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白磁の竜角  作者: 黒猫水月
第二章 新しい居場所
33/84

第二十八話『アティスの街案内 前編』

続きとなります。


※登場人物名を変更しました。

アルミン→フェリス→クオン

 レグニスの王城では、宰相ラシードがリーンハルト三世と執務室で会っていた。内容はローラン大陸遠征のことだ。ラシードは遠征隊派遣の進捗状況について報告をする。


「予定通り、遠征隊は三日後にディリクレ湾より出発となります。順調にいけば、今月末にはククル大陸で他国の遠征隊と合流できるでしょう。ククル妖精国にはすでに港の使用許可を得ております。」


 リンドブルム王国の遠征隊は他国とはククル大陸で合流する予定だ。オストシルト帝国はライン大陸諸国と仲が悪いため、単独で行くらしい。


「オストシルト帝国で何か不穏な動きがないか?」

「密偵からの報告によれば、何やらカイザー=ヴィルヘルムにて事件があった模様です。条約で禁じられた合成獣(キメラ)の研究を密かに行っていた研究者がいたとか。死亡者も出ています。」

合成獣(キメラ)・・・?それはきな臭いな。」

「犯人は逮捕されましたが、真犯人ではないでしょう。おそらく蜥蜴(とかげ)の尻尾切りかと。」


 ラシードによれば、首謀者が他にいるという。合成獣(キメラ)も危険だが、リーンハルトはそれ以上に危険なある兵器を危惧していた。


「・・・光学戦車ファブリ=ペローが秘密裏に建造される可能性は?」


 それは、十年前の戦争で帝国が使用し、ドラグガルド連邦の先帝を死に至らしめた兵器。数多の光線兵器を搭載し、近づくもの全てを光で焼き払う。戦争では先帝が命と引き換えに破壊に成功し、互いに痛み分けて終戦となった。


「殺人光線に必要な増幅器は遺失技術(ロストテクノロジー)です。そう簡単に復元できないとは思いますが、今回の件を考えると可能性は0ではありません。ですので、カイザー=ヴィルヘルムにて情報収集を行っております。」

「そうか・・・引き続き頼む。他には何かあるか?」

「ハルトヴィン第八皇子が我が国にご遊学に来られるそうです。」

「・・・この時期にか?」

「帝国の皇位継承争いには参加しておらず、帝室から距離を取っている方です。今のところ、策謀の影はありませんが、念のため監視をつけておきます。」

「分かった。そうしてくれ。」

「かしこまりました。報告は以上となります。」


 ラシードは一礼すると執務室から退出する。リーンハルトは合同遠征隊についての報告書を目で追う。


(なぜ、帝国はわざわざ他国にローラン大陸の遺跡のことを公表したのだ?秘密にして独り占めすればいいものを。)


 リーンハルトはそこが解せなかった。遺跡発見のインパクトが強く、最初は思い至らなかったが、そもそも各国合同で調査する意味はないはずだ。もしかしたら七宝が見つかるかもしれないというのに。


(きっと何か別の目的があるはず。)


 リーンハルトは帝国の隠された意図を探ろうとしていた。


 *********


 この日の朝も、カリンをクロが起こしに来た。クロはルビー、クオン、リッカ、カリンとローテーションで一緒に寝ているのだが、起こすときは平等に四人全員を起こしに来ていた。


「おはよ。クロちゃん。」

「にゃん。」


 カリンはクロの頭を撫でると、ベッドから起き上がる。カリンは鏡台に座り、ナイトキャップを脱いで髪をすく。その間、クロは床の上でのびーとストレッチをしたり、手で顔を洗ったりしていてカリンの身支度が終わるのを待っていた。


「おまたせ。行こっかクロちゃん。」

「にゃ。」


 竜角をリボンで隠すと、カリンはクロを伴って部屋から出て食堂へと向かう。食堂へ入ると、ミーチョがテーブルを拭いていた。何か良い事でもあったのか、とても機嫌が良さそうだった。


「おはよう。ミーチョ。」

「おはようございます。カリン様。」

「クオンとリッカは?」

「クオン様は道場で朝練、リッカ様はドレスの仕立てのために出掛けております。クオン様はそろそろ帰ってくるかと。リッカ様は夕方まで戻られません。」

「ありがと。教えてくれて。」


 ミーチョは一礼すると食堂から出ていく。別に気さくに話しかけてもらってもいいのだが、仕事とプライベートのメリハリをつけるミーチョの主義を尊重してそのままにしていた。


「珍しいね。リッカが早起きして外出なんて。」


 カリンはクロを抱き上げて尋ねる。するとクロから猫語で返事が返ってきた。


「にゃー。」

「ふふ。にゃーじゃ分からないよ~?」

「にゃ。」


 そんなやり取りをしていると、クオンが入ってきた。


「おはようクオン。」

「おはようカリン。クロもおはよう。」

「にゃにゃん。」


 クオンとカリンは席に着く。カリンは気になっていることを聞いてみた。


「リッカは夜会でも行くの?ドレスを仕立ててるみたいだけど。」

「ああ。今度、アイゼンでパーティがあるんだよ。鉄道関係の。」

「鉄道?魔法帝国時代にあったっていう輸送手段だっけ?」

「うん。アイゼンの技師達が、マンテリウムの輸送列車を参考にして復元させたんだ。」


 クオンはリンドブルム王国の鉄道事業についてカリンに話す。父のアルバンがアルセイド州まで路線を伸ばすように働きかけていることも合わせて説明した。


「へえ。クオンのお父さんは将来のことをよく考えてるのね。」

「アルセイド州は辺境だからね。ただでさえ中央と格差ができやすいから、中央の発展に取り残されないようにしてるんだ。」


 そんな話をしていると、ミーチョが朝食をカートに載せて運んできた。焼きたてのパンの香ばしい匂いが漂う。


「今日はアティスの街を案内する予定だけど、ついでにカリンの制服を作りに行こうと思うんだ。」

「え?でもルビーさんと行くって話じゃなかったっけ?」


 秋学期から王立学院アティス校に通うことになっている。王立学院は制服着用が義務付けられている。もちろんカリンは持っていないので、ルビーと一緒に制服を作りに行く予定だった。


「母さん、都合が悪くなっちゃって。だから僕が連れていくよ。」

「うん。分かった。ルビーさん忙しいものね。」


 ルビーは裁縫師の仕事とアルセイド伯爵夫人としての仕事があるので多忙である。カリンもそのことは承知しているため特に驚くことはない。話が終わると、ちょうど朝食の配膳が終わり、ミーチョが出ていく。


「じゃあ、冷める前に食べよう。」

「うん。」

「にゃん。」


*********


 その頃、王国ギルドアルセイド支部では、ある話題で持ちきりだった。


「おい。クオンがリッカ嬢ちゃん以外の女の子と歩いてたって本当か?」

「何かの見間違いじゃねえの。」

「いや俺も見たぞ。黒髪の女の子と一緒に領主様の屋敷に入っていった。」


 アルセイド支部を拠点とするベテランの冒険者にとって、クオンとリッカは弟と妹みたいなものだ。二人が幼い頃から知っている。なので、唐突にクオンの側に現れた見知らぬ女の子に皆興味津々だ。すぐにギルドの中はクオンの話題一色になった。皆、思い思いのことを話す。


「もしかして彼女ができたのか?」

「坊っちゃんももうそんな歳かあ。」

「エルマ。お前は何か知ってるか?」

「きっとカリンちゃんのことじゃない?クオンとリッカが連れてきてた女の子。一月ほど前にギルド登録しにきてたもの。」


 エルマが皆の疑問に答える。皆が口にする情報から、以前会ったカリンのことだとエルマは推測した。


「でも、あんまり仲良さそうには見えなかったけどね。」


 エルマは頬に手を当て、その時のことを思い出す。興味本意でカリンにクオン達との関係を聞くと『昨日知り合った他人です。』と素っ気ない言葉が返ってきた。


「クオン君はカリンちゃんを気にしてるみたいだったけど、カリンちゃんの方は冷めた態度だったし。その後はすぐに王都に行っちゃったから知らないわ。」

「そうか。真相は本人に聞くしかないか。」


 エルマが受付業務に戻ろうとした時、ギルドにレティシアが入ってきた。レティシアは、ギルドがいつもよりも喧騒に包まれていることに気づく。不思議に思い、受付にいるエルマの方へと向かう。


「おはよレティシア。」

「おはようエルマ。何の話で盛り上がってるの?」

「クオンが女の子連れてたって話。」

「女の子を連れてた?カリンちゃんのことかしら。」


 エルマはレティシアの口からカリンの名前が出てきたので驚いた。まさかレティシアがカリンのことを知っているとは思わなかったからだ。


「いつの間に知り合ったの?レティシア。」

「一昨日。クオン君を訪ねてうちの道場に来てたわ。」

「ねね。二人の様子ってどうだった?」

「仲良さようだったわよ。クオン君の友達って言ってたわね。」


 エルマの知らない内に、他人から友達にまでランクアップしていた。その聞き捨てならない新情報にエルマは興味をそそられる。リッカと比較してクオンは大人しいほうだ。そんなクオンにしては積極的だとエルマは感じた。


「こりゃあ、この一月の間に何があったか興味あるわね。ぜひ聞き出さないと。」

「エルマったら、めっちゃ悪い顔してる。」


 レティシアは苦笑しながらも、エルマを止める気は更々ないのであった。


*********


「災難だったな。クレア君。無事で良かった。」

「はい。ハルトヴィン皇子とセドリックのお陰です。」


 カイザー=ヴィルヘルム、ヘルツ博士の研究室にて、クレアは誘拐された時のことを話していた。今でもその時のことを思い出すと身震いがする。


「でも、クノッヘン博士は逮捕されなかったんですね・・・。あんなひどいことしてたのに。」


 セドリックの通報により、第四研究所にガサ入れが入ったが、逮捕されたのは別の人物だった。どこからか圧力がかかったのは明白だった。


「黒幕はゲーベルだろう。帝国政府の過半は奴の息がかかっている。クノッヘンも奴と繋がっているはずだ。クノッヘンは法の外にいると思った方がいい。」

「そんな・・・。」


 クレアは唖然とする。あんな野蛮な研究をしていたクノッヘン博士が野放しになっているのだ。


「そんな顔をするな。宰相も私も、このままゲーベルに好き勝手させるつもりはない。それに、クレア君はハルトヴィン皇子が守ってくれる。」

「なんだか畏れ多いんですけど・・・。」

「皇子の方から申し出たんだから、気にすることはないさ。」


 クレアはすでに寮を引き払っていた。また襲われる可能性もあるからだ。今の住まいは春揺宮で、レーネと一緒に住んでいた。カイザー=ヴィルヘルムからは距離があるため、通勤は皇子の飛竜インディーを借りている。正直、なぜこんな状況になってしまったのか自分でも分からなかった。


「それに、君は危なっかしい。皇子が守りたくなる気持ちはよく分かる。」

「ええっ!?私、そういう風に見えるんですか!?」


 レーネにも危なっかしいとは言われたが、子供の言うことだし本気にはしていなかった。だが、上司のヘルツ博士にまで言われたら意識せずにはいられない。


「自覚がなかったのなら、これから気を付けた方がいい。」

「うう・・・はい。」


 実際に誘拐されたのだから言い返せない。素直に頷くしかないクレアなのであった。


*********


 アティスの街は中央広場から北西、北東、南東、南西に大通りが伸びている。その大通りを境にして、北街、南街、西街、東街の四つの区域に分かれているのだ。周囲は城壁で囲まれている。人間ではなくむしろ動物や魔物避けのためのものだ。


 クオンはカリンを中央広場へと連れてきていた。アティスの街の中心に位置するこの広場には、街全体の案内地図看板が設置されている。街の説明をするには最適な場所だ。


「昔と比べて随分区画整理されたのね。もっと雑多な印象だったのだけれど。街自体の面積も広くなってるね。」


 カリンは案内地図を見て、そう感想を漏らす。街の変化を通して、時間の流れを感じているようだった。クオンは案内地図を元に街の説明を簡単にする。クオンの説明を聞きながら、カリンは街の概略を頭に入れる。


「この広場は、新年祭りの時とかもっと賑やかになるんだよ。屋台もいっぱい並んで、灯りで昼みたいに明るくなるんだ。」

「へ~。それは楽しそうだね。お祭りは好きだよ。」


 クオンはカリンを連れて、北西大通りへと進む。北西通りは商店が集まっていて商店街になっている。クオンが店の説明をしながら賑やかな大通りを歩いていくと、目的の店『ラッセル洋服店』の看板が見えてきた。クオンの友達、バートランドとカーラの実家だ。店内に入ると、店員さんらしき少女が近づいてきた。


「いらっしゃいませーってクオン君じゃない。うちの兄なら留守だよ。」

「こんにちは、カーラちゃん。今日はバートに用があるんじゃなくて、この子の制服を作りに着たんだ。」

「この子?・・・やや!?もしかしてあなたが噂のカリンさんですか!?」


 カーラはカリンに詰め寄ると、興奮気味に自己紹介をする。


「はじめまして!カーラ=ラッセルです!」

「は、はじめましてカリン=ハーヴィです・・・え、噂って?」

「え?知らないんですか?カリンさんのこと、アティス中で噂になってるんですよ。」

「ええっ!?なんで!?」


 目立ったことをした覚えがないのに、なぜ噂にならなければいけないのか困惑するカリン。一方のクオンはなんだか納得した表情をしていた。


「アルセイド州に移住してくる人あまりいないからね。他所から来たらすぐ分かっちゃうんだよ。ほとんど顔見知りだから。」

「そうなんですよ。それにカリンさん、可愛いですし。」

「あ、ありがとう・・・。」


 カーラに褒められて気恥ずかしくなるカリン。そんなカリンに、カーラのさらなる追撃が来る。


「ギルドの人たちも商店街のおばちゃんたちも、みーんな興味津々だよ?捕まったら根掘り葉掘り聞かれるかもしれないね。頑張ってね。」

「えーっ!?別に面白いことなんてないのに・・・。」


 少しずつ慣れていこうと思っていたカリンだが、周囲はほっといてくれないようだ。カリンは頭を抱える。


「あはは。別にみんなはカリンを取って食おうと思ってる訳じゃないんだから、もっと気楽で大丈夫だよ。逆に、アティスの人に知ってもらういい機会だし。」

「そ、そうだね。頑張るよ。」


 カリンは胸の前でぐっと両拳を握る。


「話が一段落したところで、採寸いきましょうか。どうぞこちらへ。」

「はい。よろしくお願いします。」


 *********


「それで、クオン君とはどこまで行ったんですか?」

「へ?な、何ですかいきなり!?」


 採寸を始めるなり、クオンとの関係を聞いてくるカーラ。採寸中なので逃げることもできない。一番無難な答えを口にする。


「あ、クオンは友達だよ。」

「なるほどー、友達ですか。リッカさんから聞きましたよ。伯爵様の屋敷に住んでいるんですよね。」

「ま、まあそうだけど・・・。」

「一つ屋根の下、男と女がいれば何か起きるのがこの世の必定ですよ。」

「そんなこと言われても。別に何も起こってないよ。二人っきりで住んでいる訳じゃないし。」


 炎龍の温泉でクオンと混浴したことは黙っておく。カーラの様子を見るに、絶対冷やかされるとカリンは思ったからだ。幸いにも、カーラはそれ以上追及しては来なかった。


「採寸終わりましたー。せっかくなので制服の見本でも見ていきますか?」

「うん。見せて貰おうかしら。」


 カーラに連れられて、別の部屋へと移る。そこには服を身に付けた人形(マネキン)がたくさん置いてあった。中にはかなり過激なものもあり、カリンは呆気に取られた。


「随分と色々あるのね。」

「品揃えなら自信ありますよー。カリンさんもいっちょ冒険して大人の勝負服買ってみません?」

「え、遠慮しておくわ。」


 カリンは王女だったので、ドレスは着たことがある。控えめなデザインが好みだ。なので、カーラが薦めてきたようなスパンコールドレスは恥ずかしくて無理だった。カーラも本気ではなかったようで、それ以上は言ってこない。そしてカーラは部屋の奥から人形(マネキン)を一体運んでくる。


「これが王立学園の制服です。評判いいんですよ。」

「わあ~!可愛いデザインね。」

「でしょう?」


 カーラが持ってきた制服は、白を基調としていて清潔感があった。胸元にリボンを結ぶタイプだ。上に羽織るカーディガンもある。下はプリーツ・スカートになっていた。カーラの説明によると夏服と冬服があるそうだ。今見ているのは夏服で、冬服は生地が厚くなっているとのことだ。


「来週の頭には出来上がるので、その時にまた来て下さいね。代金もその時で大丈夫ですよ。」

「分かった。じゃあ来週ここに来るわね。」

「それと、秋学期からよろしくお願いしますね。カリン先輩。」

「・・・うん。よろしくね。カーラ。」


 人生初めての先輩呼びに、ちょっぴり嬉しいカリンなのであった。


 ******


 ラッセル洋服店を出ると、クオンとカリンは商店街を見て回った。クオンはどこにどんな店があるのか、どの店がオススメなのかを説明していく。


「おや?そこにいるのはクオン君かい?」


 そんな時、二人に声をかけた老年の人物がいた。カリンは初対面だが、クオンの方はその人物を知っているようだ。


「お久しぶりです。コンラッドさん。」


 カリンはクオンが声をかけてきた人物と知己だと分かると、ちょいちょいとクオンの袖を引っ張って小声で聞いてくる。


「クオンの知ってる人?」

「うん。アティス商業組合のコンラッドさん。アティスの商人で一番偉い人だよ。」


 コンラッドと呼ばれた老人は、アティスの街の商人たちを束ねるリーダーである。クオンとカリンを見てほっほっほと笑う。なんだか嫌な予感がする二人。


「そっちのお嬢さんは初対面じゃな。」

「は、はい。初めまして。カリン=ハーヴィと申します。」

「儂はコンラッド。アティス商業組合の長を務めておる。それにしても別嬪(べっぴん)さんじゃな。」

「あ、ありがとうございます。」

「クオン君も隅に置けないのう。二人でデートとは。」

「ち、違いますよ!カリンに街を案内してあげていただけです!」

「そ、そうですよ!クオンは友達です!」


 クオンとカリンは必死に否定する。クオンは友達以上になりたいカリンとの関係に余計な横槍を入れて欲しくない。一方でカリンは、ただただ恥ずかしい。すると組合長であるコンラッドがいたせいか、周りの人々から注目を浴びてしまう。わらわらと人が集まってきた。


「クオン君、その子は誰?彼女?」

「坊ちゃん!いつの間に彼女作ったんだい?」

「へー。ついにリッカちゃんを卒業したの?・・・残念だなあ。」


 商店街の皆様に取り囲まれ、好き勝手な質問攻めを食らう。何故か二人が付き合っているような流れにされているので慌てて否定する。


「カリンは友達ですよ!」

「そそ、そうです!恋人じゃないですから!」


 クオンとカリンは皆の誤解を解くのに、しばらく時間を要したのであった。商店街の人達から解放された頃には、すでに小一時間は経った後だった。


「う~疲れたよ・・・。」


 げんなりした様子でカリンは言う。クオンもここまでとは思わなかったようだ。友達だと何回も説明しているのに、皆はなかなか信じてくれないのであった。二人は中央広場まで戻ってくると、ベンチに腰掛けて一休みをする。


「はは。ごめんねカリン。でも悪い人達じゃないから。」

「うん。それは分かってるよ。でもこの調子が続くと大変かも・・・。」

「最初だけだから頑張って。カリン。」


 その時、カリンの腹の虫がきゅるるると鳴った。カリンは慌ててお腹を押さえて、頬を染める。その様子が微笑ましくてつい笑みがこぼれる。


「もうっ!笑わないでよ!」

「ごめんごめん。そういえばそろそろお昼だね。昼食にしようか。いいお店を知ってるんだ。」

「本当!?えへへ。楽しみだな。」


 カリンは食いしん坊とまではいかないが、食べることは好きなようだ。いいお店と聞いてたちまち機嫌が良くなる。クオンは上機嫌になったカリンを連れて、行きつけのお店がある北東通りへと向かうのであった。


 *********


 クオンとカリンは北東通りを進み、何番目かの路地に入り裏通りに出る。賑やかな表と比べて、裏は落ち着いた雰囲気を醸し出していた。立ち並ぶ店の中で、銀の月のマークが刻まれた看板の前でクオンは立ち止まる。


「さあ着いたよ。ここが僕とリッカの行き着けのお店『銀月亭』だよ。」


 その店は隠れ家的な食事処だった。大衆食堂でも良かったのだが、もしもまた知り合いに会えば、先ほどのように質問責めにされてカリンが疲れてしまう。なのでクオンは静かに食事できる場所を選んだのであった。

 木の扉を開けると、カランコロンとカウベルが鳴る。店内はカウンター席が十席、四人掛けのテーブルが三つ、二人掛けのテーブルが二つある。お昼時のためか客は多かった。だが二人掛けのテーブルが一つだけ空いていたので、クオンとカリンはその席に座った。机の上に二つ置いてあるメニューをそれぞれ手に取る。


「ねえねえクオン。ここのおすすめを教えてくれない?」

「おすすめなら、このポークカツレツとトマト卵パスタっていうのが美味しいよ。」

「カツレツって何?」

「肉に小麦粉と溶き卵とパン粉を(まぶ)してから油で揚げた料理だよ。コートレットって言ったりもするよ。」

「へえ~。じゃあトマト卵パスタは?」

「鉄板に溶き卵を敷いてあって、その上にトマトパスタが盛り付けてあるんだ。意外にこの組み合わせが合うんだよね。」

「どっちも美味しそうだね。迷っちゃうな。」

「じゃあさ、両方頼んで半分ずつにしない?そうすれば食べきれるよ。」

「えっ・・・?」


 クオンの言葉に、カリンが仄かに頬を染める。その反応を見て、クオンは自分が失言したことに気付いた。


(やばい!?リッカと半分こする時と同じ感じで言っちゃった!?)


 リッカや友達なら全然気にしないのだが、相手がカリンだとどうしても意識してしまう。カリンも同じようで、ちらちらとクオンの方を見ている。クオンがどうしようか迷っていると、カリンが意を決した表情で口を開いた。


「い、いいよ。」

「え?い、いいの?無理しなくても。」

「いいの!大丈夫だから!こ、これくらい気にしてないから!」


 若干ムキになるカリン。かなり気にしてるようには見えたが、カリンが凄んでいたので、それ以上は言い返さなかった。クオンは料理を注文するために手を挙げると、一番近くにいた店員さんが近寄ってきた。


「ご注文をお伺いいたします。」


 店員さんはものすごく興味津々な顔をしていたが、勤務中のためぐっと堪えているようだった。注文を受けると余計なことは言わず去っていく。何か言われるのかと、少しドキドキしていたカリンはほっと胸を撫で下ろした。


「大丈夫だよ。ここの店員さんはそっとしておいてくれるから。」

「そうなんだ。よかった。もしかして、ここ選んだのもそのため?」

「うん。質問責めされるのは仕方ないにしても、ご飯くらいは落ち着いて食べたいだろうと思ってさ。大衆食堂だと絶対にギルドの人いそうで静かに食べれないと思うし。」

「そこまで考えてくれてたんだね。ありがと。」


 そして、クオンとカリンは午後の予定を話しながら、料理が出来上がるのを待つのであった。


 *********


 帝都ループス。宰相ヘンドリクは執務室で部下からの報告書に目を通していた。内容はカイザー=ヴィルヘルムで秘密裏に行われていた合成獣(キメラ)の研究についてだった。


「やはり、クノッヘンとゲーベルは裏でつながっていたか。」


 ヘンドリクは顔をしかめる。セドリックが第四研究所で見つけた封蝋も報告書には添付されていた。そこに押されていたのはゲーベルの紋章だ。


「奴の狙いが分からない。何を企んでいる?」


 ゲーベルが皇帝を始めとした特権階級に取り入ってるのは明らかだ。だが目的がはっきりしない。ローラン大陸への遠征も、今回の合成獣の研究も、点と点がつながらない。今行動を起こしても、ゲーベルの目的が分からなければ、重大な事を見逃してしまう可能性がある。


「あらあら。せっかくの渋いお顔が台無しですよ?宰相殿?」

「メーヴェか。君は()()()だ?」

「見分けがつかないのでしたら、何番目のかもめ(メーヴェ)でもよろしいのではなくて?」

「・・・そうだな。」


 扉を開ける音も、足音もしなかった。だが、メーヴェはいつの間にか部屋の中にいた。メーヴェに慣れているヘンドリックは驚きもせずに対応する。


「報告してくれ。」

「はい。調査の結果、皇帝陛下のそばにいるゲーベルは、錬金術師を騙る偽者の可能性が濃厚となりました。」

「なんだと?」

「オリジナルのゲーベルは、およそ三百年前に亡くなっています。」


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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