表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白磁の竜角  作者: 黒猫水月
第一章 アルセイド姉弟と竜角人の少女
15/84

第十四話『ダンジョンの謎』

続きとなります。謎解き回です。

 カリンのおかげで解くべき謎は六つだと判明した。また、ここに来るまでに扉をチェックしていたので、目的の扉は道中になかったことは分かっていた。地下神殿は広いので、手分けして探そうと提案するクオン。しかし、リッカとカリンの二人から反対された。リッカは1人では怖いと駄々をこねた。カリンも無言で同意する。クオンは女の子らしい二人の反応に苦笑しながら、結局三人で探索することに決めた。

 三人一列になり、元来た道を戻る。主要な道以外は魔法灯が少なく、薄暗い。クオンはランタンを点灯させて、以前の冒険で作成しておいた地図を頼りに探索していった。歩いている間中、カリンはクオンの服をずっと掴んでいた。暗い所に来ると、心なしか掴む力が強くなるような気がするクオンであった。


「カリンさん。もしかして、暗闇が怖かったりする?」

「どど、どうしてそう思うの?」

「さっきから服を掴んでるから。」

「え?あっ・・・。」


 カリンは自分の手がクオンの服を掴んでいることに気付いてぱっと手を離す。頬が赤く染まっていた。


「べ、別にそんなことないよ!気のせいじゃないかな。」

「そう?ならいいんだけど。」


 しかし、しばらくすると再びクオンの服を掴むカリン。どうやら無意識にやっているようだ。クオンは、カリンは暗闇が怖いと確信した。宿屋などではそのようなそぶりは見せなかったので、きっと閉所での暗闇が怖いのだろう。気にしているようだったので、あえてそれ以上はクオンも追及しなかった。なお、リッカはクオンとカリンのやりとりに注意を割けないぐらいビビっていた。普段は平気なのに、こういうダンジョンに来るとお化けを怖がり出すリッカの基準は正直クオンにも謎なのであった。

 探索を続けていると、やっと目的の扉を見つけた。短い六角柱の絵が刻まれている扉。クオンはそっと扉を開ける。部屋は魔法灯こそなかったが、天井が淡く光っていた。翠の森でも見た、玄武岩(バサルト)に含まれる天然魔石(オリビン)による光である。


「地面に何かあるよ!」


 リッカが叫ぶ。部屋の中央部分の床には、タイルが敷き詰められていた。タイルの一つ一つに数字が刻まれている。10列×10行の100枚。1から100までの数字が刻まれていた。タイルは大体30cm四方の大きさだ。


「壁にも何か書いてあるね。」


 クオンが指さした先の壁には何やら文字が刻まれていた。近づいてみてみると、文章が番号付きで箇条書きになっている。


「これが問題なのかな?」


 カリンが小首を傾げる。壁には次のような文章が刻まれていた。


『Ⅰ.我々は、始まりに(あら)ず』

『Ⅱ.我々は、始まりと我自身以外には(あら)ず』

『Ⅲ.我々は、無限に存在する』

『Ⅳ.我々は、始まりと我自身で表現できる』


「これが謎?わけわかんないな~。我々って誰よ。」


 リッカは文章を見て苦虫をつぶしたような顔をする。一方のクオンとカリンは文章と床の数字を見ながら考え込んでいた。


「こういう時はとりあえず踏んでみよう!えい!」

「ちょ!?リッカ!危ないよ!」


 リッカが「5」と刻まれたタイルの上に乗る。しかし、何も起きない。


「力が足りないのかな?ええい!」


 リッカは思いっきりタイルを踏みつける。すると、ガコン!という音がして、タイルが少し沈み、数字が光った。


「やるじゃん私。ほい次~。」

「だから!リッカ!軽率に踏んだら・・・」

「よっと!」


 リッカは「6」と刻まれたタイルの上に乗り、踏みつける。すると、ガコン!という音がした後、タイルごとリッカが射出される。タイルの下にはバネが仕掛けられていたようだ。弾性エネルギーを受け取ったリッカは、運動の法則に従い、綺麗な放物線を描いて地面に落ちた。そのままの勢いでゴロゴロと転がり壁に当たって止まる。タイルの方は、ばいんばいんと揺れた後、ガラガラと機械音がして元の位置にパネルが戻る。


「リッカ!大丈夫!?」

「リッカさん!」

「大丈夫大丈夫。くっ。これが翠の魔女の罠か。まんまとかかってしまったわ!でもこれで仕掛けはばっちりよ!」

「これだけ言えれば心配ないわね。」

姉さん(・・・・)?僕はいつも注意してるよね?思い付きで行動したらだめだって。」

「あ、クオンが怖いよ!?ね、ねえカリンちゃん!私、褒められるべきよね!?」

「えっと、綺麗な放物線だったわ?」

「褒めるとこおかしくない!?」


 抗議するリッカはほっといて、クオンとカリンは相談を始める。クオンは持ってきたノートに何やら書き込むと、それをカリンに見せる。


「多分、こういうことだと思うんだけど。」

「ええ、私もそう思うわ。これでやってみる?」


 リッカは置いてけぼりのまま、二人は何やら解法が閃いたらしい。


「僕が踏むよ。カリンさんが指示してくれる?」

「分かったわ。」

「ねえ!私は何すればいいの!」

「リッカさんは一歩もそこを動かないで!」

「は、はいいいい!」


 カリンのものすごい剣幕に、リッカはびしっとその場に直立する。クオンはカリンの指示のもと、タイルを踏んでいく。2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31、37、43、47、53、57、59、61、67、71、73、79、83、87、89、97の順だ。踏んだタイルの数字が全て光ると、ピロピロリンと音が聞こえてきた。壁の一部が開き、中から宝箱が出現する。


「よかった。正解だったみたいね。」


 カリンは安堵する。クオンもほっとした様子だった。ただ一人分かっていないリッカだけが渋面を作っていて不満そうだった。仲間外れにされた気分だった。


「ねえ!一体何が正解だったの?」

「あれ?リッカさん?なんで直立したままなの?」

「動くなっていったじゃん!」

「あはは。ごめんなさい。もう動いて大丈夫よ。」

「もう・・・。で?結局何だったの?」

「『素数』だよリッカ。」

「『素数』?」

「そう。あのⅠ~Ⅳは素数のことを言ってるんだよ。Ⅰは『1は素数ではない』こと、Ⅱは『素数は1とその数自身以外の約数を持たない』こと、Ⅲは『素数は無限に存在する』こと、ⅣはⅡの言い換えだね。つまり、床のタイルの数字と合わせて考えると、1~100のタイルの中で、素数のタイルだけ踏めってことだと思ったんだ。」

「はあ~。よく思いつくねそんなこと。」

「いや。この100枚のタイル見てたら、学院の数学の授業でやった『エラトステネスの(ふるい)』のことがピンと来たんだよ。」

「え・・えらとすてねすのふるい?ってなんだっけ?」

「リッカさんってクオンのお姉さんなのよね?」

「やめて!そんな目で私を見ないで!私、成績は悪いけどバカじゃないから!」


 謎の言い訳をするリッカに苦笑するクオンとカリン。


「さあ、宝箱を開けようか。」


 気を取り直し、クオン達三人は宝箱を壁の中のくぼみから取り出し、床に置く。


「じゃあ、開けるよ。」


 クオンがぱかっと宝箱を開ける。同時にリッカとカリンも中をのぞき込む。宝箱の中にあったものを見て、三人は困惑した。


「ぬいぐるみ?」


 リッカがぼそっと言う。宝箱の中にあったのは少女の形をしたぬいぐるみだった。クオンがぬいぐるみを取り出して、じっと観察する。


「これ、カリンさんじゃない?」

「え”」


 ぬいぐるみをよく見ると、確かに黒髪黒瞳で白い角がある。造形もカリンをデフォルメした感じになっていた。


「可愛い~!小さいカリンちゃんだ!」

「ななな!なにこれぇ~!」


 カリンは赤面する。自分そっくりなぬいぐるみなんて恥ずかしかった。


「師匠~!絶対これ師匠のイタズラでしょ!」


 聞こえるはずもないのに叫ぶカリン。どうやら翠の魔女はイタズラ好きなようだ。一方のリッカはぬいぐるみのスカートをぺらっとめくっていた。


「きゃあああ!?何してるのリッカさん!」


 カリンはぬいぐるみをリッカから奪う。さすがに自分に似たぬいぐるみを弄ばれるのはいい気分はしない。


「え~。だって気になるじゃん?下着まで再現されてるのかなって。あ、ちなみに白だったよ。」

「ししょ~!」


 ぬいぐるみはかなり凝った作りのようだ。クオンは思わず、男の子の(さが)でカリンに目が行ってしまうが慌てて視線を外す。幸い、カリンには気づかれなかった。


「このぬいぐるみは私が預かっておくから!さあ、次の部屋に行くよ!」


 恥ずかしさを紛らわすかのように、クオンとリッカを急かしながら部屋を出ていく。クオンとリッカは苦笑しつつも、カリンの後を追うのであった。


 *********


 次に探すのは、また六角柱だ。ただし1つ目のよりも高さが低く、平べったいものをカリンは示した。ほどなく、目的の扉を見つける。


「次はここよ。」


 カリンに続いて、クオンとリッカは部屋の中へと入る。先程の部屋と同じ造りではあったが、中央に台があった。近づいて見てみると、3個のリングがつながった鎖が4本とハサミが一つ置いてあった。クオン達が台に近づくと、空中に光る文章が出現する。


『リングを切って、これらの鎖をつないで環にせよ。ただし、切る回数は3回までとする。』


 どうやら光る文章はこの部屋の謎を示しているらしい。クオン達三人は、鎖を各々手に取って考え始めた。


「普通に考えると4か所切ればいいんじゃない?どう?クオン。」

「確かにそれでいけるけど、他にもやり様がありそうなんだよね。」


 仮に4本の鎖をそれぞれ、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳとする。Ⅰの端のリングを切ってⅡにつなぎ、Ⅱの端のリングを切ってⅢにつなぎ、Ⅲの端のリングを切ってⅣにつなぎ、Ⅳの端のリングを切ってⅠにつなげば環になる。この場合、切るのは4か所だ。


「う~ん。」


 カリンは鎖をいろいろな置き方で並べてみる。すると、何か思いついたようだった。


「ねえ。1つの鎖のリングを全部切ればいいんじゃない?それで他の3つの鎖をつなげば、切る場所は3か所で済みそうよ。」

「ホントだ。カリンちゃん冴えてる!」

「確かに3か所でいけそうだね。やってみようか。」


 カリンの提案に、クオンとリッカは賛成する。カリンはⅠの鎖を切ってリングを切り離す。鎖は金属でできているようだったが柔らかく、たやすく切ることができた。これで切れ目の入ったリングが3つできる。ⅡとⅢ、ⅢとⅣ、ⅣとⅡをそれぞれリングでつなぎ、一つの環が完成した。完成した環を台の上に置くと、空中に浮かぶ文章が変化し、『正解!』と表示される。そして、台が光ったかと思うと、環が消え、代わりに宝箱が出現した。


「カリンさんの解答で良かったみたいだね。」

「だね~。今度は何が入ってるんだろう?」


 宝箱の中身が何なのだろうか。クオンとリッカはワクワク、カリンはドキドキする。クオンが宝箱を開くと、中には、またカリンのぬいぐるみが入っていた。今度はメイド服を着ている。


「師匠・・・。一体何がしたいの・・・。」


 カリンはがっくりとうなだれる。その隙をついて、リッカはぬいぐるみのスカートをめくる。


「あっ。今度は黒だよ。凝ってるねえ。」

「きゃああああ!?」


 先程と同じように、カリンにぬいぐるみを奪われるリッカなのであった。


 *********


 カリンが指定した三つ目の扉には、骸晶角板と呼ばれる図形が絵が刻まれていた。平べったい六角柱で、底面と側面にくぼみがあるのが特徴だ。部屋の中に入ると、目に入ったのは大きな墓碑だった。クオン達は墓碑の目の前に立つ。


「なにこれ?お墓みたいだけど名前が書いてないね。」

「そうね。でも、文章が刻まれてるわ。多分これが問題だと思う。」


 リッカの言う通り、墓碑には名前や生没年の代わりに文章が刻まれていた。


『私は人生の六分の一を子供として過ごした。さらに十二分の一が経った時、ひげが生えた。さらに七分の一が過ぎた頃に結婚した。結婚から五年後に息子が誕生した。息子は父親の人生の半分までしか生きられなかった。その四年後、私はこの世を去った。さて、私は何歳でこの世を去ったのであろうか?』


「自分の亡くなった年齢が分からないっておかしくない?ボケてたのかな?」


 リッカの、ピントのズレた発言にクオンとカリンは苦笑する。


「違うよリッカ。これは代数の問題だよ。」

「そうね。亡くなった年齢を未知数として式を立てればすぐに解けるわ。」


 クオンとカリンの言葉に、リッカはピンとくる。自分のバックパックからノートを取り出す。亡くなった年齢をxとして式を立て、すぐに解答を導いた。


「正解は84歳!どうだ!」


 リッカは得意げに墓碑に向かってビシィ!と人差し指を突き出す。すると、ピロピロリンという音がして、ゴゴゴゴ!と墓碑が左右に割れた。そして墓碑の中から宝箱が出てきたのであった。


「今度もカリンちゃんのぬいぐるみだったりして。」

「嫌な事言わないでよ・・・。」


 リッカが宝箱を開ける。中から出てきたのは、カリンのぬいぐるみ(ゴスロリVer)だった。カリンの目が虚ろになる。クオンはなんと声をかけていいか分からず苦笑するだけだった。


「カリンちゃん愛されてるじゃん。ほら、可愛いピンクの下着も履いてるし。」

「だからスカートをめくるなぁ!」


 リッカの頭をはたくと、またしてもぬいぐるみを奪うカリンなのであった。


 *********


 四つ目の扉は、角板と呼ばれる図形が刻まれていた。骸晶角板と比べて表面構造に細かい溝や稜があるのが特徴だ。扉を開けると、部屋の中央に巨大な香炉が置かれていた。香炉の中には、灰に線香が何本も刺さっている。中央にはろうそくが二つ、それぞれ小さな台の上に立っていた。どちらも火はついていない。香炉にはプレートがはまっていて、そこに文章が刻まれていた。


『この線香はどれも1時間で燃え尽きる。2本の線香を使い、45分を計れ。ただし線香を折ってはいけない。』


 文章を読み終わると同時に、二本のろうそくに火が灯る。このろうそくで線香に火をつけろということだろう。今回の問題は三人とも頭をひねる。


「ぱっと思いつかないなあ。折ったらダメなんでしょ?クオンは何か思いつく?」

「う~ん。僕にも分からないな。」

「私も思いつかないわ。」


 リッカはじーっと香炉を見つめると、ぼそっと疑問に思ったことを口にした。


「なんでろうそくが二本あるのかな?火をつけるなら一本でいいよね?」

「確かにそうね。何か意味があるのかな?同時に火をつけるとか?」

「同時に火をつける・・・あっ!これならいけるかも!」


 カリンの一言で何かを閃いたリッカ。香炉から線香を二本引き抜くと、一本をクオンに渡す。


「私とタイミング合わせて線香に火をつけてくれる?」

「いいけど。何か思いついたの?」

「うん。ピンときちゃったぜい。」


 クオンとリッカは同時に火をつける。ただし、リッカは線香の両端に火をつけた。それを見て、クオンとカリンはピンと来た。


「なるほど。両端に火をつければ30分でちょうど燃え尽きるのか。」

「そそ。私が火をつけた線香が燃え尽きると同時に、クオンが火をつけた線香のもう一端に火をつければ、ちょうど45分で燃え尽きる!」


 リッカの言う通りにした結果、線香が燃え尽きると同時にピロピロリンという音がして、上から宝箱が落下してきた。どうやら正解だったようだ。宝箱を開けてみると、案の定、カリンのぬいぐるみ(ネコ耳尻尾Ver)が入っていた。カリンはもう何も言わず、そっとぬいぐるみをしまった。


「カリンちゃん。まだ下着確認してないよ?」

「しなくていいの!」


 *********


 五つ目は、角板の先端に扇がついているような図形が刻まれていた。カリンが言うには扇六花というらしい。中へ入ると、大きな天秤と分銅が置いてあった。分銅は人の頭ほどの大きさがあり持ち上げるのは大変そうだ。三人が天秤へと近づくと、空中に光る文章が表示される。


『九個の分銅のうち、質量の違う不良品が一個だけ混じっている。天秤を二回だけ使って不良品を見つけ出せ。分銅には数字が刻まれているが、そのことによる質量の違いは補正されている。』


 クオンが分銅を数えると、文章に書いてある通り九個置かれていた。それぞれに、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ、Ⅶ、Ⅷ、Ⅸと数字が刻まれている。試しに一つ持ち上げてみると、ずっしりと重いが運べないほどの重さではなかった。


「この問題、私がやってもいい?」


 カリンが立候補する。特に断る理由もないのでクオンは頷いた。リッカもお任せモードになっている。


「分銅持とうか?」

「ありがと。お願いするわ。」


 カリンは分銅を3つずつまとめてグループを作る。Ⅰ~ⅢをAグループ。Ⅳ~ⅥをBグループ。Ⅶ~ⅨはCグループとした。カリンはまず、Aグループを左の皿に、Bグループを右の皿に乗せようとした。


「うんしょ。うんしょ。」


 思ったよりも重かったのか、ゆっくりとした動きで分銅を運んでいくカリン。クオンは密かに、カリンの「うんしょ」に萌えていた。そのうち、分銅を載せ終えると、天秤は釣り合っていた。


「AとBには不良品はないみたいね。次は右にⅦ、左にⅧを載せましょう。」


 カリンとリッカは分銅を再び降ろす。降ろし終わったのを確認すると、クオンはⅦとⅧの分銅を載せた。天秤は釣り合っていた。


「これで分かったわ。不良品はⅨの分銅よ!」


 カリンが解答を叫ぶと、ピロピロリンという音と共に宝箱が落ちてきた。リッカが宝箱を開けると、カリンのぬいぐるみ(パーティードレスVer)が入っていた。


「これも可愛い~!」


 リッカはぬいぐるみを頬ずりする。カリンはため息を吐くと、リッカからぬいぐるみを奪い、バックパックにしまった。


「もう。ぬいぐるみだらけになっちゃったじゃない。」


 バックパックにぎっしり詰まったぬいぐるみを見ながら、口を尖らせるカリンであった。


*********


 最後は、雪の結晶の絵が刻まれた扉だった。扉を開いて中へ入る。部屋の中央には大きな台が置かれていた。三人が近づくと、台が光り、大きなピザが台の上に出現する。ほかほかしており焼きたてのようだった。同時に、台の上に光る文字が浮かび上がる。


「ピザだ!食べていいのかな?」

「リッカ。だめだよ。得体が知れないんだから。」


 目を輝かせるリッカを制止しながら、クオンは空中に浮かんだ文章に目をやる。


『ピザを6回カットした場合、最大何切れになるか?』


 クオンはノートを取り出すと、どのような切り方があるか、いろいろと書いてみる。カリンも後ろからのぞき込んでいた。リッカはピザをガン見している。


「きっと、こういうカットをしていけばいいと思うんだけど・・・。」


 クオンが試行錯誤した結果、前回カットした直線を全て横切り、かつ直線の交点を通らないようにカットすればよさそうだった。


「1回カットで2切れ。2回カットで4切れ。3回カットで7切れ・・・。これ等差数列になってない?n回カットでn切れずつ増えてる。」


 カリンの指摘通り、カットと増える数の関係が、初項1、公差1の等差数列になっている。


「ということは、和の公式でn(n+1)/2になるから、6回カットすれば合計21切れ増える。ということは最終的に22切れになるんだね。」

「答えが出たのはいいけど、ピザを実際に切らないとだめなのかな?」


 その時、カリンの疑問に答えたかのように、ピザの横にピザカッターが出現する。


「切れってことだね・・・。」


 クオンはため息を吐くと、ノートであらかじめ書いていた通りに切り始める。リッカはワクワクしながらその様子を見ていた。ピザを切り終わり、22切れあることを確認すると、ピロピロリンという音がした。

 ピザとピザカッターが消え、代わりに宝箱が出現する。


「ああ~!ピザがああああ!食べようと思ってたのにいい~!」


 叫ぶリッカは無視して、クオンはさっさと宝箱を開ける。中にはやっぱりカリンのぬいぐるみ(ウェディングドレスVer)が入っていた。思わずクオンは凝視する。


(純白のウェディングドレスかあ。黒髪だから映えるだろうなあ。)


 男の子特有の妄想していると、背後に視線を感じる。振り返ると、カリンがジト目で見ていた。まさかの六連続ぬいぐるみ。しかも自分をデフォルメした上に、様々なバリエーションとなれば複雑だろう。


「師匠は一体、何がしたかったのかしら・・・。」

「まあまあ。これで全部なんでしょ?最奥への扉へ行ってみようよ。」

「う、うん。」

「ピザ~!」


 釈然としないカリンと、まだピザで騒ぐリッカを連れて、クオンは最奥へと扉へと向かうのであった。


 *********


 最奥への扉まで戻ってくると、急にカリンのバックパックが光り出した。驚いて中を見てみると、手に入れたぬいぐるみが光っていた。同時に、ゴゴゴゴという地鳴りと共に台座が六つ、床からせりあがってきた。各々の台座には、Ⅰ~Ⅵの数字が刻まれていた。


「これにぬいぐるみを載せるのかな?」

「たぶんそうだと思う。カリンさん、どれにどのぬいぐるみを載せるか分かる?」

「ええ、見当はつくわ。任せて。」


 カリンは台座にぬいぐるみを置いていく。Ⅰには普通の服装、Ⅱにはメイド服、Ⅲにはゴスロリ、Ⅳには猫耳尻尾、Ⅴにはパーティドレス、Ⅵにはウェディングドレスを着たぬいぐるみを。


「カリンさん、これには何か法則があるの?」

「うん。あるよ。謎解きの部屋の扉に絵が刻まれてたでしょ?あれ、雪の結晶ができるまでの過程なの。雪の華になるまでの順番に並べただけよ。ぬいぐるみ自体はきっと師匠の悪ふざけよ。」

「へ~。カリンちゃん博識だね。」

「それは違うよ。師匠が言ってたもの。『雪は天からの手紙である』って。」

「え?じゃあ、あの文章は、雪のことを言ってるの?」

「そうよ。だから、雪の華ができるまでの過程の絵が描かれた扉を探したの。」

「なるほど~。」


 カリンがⅥと刻まれた台座にぬいぐるみを置く。すると、最奥への扉に、雪の華の模様が浮かび上がった。ゴゴゴゴという音と共に、扉の真ん中に切れ目が走り、それぞれ左と右にスライドしていく。


「さあ、行こうか。」


 クオンの声には緊張が滲んでいた。ここからは未踏の領域だ。また三人一列になって先へ進む。扉をくぐると、再びゴゴゴゴという音と共に扉が閉まる。


「クオン!?扉が閉まっちゃったよ!?」

「・・・先へ進むしかないってことだね。」

「他の冒険者が入ってこれないだけでもよしとしましょう。」


 慌てるリッカを(なだ)めてから進むと、広い空間に出た。床一面に魔法陣が描かれている。他に通路はなく行き止まりのようだ。


「きっと転移の魔法陣だね。」


 クオン達三人は魔法陣の中央に立つ。すると、魔法陣が光り出す。


『登録されたバイオマーカーを探知。カリン=アントラの魔力紋と確認しました。登録座標へ転移します。』


 機械的な音声が聞こえたと同時に、三人を浮遊感が襲い、意識が闇に呑まれたのであった。


*********


 クオンの意識が戻ると、目の前にカリンの顔があった。驚いたものの、なんとか声に出すのだけは我慢した。どうやら、目が覚めないクオンを心配して、揺すったりのぞき込んでいたらしい。


「大丈夫?クオン君。」

「うん。何とか。リッカは?」

「それが見当たらないの。勝手に離れるとは思えないんだけど・・・。」

「きっと別の場所に転移したんだと思う。」

「一人で大丈夫かな?リッカさん。」

「大丈夫だよ。ああ見えて強かだから。」


 その言葉に、カリンはほっとした様子だった。本当はクオンも不安なのだが、カリンを心配させたくなかったので嘘を吐いた。


「さあ、先へ進もうか。」


 二人が目覚めた場所は正方形になっていて、かなりの広さがあった。通路が一つだけある。クオンが通路へと進もうとするが、カリンは立ち止まったままだった。何故か壁の方を見ている。


「どうしたの?カリンさん。」

「クオン君。何か、音がしない?」

「音?」


 クオンは首を傾げる。耳を澄ましてみると、確かに音がする。


(これは何の音だろう?)


 クオンが考えているうちに、カリンはゆっくりと壁の方へ近づいていった。


 *********


 翠の魔女のダンジョン。その奥底で蠢く影があった。蒐集者(コレクター)である。


『目標を補足。最短ルートを選択。』


 蒐集者(コレクター)はブースターを吹かし、ダンジョンの中を疾走する。階差機関ディファレンス・エンジンがはじき出した経路を進み、最短の時間で目標に近づいていく。


『右腕変形。穿孔(せんこう)モード。』


 目標は壁の向こうにいた。迂回することなど蒐集者は考えない。ドリルに変形した右腕を叩き付け、壁を掘り進んでいく。壁をぶち破ると、目の前に目標がいた。驚愕で目を見開いているのを、蒐集者(コレクター)の光学センサーは捉えていた。


『目標確認。採取開始。』


 そこに一切の感情はない。理不尽な暴力が、目標―――カリンに襲い掛かったのであった。



ここまで読んでいただきありがとうございます。謎解きは参考文献1を参考にしました。

作中の『雪は天からの手紙』という言葉は、参考文献2の中にある『雪の結晶は、天から送られた手紙である』という言葉が元ネタです。


参考文献

1.理系脳を鍛える!Newtonライト あなたは何問,解けますか?すうがくパズル 株式会社ニュートンプレス 2017年

2.雪 中谷宇吉郎 青空文庫 2013年







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ