『ハーヴィーのぼうけん シャイン湖の怪物と謎かけ』
リンドヴルム王国を意気揚々と出発したジョン=ハーヴィー。最初に訪れたのは、隣国のゼーティア王国でした。多くの美しい湖沼で有名な国で、近隣のリンドヴルム王国、アリアドネ皇国、シュピッツァ共和国によく知られています。ジョンはまず、王都アクアヴァイスへと向かいます。王都を一望できる場所に着いたジョンの目に飛び込んだのは、青と白の美しい対照でした。
王都ゼーティアはシャイン湖の畔にあります。シャイン湖の青と白亜の王都の街並みが美しい対照を成していました。ジョンは父から貰った冒険ノートを取り出すと、一心に目の前の景観を描き始めます。多彩な色鉛筆を駆使し、出来るだけ再現するように心を砕きました。納得の行く出来映えになった頃には、すっかり日が高くなっていました。
「さて、そろそろ王都に入るか。」
ジョンは小高い丘を降り、王都へと向かいます。王都に入ると、まず宿を確保します。そして酒場へと向かいました。ゼーティア王国の情報を集める為です。
王都一と評判の酒場を訪れると、多くの客で賑わっていました。ジョンは片っ端から客に話しかけ、酒を奢る代わりに面白い話を聞かせてくれと頼みます。酒を奢ると言えば、どんな客も良い気分になって色々な話を聞かせてくれました。そんな時、ある男が言います。
「なあ兄ちゃん。こんな話は知ってるか?シャイン湖に出るっていう怪物の話だ。」
「いや。知らないな。詳しく聞かせてくれないか。」
怪物と聞いて、ジョンは興味が湧きました。男の話は次の通りです。月が赤く染まる夜、一人でシャイン湖の大桟橋に行くと、怪物が現れます。怪物は謎かけを仕掛け、答えられないと体の一部を食べてしまうというのです。
「答える事が出来たらどうなるんだ?」
「分からねえ。噂だと、怪物が溜め込んでいるらしい宝を一つだけくれるって話だが、保証はねえな。」
「ほう。怪物の宝か。面白いな。」
ジョンが目を輝かせるのを見て、男は釘を刺します。
「止めときな兄ちゃん。俺が話して何だが、今まで正解した奴はいない。目玉や腕を食われるだけなら良い方さ。心臓を食われた奴は死んじまった。悪い事は言わねえ。この話は酒の肴としてだけ楽しんどきな。」
「それくらい分かっているさ。ご忠告感謝する。」
ジョンは他の客にも怪物の話を知っているか聞いて回ります。すると、どの客もほぼ同じ内容でした。ジョンは違和感を覚えます。
(おかしい。怪物の詳しい姿や謎かけの内容を知っている者がいないとは。生存者もいるというのに。何故だ?)
酒場ではそれ以上情報は得られませんでした。後日、ジョンは怪物に会ったという人物を突き止め、話を聞きに行きました。しかし、その人物は肝心の詳細に関して全く覚えていませんでした。まるで質の悪い魔法でもかけられたかのようです。
(やはり、実際に会ってみるしかあるまい。)
ジョンは決心し、月が赤く染まる夜を待ちます。そして一週間後、待ち望んだ夜が来たのです。事前情報が少なく危険ではありましたが、ジョンの決心は揺るぎません。
「夜の大桟橋は不気味だな。」
昼の間、下見に訪れてはいましたが、夜の大桟橋は人気もなく静まりかえっていて不気味です。多数の舟が係留された大桟橋をジョンは歩きます。大桟橋の先端まで来ると、ジョンは湖面を眺めます。血のように赤い月だけが映っていました。
(どんな怪物なのだろうか。・・・ん?)
不意に湖面の月が不自然に揺れ動いているのです。ジョンは身構えます。そして次の瞬間、湖面を割って怪物が現れました。ジョンは息を呑み、怪物の姿を観察します。
縦に割れた瞳孔、鱗で覆われた体、二本の手、二本の角。胴体は蛇のように細長く、下半分は水中に隠れています。神話の龍に似ていました。
『今宵も欲深な人間が来たか。』
頭に直接響く声。ジョンは驚きつつも、冷静を保ったまま怪物に問いかけます。
「お前が、噂されているシャイン湖の怪物か?」
『ほう。脆弱な人間の割には度胸があるな。いかにも。我がその怪物よ。さすれば人間よ。我が謎かけに挑戦するか?答える事が出来たら、我のコレクションから一つだけ宝をくれてやろう。ただし、間違えたり答えられない場合は貴様の体の一部をもらうぞ。』
怪物が宝をくれるというのは本当のようです。体の一部を食べられてしまうという事も。ここまで来て挑まないという選択肢はありません。ジョンは受けて立ちます。
「もちろん、挑むに決まっている。」
『ほう。威勢の良い事だ。だが貴様にこの謎が解けるかな?』
怪物は不敵に笑います。答えられるはずはないと思っているようでした。
『大地を這い、海を泳ぎ、木々の間を飛ぶ。さて、この生き物は何だ?』
ジョンは腕を組んで考えます。怪物はそんなジョンをじっと見つめていました。ジョンと怪物の間に静寂の帳が下ります。そしてたっぷり十分ほど経過した後、ジョンは答えました。
「答えは・・・。」
ジョンは答えました。怪物は目を見開き、苦悶の表情を浮かべます。怪物はとても悔しそうに、ぼそっと告げます。
『くっ・・・。正解だ。』
ジョンはほっと胸を撫で下ろします。答えそのものは誰もが知っている生き物でしたが、怪物の問いかけ方では正解するのは難しいでしょう。様々な書物を読んだジョンだからこそ正解できました。
『気は進まないが仕方ない。約束は約束だ。我のコレクションの中から一つだけ宝をくれてやろう。我に付いてくるが良い。』
怪物がそう言うと、大きな音と共に湖面が割れて、道が出現しました。怪物は二本の足でのっしのっしと歩いて行きます。ジョンは桟橋から湖底に降りると、怪物の後を追います。
湖の中央辺りにまで来ると、何やら神殿のような建物がありました。怪物は構わずのっしのっしと中へ入って行きます。ジョンも中へ入ると、そこには堆く積まれた金銀財宝の山がいくつもそびえ立っていました。
『この中から一つだけ宝を選ぶが良い。いいか、一つだけだからな。二つ以上持っていったら呪うぞ。』
「分かった。心配するな。」
一つだけと念押しする怪物に苦笑しつつ、ジョンは宝を見て回ります。すると、金銀財宝の山に埋もれた古い腕輪を見つけました。紫水晶の宝石が五つ嵌まっています。ジョンはこの腕輪に惹かれました。
「これは何だ?」
『それか?どこぞの魔導師が作ったバルトリヌスの盾の模造品だ。バルトリヌスの偽盾。あらゆる攻撃を五回だけ無効化できる。一回発動する度に宝石が砕け、使い切ると腕輪自体が壊れる代物だ。』
いかにも、これからの冒険に役に立ちそうな腕輪です。ジョンはこの腕輪を貰う事にしました。
「では、このバルトリヌスの偽盾を貰おう。」
『本当にそれで良いのか?後で代えてくれと言ってもダメだからな。』
「ああ。これでいい。二言はない。」
怪物にとってはあまり価値がないのか、尻尾を振って嬉しそうでした。ジョンは怪物に別れを告げ、来た道を戻って大桟橋まで帰ってきました。湖は再び轟音と共に割れ目が塞がって元の姿に戻りました。
こうして、ジョンはバルトリヌスの偽盾を手に入れたのです。ジョンは宿に戻ると、この出来事を詳しく冒険ノートに記述します。そして明くる次の日、新たな国へと旅立って行ったのでした。
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「おしまい。続きはまた明日。さあ、二人とも。寝る時間よ。」
「「はーい。」」
母親が寝室から出て行く。足音が遠ざかると、女の子はひそひそと男の子と話す。
「ねえクオン。かいぶつのなぞかけのこたえってなんなのかな?」
「んー。きっとへびじゃないかな?」
「へび!?へびっておよいだりとんだりするの!?」
「うん。するよ。ほんでよんだもん。」
「へー。クオンってものしりー。えらいえらい。」
「えへへ。」
女の子と男の子は絵本の内容についておしゃべりする。そして、いつの間にか眠りに落ちていたのであった。
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