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白磁の竜角  作者: 黒猫水月
間章一
27/84

忠犬姉妹は獅子を構いたい

続きとなります。テオバルトのお話です。

連邦都ドラグ。その一角には、ひときわ白亜の屋敷が鎮座している。ツヴァイク公爵・・・ドラグガルド連邦でも有数の大貴族の屋敷だ。その屋敷の窓から外の景色を眺めている愛らしい少年がいた。


「はあ~。今日の講義やだなー。」


 テオバルト=ツヴァイク。ツヴァイク公爵家の嫡男である。公爵家の跡継ぎとして厳しい教育を毎日受けているが、まだ六歳になったばかり。遊びたい盛りのテオバルトにはそれが苦痛だった。今日の家庭教師は礼法の先生で、杓子定規をそのまま具現化させたような堅物だ。


「よし。逃げよう。」


 テオバルトにも最近楽しみができた。それは連邦都の探検である。ツヴァイク領から引っ越してばかりのテオバルト。新しい住みかとなったドラグを歩いて街で回るのが楽しくてしょうがない。


「ここをこうしてっと。」


テオバルトは壁の模様をある順番通りに押す。すると、ゴゴゴという音と共に、壁の一部が開き梯子が出現する。叔父から教えてもらった隠し通路へ続いている。衛兵に見つかることなく、家の裏手にある林の中にでることができる。中に入ると壁は再び閉まり、テオバルトはひたすら梯子を降りる。下まで降りるとまっすぐな通路が伸びている。魔法灯がほんのりと輝いており、薄暗いが歩くのに問題はない。てくてくと歩いていくと、突き当たりに梯子が再び現れる。梯子を上っていき、突き当たりになる天井を手で上に押し上げる。すると天井が動き、隙間から光が射し込む。テオバルトは隙間から覗き込み、周囲に誰もいないことを確認すると、素早く蓋を横にずらし外へ出る。そして蓋の位置を元に戻し、何もない地面に偽装する。


「今日はどこ行こう?」


 特に行き先も決めないまま、テオバルトは探検へと出発した。


*********


結局のところ、テオバルトが向かったのはドラグ自然公園だった。季節は春。色とりどりの花が咲き、ぽかぽかと気持ちが良い日だった。


(気持ちいい風だな~。どこかでお昼寝しようかな。)


 そう思っていると、ちょうどいい木陰を見つけた。春のぽかぽか陽気と木陰の涼しさがうまい具合に調和し、一眠りするには最高の場所となっていた。


(おやすみー。)


木にもたれかけ、目を閉じるテオバルト。しばらく気持ちよく眠っていると、不意に体の右側に何か柔らかいものが触れた。


(うん?)


その感触に違和感を感じ、テオバルトは目を開ける。ふと右に顔を向けると、テオバルトは驚いて声が出そうになった。テオバルトの体に寄り添うように、可憐な犬耳少女が寝息をすーすーと音を立てていたのだ。


「ね、ねえ君、起きてよ。」

「・・・ん。」


 少し反応はあったが、少女は起きてくれない。むしろ、テオバルトの右腕にしがみついてくる。


「ええっ!?ちょ、ちょっと!?」


家族以外の異性といえば屋敷で働く年配のメイドくらいである。初めての女の子をどう扱ってよいか分からず、テオバルトは顔を真っ赤にしてあたふたするしかなかった。


「ココノ~。どこにいるの~?」


慌てているテオバルトの耳に、別の女の子の声が聞こえてきた。ほどなくして犬耳少女がもう一人姿を現す。新しい少女はテオバルトと腕にしがみついている少女を見つけると、目をパチクリさせた。


「もう。ココノったら・・・。」

「あ、あの。この子の知り合いですか?」


少女の言葉から、きっと腕にしがみついている子の知り合いだろうと推測したテオバルト。


「うん。そうだよ。その子は妹のココノ。私は双子の姉のハチよ。君は?」

「僕はテオバルトって言うんだ。」

「テオ君か~。へ~。」


何故かハチはテオバルトを観察し始めた。遠慮のない視線にさらされ、さらに頬の赤みが増す。


「あっ、あの!この子を起こしてほしいんだけど・・・。」

「えっ?起こしてほしいの~?男の子にはこの状況は嬉しいんじゃない?」


ハチはいたずらっぽく笑っていた。テオバルトの反応を見て楽しんでいるようだ。ハチの言うことは間違ってはいないが、テオバルトは嬉しさよりも恥ずかしさの方が勝っていた。


「そ、そんなことないから!早く起こして!」

「あはは。ごめんごめん。ココノ~起きなさい。」


 ハチはココノをテオバルトから引き剥がす。ココノはうっすらと目を開け、ふあ~と欠伸をする。


「おはよ。ハチ。」

「おはよ。じゃないわよ。ダメでしょ?人にしがみついて寝たら。」

「ん~?」


ココノは寝ぼけ(まなこ)のままテオバルトを見ると、びしっと指差した。


「あの子のせい。」

「ええっ!?」

「私のお気に入りの場所なのに、勝手に寝てた。許すまじ。」

「ご、ごめん・・・?」


ココノに責められ、思わず謝るテオバルト。


「でも私は優しい。だから、君を起こさずに一緒に寝てあげた。褒め称えたまえ。」


えっへんと胸を張るココノ。ココノの発言についていけないテオバルト。そしてハチはそんな二人のやり取りを見て笑いをこらえていた。


「ココノ、からかっちゃだめでしょ。テオ君困ってるわよ。」

「テオ君とは?」

「そこの男の子の名前よ。」

「君の名前、テオ君?」

「う、うん。正確にはテオバルトだけど・・・。」

「テオ君、昼寝の続き。」

「え、ええっ!?」


ココノはぐいぐいとテオバルトの右腕を引っ張る。テオバルトは視線でハチに助けを求めるが、ハチは左腕にしがみついてきた。


「じゃあ私も参加しようかな~。」

「ええっ!?」


二人にしがみつかれ、テオバルトにはなす術もなかった。そのまま両手に花状態で昼寝をすることになってしまったのであった。もちろん、テオバルトはどきどきし過ぎて寝れなかったことは言うまでもない。

 それからというもの、三人はよく遊ぶようになった。姉妹のハチとココノ。ハチは元気娘でココノは物静かで天然。双子だが性格は対照的だった。ハチとココノは九人姉妹の末の双子という環境のせいか弟を欲しがっていた。なので二人はテオバルトを弟のように可愛がった。テオバルトの方も満更ではなかった。姉妹に振り回されながらも、初めての友達が出来て嬉しかったのである。


*********


テオバルトは目を覚ますと、そこは騎士団の医務室だった。


「あいたたた。そういや最後の試験でぼこぼこにされたんだっけ。」


エルヴィンとの試合での累積ダメージも重なり、全身が痛かった。体を起こそうと奮闘していると、医務室にココノとハチが入ってくる。


「こら!テオ!無理しちゃダメだよ。」

「さっさと大人しくする。」


ハチとココノは起き上がろうとするテオバルトをベッドに戻す。


「俺は大丈夫だって。そこまで心配しなくてもいいぞ。」


だが、いつもにこやかなハチの表情には影が射していた。ココノも眉をハの字にしている。昔よりは強く言えるようになったテオバルトだったが、二人に心配そうな表情をされると甘くなってしまうのであった。


「強がらないの!私たちが介抱してあげるからじっとして。」

「喜ぶがいい。」


ハチとココノの手には消毒液の入った瓶と大量の包帯。テオバルトの背中に嫌な汗が流れる。丁重に断ろうとしたが、ハチとココノの嬉しそうな顔を見ると何も言えない。


「テオのお世話~♪」

「褒め称えるがいい。」

「あっ、ちょ・・・。」


 その後、包帯ぐるぐる男が完成し、エルヴィンを驚かせることになる。

 三人の出会いから月日は流れ、テオバルトは男らしく、ハチとココノはより可憐になった。それでも三人の関係は壊れずに続いているのであった。ちなみに、テオバルトがハチとココノの尻に敷かれているのはいうまでもない。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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