員は慌てて言い直した。
「やだなあ。もちろん冗談ですよ冗談!このリトルモール達は作り物です。穴の下に動かす魔法機械があるんです。だから思いっきり叩いて大丈夫です。」
「なら良いか。シェリーさん、これやってみようぜ。」
「そうだな。良し、やってみるか。」
「ごほん。では説明しますね。ルールは簡単。穴ぽこから出てきたモグラをハンマーで叩くだけ。軽いハンマーもあるので女性も安心。いっぱい叩けば叩くほど高得点。制限時間三分の間に、一定の得点以上なら景品を差し上げます。どちらから先にやりますか?」
「じゃあ、私から先にやる。」
シェリーは数あるハンマーの中から女性用のハンマーを手に取る。女性用というだけあってシェリーでも軽く振り回せるほどの重さだ。シェリーはハンマーを構えて穴ぽこの前に立つ。
「では、スタート!」
スタートと同時に軽快な音楽が流れ始める。穴からひょこっとリトルモールが姿を現した。シェリーは頑張って叩いていく。
「うりゃ!てい!おりゃ!」
最初は一匹ずつ顔を出すリトルモール。次第に二体同時、三体同時と増えていき、動きも早くなっていった。逃す個体もあるものの、結構いい感じで進んでいく。最後は十六個の穴で一斉にリトルモールが顔を出したので、シェリーは一瞬怯んだものの何とか十六体叩き切ったのであった。
「ふう~スッキリした~。何点だった?」
「結果はですね~二千点!景品獲得です!はい。これをどうぞ。」
「これは、魔石?」
「天然魔石のオリビンです。地底世界産のやつですね。」
シェリーの景品は天然魔石オリビンだった。手のひらの上に乗るほどの大きさだ。屋敷にある魔道具に使えそうなので、シェリーはちょっと得した気分になった。
「じゃあ、次は俺だな。パーフェクト狙うぜ。」
「頑張ってくれ。バート君。」
バートはシェリーに応援されつつ、ハンマーを持って十六個の穴ぽこと対峙するのであった。
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