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白磁の竜角  作者: 黒猫水月
間章二
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『ハーヴィーのぼうけん シャイン湖の怪物と謎かけ』

 リンドヴルム王国を意気揚々と出発したジョン=ハーヴィー。最初に訪れたのは、隣国のゼーティア王国でした。多くの美しい湖沼で有名な国で、近隣のリンドヴルム王国、アリアドネ皇国、シュピッツァ共和国によく知られています。ジョンはまず、王都アクアヴァイスへと向かいます。王都を一望できる場所に着いたジョンの目に飛び込んだのは、青と白の美しい対照(コントラスト)でした。


 王都ゼーティアはシャイン湖の(ほとり)にあります。シャイン湖の青と白亜の王都の街並みが美しい対照(コントラスト)を成していました。ジョンは父から貰った冒険ノートを取り出すと、一心に目の前の景観を描き始めます。多彩な色鉛筆を駆使し、出来るだけ再現するように心を砕きました。納得の行く出来映えになった頃には、すっかり日が高くなっていました。


「さて、そろそろ王都に入るか。」


 ジョンは小高い丘を降り、王都へと向かいます。王都に入ると、まず宿を確保します。そして酒場へと向かいました。ゼーティア王国の情報を集める為です。


 王都一と評判の酒場を訪れると、多くの客で賑わっていました。ジョンは片っ端から客に話しかけ、酒を奢る代わりに面白い話を聞かせてくれと頼みます。酒を奢ると言えば、どんな客も良い気分になって色々な話を聞かせてくれました。そんな時、ある男が言います。


「なあ兄ちゃん。こんな話は知ってるか?シャイン湖に出るっていう怪物の話だ。」

「いや。知らないな。詳しく聞かせてくれないか。」


 怪物と聞いて、ジョンは興味が湧きました。男の話は次の通りです。月が赤く染まる夜、一人でシャイン湖の大桟橋に行くと、怪物が現れます。怪物は謎かけを仕掛け、答えられないと体の一部を食べてしまうというのです。


「答える事が出来たらどうなるんだ?」

「分からねえ。噂だと、怪物が溜め込んでいるらしい宝を一つだけくれるって話だが、保証はねえな。」

「ほう。怪物の宝か。面白いな。」


 ジョンが目を輝かせるのを見て、男は釘を刺します。


「止めときな兄ちゃん。俺が話して何だが、今まで正解した奴はいない。目玉や腕を食われるだけなら良い方さ。心臓を食われた奴は死んじまった。悪い事は言わねえ。この話は酒の肴としてだけ楽しんどきな。」

「それくらい分かっているさ。ご忠告感謝する。」


 ジョンは他の客にも怪物の話を知っているか聞いて回ります。すると、どの客もほぼ同じ内容でした。ジョンは違和感を覚えます。


(おかしい。怪物の詳しい姿や謎かけの内容を知っている者がいないとは。生存者もいるというのに。何故だ?)


 酒場ではそれ以上情報は得られませんでした。後日、ジョンは怪物に会ったという人物を突き止め、話を聞きに行きました。しかし、その人物は肝心の詳細に関して全く覚えていませんでした。まるで(たち)の悪い魔法でもかけられたかのようです。


(やはり、実際に会ってみるしかあるまい。)


 ジョンは決心し、月が赤く染まる夜を待ちます。そして一週間後、待ち望んだ夜が来たのです。事前情報が少なく危険ではありましたが、ジョンの決心は揺るぎません。


「夜の大桟橋は不気味だな。」


 昼の間、下見に訪れてはいましたが、夜の大桟橋は人気もなく静まりかえっていて不気味です。多数の舟が係留された大桟橋をジョンは歩きます。大桟橋の先端まで来ると、ジョンは湖面を眺めます。血のように赤い月だけが映っていました。


(どんな怪物なのだろうか。・・・ん?)


 不意に湖面の月が不自然に揺れ動いているのです。ジョンは身構えます。そして次の瞬間、湖面を割って怪物が現れました。ジョンは息を呑み、怪物の姿を観察します。


 縦に割れた瞳孔、鱗で覆われた体、二本の手、二本の角。胴体は蛇のように細長く、下半分は水中に隠れています。神話の龍に似ていました。


『今宵も欲深な人間が来たか。』


 頭に直接響く声。ジョンは驚きつつも、冷静を保ったまま怪物に問いかけます。


「お前が、噂されているシャイン湖の怪物か?」

『ほう。脆弱な人間の割には度胸があるな。いかにも。我がその怪物よ。さすれば人間よ。我が謎かけに挑戦するか?答える事が出来たら、我のコレクションから一つだけ宝をくれてやろう。ただし、間違えたり答えられない場合は貴様の体の一部をもらうぞ。』


 怪物が宝をくれるというのは本当のようです。体の一部を食べられてしまうという事も。ここまで来て挑まないという選択肢はありません。ジョンは受けて立ちます。


「もちろん、挑むに決まっている。」

『ほう。威勢の良い事だ。だが貴様にこの謎が解けるかな?』


 怪物は不敵に笑います。答えられるはずはないと思っているようでした。


『大地を這い、海を泳ぎ、木々の間を飛ぶ。さて、この生き物は何だ?』


 ジョンは腕を組んで考えます。怪物はそんなジョンをじっと見つめていました。ジョンと怪物の間に静寂の帳が下ります。そしてたっぷり十分ほど経過した後、ジョンは答えました。


「答えは・・・。」


 ジョンは答えました。怪物は目を見開き、苦悶の表情を浮かべます。怪物はとても悔しそうに、ぼそっと告げます。


『くっ・・・。正解だ。』


 ジョンはほっと胸を撫で下ろします。答えそのものは誰もが知っている生き物でしたが、怪物の問いかけ方では正解するのは難しいでしょう。様々な書物を読んだジョンだからこそ正解できました。


『気は進まないが仕方ない。約束は約束だ。我のコレクションの中から一つだけ宝をくれてやろう。我に付いてくるが良い。』


 怪物がそう言うと、大きな音と共に湖面が割れて、道が出現しました。怪物は二本の足でのっしのっしと歩いて行きます。ジョンは桟橋から湖底に降りると、怪物の後を追います。


 湖の中央辺りにまで来ると、何やら神殿のような建物がありました。怪物は構わずのっしのっしと中へ入って行きます。ジョンも中へ入ると、そこには(うずたか)く積まれた金銀財宝の山がいくつもそびえ立っていました。


『この中から一つだけ宝を選ぶが良い。いいか、一つだけだからな。二つ以上持っていったら呪うぞ。』

「分かった。心配するな。」


 一つだけと念押しする怪物に苦笑しつつ、ジョンは宝を見て回ります。すると、金銀財宝の山に埋もれた古い腕輪を見つけました。紫水晶(アメジスト)の宝石が五つ嵌まっています。ジョンはこの腕輪に惹かれました。


「これは何だ?」

『それか?どこぞの魔導師が作ったバルトリヌスの盾の模造品(レプリカ)だ。バルトリヌスの偽盾(にせたて)。あらゆる攻撃を五回だけ無効化できる。一回発動する度に宝石が砕け、使い切ると腕輪自体が壊れる代物だ。』


 いかにも、これからの冒険に役に立ちそうな腕輪です。ジョンはこの腕輪を貰う事にしました。


「では、このバルトリヌスの偽盾(にせたて)を貰おう。」

『本当にそれで良いのか?後で代えてくれと言ってもダメだからな。』

「ああ。これでいい。二言はない。」


 怪物にとってはあまり価値がないのか、尻尾を振って嬉しそうでした。ジョンは怪物に別れを告げ、来た道を戻って大桟橋まで帰ってきました。湖は再び轟音と共に割れ目が塞がって元の姿に戻りました。


 こうして、ジョンはバルトリヌスの偽盾(にせたて)を手に入れたのです。ジョンは宿に戻ると、この出来事を詳しく冒険ノートに記述します。そして明くる次の日、新たな国へと旅立って行ったのでした。


*********


「おしまい。続きはまた明日。さあ、二人とも。寝る時間よ。」

「「はーい。」」


 母親が寝室から出て行く。足音が遠ざかると、女の子はひそひそと男の子と話す。


「ねえクオン。かいぶつのなぞかけのこたえってなんなのかな?」

「んー。きっとへびじゃないかな?」

「へび!?へびっておよいだりとんだりするの!?」

「うん。するよ。ほんでよんだもん。」

「へー。クオンってものしりー。えらいえらい。」

「えへへ。」


 女の子と男の子は絵本の内容についておしゃべりする。そして、いつの間にか眠りに落ちていたのであった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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