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白磁の竜角  作者: 黒猫水月
第二章 新しい居場所
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第三十八話『ちょっぴり背徳感』

続きとなります。

 トイセン支部の資料室で話し合った翌日、エルヴィン達はヴァレンシュタイン城を調査のために訪れていた。城壁は形を保っているが、城門は崩れていたので城内への侵入は容易い。門や(かんぬき)らしき破片を踏みしめながら、エルヴィン達は城の敷地へと入る。見上げたヴァレンシュタイン城は圧迫感があり、廃墟というよりもまるで大きな(むくろ)を思わせた。


「来たれ天翔る瞳。全知の光にて闇を照らせ。天の瞳(ヘブンズアイ)。」


 アイリスが詠唱し、探知魔法の天の瞳(ヘブンズアイ)を発動させる。アイリスの周辺に五つの光球が出現し、そのうち四つが細いビームを照射しながら、城の中へと飛び去っていく。


「これで探知できるのか?」

「ええ。精度は粗いけどね。私達はカルツァの見立て通り、最初は城の地下へ向かうわよ。」


 カルツァの予想では、吸血鬼の封印場所はヴァレンシュタイン城の地下になる。だが他の可能性もあるため、念には念を入れて天の瞳(ヘブンズアイ)を巡回させておくのだ。


 エルヴィン達は周囲を警戒しつつ、石畳の通路を進んでいく。ところどころ崩れた像や城壁の破片が転がっている。地面には陥没も見受けられた。自然による風化というよりは何か人為的なものを感じるエルヴィン達。


「今のところ、冒険者の気配はないみたいだね。」


 ツェツィは冒険者との遭遇を心配していた。城の雰囲気が怖いのか、少し緊張気味のようだ。トイセン騎士団が城への立ち入りを禁止しているとはいえ、伝説の金銀財宝を目当てに勝手に入ってくる輩は一定数いる。実際に城内を荒らされた事も過去にはあるらしい。


 荒れ果てた庭園を抜けて、城の中へと入っていく。城内には人気がなく、天の瞳(ヘブンズアイ)にも反応はない。エルヴィン達の足音だけが反響する。城の図面のおかげで地下への階段はすぐに見つかった。階段の先は、墨が詰まっているかのように真っ黒だ。エルヴィン達はアイリスの傍らを浮く天の瞳(ヘブンズアイ)の灯りを元に階段を降りていく。


「おかしいな。入り口がないぞ?」


 エルヴィンは図面を広げて確認する。入り口があると記載されている場所には壁しかない。アイリスとツェツィがエルヴィンの両側から図面を覗き込んだ。


「どういうこと?入り口を塗り固めたのかしら?」

「ちょっと待って。なにか聞こえる。」


 ツェツィの白虎耳がピンと立つ。ツェツィは壁に耳を当てると、目を閉じて耳を澄ました。神経を耳に集中させると、壁の向こうから奇妙な音が聞こえてくる。ヴィイインと何かが動いている音だ。アイリスも壁に耳を当てて、向こう側の音を探る。


「何だろう?この音・・・。」

「本当ね。音がするわ。」


 ツェツィとアイリスがそう言うので、他の三人も壁に耳を当てる。何かの駆動音らしき音が確かに聞こえてきた。城の図面によれば、ここには大きな部屋があるはずだ。だが周囲を回っても入れそうな場所はどこにもない。


「この向こうに何かがあるのは確実っぽいな。アイリス、壁をぶち壊してみるか?」


 エルヴィンの提案に、考える素振りを見せたアイリスだったが、結局は首を横に振る。


「そうしたいところだけど、やっぱりイトー団長に確認しないと不味いわ。廃墟同然と言っても国の管理物だし。他からどうにかして行けないかしら。」

「部屋の真上に行ってみるか?案外、隠し通路でもあるのかもしれないしな。」


 ベルンハルトがそう提案する。大広間に通じる、大きな扉の前に来た。扉にはドラグガルド連邦の紋章らしきものが描かれているが、経年劣化で装飾や塗装がほとんど剥がれ落ちている。ベルンハルトは破片の一つを拾い上げると魔力を流す。すると、ほのかに破片が青く光る。


「やっぱり変だな。」

「どうしたの?ベルンハルト君。」

「いや、ちょっと気になってな。ただの直感なんだが、荒廃具合がちぐはぐに見えるんだよ。」


 ベルンハルトは、城の荒廃具合が古いものから新しいものまで混じっているように感じていた。


「この錆びた金属、魔力で光るって事は魔法銀(ミスリル)だろ?廃城になったのは二十年前だ。百年は大丈夫なはずの魔法銀(ミスリル)がこんなに腐食してるなんておかしい。」

「確かに変ね。廃城前はしっかり保守してたはずよ。」


 新たな謎が浮かぶが、すぐに解決できそうにはないので疑問は後回しにする。エルヴィンが扉を押すと、ギギギギギと音を立てながら開いていく。


「案外、綺麗に保たれてるな。」


 扉と比べて大広間は比較的綺麗な状態のままだった。周囲を警戒しながら、エルヴィン達は足を踏み入れる。図面を見ながら地下で音が聞こえた辺りの上まで進む。


「ここが真上ね。・・・さっき地下で聞いたのと同じ音が聞こえるわ。」


アイリスは床に耳を当てながら言う。だが、対照的にカルツァはじっと大広間の上の方を見ていた。エルヴィンはそんなカルツァに話し掛ける。


「なに見てんだ?カルツァ。何かあるのか?」

「ああ。あそこだ。」


カルツァの指差した方を見るが特に何も変な所は見当たらない。


「何もないぞ?」

「ふむ。そのままでは分からないか。アイリス、頼みがある。できるだけ天の瞳(ヘブンズアイ)の数を増やして、同じ間隔で、三次元に並べてくれないか。」

「え、ええ。いいけど。」


 アイリスはカルツァに言われた通りに、指し示された場所を天の瞳(ヘブンズアイ)の数を増やし、空中に等間隔で並べていく。


「次は隣接する天の瞳(ヘブンズアイ)をビームで接続してくれ。」

「・・・これで何が分かるの?」

「すぐに分かる。」


 アイリスは怪訝な顔をしながらも、空中に配置した天の瞳(ヘブンズアイ)をビームで相互に接続していく。瞬く間に、空中が立体格子で埋め尽くされた。


「あれ?私、ちゃんと等間隔に並べたのに、歪んでる?」


 立体格子を規則正しく整列させたはずが、一部の格子が歪んでいた。


「これが、エルヴィンの抱いた違和感の正体だ。」

「いや、そう言われても全く分からないんだが。」

「これは格子が歪んでいるのではなく、格子が配置された時空そのものが歪んでいるんだ。つまり分かりやすく換言するなら、時間の流れにムラがあるということだ。先程の扉が思った以上に朽ちていたのも、おそらくこの事象が原因だろう。」

「だが、何でそんな変な事が起こってるんだ?」

「分からん。だがこういう現象が起こる原因には心当たりがある。それは・・・」


 その時、ベチャと何かが落ちる音がした。エルヴィン達は一斉に音がした方向を向く。そこには、真っ黒な水溜まりができていた。ベチャ、ベチャ、と粘り気のある液体が天井から滴っている。エルヴィン、ベルンハルトは無言で剣を抜く。ツェツィも緊張した面持ちで剣を抜いた。アイリスとカルツァも杖を構えて戦闘態勢になる。


「な、なにあれ・・・。」


 ツェツィが呟くが、誰も答えられる者はいない。次第に黒い水溜まりが大きくなり、天井からの滴下が止まる。黒い水溜まりは不気味に波打っていた。そしてまるで意思を持っているかのように、黒い水は形を変え、まるで蛇のように鎌首をもたげる。


「私が解析してみるわ。」


 アイリスは天の瞳(ヘブンズアイ)からビームを黒い蛇に向けて照射する。


「嘘・・・これって・・・。」


 黒い蛇を解析したアイリスの顔がみるみる青ざめていく。アイリスの異変に気づいたカルツァは、アイリスの天の瞳(ヘブンズアイ)の制御を奪う。天の瞳(ヘブンズアイ)の解析結果を見たカルツァは無言だったが表情が剣呑なものへと変わった。


「アイリス、一体どうしたんだ?あいつが何か分かったのか?」


 エルヴィンが問いかけるが、アイリスは歯をカチカチと鳴らしたまま答えない。代わりにカルツァがエルヴィンに答える。


「正体は分からん。だが、一つだけ分かった事がある。落ち着いて聞け。・・・あの化物は元々、人間だったようだ。」


 カルツァの衝撃的な発言に、エルヴィン達は戦慄する。だが言われて見れば、黒い蛇の舌や歯は人間のもののように思えた。そう思うと、余計に背筋が凍った。


 その黒い蛇はケタケタケタ、と何とも不気味な音を出しながらゆっくりと近づいてきた。蛇の一部がパックリと開き、チロチロと火のように動く赤い舌と不自然な程に真っ白な歯が見えた。


「来るぞ!」


 エルヴィンが叫ぶ。黒い蛇はケタケタケタと音を出しながら、周囲に魔法陣がいくつも浮かび上がる。総数五十。化物は何やら喋っているようにも聞こえるが、言葉としては聞き取れない。みるみる魔法陣に白い光が充填されていく。アイリスはその光景を見て咄嗟に詠唱を開始する。


「我に纏うは聖なる鎧!数多なる災厄を反らし給え!反射鎧(リフレクトアーマー)!」


 アイリスが叫ぶように詠唱し、全員を光の障壁が包み込む。同時に、黒い蛇が身を大きく震わせた。


「#¥&$♪=+¥$+∧∩!」


 黒い蛇が理解不能な叫びを上げると、白い光がレーザーとなってエルヴィン達に向かって射出され、五十もの光条が一気に襲いかかってきた。直撃する直前、アイリスの反射鎧(リフレクトアーマー)に激しい音を立てて衝突し、四方八方へと乱れ散る。白いレーザーは大広間の天井や壁に着弾し、大爆発を起こした。轟音と共に爆風や破片がエルヴィン達に殺到するが、魔法鎧(リフレクトアーマー)に衝突し勢いを失っていく。


「くっ!これくらい!」


 アイリスは歯を食い縛って魔法鎧(リフレクトアーマー)に魔力を注ぐ。爆風と乱れ飛ぶ破片の防御に多くの魔力を削られながらも、何とか耐えきった。凌ぎきったと同時に反射鎧(リフレクトアーマー)が防御力を消失する。


 次第に爆風による煙が晴れ、太陽光が射し込む。大広間の天井が吹き飛び、青空が覗いていた。ヴァレンシュタイン城の上部構造がなくなってしまったようだ。肝心の黒い蛇はというと、体中に破片が刺さっている。だが何ともないかのように、相変わらずケタケタと音を出していた。


「おいおい。なんて威力だよ。」


 ベルンハルトは吹き飛んだ天井を見上げ、その破壊力に呆気に取られる。アイリスの魔法がなければ危なかっただろう。


「こりゃあイトー団長に怒られそうだな、ベル。壊したの俺達じゃないけど。」

「過ぎた事は仕方ないわ。それよりも、今の爆発でトイセン支部にいる騎士達も異変に気づいたはずよ。応援にそんなに時間はかからないはず。何とか持たせるわよ。こんなヤバイのを外に出す訳にはいかないわ。」


 黒い蛇はケタケタと音を出しながら、ゆらゆらと左右に揺れている。刺さった破片がビチャビチャという不快な音と共に地面にカランカランと落ちる。


「全員、遠距離攻撃用意。いい?絶対に近づいちゃだめよ。」


 アイリスが指示を飛ばす。エルヴィンは木の葉を五枚取り出し、黒い蛇へと投げつけた。木の葉は黒い蛇の周囲を右回りに高速循環する。


「十の術、紅蓮陣(ぐれんじん)!」


 五枚の木の葉から火が噴き出し、黒い蛇を焼く。ジュワジュワと肉の焦げる音がする。嫌な匂いも立ち込めてきた。続けて、ベルンハルトとツェツィが魔法剣で追撃をかける。


岩竜棘(がんりゅうし)!」

天風刃(てんぷうじん)!」


 ベルンハルトが岩の棘で黒い蛇を突き刺し、ツェツィが竜巻のように巻き起こる風の刃で切り裂く。


「$&∧¥&¥∧!」


黒い蛇は再び意味不明の叫びを上げる。黒い蛇は不気味な紋様が浮かぶ半透明の障壁に包まれた。カルツァはチッと舌打ちする。


「やはり、魔法を詠唱しているな。厄介な相手だ。」


 黒い蛇がさらに激しくケタケタと音を出し始める。エルヴィン達はさらなる攻撃に身構える。


 その時、ゴゴゴゴと地面が揺れ始めた。大広間の床に亀裂が入っていく。轟音と共に大広間の床を突き破り、正二十四面体の物体が姿を現した。正二十四面体の中には虹色に輝く円環があり、七色の稲妻が周囲にほどばしっている。エルヴィン達が地下で聞いた音も出していた。


  黒い蛇がケタケタケタと音を出しながら、正二十四面体へと吸い込まれ消えていった。エルヴィン達にも強力な引力が働き、正二十四面体へと引き寄せられる。


「な、何よ・・・これ・・・。こんな魔法見た事ないわ・・・。」

「うお!?体が引っ張られる!?エル!何とかできねえ!?」

「無理だ!引力が強すぎて動けねえ!」

「や、やばいよこれ!ど、どうすればいいの!?」

「これは・・・まさか永久円環(エタニティリング)か!?まずい!」


 エルヴィン達はその場で踏ん張って引力に抗おうとするが、じりじりと引き寄せられていく。その中で、いつも冷静さを崩さないカルツァが目に見えて慌てていた。カルツァ以外は永久円環(エタニティリング)が何であるか分からなかったが、とても悪い状況だと察する事はできた。


「青き力は退魔の盾となり、汝を守らん。青の盾(ブラウシルト)。」


 カルツァが魔法の詠唱を終えると、エルヴィン達は青い障壁で包まれる。カルツァは懐から幾何学模様が刻まれた短剣を出し、地面に突き刺した。


「あの中はおそらく異次元空間だ。バラバラの位置に飛ばされかねん。中に入ったら合流を最優先にするんだ。」


 そう言うカルツァにエルヴィンは大声で聞き返す。その場で踏ん張るのもそろそろ限界だった。


「合流の後はどうすんだ?」

「分からん。だが、出来る限りの事はした。神様にでも祈ってくれ。」


 そしてエルヴィン達は全員、謎の正二十四面体の中へと吸い込まれていったのであった。


*********


 時はエルヴィン達が黒い蛇と遭遇する少し前に遡る。ライエンは団長室で書類を眺めていた。内容はエルヴィン達に関するヴェンツェルの評価だった。ライセンは書類を放り投げると、大きくため息を吐いた。


「ヴェンツェルの奴め。いくら期待の新人だからと言って、買い被り過ぎではないのか。」


 エルヴィン達の能力が新人達の平均値より高い事は疑ってはいないが、今回の任務は荷が重いのではないかと考えていた。あのヴァレンシュタイン城の案件は新人が成果を上げられるとは思えなかった。


「だが、勘の良さは評価すべきか。」


 ライエン自身、腹芸が得意という訳ではない。だが、エルヴィンに情報を隠している事に感づかれたのは驚いていた。新人に任せる情報は、一部が伏せられている。与えられた情報だけが全てではないという教訓を教えるためだ。


「それに、あのクライン家の若造も侮れんな。」


 推測とはいえ、カルツァは伏せていた情報にたどり着いた。ある者が封印されているという情報に。


「それでも、解決はできんだろう。魔国ですら、あれ(・・)は無理だったというのに。」


 その時、窓の外が一瞬光る。続いて激しい爆発音が聞こえ、トイセン支部全体を揺るがした。支部内が騒がしくなり、団長室の扉が勢いよく開かれた。


「イトー団長!緊急報告です!」

「落ち着け。どうした?何があった?」

「ヴァレンシュタイン城の上半分が・・・完全に消失しました!」

「何だと?原因は?」

「不明ですが、魔力計が振り切れたため、おそらく大規模魔法による爆発かと!」


 大規模魔法が使われたのなら、強力な魔導師がいる可能性がある。ライエンは魔法兵団の支援を求める事を即座に決めた。


「トリチェリ兵団長に至急連絡。ノックス魔国大使館の方にも連絡を入れておけ。動かせる団員は全員ヴァレンシュタイン城へ急行しろ。」

「了解しました!」


 報告にきた団員はバタバタと走り去っていった。窓から外を見てみると、住民達が騒いでいるのが見える。混乱が広がっているようだ。


「一体、何が起こってやがる。」


 ライエンは自分の装備をひっつかむと、団員と共にヴァレンシュタイン城へと急行するのであった。


*********


 虹色の世界に、荒廃した建物や瓦礫がたくさん浮いている。瓦礫が重なり道となり、その遙か先には大きな城がそびえていた。


「ここは一体何なんだ?」


 エルヴィンは周囲を警戒しつつ、瓦礫の道を進んでいた。謎の正二十四面体に吸い込まれた後、気づいたら瓦礫の上で倒れていた。周囲に仲間の姿はなく、カルツァの懸念通りエルヴィン達はバラバラに飛ばされてしまったようだった。一本道なので迷うことはないものの、誰の姿も見えない。


 しばらく歩いていると、広い場所へと出た。通り過ぎようとしたが、何者かの気配を感じた。無言のまま立ち止まり、剣を抜き、エルヴィンはじっと感覚を研ぎ澄ます。斜め右前方、柱のように突き刺さっている瓦礫の裏に誰かがいるようだ。感じる魔力からも仲間ではない。


「あら。随分と警戒心のある子猫くんね。」


 大きな瓦礫の影から出てきたのは、黒いドレスを着た女性だった。エルヴィンは冷静にその女性を観察する。金糸のような髪、白い肌、尖った耳、真紅の瞳。真紅の唇の間には、白い牙が顔を覗かせている。蝶を象った真紅の髪飾りが印象的だった。間違いなく、魔族の中で吸血鬼と呼ばれる種族だ。


「心配しなくても、私は敵じゃないわよ。」


 吸血鬼の女性は手をひらひらさせる。戦意はないようだった。警戒しつつも、エルヴィンは剣を鞘に戻して問う。


「君は誰だ?」

「名乗る時は自分からでしょ?子猫くん。」

「・・・ああ、そうだな。俺はエルヴィン。ドラグガルド連邦の騎士だ。」

「私はノックス魔国のシュメッタよ。」

「シュメッタ。君が魔王に逆らってヴァレンシュタイン城に封印されたという吸血鬼なのか?」

「その情報は間違ってるわね。まず、第一に魔王様に逆らってなんていないわ。むしろ、魔王様の命令でヴァレンシュタイン城に来たんだから。」

「あれ?そうなのか?」

「互いの認識に相違があるようね?良かったら情報交換しない?外の事も知りたいし。」


 シュメッタはエルヴィンに情報交換を持ちかける。この摩訶不思議な空間の事や仲間を探す手掛かりになるかもしれないと思い、警戒はしつつもその提案に乗る事にした。


「私はね、ヴァレンシュタイン城にいる使徒を殺しに来たのよ。魔王様の命令を受けてね。」

「使徒・・・?」

「破壊神ツェアシュテールの血を受けた奴らの事。」


 エルヴィンにとって使徒という存在は初耳だったが破壊神ツェアシュテールの名前は聞き覚えがある。神話の中で、力と引き換えに破滅をもたらす神だったはずだ。


「なんでそいつらを殺すんだ?邪神と聞くとヤバそうな奴らだが。」

「使徒はね、この世界(フェリウス)を破壊しようとしてるの。」

「は?何でだ?」

「破壊神ツェアシュテールの上にいる神って知ってる?」

「いいや。神様の系譜は神話の授業で習ったが覚えてないな。」

「大神レイネス=ヴァサエルよ。大神レイネス=ヴァサエルと破壊神ツェアシュテールを含めたその配下神は古龍と敵対しているの。古龍が見守り、育ててきたこの世界(フェリウス)が邪魔なのよ。使徒はその意向を受けて動いてる。」

「俄には信じがたいんだが。そもそも神様って実在するのか?」

「そんなの知らないわよ。見たことないもの。」

「おい!」

「でも現実に使徒は存在しているわ。歴史の裏から世界(フェリウス)を破壊しようとしてきたのも事実。実際、魔王戦争を引き起こしたのだって使徒なんだから。私が言えるのはそのくらいね。」


 内容はともかく、嘘を言っているようには見えなかった。それに、魔族が魔王絡みの嘘を吐くはずはない。だからとりあえずは信じる事にする。


「とにかく、それで使徒を殺しに来たんだけど、どっかのバカがよりにもよって永久円環(エタニティリング)を発動させやがったの。おかげで私も使徒と仲良く封印ってわけ。」

「シュメッタは封印に巻き込まれたのか。」

「そうよ。私はとばっちりを受けたの。」


 シュメッタが言うには、永久円環(エタニティリング)とは異次元空間に犯罪者を閉じ込める魔法機械とのことだった。時空の内側に異次元空間を形成するため、周囲の時空に影響を及ぼしてしまうらしい。カルツァが指摘したように「時空が歪んでいる」のはこのせいだったのだ。


「今度はあなたが話す番よ。」

「分かった。俺達は・・・。」


 エルヴィンは仲間の事とヴァレンシュタイン城に来た経緯を話した。仲間に女の子が二人いると話すと、シュメッタは渋い顔をする。


「まずいわね。ここにいる使徒は無類の嗜虐趣味なのよ。女性限定のね。最低な奴よ。」

「まじかよ!?早くツェツィとアイリスに合流しないと!」


 ツェツィとアイリスが危ないかもしれないと知り、エルヴィンが駆け出そうとする。


「待って。私も探すのを協力するわ。私なら魔法で広範囲の探索できるわよ。」

「そいつは助かる!」


 その申し出はエルヴィンにはありがたかった。エルヴィンはシュメッタを連れて、仲間達との合流を目指すのであった。


*********


 日が傾き、空が橙赤色に染まる頃。クオンは魔装剣の練習をしていた。目を閉じて体の中の魔力を意識し、剣を包むようにイメージする。ゆっくりと魔力を流していくと、次第に剣が青く光ってきた。


(すぐできなくてもいい。無理せず確実に確実に・・・。)


 刀身全体が青い光で包まれると、その状態を維持する。気を抜けば魔力が散逸してしまいそうだ。五分、十分、二十分と時間が過ぎていく。汗がクオンの顔を伝って、ポタポタと流れていく。


「っ!はあっ!」


 三十分が経過した時、剣を纏っていた魔力が散逸する。青い光も消えた。汗を滴らせながら、クオンは息を吐く。鈍足ではあったが、次第にクオンは成長していた。魔装剣も魔力爆発させずに維持できるようになっていた。


「三十分が限界か。せめて一時間まで伸ばしたいな。」


 実戦で使うためには、まずは維持ができなくては話にならない。こればかりは繰り返し鍛錬あるのみだ。気を抜いた瞬間、どっと体中から熱が開放されていく感覚がした。全身から火が出ているような感じだ。外気で肌が冷えるのを待つ。同時に心地よい疲労感に包まれる。


(今日はこのくらいで終わりにしよう。)


 持ってきたタオルで汗を拭こうとするが、すでに何回も使ったせいでかなり湿っている。


「お疲れ様。クオン。これ良かったらどうぞ。」


 いつの間にか、カリンが傍に立っていた。カリンは手に真っ白なタオルを持っている。


「ありがとう。見てたの?」

「うん。部屋の窓から見えたの。」


 クオンはタオルを受け取ると、汗を拭う。カリンが近くまで来たので、クオンは自分の匂いが気になっていた。


(やっぱり汗臭いよね。早くお風呂入らないと。)


 クオンは汗の匂いを気にしていたが、カリンはクオンの匂いは嫌いではなく、そのままクオンの密度の濃い匂いの中に留まっていたい気持ちにさせた。


(クオンの匂いがいっぱいしてる・・・はっ!私ってなんて変態なことを!でも、もうちょっとだけ・・・。)


 カリンが悶々としている間に、クオンは体を拭き終わった。


「ありがとう。助かったよ。」

「どういたしまして。その使ったタオル、二枚とも私が洗濯室まで持っていくよ。」

「えっ。でも汗臭いし・・・。」

「いーのいーの。これぐらい任せてよ。」

「そう?じゃあお願いするね。」


 クオンは館の中へと消えていく。カリンはキョロキョロと周囲を見渡した後、手元のタオルに視線を落とす。いけないと思いつつも、タオルに顔を(うず)めた。鼻腔にクオンの香りが満ちる。


(何だか、ちょっぴり背徳感・・・。)


「カリンちゃん。何してるの?」

「ひゃう!?」


 イケない気分に浸っていると、不意に背後から聞き慣れた声が響いた。びっくりして振り返ると、そこにはルビーがいた。ルビーは猫口になって、むふふ~と興味津々にカリンを見ていた。カリンは咄嗟にタオルを背後に隠す。


「ル、ルビーさん。」

「ん~?今何を隠したのかな~?」

「な、何でもありませんよ。ほら、ただのタオルです。」


 タオルは二枚ともクオンの汗で湿っていたが、下手に隠す方が怪しまれると思い、カリンはタオルをルビーに差し出す。


「湿っているわね。」

「クオンが汗を拭くのに使いましたから。」

「へ~。じゃあ、何でカリンちゃんはこのタオルに顔を埋めていたのかしら?」

「み、見てたんですか!?」

「あら、やっぱりそうだったのね。」

「~っ!?」


 鎌をかけられ、あっさり引っ掛かってしまうカリン。ルビーはニコニコしている。カリンは何も言い訳が思い付かず、口をパクパクとさせる。羞恥で顔から火が吹き出そうだ。動けずにいると、ルビーはカリンの耳に口を寄せて、妖しく囁く。


「クオンの匂いがそんなに良かったの?」

「ひっ!?」


 ズザッと後ろに飛び退くカリン。ルビーはいたずらっぽくクスクスと笑っていた。その姿はリッカそっくりだ。やはり親子と言うべきか。


「別にこそこそしなくても、クオンに嗅がせてって頼めば快く応じてくれるわよ。」

「そそそ、そんな事できません!わ、私、洗濯室に行くのでこれで失礼します!」


 羞恥の限界を超えたカリンは、顔を真っ赤にしたまま走り去っていった。ルビーはそんなカリンの背中を微笑ましく見送る。


「あらら。逃げられちゃった。残念。やり過ぎちゃったわね。」


 ルビーは小さく舌を出す。その仕草はリッカそっくりなのであった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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