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白磁の竜角  作者: 黒猫水月
間章二
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バートとシェリーの出会い その五

 アデラインとクレアに尋問(くすぐり)された次の日。シェリーは朝から机に座って唸っていた。目の前にはバートへの手紙が置いてある。


「うーん・・・。」


 もっと何か書いた方が良いのだろうかと悩んでいた。文章を書いてみたものの、手紙としてこれでいいのか心配していた。


(こんなんでいいのかな。)


 とはいえ、他に何を書いたらいいのか分からない。また唸っていると、背後からクレアがひょこっと顔を出した。


「シェ~リイ。何唸ってんの?」

「うひゃあ!?く、クレア!ノックぐらいしろよ!」

「ちゃ~んとノックしたわよ。誰かさんが気付かなかっただけ~。」


 クレアのノックに気付かないほど、シェリーは文章を考えるのに集中していた。


「そ、そうか。それはすまない。」

「それで、何唸ってたの?」


 クレアは机の上にある書きかけの手紙を覗き込む。シェリーはとっさに手で隠そうとするものの、手遅れだった。クレアは手紙を拾い上げ、内容を見てにんまりとする。


「なるほどなるほど。バート君にデートのお誘いをしたいけど上手く書けなくて困ってると。」

「ででで、デートじゃねえし!友達と遊ぶだけだ!」

「何言ってるのよ。男と女が二人で遊べば立派なデートでしょ。これだから男慣れしてない処女(しょじょ)は困るわね。」

「しょしょっ!?か、関係ないだろ!って言うかクレアも同じじゃないか!」

「まあ、そーなんだけどねー。」


 クレアは手紙を机の上に戻すと、シェリーの頭をポンポンと叩く。いつもの事なので、シェリーはされるがままで特に怒らない。


「ま、頑張んなさいな。」


 手をひらひらさせてそう言うと、クレアは部屋から出ていった。シェリーは再び机の上の手紙と向かい合う。しばらく眉間に(しわ)を寄せて考えた後、シェリーは羽ペンを取るのであった。


 そしてこの日の昼頃、ラッセル家の郵便受けにシェリーからバート宛の手紙が届いた。バートはドキドキしながら、リビングで手紙を読む。シンプルな白い便箋。手紙の文面は、シェリーの口調とは違っていて丁寧だった。


『バートランド君へ。昨日はお誘いどうもありがとう。奥様から今週の日曜日にお休みをいただきました。日曜日午前九時に王都南公園のリーンハルト一世像前でどうかな?お返事待ってます。シェリーより。


追伸 助けてくれたお礼、まだしてなかったね。私の出来る事なら何でもするので考えておいてください。』


 手紙の最後には何とも魅力的な言葉。バートはごくりと唾を飲み込む。目を疑って何回も読み直すが、書いてある内容はもちろん変わらない。


「な、何でも・・・?」


 背後から手紙を覗き込んでいたカーラはジト目になると、バートに釘を刺した。


「兄さん。シェリーさんに変な事しちゃダメだからね。」

「しねえよ!」

「さあ、どうだか。」


 カーラは昨日から少し機嫌が悪くなっていた。バートへの言葉がちょっぴりとげとげしい。そんな二人の様子をマーサは微笑ましく見ていた。


「あらあら。カーラはお兄ちゃんを取られそうで嫉妬してるのね。」

「へあ!?ちちち違うわよお母さん!私は兄さんが狼さんにならないか心配なだけ!」

「またまた~。昔からお兄ちゃんにべったりじゃない。そろそろ兄好き(ブラコン)卒業しなゃね。良い機会なんじゃないかしら。」

「だから違うってば~!」


 マーサから見ると十分に兄好き(ブラコン)なのだが、カーラは頑なにそれを否定する。騒ぐカーラを尻目に、バートは買ってきたレターセットから一枚取り出し、シェリーへ手紙の返事を書き始めた。


「可愛い便箋ね。その花はガーベラかしら。」

「うん。ガーベラの花。そういえば、シェリーさんと同じ名前の品種があったなって思ってさ。せっかくだからその便箋にしようかなって。」


 自分の文章に自信がない分、お洒落な便箋にする事を思い付いたのであった。ガーベラの花にシェリーという品種がある事は、以前店の手伝いで花柄の生地を扱った時に知った。


「良いじゃない。きっと喜ぶわよ。シェリーさん。」


マーサは、女の子に手紙を送る為にわざわざ便箋を選ぶバートが微笑ましく感じたのであった。


 バートは手紙を書き終わると、家の近くにある郵便ポストへ投函したのであった。


 そして夕方、アデラインの屋敷の郵便受けにバートからシェリーへの手紙が届いた。郵便受けを確認したのがたまたまシェリーだったので、誰にも見られずに自分の部屋まで持って来る事が出来た。扉の鍵を閉め、誰も入れないようにする。茶々を入れられるのを避ける為だ。机に座ると、ペーパーナイフで丁寧に封筒を開ける。


「これは・・・。」


 手紙はピンク色のガーベラの花が描かれた便箋に書かれていた。バートの心遣いが何だか嬉しく感じて自然と笑みが溢れる。


『シェリーさんへ。手紙ありがとう。待ち合わせの件、了解しました。日曜日が楽しみです。バートランドより。


追伸 お礼はいらないよ。シェリーさんに会えるだけで嬉しいから。』


 手紙の最後に書かれた言葉を見て、ドキッとするシェリー。頬を染めて、ぼそっと呟く。


「バート君のバカ・・・。」


 バートに可愛いだの会えて嬉しいだの言われて、シェリーの心は翻弄されていた。でも、不思議と悪い気はしない。シェリーは手紙を封筒に戻すと、机の引き出しにしまい、仕事へと戻るのであった。


 その夜、皆で夕食を食べていると、クレアが手紙について聞いてきた。正直あまり話したくなかったのだが、ドロシーが興味津々で、教えてとせがまれたので渋々話す。


「気が利いてたな。花の絵が描かれた便箋だった。」

「どんな絵だったの?」

「ピンク色のガーベラ。」

「へえ~そうなんだ。やっぱりバート君ってシェリー好きだよね。」

「んぐっ!?」

「ガーベラの花言葉って知ってる?『熱愛』だよ。それにね、ピンク色のガーベラって確か、『シェリー』っていう品種があったはずだよ。『熱愛』と『シェリー』。二重の意味でその便箋使ったんなら、これもう狙ってるよね。」

「・・・う。」

「まあ、実際どうなのかはバート君に聞くしかないね。でもねシェリー。一応私もバート君と友達だけど、少なくとも私はこういうのされた事ないよ?シェリーだって本当は気づいてるんじゃない?」


 バートはシェリーと仲良くなりたいと言っていた。ドロシーに言われずとも、その言葉が恋愛感情を伴ったものだと、恋愛に疎いシェリーもさすがに気づいていた。


「あはは。シェリーったら顔真っ赤だねぇ。もう純情さんなんだから~。男の子に好かれるのが初めてだからって慌てちゃってさ。可愛いね~。」

「う、うるさいクレア!黙って飯を食え!」

「はいはい。うるさくてごめんね~。」


 クレアに図星な事を言われて、思わず大声になる。だが、クレアはどこ吹く風といった感じで全く気にしていなかった。


「ねえ。シェリー。」


 今まで黙っていたアデラインが口を開いた。大声を出して怒られると思ってシェリーは身をすくませる。だが、アデラインは怒っている訳ではなかった。


「あなた、デートに着ていく服はあるの?」

「服・・・一応持ってますけど、あとデートじゃないよ奥様。」

「クレア。シェリーの私服で良い感じなのある?」

「んー。私の知る限り、地味なのしかないですね。」

「そう。」


 三人の視線がシェリーに集中する。シェリーはものすごく嫌な予感がした。今すぐにでもこの場から逃げ出したいが、まだ料理は残っている。残して退出する訳にもいかない。シェリーは精一杯の抵抗を試みる。


「ふ、服ならちゃんと持ってるって!心配しなくていいから!」

「嘘ね。」

「うん。嘘だね。」

「嘘ついちゃダメよシェリー。」

「ひどい!?」


 アデライン、ドロシー、クレアにはすぐに嘘だとあっさりばれた。そもそも、私服にあまり気を使っていない事は日頃の服装からバレバレ。シェリーの抵抗もむなしく、無慈悲なファッションショーが決定したのであった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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