バートとシェリーの出会い その五
アデラインとクレアに尋問された次の日。シェリーは朝から机に座って唸っていた。目の前にはバートへの手紙が置いてある。
「うーん・・・。」
もっと何か書いた方が良いのだろうかと悩んでいた。文章を書いてみたものの、手紙としてこれでいいのか心配していた。
(こんなんでいいのかな。)
とはいえ、他に何を書いたらいいのか分からない。また唸っていると、背後からクレアがひょこっと顔を出した。
「シェ~リイ。何唸ってんの?」
「うひゃあ!?く、クレア!ノックぐらいしろよ!」
「ちゃ~んとノックしたわよ。誰かさんが気付かなかっただけ~。」
クレアのノックに気付かないほど、シェリーは文章を考えるのに集中していた。
「そ、そうか。それはすまない。」
「それで、何唸ってたの?」
クレアは机の上にある書きかけの手紙を覗き込む。シェリーはとっさに手で隠そうとするものの、手遅れだった。クレアは手紙を拾い上げ、内容を見てにんまりとする。
「なるほどなるほど。バート君にデートのお誘いをしたいけど上手く書けなくて困ってると。」
「ででで、デートじゃねえし!友達と遊ぶだけだ!」
「何言ってるのよ。男と女が二人で遊べば立派なデートでしょ。これだから男慣れしてない処女は困るわね。」
「しょしょっ!?か、関係ないだろ!って言うかクレアも同じじゃないか!」
「まあ、そーなんだけどねー。」
クレアは手紙を机の上に戻すと、シェリーの頭をポンポンと叩く。いつもの事なので、シェリーはされるがままで特に怒らない。
「ま、頑張んなさいな。」
手をひらひらさせてそう言うと、クレアは部屋から出ていった。シェリーは再び机の上の手紙と向かい合う。しばらく眉間に皺を寄せて考えた後、シェリーは羽ペンを取るのであった。
そしてこの日の昼頃、ラッセル家の郵便受けにシェリーからバート宛の手紙が届いた。バートはドキドキしながら、リビングで手紙を読む。シンプルな白い便箋。手紙の文面は、シェリーの口調とは違っていて丁寧だった。
『バートランド君へ。昨日はお誘いどうもありがとう。奥様から今週の日曜日にお休みをいただきました。日曜日午前九時に王都南公園のリーンハルト一世像前でどうかな?お返事待ってます。シェリーより。
追伸 助けてくれたお礼、まだしてなかったね。私の出来る事なら何でもするので考えておいてください。』
手紙の最後には何とも魅力的な言葉。バートはごくりと唾を飲み込む。目を疑って何回も読み直すが、書いてある内容はもちろん変わらない。
「な、何でも・・・?」
背後から手紙を覗き込んでいたカーラはジト目になると、バートに釘を刺した。
「兄さん。シェリーさんに変な事しちゃダメだからね。」
「しねえよ!」
「さあ、どうだか。」
カーラは昨日から少し機嫌が悪くなっていた。バートへの言葉がちょっぴりとげとげしい。そんな二人の様子をマーサは微笑ましく見ていた。
「あらあら。カーラはお兄ちゃんを取られそうで嫉妬してるのね。」
「へあ!?ちちち違うわよお母さん!私は兄さんが狼さんにならないか心配なだけ!」
「またまた~。昔からお兄ちゃんにべったりじゃない。そろそろ兄好き卒業しなゃね。良い機会なんじゃないかしら。」
「だから違うってば~!」
マーサから見ると十分に兄好きなのだが、カーラは頑なにそれを否定する。騒ぐカーラを尻目に、バートは買ってきたレターセットから一枚取り出し、シェリーへ手紙の返事を書き始めた。
「可愛い便箋ね。その花はガーベラかしら。」
「うん。ガーベラの花。そういえば、シェリーさんと同じ名前の品種があったなって思ってさ。せっかくだからその便箋にしようかなって。」
自分の文章に自信がない分、お洒落な便箋にする事を思い付いたのであった。ガーベラの花にシェリーという品種がある事は、以前店の手伝いで花柄の生地を扱った時に知った。
「良いじゃない。きっと喜ぶわよ。シェリーさん。」
マーサは、女の子に手紙を送る為にわざわざ便箋を選ぶバートが微笑ましく感じたのであった。
バートは手紙を書き終わると、家の近くにある郵便ポストへ投函したのであった。
そして夕方、アデラインの屋敷の郵便受けにバートからシェリーへの手紙が届いた。郵便受けを確認したのがたまたまシェリーだったので、誰にも見られずに自分の部屋まで持って来る事が出来た。扉の鍵を閉め、誰も入れないようにする。茶々を入れられるのを避ける為だ。机に座ると、ペーパーナイフで丁寧に封筒を開ける。
「これは・・・。」
手紙はピンク色のガーベラの花が描かれた便箋に書かれていた。バートの心遣いが何だか嬉しく感じて自然と笑みが溢れる。
『シェリーさんへ。手紙ありがとう。待ち合わせの件、了解しました。日曜日が楽しみです。バートランドより。
追伸 お礼はいらないよ。シェリーさんに会えるだけで嬉しいから。』
手紙の最後に書かれた言葉を見て、ドキッとするシェリー。頬を染めて、ぼそっと呟く。
「バート君のバカ・・・。」
バートに可愛いだの会えて嬉しいだの言われて、シェリーの心は翻弄されていた。でも、不思議と悪い気はしない。シェリーは手紙を封筒に戻すと、机の引き出しにしまい、仕事へと戻るのであった。
その夜、皆で夕食を食べていると、クレアが手紙について聞いてきた。正直あまり話したくなかったのだが、ドロシーが興味津々で、教えてとせがまれたので渋々話す。
「気が利いてたな。花の絵が描かれた便箋だった。」
「どんな絵だったの?」
「ピンク色のガーベラ。」
「へえ~そうなんだ。やっぱりバート君ってシェリー好きだよね。」
「んぐっ!?」
「ガーベラの花言葉って知ってる?『熱愛』だよ。それにね、ピンク色のガーベラって確か、『シェリー』っていう品種があったはずだよ。『熱愛』と『シェリー』。二重の意味でその便箋使ったんなら、これもう狙ってるよね。」
「・・・う。」
「まあ、実際どうなのかはバート君に聞くしかないね。でもねシェリー。一応私もバート君と友達だけど、少なくとも私はこういうのされた事ないよ?シェリーだって本当は気づいてるんじゃない?」
バートはシェリーと仲良くなりたいと言っていた。ドロシーに言われずとも、その言葉が恋愛感情を伴ったものだと、恋愛に疎いシェリーもさすがに気づいていた。
「あはは。シェリーったら顔真っ赤だねぇ。もう純情さんなんだから~。男の子に好かれるのが初めてだからって慌てちゃってさ。可愛いね~。」
「う、うるさいクレア!黙って飯を食え!」
「はいはい。うるさくてごめんね~。」
クレアに図星な事を言われて、思わず大声になる。だが、クレアはどこ吹く風といった感じで全く気にしていなかった。
「ねえ。シェリー。」
今まで黙っていたアデラインが口を開いた。大声を出して怒られると思ってシェリーは身をすくませる。だが、アデラインは怒っている訳ではなかった。
「あなた、デートに着ていく服はあるの?」
「服・・・一応持ってますけど、あとデートじゃないよ奥様。」
「クレア。シェリーの私服で良い感じなのある?」
「んー。私の知る限り、地味なのしかないですね。」
「そう。」
三人の視線がシェリーに集中する。シェリーはものすごく嫌な予感がした。今すぐにでもこの場から逃げ出したいが、まだ料理は残っている。残して退出する訳にもいかない。シェリーは精一杯の抵抗を試みる。
「ふ、服ならちゃんと持ってるって!心配しなくていいから!」
「嘘ね。」
「うん。嘘だね。」
「嘘ついちゃダメよシェリー。」
「ひどい!?」
アデライン、ドロシー、クレアにはすぐに嘘だとあっさりばれた。そもそも、私服にあまり気を使っていない事は日頃の服装からバレバレ。シェリーの抵抗もむなしく、無慈悲なファッションショーが決定したのであった。
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