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白磁の竜角  作者: 黒猫水月
序章 幼き日の思い出
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『竜角人のお姫様』

 むかしむかし、大陸の東、海をずっと東に行った場所に島がありました。島には一つの王国があり、優しい王様のもと、みんな平和に暮らしていました。


 この国の人々には他の国とは違うところがありました。この国の人には二つの角が生えていたのです。特に王族は、白磁と称されるほどの美しい白い角を持っていました。


 かつて、古龍リンドブルムには大きな角がありました。リンドブルムは世界を創る際に、自らの角を折って竜角人を創ったと言われています。なので他国の人間は、彼ら竜角人を『古龍に祝福されし者たち』と言いました。


 王様と王妃様の間には賢い王子と愛らしいお姫様がいました。特にお姫様は、王様、王妃様、王子様、国民みんなから慕われていました。


 吟遊詩人は姫の美しさをこう例えます。『瞳と髪は黒曜石、肌ははちみつの色、角は白磁の煌めきを持つ姫君』と。


 平穏な日々が続いたある日、お姫様は王様にあるお願いをしました。


『外の世界を見てみたい』と。


 生まれて一度も島の外へ出たことがないお姫様は、外の世界に憧れていました。王様は渋りましたが、ついにお姫様の熱意に負け、期限付きで外の世界に行くことを許しました。


 出発の日、お姫様は王様から小さな宝箱を渡されました。両手に乗るくらいのサイズです。(ひのき)で作られていました。


『お父様、この箱は?』

『それはね、魔法の箱さ。』


 お姫様が蓋を開けて中を覗きます。しかし、中身は空でした。お姫様は首を傾げます。


『お父様、なぜ中身が空なのですか?』

『それはね、その宝箱に入れる宝物はこれからお前が見つけるからさ。外の世界で、その宝箱の中身をいっぱいにしておいで。』

『うん!ありがとう。お父様。』


 お姫様は王様、王妃様、王子様、国民みんなに見送られます。


『お父様、お母様、お兄様、みんなもありがとう。いってきます。』


 お姫様は見送ってくれた家族と国民たちに手を振り、外の世界へと旅立ちました。


 しかし、お姫様が旅立ってすぐに、王国に危機が訪れました。大陸の東部を支配する帝国が突然攻めてきたのです。皇帝がとある錬金術師に『白磁の竜角を煎じて飲めば、不老不死になれる』と唆されたためでした。水平線は帝国の艦隊で埋め尽くされました。王国側も魔法で抵抗しましたが多勢に無勢でした。


『もはや、これまで。』


 帝国が島へと上陸しようとした瞬間、島全体がまばゆい光に包まれました。光に飲まれた帝国の艦隊は次々に消滅していきます。光が収まると、島は跡形もなくなっていました。生き残った帝国の艦隊は命からがら逃げていきました。


 この知らせを聞いた皇帝は、憤りのあまり憤死してしまいます。その後、帝国は国が傾き滅亡してしまいました。


 愚かにも、人間は自らの欲のせいで、竜角人を滅亡させてしまったのです。


 お姫様がこの後、どうなったのでしょうか。


 ある書物には、彼女の身を案じた魔女が誰にも知られないような場所に仮死状態で眠らせて封印したとも書かれています。ですが、結局のところ、お姫様の行方は誰も知らないのです。


*********


「はい。おしまい。」


 女性はパタンと本を閉じる。女性の傍らにあるベッドには、女性の子供である幼い姉弟がいた。母と顔立ちの似ている二人は、母が語る話に聞き入っていた。


「りゅうかくじんのひとたちがかわいそう・・・。」


 男の子は悲しそうな顔をする。母はそんな男の子の頭を優しく撫でる。


「そうね。リッカもクオンも誰かが悲しむようなことをしてはだめよ。」

「うん。」

「はあい。」


 男の子は素直にうなずく。女の子も続いて間延びした返事をした。母はそんな二人に微笑む。


「さあ。もう寝ましょうか。おやすみ。」

「おやすみなさい。かあさま。」

「おやすみなさい。かあさん。」


 母は女の子と男の子の額にキスをした後、部屋の灯りを消して出て行った。部屋の中が月明かりに照らされると、女の子が男の子に話しかける。


「きょうはかなしいおはなしだったね。いつもはたのしいおはなしなのに。」

「うん・・・。おひめさま、どうなったのかな?」

「そうね。おはなしのとおりなら、どこかでねむっているのかもしれないわ。」

「・・・ねえ、おねえちゃん。」

「なあに?」

「このおはなしを、めでたしめでたし(ハッピーエンド)にしたいな。ぼく。」

「おひめさまをさがしたいの?」

「うん。ぼくにできるかは、わからないけど。おひめさまにはわらっていてほしい。」

「・・・しかたないわね。おもしろそうだし、わたしもきょうりょくしてあげる。」

「ほんと?ありがとう。おねえちゃん。」


 幼い姉弟は、眠いのも忘れて、これからのことを語り合うのであった。


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