バートとシェリーの出会い その四
「・・・ふぇ?」
バートの言葉が理解できなかったのか、シェリーは呆けたような声を出す。そして次第に言葉の意味が頭に浸透していくと、みるみるシェリーの顔が赤くなっていった。
「ななな・・・何を言ってるんだお前は!」
顔を真っ赤にして叫ぶシェリー。今まで異性に可愛いと言われた事がなかっただけに、とても恥ずかしい。頬がとても熱くなるのを感じる。
(あーあ、やっちまったよ俺・・・。こうなったら正直に全部言っちゃえ。)
言ってしまったからには仕方がない。バートは開き直る事にした。思っていることを言ってみる。
「シェリーさんのこと、初めて会った時から気になってたんだよね。」
「は、初めて会った時から?」
「うん。お話ししたかったけどなんか言い出せなくてさ。また会えたらいいなって思ってたんだ。そしたらシェリーさんが訪ねて来て驚いたよ。それで、どう呼び止めたらいいか分からなくて焦っちゃってさ。つい、心の声が出ちゃったんだよね。」
「つ、つまりお前はその」
「まとめると、可愛いシェリーさんと仲良くなりたいなーってこと。」
「~っ!?」
また可愛いと言われ、シェリーはさらに耳まで赤くなる。バートに対して悪い印象は持っていないものの、不味いクッキーの件で、良い奴だったな~くらいの軽い感じだ。そんなバートからいきなり仲良くなりたいと言われ戸惑っていた。
「お、お前も物好きな男だな。こんな私みたいながさつな女が可愛いだなんて。」
「そうかな?」
「それに、急に仲良くなりたいと言われてもだな、困るというか・・・。」
孤児院には年下の男の子はいても、同年代はいなかった。職場であるアデラインの屋敷も女性しかいない。アデラインの好意で夜間の高等学校にも通わせてもらっているが、生徒の年代はバラバラだし男友達はいない。リッカの弟であるクオンとは一応友達だが、あくまでリッカ繋がりで自然とそうなっただけだ。
「それに、お前の事よく知らないし・・・。」
どう接すればいいのか分からないし、もしかして下心があるのでは?との男への警戒心もあった。破落戸から助けてもらったとはいえ、信頼できるほどバートをよく知らないからだ。
「じゃあ、お互いをまず知ろうぜ。俺もシェリーさんの事もっと知りたいし。」
バートにとってはせっかくの機会。シェリーの様子を見て、脈はあると判断した。ここで退くわけにはいかない。
「だから提案。一ヶ月の間、お試しで友達になってよ。」
「お試し?」
「うん。一ヶ月友達やってみて判断してよ。俺はもう二度とこういう事言わない。どうかな?」
バートの提案。お試し友達。シェリーの直感ではバートは悪い奴ではないと思うし、バートの事を知ってからでも遅くはないと思った。
「分かった。あくまでお試しだぞ。そ、そこは勘違いするなよな。」
「ありがとう!シェリーさん!」
「うわっ!?びっくりした!いきなり大声出すな!」
「あはは。ごめんごめん。それでさ、早速で悪いんだけど、一つ頼みがあるんだ。」
「な、なんだ?」
「名前で呼んでくれないか?お前、じゃなくてさ。」
「えっと、それは、その・・・。」
シェリーにとって、名前で呼ぶくらい構わないはずなのだが、畏まってそう言われると何だか恥ずかしい。躊躇していたものの、結局、バートの期待を込めた眼差しに負け、そっと口を開いた。
「ば、バート君?」
シェリーは特に意識した訳ではないが、上目遣いになっていた。恥ずかしさで頬も朱に染まっている。バートは思わず涙が出た。シェリーは涙を流すバートにぎょっとする。
「え、なんで泣いてんだ?」
「嬉しくてさ。名前呼んでくれて。」
「へ、変な奴だな・・・。」
こうして、友達(仮)になったバートとシェリー。バートは早速、シェリーに色んな事を聞いてみる。
「メイド服を着てるって事は、どこかのお屋敷で働いてるの?」
「ああ。アデライン様の屋敷で働いてるんだ。」
「へ?」
「どうしたんだ?」
「いや、世間は狭いんだなと思って。」
「・・・?」
「シェリーさん、ドロシーさんのとこのメイドさんだったんだな。」
「お、お嬢様を知ってるのか!?」
「ああ。冒険者として何回かパーティ組んだ事あるよ。」
バートは友達に貴族、クオンとリッカがいて、その繋がりでドロシーと知り合った事を伝えた。シェリーはクオンとリッカを知っている。
「バート君ってクオンとリッカの友達だったのか!?」
「そういう事。あー、こんな事なら、素直にクオン達についてってドロシーさんの屋敷に遊びに行けば良かったなー。そうすればもっと早くシェリーさんと知り合えたのに。」
バートは残念がる。幼なじみであるクオンとリッカの実家はともかく、ロッドフォード公爵家のアデラインの屋敷に行くのはさすがに躊躇われて断ったのだった。
こうして互いの人間関係を知ると、シェリーは少し態度が柔らかくなった。クオンとリッカの友達と知って安心したからだ。バートはシェリーが緩んだのを見計らって、話を切り出す。
「シェリーさん。まずは一緒に遊ぼうよ。友達として。」
「あ、ああ。いいぞ。」
バートから遊びの誘い。バートと遊ぶのは緊張するが、了承する。お互いの事を知るにはもっと一緒に過ごす時間が必要だからである。
「王都で遊ぶなら、南大通りの商店街だけど、どう?」
「それで構わないぞ。ただ、休みについては奥様に申請して調整しないといけないから、後で伝える。この家の住所教えてくれ。」
「分かった。」
バートは住所を書いたメモをシェリーに渡すと、リビングにある時計をちらりと見る。結構な時間が経っていた。
「そういえば、時間は大丈夫?」
「そうだな。そろそろお暇しないといけないな。」
シェリーを見送った後、家に戻ると興味津々な目のマーサとジト目のカーラが玄関奥の廊下にいた。
「ねえねえ。あのメイドさんとどういう関係なの?」
「どういう関係なの?兄さん。」
「別に何でもないよ。前受けた依頼の件で来ただけだよ。」
追及されるのが嫌なので適当に答えてリビングに入る。ソファにどかっと座って、安堵の息を吐く。緊張が一気に解けたのだ。
(はあ~お試しとはいえ何とか友達にまでこぎ着けたぞ。頑張ったよな俺。)
慣れない事を頑張った自分自身を労うバート。心地よい達成感に道溢れるのであった。
一方のシェリーは屋敷に戻った後、なかなかアデラインに休暇の申請を言い出せずにいた。休む理由を問い質されたらどうしようと考えていたからだ。アデラインに隠し事はしたくないが、だからといって正直に話すのも恥ずかしい。そうこうしているうちに、就寝の時間に近づいてきた。あまり長引かせたくもないので、一日の業務報告時に覚悟を決めてアデラインに切り出す。
「あの、奥様。」
「うん?何かしら?」
「今週の日曜日、お休みをいただいても良い・・・ですか。」
アデラインは一瞬、目を細めた。シェリーは心の中を見透かされたように感じてドキッとするが、何とか平静を装う。
「クレアは日曜日、一人で大丈夫かしら?」
「問題ないです。大丈夫ですよ。」
「という事で、休んで良いわよ。」
「ありがとうございます。」
この時、アデラインはクレアにこっそり目配せをしたがシェリーは気付かなかった。
「それで、シェリーは休みの日に何をするの?」
「それは、その、普通に休むだけです・・・よ?」
その時、背後でカチャリという音がした。振り返ると、クレアが扉の鍵を締めたところだった。クレアは扉を背ににっこりと笑っている。これでは逃げられない。アデラインに視線を戻すと妖しげな笑みを浮かべていた。シェリーは絶望の表情で二人を交互に見る。
「く、クレア・・・お、奥様・・・。」
「さあて。シェリーは何を隠し事してるのかな~?うふふ。」
「これは、問い質す必要ありですね。奥様。」
結局、クレアとアデラインの尋問によって洗いざらい白状する羽目になるシェリーなのであった。
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