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白磁の竜角  作者: 黒猫水月
第一章 アルセイド姉弟と竜角人の少女
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第九話『冒険者ギルド王国本部』

続きとなります。

 シュネーヴィントへの出発にはまだ日があるので、クオンはカリンに王都を案内していた。屋敷を出る時、リッカは「デート?デート?」と煽っていたが無言で頭にチョップをかまして黙らせた。当のリッカは学院の課題が溜まっているためお留守番だ。クオンは屋敷を出た後、大学に寄ってカリンを拾い、そのままの足で王国ギルド本部前まで来ていた。


「ここが冒険者ギルド王国本部だよ。リンドブルム王国内の冒険者ギルドをまとめてるんだ。」

「ここが・・・アルセイド支部と比べてずいぶん大きいのね。」

「王国内の情報だけじゃなくライン大陸や他大陸の情報も集まるからね。利用する人が多いんだよ。」


 カリンが見上げた建物は、ざっとアルセイド支部の五倍の大きさはありそうだった。クオンに連れられてリッカは建物の中へと入る。


「わあ・・・。」


 建物を入るとすぐ右にに受付カウンターがあった。支部よりも大きなカウンターでずらっと受付窓口が二十ほど並んでいた。どの窓口にも列ができている。左にはなにやら巨大な水晶の板が置かれ、水晶の内部には文字が流れている。カリンは見たことがないその水晶の板に興味を魅かれた。


「ねえクオン君。あの水晶の板は何?文字やら流れてるみたいだけど。」

「あれは水晶掲示板クオーツブリテンボードと言って、あれで様々な情報を見ることができるんだ。ハーヴィー博士も資料検索用に机におけるサイズの奴を持ってるよ。」

「・・・机におけるサイズってお高いの?」

「金貨百枚はするって聞いたけど。」

「げっ。」

「だから個人で持ってる人はいないなあ。あれ演算装置がまだ巨大だから。このギルドにも地下に演算装置があるらしいよ。」

「そう。持ってたら便利そうだなって思ったんだけど。」

「小型化の研究はしてるらしいけどね。」


 クオンとカリンは水晶掲示板クオーツブリテンボードの前に立つ。王国内外の様々な情報が表示されている。ローラン大陸関連が多いようだ。


「こうやって文字に触れると、各支部の依頼も見れるんだ。」


 クオンが水晶掲示板に触れて操作をすると、シュネーヴィント支部の依頼一覧が表示される。翠の森の魔女のダンジョン絡みが多いようだ。


「ダンジョン関係が多いのね。」

「翠の魔女は有名だからね。最奥を狙っている依頼主も冒険者も多いよ。」

「ダンジョンには依頼を受ける形で行くの?」

「いや。危険度は低いからダンジョンへは自由に出入りできるよ。余計な詮索をされたくないからフリーで行くよ。」

「・・・その、ありがと。」

「いきなりどうしたの?」

「だって、その、依頼を受けないなら報酬もないんでしょ?」

「ああ、そういうこと。」


 カリンはクオン達にタダ働きさせることを気にしているようだ。ちらちらとこちらの顔色を窺っていた。


(律儀だなあ。気にしなくてもいいのに。)


 クオンは特に気にしていなかった。そもそも目覚めさせた責任もあると思っているので、カリンがこの世界で生きていくためならどんなことでも協力するつもりだった。


「気になるんだったら、埋め合わせしてくれればいいよ。」

「埋め合わせ?」

「僕とリッカからお願いがあるんだけど、それを聞いてくれる?」

「お願い?」

「うん。実は・・・」


 クオンがカリンにその『お願い』の内容を聞かせようとした時、二人の背後から声をかけてくる人物がいた。


「お、クオンじゃねえか。何してんだ?」


 クオンが聞き覚えのある声に振り返ると、そこにいたのは、金髪碧眼の男性だった。クオンよりも長身で体つきもがっしりとしている。


「バートじゃないか。今の時期は旅行に行ってたんじゃないの?」

「課題終わらせてないから俺だけ置いてかれた。」

「まったくもうバートってば・・・。カーラちゃんがまたすねるよ?」

「妹が?あはは、ないない。」


 するとバートの視線がカリンの方を向く。カリンはびくっなって一歩下がった。


「クオン、このめっちゃ可愛い子は誰だ?」

「最近知り合ったカリンさんだよ。今、パーティーを組んでるんだ。」

「・・・どうも。」

「ほう。俺はバートランドっていうんだ。バートって呼んでくれ。クオンの友達だ。」

「・・・えっ?」


 バートが言ったクオンの友達、という言葉にカリンが反応する。


「クオン君、男友達がいたんだ・・・。」

「驚くのそこぉ!?いやいるでしょ普通に!」

「ハーヴィー博士以外、女の子ばかりじゃない。」

「そうなんだよなあ。こいつはよく女の子と仲良くなるんだよなあ。今だってリッカとカリンさんでパーティー組んでんだろ?両手に花じゃん。」

「リッカは姉なんだけどね!というか課題あるのにギルド来てていいの?」


 バートは課題という単語を聞くと目を露骨に逸らした。ああ、これは嫌気が差して逃げてきたなとクオンは確信した。


「バート、課題から逃げてきたんだね?」

「逃げてないぞ!?転進だ転進!気分転換だよ気分転換。」

「ふーん?その言い訳、先生にも通用するといいね。」

「大丈夫だって。新学期が始まってから終わらせるから。」

「いや始まる前に終わらせなよ!?リッカだって頑張ってるよ?」

「何!?あの裏切りものめ!」

「裏切るも何も最初からつるんでないでしょ。」

「さすがにリッカに負けるわけにはいかねえ!すまん!俺はこれで!」


 そういうとそそくさと去っていくバートランド。カリンがクオンの袖をちょいちょいと引く。


「バート君?とは仲いいの?」

「そうだね。幼馴染って奴だよ。たまに一緒に依頼をこなしたりするよ。」

「ふうん。ところでクオン君は課題はいいの?」

「僕はもう終わらせたよ。残してると気になって冒険者に集中できないから。」

「へえ。真面目なのね。で、リッカさんとバート君は真逆なのね。」

「あの二人はギリギリどころか期限をはみ出る常習犯だから・・・。」

「ドロシーさんは?」

「ドロシーは可もなく不可もなく、予定通りにこなすタイプかな。」


 バートが去った後、次に案内したのは水晶端末(ターミナル)のところだった。机の上に水晶版が二枚置かれている。画面として使う一枚と、操作盤として使う一枚だ。操作盤の方にはライン文字が刻まれている。


「これは何?」

「これは水晶端末(ターミナル)と言って検索をする端末だよ。博士が持ってるのもこれだね。この操作盤(キーボード)の文字に触れると入力できるんだ。横にあるホイールパッドで画面上の矢印(ポインター)が操作できるよ。」

「ほうほう。」


 クオンが実演してみせる。検索キーワードに「ライン大陸」と打って検索すると、ライン大陸の情報や記載されている文献のリストが表示される。カリンは興味津々のようだった。


「やってみる?」

「うん!」


 カリンは元気よく返事をすると、クオンに教えられたとおりに操作をする。いろいろ検索をかけて情報を閲覧する。しばらく操作していると、急に入力を受け付けなくなった。


「あれ?どうしたんだろ?」

「ああ、まだ動作が不安定で長時間使っているとこうなることがあるんだ。」

「叩けば直らないかな?」

「いやだめだよ!?精密な魔法機械なんだから壊れちゃうよ。前にリッカが叩いて水晶画面(コンソール)を割っちゃったんだから。」


 慌ててカリンを制止するクオン。リッカが割った時は水晶画面(コンソール)を弁償する羽目になった。


「そうなんだ。壊れやすいのね。次元門(ディメンジョンゲート)装置に関しては調子悪い時には叩くか蹴れば大体直るのに。」

「そんな適当だったの!?」


 予想外の事実に衝撃を受けるクオン。そんな適当な運用だとは思わなかった。そんなことは露知らず、水晶画面コンソールのフリーズが直ったようで、カリンは再び検索をしていた。検索ワードは「ギルドの歴史」だった。


「ギルドのことを知りたいの?」

「うん。昔は何となく登録してたんだけど、あまり利用してなかったからよく知らないなって思って。」


 検索をかけると、ギルドの歴史がずらっと画面上に表示される。


「・・・結構長いわね。要点だけでいいんだけど。」

「要点だけでいいなら僕が教えようか?」

「お願いするわ。」

「ギルドのこと、どこまで知ってる?」

「えっと、人類国家に設置されている準汎国家組織で、様々な依頼の提供と冒険者の管理を一元化して円滑に行うんだっけ。」

「うん。基本的なことは知ってるみたいだね。でもギルドの役割は創設期から変わっていってるんだ。」

「ギルドの役割?」

「そう。もともとは大陸東部で始まったんだ。その理由は、大陸東部は戦乱が多くて不安定な国家が多かったから。」

「不安定な国家が多いからギルドができたの?なんで?」

「国家の統治能力が貧弱だから、首都はともかく他までカバーしきれないんだ。国境だって結構適当だったしね。騎士団による治安維持も限界があって、野盗や魔物が多かったんだ。それで一番困るのは物流が滞ることだね。農作物や特産品を作っても他所に売るのにリスクがあるし、原材料だって調達に支障が出る。そこで求められたのが」

「野盗や魔物を撃退できて、原材料や商品を目的の場所まで運べる人?」

「そう。最初は個人で元騎士や元傭兵とかに頼んでたらしいんだけど、いかんせん依頼主と依頼受託者双方に質の悪い連中が結構いてね。代金だけ取ってどろんしたりとか、苦労して依頼果たしたのに約束の報酬が支払われないとか。それで双方の声を汲み取った人が立ち上げたのがギルド。目的はさっきも言ったように様々な依頼の提供と冒険者の管理を一元化。そうすることで依頼人はわざわざ人探ししなくてもギルドに持っていけばいいし、依頼を受けたい人は最寄りのギルドに行けばいい。双方の質はギルドによって選別されてるから悪どい奴らは淘汰されるって仕組み。まあギルドを運営してるのも人間だし、完全に排除できるわけではないけど野放図の状態よりはずっと改善されたんだよ。」

「ちょっと疑問なんだけど、戦闘できる人に運搬を任せるより、商人の護衛とかじゃだめなの?」

「もちろんそういう依頼もあるんだけど、商人は自分の利益で動いてるから、自分の利益にならないと判断したら細かい融通は効かないんだよね。売りたい地方へ行ってくれるとは限らないし。戦争になると来なくなったりするし。だったら商人の護衛で雇うよりいっそのこと運搬も任せた方がいいってこと。」

「ふうん。でも大陸東部で発生したギルドがなんで人類世界に広がったの?大陸西部は比較的安定してるよね。リンドブルム王国に至っては騎士団がきっちり機能してるからダンジョン以外であまり魔物も見ないし。」

「それはギルドの性質が理由かな。」

「ギルドの性質?」

「うん。ギルドはその業務の性質上、いろんな利害関係者(ステークホルダー)が利用するから、トラブルが起こった場合、その都度対応するのが困難。依頼主と依頼受託者の間の関係性で対応を変える必要があるからね。裁判するにも手続きが面倒だし。だからトラブルが起こったら依頼主と依頼受託者の間で解決してもらう。ギルドは原則中立で依頼の仲介以外には関与しない。」

「その中立性が依頼主にとって都合がいい?」

「そうだね。ギルドは依頼の遂行に必要な最低限の情報を開示すれば深いとこまで詮索しないから。あんまり表沙汰にしたくない依頼とか。」

「・・・貴族とか政府が利用しそうね。」

「まあ、人類国家全土に広がったのはおおむねその理由だね。他方で次第に依頼受託者登録する人も増えて依頼の供給が追い付かなくなったから市場拡大を目指したって面もあるけど。でもきっかけはどうあれ平民にも恩恵はあったよ。依頼の種類も犯罪行為以外は何でもよくなったし、迷いネコの捜索とかの騎士団に行っても取り合ってくれないような小さな依頼でもギルドは受けてくれる。場合によっては地元の首長や国に頼むよりも迅速に解決できる。基本的に機動力があるんだよね。国家の行政サービスが行き届かないところを補完する形になったってわけ。」

「それだけ聞くといい事だけど、弊害はなかったの?」

「もちろんあったよ。ギルドの規模が大きくなるにつれて、中立という原則を破るギルドメンバーもいたし、悪質な依頼受託者も増えて処罰しきれなくて放置したりとか。いくら理想的な体制を整えても、運用するのは人だからね。」

「もう一つ質問なんだけど、さっきから冒険者じゃなくて依頼受託者って呼んでるのはなぜ?」

「最初は依頼受託者って呼ばれてたんだけど、途中から冒険者って呼ばれるようになったんだ。きっかけは冒険家ハーヴィー。彼の影響で未踏の地を探索しようという流れが生まれた。未踏の地で一山当てたい人たちと、未踏の地を開拓したい国家や貴族、商人らの思惑が重なって、一時期は依頼の大半が未知の領域の探索だったんだ。それで、それまでの依頼受託者を指す言葉として『冒険者』が定着したんだよ。」

「聞いてみるとちゃんと経緯があるのね。勉強になったわ。ありがとう。」

「いえいえ。」


 ギルドの歴史について説明が終わると同時に、何やら周囲の人たちが騒ぎ出した。すると二階へと続く階段から煌びやかな男と冒険者の一団が降りてくる。クオンはそっとカリンを背に隠す。


「どうしたの?」

「あれが王国ギルド本部のトップだよ。周りにいる冒険者は(シルバー)クラスの冒険者でも有名なチームだね。」

「・・・あの悪趣味なキンキラキンがトップなの?」

「そう。ギルドは基本中立だけど、まあ現実はそんなにはうまく行かないよねっていう悪い実例があれ。ギルド長のザシャ=バルテン侯爵。普通は元冒険者か推薦された貴族がなるんだけどあの人はコネ。いわゆる七光り。先代はとても有能だったらしいけどあの人はダメダメ。真っ当なギルド運営員からは嫌われてるよ。」

「うわあ・・・。典型的な悪い奴じゃない。」

「そしてあの取り巻きがギルド長に贔屓されてる冒険者たち。まあリーダーは侯爵の息子なんだけどね。」

「・・・言葉も出ないわ。取り締まらないの?」

「結構狡猾で悪事の決定的な証拠をつかませないからね。先代の影響力も残ってるしうかつに手を出せない。もっと大々的に悪事を働いてくれれば、ギルド総本部の均衡機関が動いてくれるんだけど。」

「・・・均衡機関?」

「ギルドの自浄作用を担っている機関だよ。『アイソスタシー』っていうんだ。」

「アイソスタシー・・・。」

「ギルドの掟に反した者を処罰する権限が与えられているんだけど、王国側の要請がないと動いてくれない。今の国王様は良い統治者だけど、周囲の貴族はそうでもなくてね。様子見しているみたい。」

「現実は理不尽ね。」

「最善の策は関わらない事だよ。あの侯爵の息子は女癖が悪いことで有名だから気をつけてね。」

「うん。」


 ギルド長と冒険者の一団はそのまま建物から出ていった。少しピリピリした状態からギルド内は元の空気へと戻る。


(シルバー)クラスって上位10%ぐらいでしょ?あの人たちそんなに優秀なの?」

「いや、どう見ても(カッパー)クラスだね。まあ銀になったのは親のおかげなんだけど。」

「・・・厄介なのがいるのね。」

「関わらなければ実害はないよ。ちゃんと実力がある人のクラス昇格の妨害はさすがにまずいからしないし。ギルドで普通に依頼を受ける点では問題ない。」


 その時、カリンのお腹がくぅ~となった。カリンは羞恥で顔が真っ赤になる。

「はは。お昼ご飯にする?リッカを拾って大学に行こうか。」

「・・・うん。」


 クロの飯催促並みに正確なカリンの腹時計に苦笑するクオンであった。


***********


 連邦都ドラグ。皇帝フランカの座すこの都は、年に一度のあるイベントを控えて賑わっていた。それは騎士・魔導師合同選抜試験。獣人は獣族ごとに成長差があるため年齢制限は設けられていない。ドラグガルド連邦中の若者が騎士と魔導師を志してドラグへと集まっていた。特に今回は新皇帝になってから初めての試験だ。新しく即位した皇帝フランカは皇女時代から美姫を噂されていたが、諸事情があり連邦民の前に出たことはない。任命宣誓式が初めてとなる。なので連邦民は例年以上に盛り上がっていた。合同試験にその挑中むに若者、田舎たちもから、合格して間近二人での皇帝と見えることをが期待して士気が高い。受験まであと一週間を切り、都には多くの受験生が行き来していた。その中に、田舎から上京してきた二人の少年がいた。名前はエルヴィン=ズィルバーとベルンハルト=ブラオンである。エルヴィンは狐族でベルンハルトは猫族だ。エルヴィンは銀色の狐耳を忙しなく動かしながら、きょろきょろと周囲を見渡していた。その様子を見てベルンハルトはため息を吐く。


「エル。そんなにきょろきょろするとおのぼりさんだと思われるぞ。」

「そういうベルも興味津々じゃん。耳と尻尾が動いてるぞ。」


 エルヴィンに指摘したベルンハルトも茶色の猫耳と尻尾が動いていた。彼も初めての都にわくわくしているようだ。


「なあベル。腹が減ったし飯にしようぜ。」

「そうだな。あそこの食堂で昼にするか。」


 二人は地元こそ違うのだが都への道中で出会い、意気投合したので共に行動していた。大衆食堂へと入ると、中は受験生と思しき若者たちでにぎわっていた。筆記試験の勉強をしているのもちらほらといる。壁際のテーブル席が空いていたので、その席に座る。エルヴィンはメニューを見ると眉をひそめる。


「やべえ。知らねえ料理ばっかりなんだけど。ベル、知ってるのある?」

「お前はほんとに辺境から来たんだなあ。俺でも半分は分かるぞ。」

「半分も分からないなら自慢してもむなしくね?」

「言うなよ・・・。ちょっと強がっただけじゃん。」

「まったくもういじけるなよ~。ベルが頼んだのと同じの食うから適当に選んでくれ。」


 エルヴィンはベルンハルトにメニューを渡す。茶色の猫耳をぺたんとさせたまま、ベルンハルトはメニューに目を通す。


「これでいいかな。チキンの銀幕包み焼き。パンと南瓜スープついてるし。すいませ~ん!」


 近くにいた犬耳少女の店員さんを呼ぶ。犬耳をひょこひょこ動かしながら注文を取りに来る。


「ご注文をどうぞ~。」

「チキンの銀幕包み焼きを二人前お願いします。」

「チキンの銀幕包み焼きを二人前ですね?かしこまりました~。」


 犬耳少女はにっこりと営業微笑(スマイル)をした後、去っていく。


「それにしても受験生だらけじゃん。毎年こうなのか?」

「どうだろうな?今年は陛下目当てな奴も多いんじゃないか?」

「陛下目当て?」

「フランカ陛下はそれはもう美しいっていう噂だからな。近衛騎士になってお近づきになれれば、逆玉も夢じゃない。九尾の妖狐は(つがい)がどの種族でも妖狐になるからな。どの獣族にもチャンスがある。」

「ベルも狙ってるの?」

「いや?俺はもうすでに将来を誓い合った幼馴染がいるから。そんな気はないな。そういうお前はどうなんだよ?」

「俺は親父の姿を見て騎士になろうと思ったからな。そこまで考えてなかった。」

「仕える相手ぐらいちゃんと知っとけよ・・・。」

「美しいなんていわれても実際に見てみないと分からないしな。」

「でも、見た目はともかくめっちゃいい子らしいぜ?俺たちとそんなに歳は変わらないのに、威張ってる貴族よりもよっぽど仕事してる。先帝陛下の退位で頓挫した国土改造計画を復活させたのも、本当はフランカ陛下の案らしいしな。なぜか宰相の手柄になってるけど。仲が悪い軍部と貴族に挟まれてよくやってるよ。若いから重鎮からなめられてるみたいだし、味方も少ないだろうにな。」


 国土改造計画と聞いて、エルヴィンの狐耳がぴくっと反応する。


「国土改造計画が頓挫?」

「ああ、性悪な貴族どもが金の無駄だって言ってな。それを復活させたのがフランカ陛下だ。」

「・・・そうなのか。知らなかったな。」


 エルヴィンはなんとなく辺境騎士になるつもりであったが、ベルンハルトの言葉を聞いて気が変わった。


「近衛騎士に興味湧いてきた。」

「目指すのはいいが近衛は難関だぞ?というかおまえもやっぱ陛下に興味あるんじゃん。」

「ベルの話で興味出たんだよ。」


 今回の試験のことや新しい皇帝陛下の話で盛り上がっていると、注文した料理が運ばれてきた。さっきの犬耳店員さんが伝票を置いて去っていく。二人とも腹が減っていたので、食前の祈りもそこそこに、すぐに料理にがっつき始めた。


「おお、うまいなこれ。」

「そうだな。俺も初めて食ったけどうまいわ。」

「お前食ったことなかったのかよ!?食ったことあるから頼んだと思ってたわ!」

「名前だけ知ってた。ははは!」

「まずかったらどうすんだよ。」

「おまえにやる。」

「いらんわ!・・・ったく。・・・ん?なんか向こうが騒がしいな。」


 ベルンハルトがふと目を向けると、食堂の一角で騒いでいる一団がいた。ぎゃはははと品のない笑い声をあげている。


「なんだありゃ?あんた、あいつらは何だ?知ってるか?」


 ベルンハルトは隣のテーブルにいた男に話しかける。男は肩をすくめながら答える。


「貴族の子弟どもさ。ああやって大きな顔していつも騒いでる。」

「貴族ぅ?なんでこんな大衆食堂にいるんだ?」

「ただのアピールだよ。平民の生活に理解がありますってな。それで新皇帝に媚びを売るつもりなのさ。試験結果で、騎士の首席になってな。」

「騒いでるだけじゃん。逆に迷惑だろ。」

「あいつらの親は影響力だけはあるんだよ。だからみんな逆らえない。関わらないのが身のためさ。あんたらも気をつけな。」


 男はそう言うと食事に戻る。ベルンハルトは貴族子弟の一団を眺める。どう見ても本気で騎士を目指している連中には見えなかった。


「食ったらさっさと出ようぜ。絡まれたら厄介だ。」

「そうだな。ベルはこの後、どうする?」

「俺はもう少し筆記試験の勉強をしたい。試験までに全範囲おさらいをしておきたい。」

「そこまでしなくても、騎士の試験はよほどひどくないと筆記では落ちないぞ?落ちるなら体力試験だろ。配点だって騎士の場合は体力試験が七割だし。」

「確かにそうだが、今更体力なんて上がりようがないし、トレーニングして怪我をする方が心配だ。筆記ならやっとけば1点でも上がるかもしれないからな。まあ、これは俺の性格だから気にするなよ。で、エルはどうするんだ?」

「俺は腹ごなしの散歩でもするよ。筆記は一応試験範囲はやってきてるし、直前にさらっとおさらいする。」

「分かった。迷って宿屋に帰れなくなるなよ?」

「大丈夫だって。道を覚えるのは得意だから。」


 二人は料理を平らげて、割り勘で料金を支払う。大衆食堂の入口で、エルヴィンとベルンハルトは二手に別れた。


「さて、どこへ行こうかね。」


 行き先を決めあぐねていると、ふと一つの案内板が目に映った。都内にある自然公園への案内が書かれていた。


「ドラグ自然公園か。散歩にはちょうどいいかもな。」


 エルヴィンは自然公園へと向かうことを決める。案内板に描いてあった通りに進んでいくと、迷わずに公園までたどり着くことができた。中に入って道を適当に進んでいく。平日のためか、ちらほらとしか人がいない。小鳥のさえずりと木の葉から漏れる日光が心地よく、食後のこともあってなんだか眠くなってきた。


「ふあ~。ねみい。どこか昼寝にいいとこないかなあ。」


 欠伸をしながらしばらく歩いていくと、大きな池があった。そのほとりに一際大きな木があった。その根元で、少女が柄の悪い男たちに囲まれていた。少女は怯えながらその場にへたり込んでいた。エルヴィンはこっそり近づいてみると、少女と野郎たちのやり取りが聞こえてきた。


「・・や・・・やめてください。」

「そんなこと言わずにさあ~俺たちと遊ぼうよ~。」

「へっへっへ。お兄さんたちがイロイロ楽しい事教えてあげるよ。」


 エルヴィンはため息を吐く。破落戸(ごろつき)は都も田舎も変わらない。観察してみると、絡まれている少女は狐族のようだった。毛並みのいい黄色い狐耳と尻尾が見えた。破落戸たちは犬族、狼族、虎族の三人だ。


(女の子は同族か。可愛いな~。ここで助けなかったら男が廃るな。よし!)


 エルヴィンは少しずつ距離を詰めていく。すると、少女と目が合った。その瞳は助けを求めていた。エルヴィンはその訴えに答えるようにゆっくりとうなずく。破落戸たちは、少女の視線が自分たちの後ろに向いていることに気付き、エルヴィンの方へと振り返った。


「ああん?なんだてめえ!」


 犬族の奴はいきなり喧嘩腰だ。だが辺境で父と共に魔物と戦っていたエルヴィンには子犬が強がっているようにしか見えなかった。他の二人も隙だらけ。エルヴィンはこの破落戸どもを雑魚だと推し量った。


「あんたらこそ、女の子1人に寄ってたかって何してんだ?怖がってるじゃないか。」

「お前には関係ないだろ!」

「関係ある。同族が困ってるのに見過ごすわけにはいかないね。」

「へっ!かっこつけやがって!おい!こいつをやっちまおうぜ!」


 虎族の男が叫ぶと、犬族と狼族の男もそれに呼応し、エルヴィンを取り囲む。


「俺たちは騎士を目指してるんだぜぇ?おめえみたいなガキが勝てるわけねえだろ。」

「意味の分からん自慢だな。せめて騎士になってから自慢しろよ。目指すだけなら誰だってできる。」

「なんだとう!お前らこいつをぼこるぞ!」


 何故か逆ギレされるエルヴィン。三人の包囲網は縮まっていき、一斉にとびかかってきた。エルヴィンは冷静に動きを見極めると最小限の動きで避ける。目標を失った三人はそのままの勢いで頭をごっつんこした。


「「「いったあ~!?」」」


 三人とも頭を押さえてうずくまる。エルヴィンは動きの稚拙さに呆れるしかなかった。


「なあ。ほんとに騎士目指してんの?そんなんじゃ秒殺だろ。」

「う・・うるせえ!」


 狼族の男が飛びかかってくる。エルヴィンはさっと横に避けると、狼族の男は足をひっかけられてそのまま体勢を崩し池へとダイブする。続けて犬族の男が殴りかかってくるが、エルヴィンは簡単にその拳を受け止め、そこから腕を掴んで投げ飛ばす。


「はい二人目~。池へご案内~。」

「うわあああああ!?」


 投げ飛ばした方向は池。犬族の男は背中から池へと落っこちた。盛大に水柱が上がる。


「さて、残りはお前だけだが?」

「ちっ。なめるな!」


 最後に残った狼族の男も同じように殴りかかってくる。一番体格が良いせいか、犬族の男よりは威力がありそうな拳だが、日ごろから鍛えているエルヴィンには難なくかわせる速度だった。ひょいひょいと避けつつ、適当に相手にしたところで、カウンターの右拳を狼族の男の顔に叩き込んだ。


「げふっ!?」


 狼族の男は顔を手で押さえて後ずさる。鼻からドバドバと鼻血が流れ出して悲惨なことになっていた。手加減はしたはずなのに思った以上のダメージでむしろエルヴィンが怪訝な表情になる。


「もうやめたら?あんたら素人すぎ。騎士の試験をなめてるなら受けない方がいいぜ。」


 獣人は身体能力が高い。特に狼や虎の獣人は獣族の中でも頭一つ飛びぬけている。よって、先天の能力に頼り切って鍛錬を怠る奴がいるのも事実だった。基礎能力が高いことにこしたことはないが、鍛錬や経験で十分に埋めることができる。ただ力が強い、動きが早いだけで騎士になれるほど甘くはない。


「くそっ!狐ごときに・・・!覚えてろよ!おいおまえら!行くぞ!」

「ままま・・・待ってくれよ!」

「置いてかないで~!」


 先程とはうってかわって、情けない言葉を吐きながら逃げていく男たち。逃げ足だけは一流だった。エルヴィンはふーっと息を息を吐くと、木の下でへたりこんでいる少女に近づいていく。


「大丈夫か?嬢ちゃん。」

「・・・あっ、はい。ありがとうございます。」


 しかし、少女は立ち上がる素振りを見せない。狐耳をしゅんとさせたままへたり込んでいる。


「どうしたんだ?あいつらはもうどっかに行ったぜ。」

「えっと、その、腰が抜けて動けなくて・・・。」


 少女は頬を赤く染めて恥ずかしそうに言う。どうやら男たちが怖くて腰が抜けてしまったらしい。


(どうしようかな?背負ってあげてもいいけど、いくら何でも初対面の男に背負われたくないだろうな。)


 エルヴィンは少女の隣に腰を下ろす。少女はその行動の真意が分からず目を瞬かせた。


「じゃあ立てるようになるまでここにいるよ。あいつらが戻ってくるかもしれないしな。」

「え?でも・・・。ご迷惑じゃ。」

「いいってどうせ休憩しようって思ってたしな。」


 エルヴィンは改めて少女を観察する。艶のある唇に翠色の瞳、毛並みのいい狐耳と尻尾。


(よく見るとすげえ可愛いなこの子。こりゃああの野郎どもがほっとかねえわ。都は可愛い子多いって親父は言ってたけど本当だったんだな。)


 エルヴィンがじっと少女を見つめていると、沈黙に耐えかねたのか少女が口を開いた。


「あの、君は騎士の試験を受けに来たんですか?」

「うん?そうだけど。どうしてそう思ったんだ?」

「この時期は受験生が多いですし、その、さっき騎士がどうとか言っていたので。」

「なるほどな。まああいつらなんて受けたところで落ちるだろ。毎年あんなのばっか来るの?」

「そういうわけではないんですけど、一定数はいますね。でも今年は、あわよくば皇帝の(つがい)になろうと目論んでそういう輩が多いような気がします。」

「皇帝の(つがい)?確かに近衛騎士になれば皇帝にお近づきになれるかもしれないけど、(つがい)になれるとは限らないんじゃね?」

「知らないのですか?試験で首席を取ると、願いを一つだけかなえてもらう権利を貰えるのですよ。」

「その権利で皇帝の(つがい)になりたいですって願うの?皇族の結婚なんてそう簡単に許可でないんじゃないのか?」

「確かに先程のような、何も後ろ盾のない男たちなら許可は到底出ません。ですが、有力貴族の子息であのような輩がたくさんいるのですよ。」

「影響力持ってる貴族の子息が願ったら、顔色を窺って断れないってこと?」

「そうですね。普段なら拒否できるのですが。新しい皇帝陛下は立場が弱くて押し切られるかもしれないんです。今まで縁談を全て断っているので、周囲の貴族たちからただでさえ圧力をかけられていますし。騎士試験首席の願いは伝統的なものなので、いろいろ難癖をつけて認めさせるんじゃないかと。」

「でも、そもそもそんなやつが首席狙えるのか?」

「実力と性格は比例しませんから。今年は何人か猛者がいるようです。」

「ふうん。皇帝も大変だな。当の本人は結婚したいのか?」

「・・・いいえ。いつかはしないといけないと思ってはいるのですが考える余裕がありません。それに・・・」

「それに?」

「皇族である以上、無理な願いかもしれませんが、やはり好きな人と結ばれたいです。」

「まあそうだよな。皇帝に味方はいないのか?」

「いますが、人数は少ないですね。」

「じゃあ、俺が味方になったら、喜んでくれるかな?」

「・・・え?」

「決めた。俺が首席合格して全部ひっくり返してやるぜ。なんか聞いててむかついてきたし。」

「君も皇帝の番になりたいのですか?」

「いいや?そもそも相手のことよく知らないのに結婚を申し込むなんて失礼じゃん。理由は三つあるかな。」

「三つもあるのですか?」

「ああ、一つ目は皇帝に恩があるからかな。」

「恩・・・ですか?」

「皇帝は俺のことは知らないだろうけどね。二つ目は、恩を返すためには傍にいる必要がある。主席になれば近衛騎士に選ばれるだろ?」

「そうですね。確実に。」

「で、最後は皇帝にお願いしたいことがあるから。」

「君は何をお願いしたいの?(つがい)になることではないんだよね?」

「おう!俺のお願いは、『皇帝の尻尾を枕にして寝たい』さ。」

「・・・は?」


 少女の目が点になる。予想外のお願いに少女は戸惑った。そんな少女には構わず、エルヴィンは熱く語る。


「だって九尾の妖狐なんだろ?もふもふが九尾だぜ?もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふになるんだ!触り心地最高だよきっと!」

「・・・は、はあ。・・・恥ずかしいけどそれぐらいなら・・・いいかな・・・。」

「ん?何か言った?」

「い、いえ!何でもありません!」


 少女は慌てて否定をすると、立ち上がった。どうやら腰が抜けたのは治ったらしい。


「それでは、私はこれで。ありがとうございました。」

「いいって。じゃあな。」


 少女はぺこりと一礼すると、その場から背を向けて歩き出す。十メートルほど進んだところで、少女は振り返って叫ぶ。


「騎士試験、頑張ってくださいね!」


 とびきりの笑顔だった。思わず見惚れるエルヴィン。少女が去っていくのを見届けると、ぼそっと呟いた。


「名前ぐらい聞いときゃ良かった・・・。俺のバカ・・・。」


 *********


 少女はエルヴィンから十分離れると、再び彼のいた方を振り返る。エルヴィンの姿は木々に邪魔されて見えなかったが、少女はその方向をじっと見つめた。


「名前、聞きそびれたな。」


 残念そうにつぶやいた後、少女はそっと瞳を閉じる。すると少女の全身が光り、黄色の毛並みが黄金色へと変化した。


「また会えるよね。銀狐君。」


 この日、フランカの心に新しい灯が生まれたのであった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

主人公はクオン達ですが、各勢力にも準主人公というべき人物がいます。クオン達とどう関わっていくのかお楽しみに。

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