第四十一話『フェリウス帝国の遺産』
続きとなります。
クオンは光の膜に守られた銀色の龍を観察する。龍の形はしているが、自然の生物ではなく人工的な印象を受ける。その証拠に、龍の肩にはフェリウス帝国の紋章が描かれていた。フェリウス帝国に関係する何か、恐らく龍型のゴーレムだろう。クオンはそう推察する一方で、別の疑問が生じていた。
「ねえクオン。どうしたの?難しい顔してるよ?」
クオンの意識が思考の海から浮かび上がる。気づくと、カリンが心配そうにクオンの顔を覗き込んでいた。
「ごめん。考え事してた。」
「あれが何か分かったのか?クオン。」
「いや。さすがに分からないよ。僕の専門はフェリウス帝国時代じゃないから。」
「でも、このメンバーの中じゃ一番知識あるじゃん。」
クオンとリッカが探していたのは竜角人だ。フェリウス帝国とは時代が違う。リリスが言うように、この中では詳しいかもしれないが、専門家ほど知っているわけではない。遺物の同定もさっぱりだ。この分野ではセーラの方が詳しいだろう。
「あれはフェリウス帝国のモノだと思う。肩のところに紋章が描いてあるし。でもそれだと不可解な事があるんだよね。」
「はーい。クオンせんせー。それは何ですかー!」
リリスが元気よく質問する。カリンもクオンの考えを聞きたいようだ。
「龍の形をしてるって事。」
「龍の形?そんなにおかしい事なの?」
「うん。僕が知ってる限り、龍型のゴーレムは未発見なんだ。意図的に龍型を避けてたんじゃないかって説があるくらいだよ。」
フェリウス帝国は様々なゴーレムを製造したが、ある生物を模したゴーレムだけは造らなかった。それは龍。石像や装飾といった芸術品には龍を象ったものはあるものの、龍を模したゴーレムは今までに見つかっていない。
一説には、古龍七柱を信仰していたためと考えられている。崇拝する龍を、使役されるものの代名詞でもあるゴーレムにするのを憚ったというのが広く支持されている説だ。
「じゃあ、もしかして世紀の大発見?名声ゲット?」
ナツメが少し興奮ぎみに言う。大発見には間違いない。初の龍型ゴーレムであるし、定説も覆るかもしれない。
「重大すぎて国家機密扱いされるんじゃないかな。あの龍、戦闘用ゴーレムだと思うんだけど。」
だが、龍と言えば力の象徴でもある。十中八九、あの銀色の龍は戦闘兵器だ。回収できるかは不明だが、この遺跡ごと国家機密になるだろうとクオンは思う。世に公開できないなら名声なんて得られるはずもない。
「そっか。公開したら大騒ぎになるよね。残念。」
「残念。」
リリスとナツメは残念そうだ。一方でバートは目を輝かせている。カッコいい物には心動くのが男の性。
「龍型のゴーレムなんてカッコいいな!もっと近くで見たいぜ!」
「僕も同感だけど、あそこまで行くのは無理そうだね。それにあの光の膜、きっとエネルギーフィールドだよ。触ったらこっちが消し飛んじゃうよ。」
クオンもバートと同様にもっと近くで銀色の龍を見てみたいが、傍まで寄る為の手段がない。たとえ近づけたとしても、あの光の膜に触れるのは得策ではない。今は諦めるしかなかった。
「あの龍の事は一旦置いとこう。」
「ちぇー。まあクオンがそう言うなら仕方ないか。」
「じゃあ、この足元の施設に入れないかどうか調べようよ。」
「そうだな。この施設も何か面白いものありそうだし。」
バートはつまらなそうに口を尖らせていたが、銀色の龍に近づけそうにない事は納得していた。バートは気を取り直したリリスやナツメと共に、入口がないか周囲の床を調べ始めた。クオンとカリンもリリス達とは違う方を探してみる。しばらく探していると、カリンが何かを見つけた。
「クオン。ここに継ぎ目みたいなのがあるよ。」
「本当だ。何だろ。」
カリンが指差した先、白い床に長方形の継ぎ目があった。クオンが継ぎ目で区切られた中を押してみると、床板が一回転して取っ手が出現した。
「引いてみようか。」
「うん。気をつけて。」
クオンは取っ手を握ると、思いっきり力を入れて引っ張る。ガコン、という音がして床板が開いた。床の下から、操作パネルらしきものが出てくる。ボタンがたくさんあり、水晶画面もあった。
「何か見つけたの?」
床が開いたのを見て、他の場所を探していたリリス達も寄ってくる。
「うっわ何これ。」
「操作盤?」
「適当に押してみるか?」
「さすがに危険だよ。クアドラゴーレムがわらわら出てきたらどうするのさ。」
警備システムが生きていたら厄介である。クオンは全員に釘を刺した。特にリリスやバートは迂闊に操作しがちだ。
「でも、どうしよっか?一旦戻る?」
カリンはクオンに尋ねる。
「そうだね。まだ時間はあるけど一旦もど・・・」
「それじゃあつまんないよね。」
「「「「「!?」」」」」
急に聞こえた声に、クオン達は驚く。慌てて周囲を見回す。するとすぐに声の主を見つけた。声を発したのは、白い髪に金の瞳の少年。しかも宙に浮いている。
「はじめまして、だね。クオン。」
親しげにクオンの名前を呼ぶ少年。少年はクオンを知っているようだが、クオンには全く見覚えがない。
「君は誰?どうして僕の名前を知ってるの。」
「僕はアハト。よろしくね。」
「アハト、君は何者なんだ?」
「ごめんね。それは教えられない。」
ペロッと舌を出し、無邪気にそう言うアハト。クオンは警戒したまま、アハトに再び問う。
「じゃあ、一体何が目的なの。」
「クオン=アルセイド。今の君の力をみたいからさ。」
アハトが指をパチンと鳴らす。次の瞬間、けたたましい警報が響き渡った。
『警告。不正なアクセスを感知。機密保持のため、対処レベル4に設定。通路閉鎖。防衛システム起動。守護機アルヴェーンを召喚。』
女性の声で淡々としたアナウンスが聞こえた。今度はちゃんと意味が分かる。自動翻訳機能でもあるのだろう。移動機で通ってきた通路も隔壁で封鎖された。そして次の瞬間、空間に閃光が走る。魔法陣が形成され、その中から一体の人型ゴーレムが出現する。青く煌めく装甲に覆われた流線型の機体。クオンが知っているゴーレムよりも、遥かに洗練されたデザインだ。
『守護機アルヴェーン。戦闘モード、起動。』
男性的な低い声が青いゴーレムから発せられる。ゴーレムの機体名はアルヴェーンのようだ。右手にライフル、左手に盾。背部にはバックパックを背負っている。バックパックにはブースターが内臓されているらしく、焔を噴射して空中に浮いている。
「クオン!なんかすげえ強そうなの出てきたぞ!?」
「アハト!一体何のつもり!」
「言ったでしょ。君の力を見たいって。頑張ってね。じゃないと殺されちゃうよ?あっ、緊急ボタン押したみたいだけど妨害されてるから無駄だよ。」
さりげなくクオンは|後ろ手で皆に見えるように地図作成器の緊急ボタンを押した。だがアハトはそんな事はお見通しだった。アハトは笑ったまま、その姿が周囲の背景と同化し消えた。代わりに戦闘態勢を整えつつあるアルヴェーンが残される。
『侵入者五名を確認。排除、開始。』
アルヴェーンはそう宣言すると、背中のブースターを吹かし、高速でクオン達に向かって来る。
「皆、散って!」
クオンが叫び、クオン達は散開する。アルヴェーンは盾から光で形成されたブレードを伸ばし、クオン達が先程までいた場所を横に薙ぎ払った。
「この!」
ナツメはアルヴェーンの目と思しき部分へ矢を連続で放つ。矢は弾かれてしまうが、アルヴェーンにはシールドが展開されていない事が分かった。注意がナツメに向いた隙にカリンとクオンは魔法を詠唱する。
「我が身に纏いしは、天より来る戦神の息吹き。武神纏衣!」
「乞うは守りの境界。撃を弾く盾となれ。翠の盾!」
カリンが武神纏衣を、クオンが翠の盾を発動させる。クオン達が赤と緑の光で包まれる。全員の攻撃力と防御力が底上げされる。アルヴェーンは金属の塊。クオン達の力では生身ではかなり厳しい相手だ。
「これならどう!?」
ナツメは閃光矢を再びアルヴェーンの目へと放つ。眩い光が炸裂する。多少は効いたのか、アルヴェーンの動きが鈍った。
「天翔斬!」
「円弧打撃!」
クオン、バート共にアルヴェーンの腕の間接部を狙う。魔法で威力が上乗せされたクオンの剣とバートの長戦斧がアルヴェーンと激突する。
金属と金属のぶつかり合い。激しい火花が散るものの、全く食い込まない。
「か、かってえ・・・。」
バートが呟く。遠心力と魔法で威力を足した打撃。装甲が薄いであろう間接部を狙ったと言うのに全くダメージが通っていない。
「はあああああ!一撃入魂!」
アルヴェーンがクオンとバートと攻めぎ合う内に、懐へと飛び込む。床が陥没する勢いで飛び上がり、リリスはトンファーを回転させながら、アルヴェーンへと攻撃する。だが、トンファーがアルヴェーンの胸部に届いた瞬間、激しい光がほどばしった。
「きゃああああ!?」
リリスが弾き飛ばされる。とっさにカリンが動いてリリスを受け止めるが、勢いを殺しきれずに共に倒れる。
「あいたたた・・・リリス、大丈夫?」
「なんとかね。ありがと。カリン。」
クオンはアルヴェーンと攻めぎ合いながら、リリスが弾かれる一部始終を見ていた。リリスのトンファーが青い装甲に触れた瞬間、光が周囲に飛び散った様を見て、確信する。あれはあらゆる攻撃を魔力光線に変換して周囲に散らばらせる装甲・・・散乱装甲だと。フェリウス帝国の遺失技術の一つだ。
(ノインが使ってたのと同じだ。)
ノインの場合は魔力で散乱効果を模倣した擬似的なものであったが、アルヴェーンの装甲は物理的実体を持った本物だ。
(破壊できそうな場所は・・・間接、バックパックくらい・・・?)
青い装甲で覆われた部分は物理攻撃も魔法攻撃も通らない。クオンは必死で打開策を考える。
(間接部も思った以上に硬い。)
動きを止めてはいるが、この状態をいつまでも続けてはいられない。
「ナツメ!アルヴェーンの背後から攻撃してみて!一番威力が高い奴で!」
「分かった!」
アルヴェーンの左側面にいたナツメは背後に回り込む。
「雷神矢!」
紫電を纏った矢を、アルヴェーンの背部を狙って射る。バチバチと音を轟かせながら、真っ直ぐ向かって行く。直撃するとナツメが思った瞬間、アルヴェーンは焔をブースターからほどばしらせて空中へと舞い上がる。急に抵抗がなくなったクオンとバートはたたらを踏んだ。
「小癪!」
ナツメは唇を噛みながら追撃するが、アルヴェーンはナツメの放った矢を尽く避ける。アルヴェーンは空中を横滑りしながら、右手のライフルを撃ってきた。狙いはクオンとバート。何発かは避けきれず、翠の盾に防がれる。
「銀より輝く魔の調べ。弾丸となりて其の敵を穿て。魔弾の射手!」
「円弧射撃!」
五つの光弾がアルヴェーンを追尾するが、避けられてしまう。バートも長戦斧に内蔵された銃機構から散弾を射出するが、盾に弾かれた。
「何とかして不意を突かないとだめだね。」
「私に任せて!リリス、いつもの行くよ!」
「おっけぃ!どんと来い!」
「反射矢!」
ナツメは再び矢を放つ。アルヴェーンは難なく避けるが、その動きは折り込み済みだ。矢が向かう先にはリリスがいた。リリスはトンファーで矢を跳ね返す。
「てえい!」
跳ね返された矢は速度を増し、アルヴェーンの背部、バックパックの排気孔へと突き刺さった。バチバチと火花が散り、ブースターの焔が弱くなる。推力が弱くなったためかアルヴェーンは再び降りてくる。今度はナツメに狙いを定め、ライフルを放った。ナツメはライフルの光弾を避けきれなかったが、翠の盾のお陰で凌ぎ切った。
「白き神聖な光よ。我が剣に灯りて、魔を断つ先陣となれ。魔断剣!」
「食らえ!零鉄槌!」
アルヴェーンが着地した時を狙い、再び間接部を狙う。クオンの魔断剣とバートの零鉄槌がほぼ同時に当たった。切れ味の増したクオンの剣は右腕の間接部の半ばまで食い込む。バートは密着した状態で散弾を撃ち込み、左腕の間接部を変形させた。
『アクチュエーターに異常発生。両腕、廃棄。』
アルヴェーンは後退すると、バシュッっと音を立てて両腕が胴体から切り離され、床の上へと落ちる。
『腕フレームβに換装。』
アルヴェーンが光ったと思うと、新しい腕が出現していた。今度は両手に実体剣を装備している。
「そんなんありかよ!」
「バート!危ない!」
アルヴェーンは一気に加速しバートに斬りつける。バートは咄嗟に長戦斧で防御するが吹っ飛ばされた。クオンはバートへの追撃をさせないため、剣で斬りつける。アルヴェーンは追撃を止め、即座にクオンの攻撃に対応する。連続で繰り出されるアルヴェーンの剣を必死で防ぐクオン。あまりの衝撃に、足が浮き飛ばされそうになる。
「我を支えるは大地の精霊。動かざること厳の如し。震脚!」
カリンが魔法で支援する。脚力が強化され、何とか持ち直す。
「うらうら~!お返しだ~!パワーショット!」
「ぶち抜く!」
クオンにこれ以上攻撃が集中しないように、リリスとナツメも攻撃に転じる。リリスはトンファーに内臓された銃機構でアルヴェーンの左脚の間接部を狙い、ナツメはひたすらバックパックの排気孔を狙う。すると突然、バックパックの上部が開き、誘導弾が垂直発射された。計十五発。一人当たり三発が向かって行く。
「猪口才!」
ナツメは持っている魔法弓をくるりと上下反転させた。ナツメが弦を引くと、魔力が収束して矢を形成される。魔法弓には魔力を矢にできるモードがあり、矢を番う必要なく連射できる。
「魔法矢!」
ナツメは連射して誘導弾を次々に射抜く。
「ナイスよナツメ!でもこのままじゃ埒が明かないわね。」
リリスの言うとおり、ほぼ膠着状態になっている。アルヴェーンに多少のダメージは与えた。だが、間接部やバックパックは攻撃が通じるとしても破損したパーツを換装されてはキリがない。
「何か考えつかねえかクオン。」
「そうだね・・・。上手く行くかは分からないけど一つだけある。まずカリン以外は、一斉に各自の最大火力で同時に遠距離から攻撃。」
「私以外?」
「うん。カリンは皆の攻撃が当たった瞬間、あいつを天鏡で包んで欲しい。」
「天鏡で?」
天鏡は、光や魔力光線を増幅反射させる防御魔法だ。クオンはカリンの天鏡とアルヴェーンの散乱装甲の特性を生かす策を思い付いていた。
「天鏡の中で魔力光線を乱反射させるんだ。」
そうすれば次第に魔力光線の威力が増していく。いずれ散乱装甲の防御を上回るはずだ。
「ただ、あいつの散乱装甲がどこまで耐えるのか分からない。カリンの頑張りに懸かってる。」
出来る限り長時間、天鏡を維持できるかが重要だ。この役は魔力量が一番多いカリンに任せるのが適切だ。
「大丈夫。私、やれるよ。」
カリンは両手でぐっと杖を握り込む。皆の役に立つならと、カリンは決意する。
「来れ熱神。遍く在りし粒子を、熱と光の刃と成せ。」
「光学宝典を紐解きし御業。」
クオンとカリンが魔法の詠唱を開始する。カリンはクオン達の攻撃とタイミングをずらすため、一拍ほど遅く詠唱を開始した。
「電離剣!」
「円弧射撃!」
「パワーショット!」
「雷神矢!」
クオンの電離剣とタイミングを合わせ、一斉に攻撃を放つ。
「天を覆う光と成らん。天鏡!」
直撃する直前、アルヴェーンを中心としてドーム状の半透明の膜が出現する。クオン達の攻撃は散乱装甲で魔力光線に変換・増幅され、周囲に散乱する。散乱光は天鏡で増幅反射され、再びアルヴェーンを襲う。
みるみる内に、天鏡の中が光と爆音で満たされ、アルヴェーンの姿が見えなくなった。魔力光線が増幅するにつれて、カリンの負担が大きくなっていく。天鏡の維持に魔力が消費されていく。
「んっ・・・!」
カリンは歯を食い縛って耐える。体の中の魔力が減っていく感覚。
終わりが見えてくる。天鏡の中の光が徐々に減衰を始めたのだ。次第に中の様子が露になってきた。
魔力光線の海に浸かっていたアルヴェーンの姿も見えてくる。青い装甲部分が焼け焦げ、間接部は赤熱している。目と思しき水晶体も砕けていた。
やがて、光は完全に消える。アルヴェーンはグラリと後ろに傾くとそのまま仰向けに倒れた。
ガシャーンと、金属がぶつかり合う音が響く。音が静まるとようやく、カリンが天鏡を解除し、クオン達は戦闘態勢を解いた。皆、その場にへたりこむ。
「皆、お疲れ様。」
「何とか、勝ったね。」
「あ~強かった~。もう戦いたくねえぜ。」
「うわー汗びっしょりだよ~。」
「腕、疲労。」
強敵と相対した緊張感も相まって、クアドラゴーレムとの戦いよりも疲労を感じていた。
「アハトはどこ行ったんだろう?」
「力を見たいって言ってたよな。何でかは知らねえけど。」
アルヴェーンを倒しても、けしかけたであろうアハトが姿を表す様子はない。
(僕達が死んでも構わないって感じだったよね。力を見たいって言ってたけど、結局何がしたかったんだろ。)
クオンがアハトの真意について考えていると、何かが動いているような音がした。
『管理者権限を確認。ゲートロックを解除します。』
唐突にアナウンスが鳴り響く。中央の床がゴゴゴ、と音を立てながら開き始めた。
「うわっ!?な、なになに!?」
「きゃ!?」
「揺れてる。」
「ななな、なんだぁ!?」
「落ち着いて。床が開いてるみたいだ。」
ゲートが完全に開くと、十メートル四方の大きな縦孔が出現する。クオン達は中を覗き込んでみると、底まで結構な深さがあるのが分かった。
「クオン、ロープで降りてみる?」
「そうだね。隔壁を解除する方法があるかも知れない。緊急ボタンは押したけど妨害されてるってアハトは言ってたし。」
「同意。」
「またさっきみたいなのが出ないことを俺は祈るぜ。」
「でも不親切よね。昇降機か階段くらいあればいいのに。」
リリスがそう愚痴ると、まるでその声に応えたかのように動きがあった。縦孔の内壁がせりあがり、壁に沿って螺旋状に階段を形成する。あっという間に、底まで続く階段となった。
「前言撤回するわ。これならロープ使わなくても行けるわね。」
クオン達は階段を降りていく。底までたどり着くと、重厚そうな扉があった。近づくと、シュン、と音を立てて開く。最低限の電源は生きているようで薄明かりながら照明は機能していた。部屋の中は様々な水晶端末が置かれていた。冒険者ギルドで見たものよりも洗練された造りだ。見たことない、用途が全く分からないけど機械も多数あった。
「あっ、あれ!零式魔導炉じゃない?」
リリスが指差した先、作業台と思しき台の上に作業アームで固定された物体があった。依頼書に添付されていたイラストと同じ。まさしく零式魔導炉だった。アームは外せそうにないので、クオンは地図作成器に場所を記録しておく。
「ねえ、これは何かな。」
カリンは円形の大きな台の前にいた。クオン達は台の前へと集まる。突如、室内の機械に次々に光が灯っていく。クオン達が驚いていると、円形の台の上に何かが出現する。
「これは、ホログラム?」
クオンが呟いた通り、それはホログラムだった。一人の老人の姿が投影されている。その顔には深く刻まれていたが、その瞳には強い意思が宿っているようにクオン達には見えた。クオンはさっとノートを取り出すとメモの準備をする。いくら状態が良さそうでも昔の機械だ。何回もホログラムを再生できるとは限らない。
クオンの準備が整うにを待っていたかのように、老人は厳かに話始めた。
『名も知らぬ者よ。そなたがこれを見る時、我がフェリウス帝国が滅び、幾世紀も経っているだろう。』
よく見ると口の動きと言葉が合っていない。自動翻訳機能が働いているようだった。
『心して聞け。我が帝国は破壊神とその巻属によって攻撃され、滅亡した。』
「えっ・・・。」
クオンは思わず声を漏らす。明かされるフェリウス帝国滅亡の理由。戸惑いながらも、クオン達はじっと老人の声に耳を傾ける。
『御龍七柱のお陰で世界そのものの滅亡は回避された。だが、生き残った我々は危惧した。いつの日か、破壊神が再び降臨することを。御龍とて、全知全能ではない。それに、リンドブルム様は優しき御方。権謀術数を得意とする破壊神が相手では分が悪い。それに、守られるばかりが、人ではない。だから、我々は造り上げた。我らの世界、そして我らが子孫の為に、この力を残す。』
ホログラムの横に映像が投影される。それはクオン達が先程見た、光の膜に包まれた銀色の龍だった。
『反神龍エルハウ。』
きっとそれが銀色の龍の名前なのだろう。
『破壊神に抗う力、人類の英知が造りし龍だ。』
そう言った後、ホログラムの老人は表情を曇らせる。
『しかし、人の中には破壊神に魂を売った者がいる。それが使徒と呼ばれる者達だ。我らはエルハウを利用される事を恐れ、エルハウを本体と七つの力に分け封印した。エルハウ本体はここにあるが、七つの力は世界各地に散らばっている。』
使徒、エルハウの封印、七つの力。次々に新しい言葉が出てくる。
『一つは砂の魚に。一つは天空の大地に。一つは地の底に。一つは海流の背に。一つは小さき者の大樹に。一つは翡翠の都に。一つは白き角の友に。』
白き角の友という言葉にクオンは引っ掛かった。白い角を持った種族は竜角人以外にもいる。だがクオンは七つと聞いて、七宝を連想していた。七宝の事をこの老人が言っているのだとしたら、エルハウの封印を解くには白磁の竜角が必要だということになる。
『全てを揃え、誠実なる乙女の祈りを捧げよ。さすれば、エルハウは覚醒し、破壊神にさえ抗う事の可能な存在となる。』
クオンはドキッとする。ホログラムの老人がクオンと目を合わせた気がしたからだ。
『頼んだぞ。誠実なる乙女の血を引く者よ。』
そう言い残し、ホログラムは消える。同時に、クオンの左手首が光り出した。
「うわっ!」
「クオン!」
「な、なんだあ!?」
「まぶしっ!」
「何事!?」
光が消えると、クオンの左手首には銀色の腕輪が出現していた。翡翠が嵌め込まれ、精緻な装飾が掘り込まれている。フェリウス帝国の紋章も刻まれていた。
「これは、一体・・・。」
クオンは腕輪を外してみる。予想と違ってすんなりと外す事ができた。少し時間が経つと光の粒子となって、再びクオンの左手首に腕輪となって出現した。
「クオン、大丈夫?気分悪くなってない?」
装備が外れない。真っ先に思い付くのは呪われた装備の事だ。カリンはクオンの体に何か影響が出てないか心配する。
「うん。大丈夫だよ。呪いの魔法も感じないし。」
「そう?でも帰ったら師匠に診てもらおうよ。ねっ。」
「カリンったら。愛しのクオンの事には必死ね。」
「のろけ。」
「ち、違うよ!友達を心配するのは当然でしょ!」
カリンにリリスとナツメが茶々を入れていると、上の方で物凄い音がした。金属の塊と塊がぶつかりあったような衝撃音だ。
クオン達は急いで階段を登ってゲートから出ると、そこには何故かレティシアとガイがいた。通路に下りていた隔壁が大きくひしゃげて転がっている。恐らくレティシアが破壊したのであろう。
「クオン!」
「レティシ・・・うぷっ!」
駆け寄ってきたレティシアに抱き締められるクオン。
「もう!急に反応が消えたから心配したのよ。」
「俺は心配ねえって言ったんだけどな。」
どうやら、地図作成器に内臓された発信器で位置をモニターしていたらしい。急に反応が消えたので、レティシアが心配して探しに来たのだとか。ガイはついでのようだ。
「レティシアさん。クオンが苦しがってます。」
カリンは不満気な顔で、レティシアからクオンを引き剥がす。
「別にクオンを取ったりしないわよ。嫉妬しちゃって可愛いんだからもー。」
「し、嫉妬じゃないです!」
カリンは顔を少し紅潮させながらレティシアに反論する。レティシアから解放されたクオンにガイが話し掛ける。
「いろいろとあったみたいだな。お前達。まさかこんなどえらいもん見つけちまうなんてな。」
ガイは龍の巣を顎で示しながらそう言った。龍の巣、アハト、アルヴェーン、零式魔導炉、エルハウ、謎の老人、銀色の腕輪。報告しなければいけない事が沢山あった。
「一旦、調査本部まで戻るぞ。そこで話を聞く。」
クオン達はレティシアとガイと共に来た道を戻って行くのであった。
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