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白磁の竜角  作者: 黒猫水月
間章二
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バートとシェリーの出会い その二

 いきなり現れたバートに、男達四人は戸惑う。だが、舐められたら負けだと思ったのか、強い口調で(まく)し立て始めた。


「何だてめえ!今いいとこだから邪魔すんなよ!」

「そうだ!俺達を誰だと思ってやがる!」

「泣く子も黙るゴリアテ団だぞ!」

「どうだ!恐れいったか!」


 巨人(ゴリアテ)という大層な名前の割には、男達はただのチンピラ集団にしか見えなかった。油断は禁物だが、全然強そうに見えない。


(ゴリアテ団って何だ?ギルドにもそんな情報無かったよな。あとでジオのおっさんに聞いてみるか。)


 バートが首を傾げているのを見て、男の一人が大声で叫んだ。


「お前!まさかゴリアテ団を知らねえのか!」

「知らないな。どちらにせよ、女の子一人に男四人がかりなんて情けない集団だな。よっと。」


 バートは屋根の上から、先程投擲した長柄斧(ハルバート)が突き刺さっている場所に飛び降りる。得物の長柄斧(ハルバート)を回収すると、バートは強者感を出してゴリアテ団と名乗る男達と対峙する。


(これで諦めてくれたらいいんだけどなー。)


 普段からアティスでレティシアの稽古や魔物達と戦っているバートにとって、悪ぶったチンピラなんて全然怖くなかった。しかし余計な戦闘はしないにこした事はない。


「何だと!舐めやがって!おい!まずはこいつやっちまうぞ!」

「「「おう!」」」


(あーめんどくせーなー。結局こうなるのかよ。)


 男達の動きは素人に毛が生えた程度だった。わざわざ長柄斧(ハルバート)を使うまでもない。ゴロの入った籠を置くと、バートは徒手空拳で迎え撃つ。男達を背後に逃して赤毛の少女を人質に取ってもいけないので、攻撃を避けつつ的確に一人ずつ拳を叩き込んでいく。


「ぐえっ!?」

「ぶはっ!?」

「がっ!?」

「ぶへぇっ!?」


 あっという間に男達はバートに叩きのめされた。小悪党の道に入って日が浅いのか、戦闘経験は全くなさそうだ。


「お前らなー。カッコつけたいなら少しは鍛えろよ。全然ダメだぜ。どうする?まだやるか?次やるってんなら俺本気出すぞ?」


 背中の長柄斧(ハルバート)に手をかけながら、男達を強めに脅す。さすがに力の差が分かったのか、男達はよろよろと立ち上がる。


「お前の顔は覚えたからな!次会ったときはこてんぱんにしてやるからな~!」

「ああ、待ってください兄貴~!」


 捨て台詞を吐き、男達は足をもつれさせながら逃げていった。バートはふうと息を吐くと、赤毛の少女の方に向き直った。


「君、大丈夫かい?」

「ああ。ありがとう。助かった。」


 赤毛の少女はバートに礼を言うものの、琥珀(アンバー)の瞳には警戒の色が浮かんでいる。少女にとってはただあのチンピラ共から相手が変わっただけかもしれないからだ。それに、屋根の上から現れたバートは十分怪しかった。


(俺ってば警戒されてるー。何とか仲良くなれないかな。)


 ここでカッコ良く立ち去る選択肢もあったのだが、せっかく王都の女の子と知り合うチャンスだ。せめて名前ぐらいは聞きたかった。


「俺はバートランド=ラッセル。冒険者だ。」

「冒険者・・・一体屋根の上で何してたんだ?」

「依頼でこいつを探してたのさ。」


 バートが持っている籠の蓋を開けると、ゴロがひょこっと顔を出す。ゴロは赤毛の少女を見ると、にゃーと鳴いた。そんなゴロを見て赤毛の少女は驚いた表情をする。


「ゴロ?なんでゴロがここにいるんだ?」

「ナーン。」

「ゴロを知っているという事は・・・もしかして君、ブラウン孤児院の関係者かい?」

「ああ、そうだぞ。そこの出身だ。」


 バートは依頼書を見せて、冒険者ギルドで迷い猫探しの依頼を受けた事を説明する。依頼主がブラウン孤児院のミーナである事も伝えた。赤毛の少女はミーナを知っていた。


「そうか。ミーナが頼んだのか。」

「ああ。それでこれからゴロを届けに行くところだったんだ。その途中で君が絡まれてるのを見つけたって訳さ。」

「なるほど。」


 赤毛の少女は籠の前で屈むと、ゴロの頭を撫でる。ゴロは気持ち良さそうに目を閉じて喉を鳴らしていた。


「ゴロ。だめじゃないか。ミーナに心配かけちゃ。」

「ニャーン。」

「本当に分かってるのか?んー?」

「ニャン。」


 分かっているのかいないのか、何とも言えない声で鳴くゴロ。赤毛の少女はふふっと笑みをこぼす。赤毛の少女は立ち上がると、バートの方を向く。知己(ミーナ)の名前が出たおかげか、はたまたゴロのおかげか。赤毛の少女の瞳から警戒の色は消えていた。


「そういえば名前、言ってなかったな。シェリー=ブラウンだ。」


 シェリーはバートに名前を告げる。とりあえず、バートが不審者ではないと判断したようだった。


「なあ。孤児院に行くなら、一緒についていっていいか?」

「ああ、俺は構わないぞ。」


 特に断る理由もないので了承する。シェリーはゴロの入った籠を持つと言ったが、バートは俺が受けた依頼だとやんわりと断った。ゴロはそんなに重くはないし、わざわざ持ってもらう事もない。


 孤児院への道すがら、バートはシェリーに色々と話す。バートがアティスから来た事を話すと、シェリーはとても驚いていた。


「ええっ!?わざわざアルセイドから来たのか?」

「ああ。親の仕事のついでにな。王都の冒険者ギルドだと依頼が多くて稼げるしな。」

「ふうん。それなら何でわざわざ迷い猫探しの依頼を受けたんだ?」

「それは報酬が良かったから。」


 バートの答えにシェリーは怪訝な表情をする。先程バートが見せた依頼書には報酬がクッキー十五枚と書かれていた。良い報酬と言うには無理があるような気がする。


「クッキー十五枚がか?」

「女の子の手作りクッキーだぞ。男の子にとってはまたとない報酬だよ。」

「そんなもんか?」

「そんなもんさ。」


 何か釈然としないシェリーであったが、男には女には分からない考えがあるのだろうと結論づけ、それ以上は追及しなかった。


 ブラウン孤児院に到着すると、ミーナが駆け寄って来た。バートの隣にシェリーがいるのを見て驚く。


「シェリー姉!?どうしてバートさんと一緒に?」

「偶然会ったんだ。この男の籠からゴロが出て来て驚いたぞ。孤児院まで届けるというからついてきたんだ。」

「そうだったんですね。良かった・・・ゴロ見つかって。」

「ゴロはこの中にいるぜ。」


 バートが籠の蓋を開けると、ひょこっとゴロが顔を出した。ミーナを見るとにゃーと鳴いた。ただいまとでも言っているのだろうか。ミーナは感極まって、ゴロを籠から持ち上げると頬でスリスリする。


「ゴロ~!心配したよぉ~!」

「ニャーン。」

「そうだ!皆に報告しなきゃ!」


 ミーナはゴロを片手で抱き、籠を持ってダッシュで孤児院の中に入っていった。少しして、子供達の歓声が聞こえて来る。


「これで一件落着だな。さて、俺は帰るわ。」

「もういいのか?」

「報酬は貰ってるしな。じゃあ、行くわ。」

「今日はありがとう。ミーナも皆も悲しまずに済んだ。感謝してる。」

「ははっ。気にしなくていいさ。受けた依頼は完遂するのが冒険者だからな」


 バートはそう言うと、依頼の完遂を報告する為に冒険者ギルドへと向かったのであった。シェリーはバートを見送った後、孤児院へと入った。久しぶりの訪問に子ども達に取り囲まれる。ゴロはいつもの定位置、窓際にある専用クッションの上で暢気にぐーすか寝ていた。


「ミーナ。聞いたぞ。ゴロ捜索の依頼出したんだってな。どうして相談してくれなかったんだ?」

「その、ごめんなさい。迷惑になるかなって思って。」

「ああいや。別に責めてる訳じゃないんだ。ただ、もう少し私を頼ってもいいんだぞ。」

「うん。分かった。」


 ミーナは責任感が強いので、人に頼らない傾向がある。今日孤児院に寄ったのは、ミーナに釘を刺す為だった。次は頼ってくれるように。


「そういえばミーナ。お菓子作れたんだな。報酬としてクッキーを作ったんだろ?」

「うん。初めてだったけど大丈夫だったみたい。怖くて味見しなかったけど、バートさん何も言わなかったし。」


 怖くて味見しなかったというミーナの言葉を聞いて、何だか嫌な予感がするシェリー。


「・・・そのクッキー、余りがあるか?」

「形が崩れたのならあるよ。」


 ミーナは小さな紙の包みを持ってくる。中には形が不揃いなクッキーが入っていた。


「ちょっと食べてみていいか?」

「いいよ~。」


 シェリーはクッキーを一枚摘まんで、一口だけ噛ってみる。すると、苦い何かが口の中に広がった。思わず口を手で押さえる。何とか吐かないで済んだ。何とか飲み込む。


「・・・まずい。」


 ミーナの手作りクッキーは、とてつもなく不味かったのであった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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