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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
のっぴきならないタイプのなにかなのは解るがこんなん絶対笑うやん編
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788 解決、のはず。

 一部の人類を小さなゴブリンにさせていた呪われダンジョンはレイニーが、当初の想定とはちょっと違うがダンジョン最下層でラスボスとして待ち構えていた小者の悪魔を消し飛ばし攻略完了となった。

 これで、万事解決である。

 解決、のはず。

 なのに、少々しっくりしない疑問が残るのは、我々を救い出すためにスキルでドアを開いてくれたメガネや、テオ。またはほかの一部の人類たちが、まだ全然小さなゴブリンの姿でいることだ。

 呪われダンジョン攻略したら、呪いとかなにもかも全部なんとかなる。とか言う、ざっくりした話はなんだったのか。

 私は、もーなにも解らん、知らん。みたいな気持ちで考えるのが面倒になり、完全にレイニー先生の魔法をアテにカチ込んだダンジョンへ入る時と寸分変わらぬ……いや、ぬるい泥水にまみれて疲れ切ってはいるけども。

 でもまだ全然小さなゴブリン率が多めの集団を、ほとんどぼう然とするように眺めた。

「……もしかして、攻略できてないとか言います?」

 そして、チラっと、本当にチラっとそんな不安が頭をもたげ、口からこぼれ出てしまう。

 が、これは反射的にイラっとしたレイニーが完全に否定した。

「リコさんではあるまいし。わたくし、そんな失敗は致しません」

「おう、なんだ。なんで私のこと巻き込んだ? お? ケンカか? メガネに頼んでおやつ出さんようにしたろか?」

 確かに私はなにもかも大体の感じでやりすぎて、なにごとにおいても驚異的に確実性が低いけれども。今はそれ関係ないやろが。

 私だってねえ、悲しい気持ちにくらいなるんだからね!

 と、思ったが、まあ、悲しいっつうか、なんだてめえとキレ散らかす方面にエネルギーが向いてしまう傾向は強いよね。

「おおん? おおん?」

「リコ、やめなよぉ。ガラ悪いよぉ。今そこ全然本題じゃないのに個人的にちょっとイラついたところに無駄に食い付いてキレるのやめなよぉ」

「おやつを……? わたくしからおやつを取り上げるだなんて……! どこまで卑劣な……!」

「レイニーもさぁ、今そこじゃないんだよぉ」

 やめなよお。話進まないよお。などと、ゴブリン姿のメガネにたしなめられながらレイニーと私が全然本題ではないところで引っ掛かりもめている一方、異世界の常識人や秀才たちはダンジョン攻略したのにゴブリンがゴブリンのままなのはなぜかとざわつき検討会を開くなどしていた。有能。

 なお、私がレイニー先生にダンジョン攻略をお願いする直接的なきっかけとなったお昼時に乱入してきた野生のナチュラルボーンゴブリンについてはすでに討伐されており、なんか森の片隅に穴掘って今まさに埋めようとされているところだった。

 聞けば、少しサイズは小さいが同じような姿になってしまった人類ゴブリンがいるために同情のような、複雑な感情をいだいてしまって普通のゴブリンに武器を向けるのをためらっていたおっさんたちを「情けないねえ!」と押しのけて、見事な連携でさくさくと倒したのがゴブリン化した冒険者女子たちだったとのことだ。

 あいつらには人の心がない。みたいな感じで語ったその辺のおっさんによると、ためらいのない見事な連携で自分たちよりも体格の大きいゴブリンを見事ボコボコにしていたらしい。さすがだった。

 なので、呪われダンジョンの出入り口近く、地上に待機した集団の内訳としては冒険者や兵士などの人類と、元人類の小さめのゴブリン。

 あとは、なんか黒っぽいローブに身を包む謎のオタクたちなどだ。

「えっ、あれ錬金術師じゃない?」

 レイニーとやいやい言い合うのに忙しく、だいぶ遅れてそう問うと黒ぶちメガネのゴブリンが「そうだよ」とだいぶ普通に肯定し、我々の言い争いを止めるためわざわざ騒ぎの中に飛び込んできたゴブリンテオが「あぁ……」となにやら暗めの顔で言う。

「人がゴブリンになるのは前例がないので、調査にきたそうだ。急いで……近郊の転移魔法陣を使い、騎士の早駆けで……」

 レイニーと私が呪われダンジョンへと勝手に挑み、やいのやいのと暴れている間に王都からやってきていたらしい。

 まあ、それは解る。

 めずらしい現象がそこにあると解ったら、錬金術師がはあはあしながら駆け付けるのはあまりにも自明。

 例え今、どうしてダンジョンを攻略してしまったんだ! まだなにも調査できていないのに! と、人間性に欠ける苦情を申し立てていたとしてもだ。

「いや……人間ゴブリンになっちゃってるから……早めに戻さないとだから……」

「そんなの! 戻せると解っているのならもう少しくらい放っておいても変わりないだろう?」

 せっかくのサンプルが。せっかくおもしろい研究ができると思ったのに。

 そんな感じを隠しもせずに、と言うか多分、隠すべきとも解らない様子で錬金術師はちょっと泣いてた。

 失意なのか、くやしさなのか。

 それは解らないけども、そんな彼らのめそめそとした様子に私は逆に感心してしまった。

「たもっちゃん、見て。これよ。これが人の心を持ってないってやつよ。これに比べたら私なんてまだまだじゃないですか?」

「目くそ鼻くそなんだなぁ。そもそもよ。別に程度の問題じゃねぇのよ」

 人の心がないって時点でもはや全部一緒なの。どっちがよりひどいとかじゃねえの。

 たもっちゃんはそんな、私の会心の言い訳にさっぱり意味の解らない理屈をこね始め、それはそれで訳の解らない私に「は? なんや? なんでそんな私にばっか当たりきついんや?」みたいなキレかたをさせた。

 こう言う時はね、あれよ。より理不尽にキレたほうが勝つ。私知ってる。間違いないんだ。割といつもやってっから。

 ただし人として大丈夫では全然なくて、ネオン輝く夜の街の片隅ではかなく消え行くチンピラの理論と言う気はしてます。

 で、今度はメガネとやいやい言い出すのに忙しく、そのためだろう。ついつい思い当たるのが遅れてしまったが、王都からここまでやってきたのは錬金術師らだけではなかった。

 ヒントはすでに提示されていた。

 やたらとどんよりしたテオの空気感とかで。

 どうしたのかと思ったら、だいぶ飛ばしてきた騎士の馬に翻弄されてちょっと気持ち悪くなりながらはあはあとその辺のゴブリンに這いよっては嫌がられている数人の錬金術師たちの周りに、そのローブをつかんで配慮を持てと叱り付けている騎士、そしてその騎士たちの上司たるテオのお兄さんがいた。

 ちょっと遠くから見ただけで解る。興味深い症例を前に人の話聞いてない錬金術師を何人も預かり、引率に苦労していると。

 とてもひとごとは思えず、胸がじくじく痛んでしまう。人の話聞いてない錬金術師に自分の姿を重ねるなどして。ご迷惑をお掛けしています。

 まあそれはそれとして、テオのすごい嫌そうな顔、絶対これが原因っすね……。

「そっか……お兄さん……きちゃったか……」

 じゃあ多分、あの辺にいるの隠れ甘党か……。

 なんか、一瞬前までメガネやレイニーとぎゃいぎゃい言ってキレ比べていたのに、ものすっごい気分の下がってるテオを見てたらこっちまでちょっと落ち着いてしまった。

 おやつ食べよ……。

 そんで隠れ甘党にもなんかおいしいやつとかこっそりあげよ……。


 そうして、呪われダンジョンは攻略したはずなのになぜかまだ小さなゴブリンが健在である謎の状況のただなかで、よく解らんがまだゴブリンが残っている内にとわあわあ言って手当たり次第に調査――と言うにはだいぶ趣味の感じを隠し切れない錬金術師がはあはあと駆け回るかたわら、我々は本気のおやつとしながらああだこうだと雑談に興じた。

「だからぁ、ダンジョンの外にまで影響するくらいだった訳じゃない? 実際に俺らがこのダンジョンに入ってからゴブリン化するまでタイムラグがあったみたいにさ、ゴブリンの呪いが解けるまでにもちょっと時間掛かってもしょうがなくない?」

「しょうがないって言うか、たもっちゃんがいいなら別に私はいいんだよ。たもっちゃんがいいなら」

「よくはないです……」

 ただ、なんとなくガン見の流し読みからそんな仮説が成り立つだけです……。

 と、ガン見のくだりは口にせず、しかし悲しげにうつむけた小さなゴブリンの顔にありあり浮かべてメガネは大体の感じでそんなふうに語った。

 なお、たもっちゃんもゴブリン化しているために錬金術師の調査の手からは逃れることができず、たもつおじさんを守らねばと安全なゴーレムを離れてまでやってきたじゅげむに抱っこされた状態で全身くまなく計測されたり血を抜こうとされた辺りでじゅげむが泣き出して黒っぽい錬金術師らをアッアッとあわてさせたりしていた。さすがだった。錬金術師ごときならじゅげむの手の平の上なのだ。

5話更新の2。

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