第三十三話「古典魔法と現代魔法」
続きとなります。
コリン=マクローリンは数学の先生というだけでなく、王国大学を卒業した優秀な魔導師でもある。なので、魔法の授業も受け持っている。とはいえ、魔法は選択授業なので受けている生徒数は少ない。平民は基本的に魔法が使えなくても問題ないからだ。
魔法には大きく分けて古典魔法と現代魔法に分類されている。古典魔法と言えど使いこなすにはぞれなりの時間と鍛練が必要である。なので、クオン達を含めて冒険者をやっている生徒か、興味で受けている生徒しかいない。一方で、現代魔法は専門的な数学が必要なため、王国大学の魔導師学科に入学する必要がある。
今日の古典魔法Ⅰの授業は生徒の魔力量を見る。なのでクオン達のクラスの履修者は特別教室と呼ばれている部屋に来ていた。クオン、カリン、リリス、ナツメを含めて合計十名だ。コリンが準備している間、カリンはクオンと話していた。
「コリン先生って魔法も得意なんだね。」
「元々、王国大学魔導師学科のエリートだからね。魔法兵団幹部候補だったらしいし。」
「えっ、そうなの?」
「うん。でも数学の研究をゆっくりしたくてアルセイド州に来たらしいよ。在学中に数学と魔法の教員免許を取ったって言ってた。」
本来ならば、王国軍の魔法兵団幹部になってもおかしくはない経歴である。だがコリンは数学の研究を取った変わり種だった。
「ちょっと聞きたいんだけどさ、魔法使いと魔導師って違うの?」
「うーん。魔法使いの中でも特別な教育を受けた人が魔導師。もっと詳しく言うと、魔法を専門の職業にしているのが魔法使いや魔女。その中でも、魔導師学科を卒業して魔導師資格を取得した人が魔導師だよ。でも、魔導師でも女性は魔女って名乗る事が多いかな。伝統的な名称で愛着があるから。」
「なるほどー。」
クオンとカリンが話をしているうちに、コリンが準備を終える。台座の上に、人の頭の大きさ程の、透明な水晶球が置かれていた。コリンが手元の水晶板を操作すると、水晶球が仄かに輝きだす。
「これから、皆さんの魔力量を測りたいと思います。春学期もしましたが、カリンさんは初めてなのでもう一度説明するね。この水晶に手をかざしてください。では、リリスさんからどうぞ。」
「はい。」
リリスは水晶球に手をかざす。すると、水晶球が魔力を検知して仄かに光だした。コリンの持っている水晶板に数字が表示される。
「リリスさん。110ダイン。」
コリンが数字を読み上げる。ほぼ平均並みの魔力量である。
「ちょっとだけ上がってるわね。まあ予想通りかな。」
リリスに続き、他の生徒も順番に魔力を測定していく。クオンが300ダインと高めではあるが、だいたいの生徒はほぼ平均当たりの魔力量だった。
「次はカリンさん。準備してください。」
「は、はい。」
カリンは緊張した面持ちで、水晶球の前に立つ。竜角人は圧倒的に人間より魔力量が高い。アルセイド伯爵家の持っている魔力測定器で事前に測って見たところ、測定不能の上に壊れてしまった。少なくとも測定限界の10000ダイン以上はあるということだ。なのでルビーやクオンと話し合い、魔力を隠すことにしたのであった。
カリンは水晶球に手をかざす。人差し指には魔力隠蔽の魔道具―――隠者の指輪がはめられていた。水晶球が魔力を検知し、光を出す。
「カリンさん、900ダイン。すごいね。魔導師平均近くあるよ。」
魔力を抑えることはできた。一般人としてはかなり高いが、常識的な範囲内ではある。カリンはほっと胸を撫で下ろす。
「皆、測定は終わったね。席に着いてください。」
全員が席についたのを確認すると、コリンは話を続ける。
「自分の魔力量は把握しておくこと。魔力切れを起こすと失神することもあるからね。魔力量が総量の一割を切ることがないように。魔力を数値化する魔道具があればいいけど、いつもあるとは限りません。できれば、一度は魔力切れ寸前まで試して、感覚で自分の限界を覚えておいた方がいいです。特に、冒険者をやっている生徒はね。」
クオンを初め、冒険者をしている生徒達はうんうんと頷いていた。
(私も、自分の限界を知っておいた方がいいよね。)
カリンは自分自身の魔力総量を知らない。魔力切れを起こしたこともなかった。
「残りの時間は春学期のおさらいをします。次回から新しい範囲に入るので予習しておいてください。」
王立学院で教えるのは、主に古典魔法である。古くから積み重ねられた経験則による魔法体系だ。コリンは板書に要点だけを書きだしていく。
「教科書に書いてある通り、魔法には古典魔法と現代魔法があります。皆さんが王立学院で習うのは古典魔法の範囲です。」
古典魔法で大事なのは詠唱とイメージである。その二つによって魔力を制御し、様々な事象を引き起こしている。古典魔法には炎、氷、水、土、雷、風、光、闇、無の九属性がある。それに加え、剣、盾、球、矢などの形状があり、属性と形状を指定することで発動する魔法が決まる。例えば、属性に炎、形状に球を指定すると炎球、剣を指定すると炎剣、盾を指定すると炎盾、矢を指定すると炎矢になる。
「今、板書した範囲は古典魔法の全ての基礎となります。例外もありますが、それは秋学期の後半で教える予定です。」
カリンが予め目を通したシラバスによると、第十学年のカリキュラムでは、基礎魔法の習得が目標と書いてあった。講義は座学と実践が半々である。
カリンは師匠であるベリルに一通り魔法を習ったが、現在は古典魔法に分類されるようだ。コリンの説明と板書の限り、基本的な事項は変わっていない。配布された教科書をペラペラとめくってみる。
(師匠から習った事とかぶってるとこも多いけど、知らない魔法もあるみたい。)
自分が眠っていた三百年の間に発展した魔法にワクワクしているカリンなのであった。
*********
放課後、カリンは職員室にいるコリンを訪ねた。現代魔法について聞きたかったからだ。三百年前には聞いたことがなかった魔法だった。あらかじめクオンに聞いてみたところ、概要だけは知ることができた。
現代魔法で使われるのは詠唱とイメージではなく、数学で制御されている。自然法則を記述するのは微分方程式や線形代数といった数学だ。魔力で炎や氷などの物理現象を起こす変換、魔力そのものに物理的特性を与える相転移、魔力を直接放射する放射がある。
経験則だった古典魔法を、自然法則を示す数式で再編・拡張したのが現代魔法だ。
「おや?どうかしたのかい?」
「コリン先生。現代魔法について教えてもらいたいのですが、よろしいですか?」
「それは構わないけれど、カリンさんは現代魔法に興味あるの?」
「はい。その、今まで聞いたことがなかったので。」
「ああ、なるほど。まあ普通は古典魔法で事足りるし、冒険者でも現代魔法使う人はあまりいないからね。」
「そうなんですか?」
「高度な数学がいるからね。さすがに独学ではきついよ。必然的に大学で学んだ魔導師か魔工師くらいしかいないかな。どちらもだいたい国家に所属して高給だから、わざわざ冒険者になる人は少ないね。」
「数式で魔法を構築する事の利点って何ですか?」
「んー。それを教えるのは簡単なんだけど、ちょっと自分で考えてみようか。なぜ数式を使うのか、カリンさんはどう思う?自分なりの答えで構わないよ。」
「えっと、そうですね・・・。」
カリンは思考を巡らせる。コリンは黙ったまま、カリンが答えるのをじっと待っていた。
「魔法の、定量的な扱いが可能だからですか?」
「ふむふむ。それで、定量的な扱いができたら何が嬉しいのかな?」
「魔法を個々のイメージに頼ることなく、精密に制御できる・・・ですか?」
数式で表現するということは、定量的な扱いができるということだ。魔法の効果や範囲を精緻に決めることができる。イメージに依存する部分がある古典魔法では、個人によって効果や範囲にブレが出てしまう。
「うん。正解。さらに言うとね、精密な制御が可能ということは、一度数式を組んでしまえば誰でも同じ効果の魔法を得られるという利点があるんだ。これは、特に魔法機械の設計には重要なことだよ。」
「なるほど。使う人によって効果が違ったら危ないですもんね。」
「そういうこと。炎球の魔法で例えてみようか。」
コリンは計算用紙を一枚取り出すと、説明のための図式を書いていく。
「まずは古典魔法で炎球を発動する場合。炎の球体をイメージしながら、詠唱すると炎球が発動する。この場合、個人によってイメージが異なる事が原因で効果がぶれる。ボヤを出す人もいれば、大爆発を起こす人もいる。次に現代魔法の場合。熱力学の法則を使う。法則は数式で記述されるから、イメージのような曖昧さはない。同じ数式なら誰が使っても同じ結果になる。」
「ふと疑問に思ったんですけど、どうやって数式で魔法を発動するんですか?まさか、数式を口で言うんですか?」
「あはは。さすがにそれはないよ。魔法機っていう特別な装備が必要なんだ。」
「魔法機?」
「ここは、僕の魔法機を実際に見せた方が早いね。」
コリンは左腕に装着している腕輪を見せる。銀色で、青色の宝石が象眼されていた。
「これが魔法機ですか?」
「そうだよ。今は基底モードだから腕輪の形になっているけれど、励起モードになれば武器の形になるんだよ。こういう風にね。解放!」
コリンの声と共に、銀の腕輪が光となる。光はコリンの右手に収束し、次の瞬間には銀色の杖が出現した。
「これが励起モードだよ。杖の先に青い宝石があるでしょう?これは人工精霊結晶と言って、人間の頭で演算ができるようにするためのものなんだ。この結晶のお陰で、魔導師は現代魔法を使えるんだよ。待機!」
コリンが持っていた銀色の杖が、再び光となる。光は左腕に収束し銀色の腕輪へと戻った。コリンが言うには、魔導師は魔法機をペンダントや腕輪などの形にして持ち歩いているとのことだった。そして、悪用を防ぐため、魔導師免許か魔工師免許の所持者だけが魔法機を所持できるとのこと。
「もし、魔導師を目指すとしたら、何をすべきですか?」
「カリンさんはまだ高等部一年だし、無理に背伸びしなくて大丈夫だよ。まずは古典魔法を熟達することかな。体系は違うけど、現代魔法の習得には大いに助けになる。」
「分かりました。今日はありがとうございます。コリン先生。」
「いえいえ。また質問があったら遠慮なく来てね。」
コリンのアドバイスを受け、まずは古典魔法を極める事を目標にするカリン。
(魔導師になるかはまだ分からないけど、今は興味ある事を自分なりに頑張ってみよう。)
**********
エルヴィン、ツェツィ、ベルンハルトの三人はヴェンツェルに呼び出され、団長室を訪れていた。団長室は机と椅子と本棚だけという飾り気のない部屋はヴェンツェルの性格をよく表していた。
「お前たちに任せたい仕事がある。」
ヴェンツェルはそう話を切り出す。一枚の紙を取り出すとエルヴィンに渡した。渡された紙は指令書だった。
「魔法兵団からアイリス=ガーランドとカルツァ=クラインの二名。協力して任務を遂行しろ。」
入団した新人は一通りの任務を経験させられる。その後、適性と本人の希望を考慮して配属先が決定されるという仕組みになっていた。
エルヴィン達は指令書に目を通す。任務の内容はヴァレンシュタイン城の調査。ヴァレンシュタイン城はドラグから北へ三日ほどの場所にあり、二十年前に廃城となっていた。だがここ最近、不審な人物の出入りが目撃されていると指令書には記載がある。
「お前達の初任務だ。特にエルヴィン。首席として恥ずかしくないようにな。では、解散。」
エルヴィン達は一礼して団長室から退出すると、廊下を歩きながらこれからの事を相談する。
「まずは魔法兵団の二人と会わないとね。どうする?エル君。今から会いに行く?」
「そうだな。期限もあるし、今すぐ会いに行こう。ベルもそれでいいよな?」
「ああ、俺は構わないぜ。」
「アイリスさんって魔法兵団側の首席だよね。入団式の時に見たから顔は分かるよ。カルツァって人の方は知らないけどアイリスさんに聞けばいいと思う。」
魔法兵団のアイリスとカルツァに早速会うことにしたエルヴィン達は騎士団本部から出て魔法兵団本部へと向かう。
「そういえば、魔法兵団って変わり者が多いって噂じゃん。変な奴だったら嫌だよな。任務も大変になるし。」
「ベルは真面目だなー。もっと気楽にいこうぜ。」
「エル君はもっと気にした方がいいんじゃないかな・・・。まあエル君らしいけど。」
話をしている内に、魔法兵団本部が見えてきた。魔法兵団本部は三階建ての煉瓦造りになっていて、魔法研究所が隣接している。グリフォンの像が左右に鎮座する入口から中へ入ると、ちょうど受付窓口があった。
「こんにちは。何かご用ですか?」
受付窓口で対応してくれたのは犬耳お姉さんだった。どこかハチに似た雰囲気を纏っている。エルヴィンは受付のお姉さんに用件を告げる。
「俺は騎士団のエルヴィン=ズィルバーだ。アイリス=ガーランドとカルツァ=クラインに会いに来たんだけど。」
「場所を確認いたしますので、少々お待ち下さい。」
お姉さんは手元の水晶端末を操作すると、水晶板に文字が次々と表示される。
「アイリスさんとカルツァさんは訓練場にいるようですね。もうすぐ訓練が終わるようです。」
「じゃあ、その訓練場に行けば会えるのか。」
「はい。この廊下をまっすぐ進んで外に出れば訓練場があります。アイリスさん達がいるのは訓練場二階の第四訓練室です。」
「ありがとう。行ってみるよ。」
エルヴィン達は受付を後にする。言われた通りに廊下をまっすぐ進むと裏口から外に出た。すると、少し先に本部と同じような石造りの建物があった。入口には『訓練場』という看板が掲げられている。ローブを着た魔導師数人とすれ違いながら中へと進んだ。エルヴィン達は入口のすぐ近くの壁にあった案内図を見て、第四訓練室の位置を確認する。
「二階の、一番奥だな。」
エルヴィンはそう呟くと階段へと歩を進める。ベルンハルトとツェツィも後を付いていく。ベルンハルトは物珍しそうに周囲を見渡していた。ツェツィは少し緊張した様子だ。そのままエルヴィン達は階段を登り、二階の奥にある第二訓練室にたどり着く。扉には『訓練中』という札が掛かっていた。
「あれ?まだ訓練中だね。少し待ってみる?」
ツェツィがそう言った瞬間、訓練室の扉がゆっくりと開く。部屋の中から現れたのは、猫耳の少女だった。
「あら?あなたは・・・。」
「君がアイリスさんだよな?」
「ええ、そうよ。あなたはエルヴィン君だったかしら?」
入団式の時に顔を見ていたので、すぐに目の前の少女がアイリスだと分かった。アイリスもエルヴィンに見覚えがあったようだ。
「ああ、合ってる。俺はエルヴィン=ズィルバー。ヴァレンシュタイン城の調査の件で君とカルツァさんに会いに来た。」
「そうなの。ちょうど良かったわ。訓練が終わったら騎士団本部に行こうと思ってたの。で、こいつがカルツァよ。」
アイリスの背後からぬらりと黒い影が現れる。影の正体は、エルヴィンが入団式で見た黒豹耳の少年だった。
(入団式で俺に殺気飛ばしてた奴じゃねえか!こいつがカルツァだったのか!)
カルツァは入団式でエルヴィンに殺気を放っていた人物だった。カルツァもエルヴィンに気づくと、まるで血のような真紅の目で睨んでくる。
「とりあえず、一階の会議室に移動しましょ。私に付いてきて。」
アイリスはそう言うと歩き出す。カルツァはエルヴィンから視線を外すと、まるで密着しそうな勢いでアイリスに付いていく。その様子にエルヴィン達は顔を見合わせる。
「一体、なんなんだあいつは。」
「アイリスさんはいいとしてカルツァはやばそうだな。エルを睨んでたし。」
「とりあえず付いていこうよ。アイリスさん見失っちゃうよ。」
何だか不穏な感じがするカルツァの事は一旦置いといて、エルヴィン達は後を追う。一階に降りて少し廊下を歩くと、第一会議室と書かれた扉があった。『空室』の札が掛けられている。アイリスは札をひっくり返して『会議中』へと変えた。
「さあ、中へ入って。」
アイリスとカルツァに続いてエルヴィン達は会議室に入る。立派な長机が四つ、正方形に並べられていた。アイリスとカルツァの組とエルヴィン、ツェツィ、ベルンハルトの組で分かれ、向かい合って座る。
「改めてエルヴィン=ズィルバーだ。よろしくな。」
「ツェツィーリア=メルツァー。ツェツィって呼んでね。」
「ベルンハルト=ブラオンだ。よろしく頼む。」
「エルヴィン君、ツェツィ、ベルンハルト君ね。私はアイリス=ガーランド。アイリスでいいわ。よろしく。」
「カルツァ=クライン・・・。カルツァでいい。」
互いに自己紹介をすると、エルヴィンは早速、気になっている事をカルツァに尋ねる。
「なあカルツァ。お前、入団式で俺に殺気飛ばしてただろ。何でだよ?」
「貴様が俺のアイリスに色目を使っていたからだ。」
「俺の?アイリスとカルツァって付き合ってるの?」
ツェツィが答えを求めてアイリスに尋ねるが、アイリスはものすごく嫌そうな顔をしていた。
「・・・簡単に説明すると、こいつが一方的に私に想いを寄せてるのよ。こいつと恋人なんて死んでもごめんよ。」
アイリスによると、入団試験でカルツァがアイリスに一目惚れし、それ以来熱烈なアプローチを受けているとのこと。断ってもめげないカルツァにうんざりしているらしい。
「つまり、カルツァが好きな子を俺がじっと見てたから殺気飛ばしたのか。」
「その通りだ。貴様の視線が気にくわなかった。」
「だからって殺気飛ばすなよ。何事かと思ったぞ。」
「ふん。次からは気を付けることだな。後ろから刺されたくなければ。」
カルツァは悪びれもせずそう言い放ちエルヴィンを呆れさせた。隣のアイリスは自分の額に手を当てて盛大なため息を吐いている。
「なあ、こいつ大丈夫なの?」
「性格はアレだけど、クライン家だけあって魔法の実力は優秀よ。私の言うことは聞くし、任務には役に立つわ。」
クライン家と聞いて、エルヴィンとベルンハルトは首を傾げたが、ツェツィは知っているようだった。やっぱり、と納得していた。
「名前を聞いた時から思ってたけど、やっぱり貴族のクライン伯爵家の人だったんだ。」
「そうよ。代々魔導師を輩出してる名門ね。」
「でも、今年の首席はアイリスなんでしょ?すごいね!クラインに勝っちゃうなんて!」
「ま、まあ運がよかっただけよ。」
褒められて嬉しいのか、少し頬が赤くなるアイリス。栗色の尻尾も忙しなく揺れていた。そこに、何故かカルツァが口を挟んでくる。
「運ではない。俺のアイリスはすごいんだ。」
「カルツァ、何でそこでお前がどや顔なんだよ・・・。」
「こういう奴だから気にしないで。さて、互いに自己紹介も終わったし任務の打ち合わせをしましょうか。」
アイリスは席を立つと黒板の前に移動する。白いチョークで皆の名前を書いていく。
「最初にリーダーを決めましょ。チームで動くんだから。」
この中から順当に選ぶとすると、首席のエルヴィンかアイリスになる。だが、エルヴィンはアイリスを推した。
「アイリスでいいんじゃないか?そもそも、俺だとカルツァが指示を聞かないだろ。」
「うっ、確かにそうね・・・。分かった。今回は私がリーダーをする。じゃあ次は皆の能力を知りたいわ。言える範囲でいいから教えて。」
アイリスはエルヴィン達の申告した内容を黒板に書いていく。
「エルヴィン君はずいぶん器用ね。ベルンハルト君はゴーレムが使えて、ツェツィは氷と風属性の魔法が得意っと。」
アイリスはエルヴィン達の能力の次に、自分とカルツァの能力を書いていく。書き終えると、チョークを置いて振り返る。
「私は古典魔法を一通りできるわ。カルツァは炎と雷、闇属性の魔法が得意よ。」
「こうしてみると、このメンバーなら何でもできそうだな。」
「エルヴィン君の言う通りね。指令書の内容を見るに、不確定要素があるみたいだし、上は意識して選んだんだと思うわ。」
アイリスは自分の鞄から地図を取り出すと、黒板に磁石で張り付ける。ドラグラント連邦を詳細に描いた地図だった。アイリスは指示棒を取り出すと、地図上のある一点を指し示す。
「ヴァレンシュタイン城に一番近いのはトイセンの街よ。まずはそこへ行きましょう。」
「期限もあるし、早く動いた方がいいな。城を調べるとなると時間かかるはずだ。そういや、城の図面はあるのか?」
エルヴィンはアイリスにヴァレンシュタイン城の図面の有無を尋ねる。すると、アイリスは首を振った。
「エヴァンジェリスタ様に聞いたけど、ヴァレンシュタイン城が廃城になったせいで図面は処分されたらしいわ。」
「じゃあ、手分けして虱潰しに探索するしかないな。それで、いつ出発するんだ?」
「そうね。明日・・・と言いたいところだけど、魔道具の調整があるの。明後日の朝でどうかしら。」
「俺は大丈夫だ。ベルもツェツィも問題ないよな?」
「ああ。」
「うん。大丈夫だよ。」
「決まりね。馬車を手配しておくわ。明後日の朝八時、北門に集合ね。」
明後日の朝に出発する事を決めると、ここで一旦解散となったのであった。
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「クオン。お願いがあるの。」
宿題を終わらせて一息ついていたクオンの部屋にカリンが訪れていた。クオンもカリンもそろそろ寝る時間なので、互いに寝間着姿だ。制服の時とは違った色香がある。
「な、何かな?」
夜の部屋に寝間着姿で二人っきり。やましい事は無くとも健康的な男子なら意識せざるを得ないシチュエーションだ。クオンはドキドキしながらカリンの言葉を待つ。
「あのね。私、自分の魔力量を知りたいの。」
「魔力量・・・。でもカリンの魔力量は凄まじいから並みの測定器じゃ測れないよ?」
「うん。分かってる。だから魔力切れまで魔法を使ってみるつもり。魔力切れになると気絶することもあるんだよね?魔力切れになったらフォローして欲しいの。無理ならいいんだけど・・・。」
「そこまでしなくてもいいんじゃない?ハーヴィ博士に高容量の測定器がないか打診してみようか?」
魔力切れまで魔法を使うということは、体に負担がかかる。クオンはカリンの体を心配してそう提案するが、カリンは頭を振る。
「一度は経験しておいた方がいいと思うの。」
「どうしてもしたいなら協力するけど・・・でも、その・・・。」
クオンは口ごもる。たとえ気絶しなかったとしても、体に力が入らなくなるはずだ。つまり、カリンはクオンの前で無防備になる。
(カリン、分かって言ってるのかな・・・。いや、分かってないんだろうな。)
口ごもるクオンを見てカリンは首を傾げていた。このままカリンのフォローを了承すればクオンにとっては役得だが、カリンの好感度を下げたくはない。正直に問題点を指摘する。
「魔力切れしたらカリンは無防備になるよね?」
「うん。そうだね。」
「抵抗はないの?その、僕の前で無防備になるんだよ?」
「あっ・・・。」
クオンの言葉でカリンはやっと気づいた。カリンのぽっと頬が赤くなる。頬を朱色に染めて、上目遣いでクオンを見ながら口を尖らせる。
「私に、へ、変なこと、するの・・・?」
「し、しないよ!?」
多分、と心の中で付け加えておくクオン。あわよくばちょっとだけ触れたいなという男な願望は表情の裏に隠す。
「でもほら!僕だって男だし!?少しは危機感は持った方がいいと思うんだ!女の子としてさ!」
必死になるクオンに、思わずぷっと吹き出すカリン。いきなりだったので、クオンは呆気に取られた。
「カリン・・・?」
「あはは。ごめんね。クオンが必死で否定するのがなんだかおかしくて。」
カリンは目尻を指で涙を拭うと、クオンに微笑みかける。可愛くてクオンの頭が沸騰しそうになったが何とか平静を保った。
「改めて、お願い。クオンのことは信頼してるから。」
「・・・分かった。そこまで言うなら、協力するよ。」
カリンに信頼しているとまで言われては、お願いを受けないわけにはいかないクオンなのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




