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白磁の竜角  作者: 黒猫水月
間章二
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バートとシェリーの出会い その三

 シェリーと別れた後、バートは冒険者ギルドへと向かっていた。歩きながら考えるのは、今日出会ったシェリーのことだ。


(結局あまり喋れなかったな。あ~情けない。せめて名前呼ばれたかった。)


 一応会話はしたが、シェリー自身の事はあまり聞けなかった。孤児院に着いた後はあんまり留まるのも悪いと思ってしまい、さっさと立ち去った。


(もう終わった事は気にしない。また会えた時に頑張ろう。)


 少なくとも悪印象ではないはずだ。それに王都にいればまた会えるかもしれない。過ぎた事に悩むより次に期待しようとバートは思った。


 冒険者ギルドに行くと、受付には不機嫌そうな顔のジオが相変わらずいた。他の窓口は人が並んでいるのでジオの窓口へ行き、依頼書を出す。


「ジオのおっさん。依頼終わったから手続きしてくれ。」

「ん?バートか。意外と早かったな。数日はかかると思ってたが。」

「おう。思ったより楽勝だったぜ。」


 ジオはバートから依頼書を受け取る。水晶端末(ターミナル)を操作し、依頼完了の印を押して、『完了済』の棚にしまった。


「ほら。手続きは終わったぞ。」

「ありがとう。ところで、おっさんに聞きたい事があるんだが。」

「ん?何だ?」

「猫見つけて帰る途中にさ、ゴリアテ団とかいうガラの悪い奴らに出会ったんだけど知ってる?」

「最近、王都の平民街で悪さしてるチンピラ共がいるらしいがそいつらの事か?確かそんな名前を名乗っていたような気がするな。」

「ふーん。そうか。」

「ま、あまり悪さが過ぎるようなら王都の警備隊が動くさ。」


 王都という人口密集地だけあって、犯罪もそれなりにある。王都には優秀な警備隊がいるが、王都で起こる全ての犯罪をカバーできる訳ではない。人通りの少ない路地には行かないようにするのが常識である。


「聞きたい事はそれだけか?」

「ああ。ありがとな。」


 バートはジオに礼を言うと、冒険者ギルドから出る。バートが向かったのは平民街の一角にある小さな借家だ。ラッセル家が王都に滞在する時に使っている一軒家である。


 冒険者ギルドから二十分ほど歩くと、家に着いた。玄関を開けて中に入ると、バートとカーラの母親であるマーサが出迎えた。


「ただいま母さん。」

「おかえりなさい。今日は何か良い事あったかしら?」

「まあね。」


 自分の部屋に冒険者装備を置いてリビングに行くと、カーラが窓際のソファで本を読んでいた。服飾に関する本だ。バートが入ってくると、カーラは読んでいた本をパタンと閉じた。


「兄さん。おかえりー。今日は何してたの?」

「ただいまカーラ。今日はギルドで猫探しの依頼受けてたな。」

「猫ちゃん?見つかったの?」

「無事見つかったぜ。飼い主も喜んでた。」

「へー。」


 バートは今日の出来事を簡単に話す。ちなみにシェリーとの事は言うのが恥ずかしいので省略した。マーサとカーラの前で女の子の話は憚られる。それに、カーラにそういう話をすると機嫌が悪くなるので避けたいのだ。


「ねえ兄さん。明日は買い物に付き合ってよ。色々寄りたいとこあるの。買い物もしたいし。」

「店の方はどうするんだ?」

「明日はお休みー。ね、ね。いいでしょ?」

「分かった分かった。付き合うよ。」

「やったー!」


 カーラはマーサの店の手伝いで王都についてきている。仕事の息抜きもいるだろう。正直、カーラの買い物に付き合うのは大変なのだが、兄として休日に付き合うくらいはするバートなのであった。


 そして次の日。マーサに見送られ、家を出発するバートとカーラ。バートはラフな格好だが、カーラはおしゃれをしている。破落戸(ごろつき)に絡まれそうで、兄としては心配だ。


「あんまり治安悪そうなとこには行くなよ。悪い虫ほいほいだぞ。」

「心配しなくても行かないよ。今日は南大通り沿いのお店行くだけだから。ささ。行こう行こう。」


 二番街南門から三番街南門まで伸びる通りが南大通りだ。この日も多くの人で賑わっている。初めて王都に来たときは、人の波に飲まれそうで大変だった。


「最初はどこ行くんだ?」

「服のお店かな。王都の色んな服着てみたいの。デザインとか違うのたくさんあるし。兄さんの意見も聞かせてよ。」

「俺の?女の子の服の事なんてよく分からんぞ。」

「いーのいーの。率直に思ったこと言ってくれれば。」


 それから、何軒か服屋を巡った。カーラは色んな服を試着して見せてくるが、可愛いとか似合ってるとしか言えない。貴族の貴公子が夜会で言うような台詞はバートには無理だ。


(なんか、布地少なくなってきてね?)


 最初は普通だったのに、次第に扇情的な服になっていくカーラ。妹とはいえ女の子。白い柔肌が多く露出するような服は、正直、目のやり場に困る。


「なあカーラ。そのドレス、背中開きすぎじゃないか?まさかそれ買うのか?」

「んー?買う訳ないでしょー。いくら何でも恥ずかしいよ。」

「じゃあ何で着るんだよ。」

「えへへ。試着なんだしちょっとぐらい冒険したいじゃん?まさか兄さんってば照れてる?」

「て、照れてねーし!」

「うふふ。兄さんってば顔が赤くなってるよ。かわいい~。」


 カーラに弄ばれつつも、最後まで付き合うバートであった。買い物が済むと、お昼を食べて家路につく。


「あー楽しかった。今日はありがと。」

「どういたしまして。」


 二人が家に帰ると、どこかそわそわした様子のマーサが出迎えた。


「二人ともおかえり。バート、貴方にお客さんが来てるわよ。」

「お客さん?一体誰だろ?」


 クオンかリッカかと思ったが、今はアティスにいる。それに、わざわざお客さんとも言わないはずだ。マーサの嬉しそうな表情も気になる。


「ほら。早く行ってあげて。待たせちゃってるから。」


 マーサに背中を押され、リビングに入るバート。目に入ったのは、ソファに座るシェリーの姿だった。シェリーはバートがリビングに入って来たのを見ると、ソファから立ち上がる。


「シェリーさん!?」

「こ、こんにちは。」


 バートは思いもよらない来客に驚く。お客さんとはシェリーだった。昨日とは違い、可愛いらしいメイド服を着ている。どぎまぎしながらも、テーブルの席に座らせる。バートは向かい側の席に座った。


「昨日の依頼の事で話があって来たんだ。」

「ゴロ探しの?何か俺に不備でもあったかな?」

「いや。不備があったのはこちらの方だ。」


 そう言うと、シェリーは持っていた鞄から紙の包みを取り出すと、バートに差し出す。


「不味いクッキーを報酬として渡してしまったからな。改めて報酬として受け取ってくれ。味はちゃんと確認してある。」

「あー、そこまでしてくれなくても別に良かったのに。」


 バートが報酬として受け取った以上は、その報酬で了承したと見なされる。バートが納得して受け取っているので問題はない。だが、シェリーはそれで納得していないようだ。


「さすがにそうはいかない。ゴロの恩人なんだからな。」

「分かった。ありがたく貰うよ。」


 バートが包みを開くと、中にはクッキーが入っていた。ミーナから貰ったものより形は整っていし、色も美味しそうなきつね色。


「食べてみていいか?」

「あ、ああ。どうぞ。」


 バートはクッキーを一枚だけ口の中に放り込む。バートがクッキーを食べる様子を、シェリーは穴が開くほど見つめていた。


「うん。美味しい。」

「ほ、本当か?」

「ああ、本当だ。」


 バートの言葉を聞いて、シェリーはほっと胸を撫で下ろした。味見はしたといっても心配だったのだろう。


「これって、ミーナさんが作ったのか?」

「私とミーナで作った。依頼主のミーナが作るのが筋だが、ミーナ一人では、その、出来具合が心配だったからな。」


 新しいクッキーはシェリーも一緒に作っていた。理由はどうあれ、わざわざ自分の為にシェリーが作ってくれた事が嬉しい。


「確かに、報酬は渡したぞ。」

「ああ、確かに受け取ったよ。」

「時間を取らせて済まなかった。じゃあ、私はこれで失礼する。」


 用事は終わったとばかりに、シェリーは席から立ち上がり、帰ろうとする。バートは考えるよりも先に口が動いていた。


「あっ、ちょっと待ってくれ。」

「ん?どうしたんだ?」


 お近づきになるせっかくの機会。しかし、とっさに呼び止めたものの、何を言っていいのか分からない。


(言え!何か言うんだ俺!)


 無言になったバートに首を傾げるシェリー。あまり黙っていると、不審に思われてしまう。頭の中で、色んな言葉がぐるぐると回る。そして、バートはその重い口を開く。


「シェリーさんのメイド姿、可愛いな。」


 焦りのあまり、つい本音を言ってしまうバートなのであった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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