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白磁の竜角  作者: 黒猫水月
間章二
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バートとシェリーの出会い その一

 クオン達がカリンと出会っていた頃、バートは王都レグニスを訪れていた。冒険者ギルドの王都本部にて、水晶掲示板(クオーツブリテンボード)を見ながら、依頼を探していたのである。


「さあて。何か良さげな依頼はないかなーっと。」


 すると、ある依頼がバートの目に留まった。依頼一覧を指で触って、詳細を表示させる。内容は飼い猫の捜索のようだ。


「なになに。飼い猫を探しています。依頼主ミーナ=ブラウン。報酬は前払いで手作りクッキー十五枚。依頼受諾の際はブラウン孤児院へとお越し下さい。依頼主は子どもかな。」


 さらに詳細を読んでみると、飼い猫を獣医に診せに行く途中で、入っていた籠から脱走してしまったらしい。茶トラ猫で名前はゴロ。捜索範囲はネルヴァ獣医院付近となっていた。


「んー。こりゃあ労力の割に報酬が少ないな。」


 王都平民街は入り組んでいて探すのは大変だ。それに猫の行動を考えると、屋根の上も探す必要がある。


「この子困ってるだろうな。よし、受けるか!」


 バートは水晶掲示板(クオーツブリテンボード)の横にある印刷機で依頼書を出力すると、受付へと向かう。髭面のおっさんの受付の所だけ空いていたので、そこに依頼書を持って行った。


「ジオのおっさん。この依頼受けるから手続きしてくれ。」

「ん?なんだバートの坊主か。どんな依頼を受けるんだ?」


 ジオはバートから依頼書を受け取り、内容に目を通す。次第に、ジオの表情が怪訝なものへと変わっていった。


「バート。この依頼、本気で受けるのか?」

「ああ。何か問題でもあるのか?」

「報酬が少ないだろう。冒険者はボランティアじゃない。それでも受けるのか?」

「はあ?何言ってんだおっさん。報酬なら十分だろうが。女の子の手作りクッキーだぞ。男には同じ量の金にも値する。」

「はあ。お前という奴は。」


 バートが強くそう言うと、ジオは呆れたようにため息を吐く。依頼書にギルドの受付印を押すと、バートに返した。


「ありがとなおっさん。ちゃちゃっと済まして来るぜ。」


 バートは依頼書を鞄にしまうと、さっさとギルドを出て行く。その背中に、ジオはぼそっと呟いた。


「まったく。相変わらずお人好しだな。」


 バートはギルドを出ると、地図を見ながら王都の西門へと向かう。西門からはアイゼンへの街道が伸びていて、地図によるとブラウン孤児院は西門から出てすぐ脇道に入った先にあるようだ。


 バートは西門から出て、脇道へと入る。街道の賑やかさと比べると、人気が全くなく静かだった。道なりに進んで行くと、教会のような建物が見えた。近付いてみると、ブラウン孤児院との立看板がある。どうやらここが目的地のようだ。


 敷地内には何人か子ども達がいた。その中にいた一人の少女が、バートに気付いて走り寄って来た。


「あの。何かご用でしょうか。」

「ああ。俺はバートランド=ラッセル。冒険者だ。猫探しの依頼を受けて来たんだ。ミーナ=ブラウンって子はここにいるかい?」


 バートは少女に依頼書を見せる。少女は驚いて目を見開いた。


「わ、私がミーナです!あの、本当に受けてくださるんですか?」

「おう。本当だぜ。詳しい話を聞かせてくれるか。」

「は、はい。ではこちらへどうぞ。」


 バートは敷地内へと足を踏み入れる。ミーナに案内され、庭に設置してある木のテーブルに座った。他の子ども達は遠くから興味津々な目でバートを見ていた。


「少しここで待っていてください。」


 ミーナは孤児院の中へ一旦入る。そしてお盆にティーポットとティーカップ、そして何かの包みを乗せて戻ってきた。お茶を注ぎ、バートに勧める。バートがお茶を飲んでいる間に、ミーナは再び孤児院に入り、籠を持って戻ってきた。おそらくゴロを入れていた籠だろう。


 ミーナは籠を置いて席に着くと、話を始める。一年前、孤児院の前で子猫を拾いゴロと名付けて飼い始めた事。孤児院のアイドルとしてみんなから可愛がられていた事。一週間前、うっかり蓋を閉め忘れてしまい、ネルヴァ獣医院に定期検診に行く途中で、籠から脱走してしまった事。


「ゴロちゃんは黄色い首輪をしています。名前と住所も書かれているのですぐ分かると思います。この籠も持っていってください。籠を開ければ自分から入ってくれると思います。本当は年長の私が探しに行きたいんですけど、子どもだけだと院長が許してくれないんです。院長も忙しいのでなかなか時間が取れなくて。」

「なるほど。だから依頼を出したんだな。分かった。さっそく探しに行こう。」

「あの、ちょっと待ってください。これ、報酬です。前払いですので。」


 ミーナは紙の包みを差し出す。バートが受け取って包みを開いてみると、中身はクッキーだった。形はお世辞にも整っているとは言えない。作り慣れていないのは明白だった。バートは一枚つまむと口に放り込む。ミーナは緊張した面持ちで見ていた。バートはクッキーを噛み砕き、ごくりと飲み込むと、笑顔でミーナに言う。


「確かに受け取ったぜ。後は任しときな。」

「・・・!はい!よろしくお願いします!」


 バートは孤児院を出ると、まっすぐ依頼書にあったネルヴァ獣医院の前まで来た。この辺りは人通りが多い。まずはゴロのイラストを見せながら聞き込みをしてみる。


「猫ねえ。屋根の上でよく日向ぼっこをしているけど、その猫がいるかどうかは分からないなあ。」


「ごめんなさい。猫の顔の区別がつかないの。でも猫なら屋根の上にたくさんいるわよ。」


「んー。どっかの屋根の上で見たような気がするなあ。黄色い首輪していたし多分その猫じゃないかな。」


 聞き込みをした結果、屋根の上にいそうだという事が分かった。バートはとりあえず、屋根の上に登ってみる事にする。


「我が脚よ。空虚を踏む翼に成れ。飛行脚(フライングレッグ)。」


 バートは魔法を詠唱する。そして空中(・・)を蹴って屋根の上まで一気に登った。


(それにしてもあのクッキー、個性的(まずい)な味だったな・・・。)


 口に残る違和感を我慢しつつ、黄色い首輪をした猫がいないか辺りを見回す。ちらほらと日向ぼっこしている猫が見えた。バートは屋根を飛び移りながら、ゴロを探す。野良猫は近付くと逃げて行き、首輪をしている飼い猫はあまり逃げないようだ。


「はいちょっとごめんよー。」

「にゃあ。」


 黄色、もしくは黄色っぽい首輪をしている茶トラ猫を捕まえて確認する。しかし、なかなかゴロは見つからない。


(この辺りにはいないのかな。ちょっと遠くまで足を伸ばすか。)


 バートは捜索範囲を広げる。しばらく探していると、猫が集会をしている現場を発見した。すると、一匹の茶トラ猫が近付いて来た。黄色い首輪をしている。バートの足元に来ると、こてんと転んでゴロゴロし始めた。もしやと思い首輪を確認すると、ゴロという名前とブラウン孤児院の住所が書かれていた。


「やっと見つけたぞゴロ~。お前ここで何してたんだ?」

「にゃ~。」


 脇を持って抱えると、びよーんと体が伸びる。毛色も良く健康そうであった。ゴロを降ろして籠を開けると、自分から中に入っていった。


「よし。これでミーナちゃんも喜ぶな。」


 バートはさっそく孤児院に帰ろうとすると、女の子の怒鳴る声が聞こえて来た。


「ん?なんだ?」


 バートが屋根の上から路地を覗くと、ガラの悪そうな男四人に赤毛の少女が絡まれていた。赤毛の少女は路地の行き止まりに追い詰められているようだ。


「嬢ちゃんにも悪い話じゃないだろ?」

「断る!誰が行くか!」

「兄貴、力ずくで連れて行こうぜ。この女、話聞きそうにないですし。」


 会話の内容からして、赤毛の少女を無理矢理どこかへ連れて行こうとしているようだ。犯罪の匂いがプンプンする。


(これは助けるしかないよな。一応持って来ておいて良かったぜ。)


 バートは背中の長柄斧(ハルバート)を構えると、男達の目の前の地面に投擲した。魔力で強化した腕から放たれた長柄斧(ハルバート)は凄まじい音と共に地面に小さな孔を形成する。


「な、何だあ!?」


 男達は突然目の前に生えた長柄斧(ハルバート)(おのの)く。赤毛の少女も呆然としているようだ。バートは屋根の上から、大声で叫ぶ。


「おうお前ら!女の子相手に何してやがる!」


 この時、バートは赤毛の少女と目が合う。美しい赤毛と琥珀(アンバー)の瞳を持つ少女に、バートは胸の鼓動が高鳴るのを感じていた。


 これがバートランド=ラッセルとシェリー=ブラウンの出会いなのであった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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