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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
のっぴきならないタイプのなにかなのは解るがこんなん絶対笑うやん編
787/800

787 耽美なやつ

※ 特殊な水害を思わせる描写があるかも知れません。ご注意ください。

 説明書はさ、説明書はよく読まなくっちゃいけないよ。

 企業さんとか運営とかが過不足なく情報を盛り込み、素人にも解るように噛み砕いて説明してくれてるありがたい紙をね。ようく、ようく、解るまでお読みよ。

 おうメガネ。お前の話やぞ。

 まあそれはそれとして、私は野生の勘と説明書の最後のほうにある「困った時は」の項目を頼りにやらせてもらっています。


 レイニーがどんどこと容赦ない魔法でダンジョンのラスボスらしきヘドロのなにかを倒したあとで、それがとり付かれた生物とかでなく、シンプルに悪魔そのものだったと知らされた私。

 びっくりしちゃった。

「えっ、さっきのやつ悪魔なの? ……あれなの? もっとなんか……こう……悪魔っつったらさあ……フォトジェニックな知的生命体みたいな外見して欲しさない?」

 こう……、なんかさ……。

 よくないと解っているのに、つい手を取りたくなってしまう感じの。嘘しか言ってないって知っているのに、こっちを見ていてくれるなら騙されたままで構わないみたいな。

 耽美なやつおよお。くれよお。

 そんな理不尽なおどろきと、サブカルに毒された欲求を隠しもしない私の姿にレイニーはちょっと引いていた。

「さぁ……わたくしに言われても……」

 それはそう。

 でもね。やだよね。なんかねと、ふわっとしていながらに理不尽さには変わりない感想をレイニー相手にぶつけていると、ダンジョンの様子に変化があった。

 これはあとから地上に戻ってメガネなどをまじえてああだこうだと情報をすり合わせて解ったことだが、どうやらレイニーが今回消し飛ばした悪魔は我々が以前、某メルヒオール少年の母――この人が野心のために自ら契約し、その身に巣くわせていた悪魔をどうたらこうたらしたことで悪しき力の影響下から一度離れたダンジョンに、あとからするっと入り込んだ無関係の別個体だったらしい。

 よく解らんが、多分なにもよく解らずにうっかりこの場所にたどり着き、「なんかここええやん」と住み着いてしまった危機管理能力の足りないのんびりした奴だったのだろう。

 なんだろ……そのなんも解ってないのん気さ。とてもひとごととは思えない……。

 なんかええやんて思うのに誰も住んでないってことはさ、それなりの理由があるんやで。

 先住の悪魔が偶然通り掛かった天使などに全力でボコボコに討伐されてるとかの。

 そう言えば、これまでの悪魔はびっかびかの金の玉とかにして天界に回収されてたが、今回はレイニーがすでに消し飛ばしてしまった。

 よかったのだろうかと今さらながらに心配したら、それは大丈夫とのことだった。

 悪魔にも階級があるらしく、今回の悪魔は「それほどでもない」ので回収するまでもないと言う。

 悲しい……。

 生きとし生ける命を博愛してそうな天界や、世界の理から逸脱したかのような悪魔ですらも格差から逃れることはできないらしい。つらいですね……。

 まあしかし、そんな小者がやったにしては被害の規模が大きくない? とも思ったが、それは悪魔の力になじみすぎたダンジョンのうずまく魔力を利用する形であれがこれでどうたらこうたら。みたいな話をうっすら聞いたような気もする。

 よくは解らないのだが、きっとなにかがどうたらこうたらしていたのだろう。全くなにも解らないけども。

 ともかく、大したレベルでなかったとしても、一応はダンジョンを支配し、どうたらこうたらして一部の人類をゴブリン化させ、局地的にではあるものの世界を混乱にもたらした悪魔はこうして消え去った。

 レイニーが情け容赦なくやりました。

 私は今、天使って、なんなんだろうなと思っています。

 で、ラスボス小者悪魔が消え去ってほどなく。

 ぐつぐつ煮えたぎるようでいて、静かな拍動に震えていた土くれの、ダンジョン最下層に広がる空間が一気に崩壊し始めた。

 そらもう。我々は逃げ惑う憐れな小動物よ。

「レイニー! レイニー! こう言う時じゃない? なんか便利な魔法でささっと逃げるの、こう言う時じゃない?」

「そんな魔法はありません。いえ……転移の魔法はありますが、制御が難しくなります。今のわたくしでは規模が抑え切れず、天界の祝福に近い影響が周囲に出……」

「やめよう」

 ぼろぼろと土くれの剥がれ落ちる壁面や、地下空間の天井部分。

 それら落下物から本能的に頭を守り、わあわあ言って逃げるさなかもそこだけはなんか自然と真顔でするっと声が出た。やめよう。

 レイニーと私を閉じ込めるみたいに。

 地下のダンジョンはボロボロと、それかドロドロと破壊され元の姿を失って行く。

 焼けただれたふうにも思われた土くれがボロボロと崩れた下から本来のダンジョンが顔を見せ、あちらこちらでどこからともなく大量の水が湧き出した。しかも聞いて。なんかここだけ出てくる水が超熱かった。

「温泉のポテンシャルを感じる~!」

 そんな場合ではないのだが、なんかそんな叫びとか出た。

 その熱水に押し流された土くれがドロドロとした濁流を作って足元に迫る。私は思った。これはあかんと。そして、あっつい濁流と共に押しよせる危機感にプライドを捨てた。元々そんなにはなかった気もする。

「レイニー先生、お願いします!」

 頼みの綱とばかりに我が家の天使にしがみ付き、障壁魔法で足場を作ってもらってとりあえず高い位置に退避。

 あっぶねえ~! とか言いながら、足元の障壁、そしてその下で熱い泥水がだくだくと渦巻き高さを増して行く様子を見下ろした。

 私は、改めて思った。

 こりゃーどうしようもないぜと。

 レイニーが魔法で作った障壁は魔力でほのかに輝いて、それでいて向こう側がよく見える。

 高い位置に一応の避難はしていても、自分たちの足元で見る間にどんどん勢いと量を増して行く泥の熱水はなにも全く安心できない。

「ドアや。こう言う時はドアのスキルや。あかん。逃げよ逃げよ!」

 便利なもんは使える時に使わなあかん。

 そんな強い意志を持ち、私はこんなこともあろうかと、と言うか普段からぽいぽいと都合よく使うため、アイテムボックスに備蓄した自立式ドアの一つをレイニーが床状に張った平たい障壁の上にそれ行けと設置。

 アイテムボックスの新着通知をうまいこと利用し、たもっちゃんに助けを求めた。

「あばあ~!」

「ドア開けて第一声がそれとかある?」

 アイテムボックスの雑なチャットで助けを求めた文面で、我々の危機を察したのだろうか。

 すぐに地上側にもドアを出し、スキルを使ってドアとドア――ダンジョン最下層と地上をつないで開いてくれたメガネは、とりあえず急いで開きはしたがなにも解らんと言った様子で引いていた。

 めちゃくちゃ早めに開けてくれて助かった。でも、もうちょっとよりそってくれてもいいのよ。気持ちとか。

 そんなうっすらとした不満がなくもない。

 が、あわわわと焦りまろび出るようにドアを通ってダンジョンから地上へと無事に帰還した我々はまだ全然それどころではなかった。

「閉めて閉めて! 水! すっげーあっつい熱水くっから!」

 この慌てぶり、そしてそのセリフによって、

すぐそこに迫る危機に気が付いたようだ。

「キャーッ! 何これ! 何これ!」

 わめく私に、メガネが騒ぐ。

 マジで何これ! と、ドアの取っ手にしがみ付きキャーキャー言ってるゴブリンメガネのぶらんぶらんした足元を、勢いと水位をどんどん上げる濁流がアッチアチに襲う。

 閉めろ閉めろ! なにこれ閉まらん! みたいなことをぎゃーぎゃー言い合い、地上側に対してはまだ足元の低い位置ながら熱い泥水がざっばざっばと湯気を上げて出てくるドアをとにかく閉じようと試みる。

 たもっちゃんの便利なスキルでむりやりつないだドアなので、閉じれば多分、なかったことになるから……。いや……なるかな……。

 アンドレアスやスヴェンを始め、周囲の人間がわあわあ言って駆けよって力を貸してくれようとしたが、それでもかなり手間取った。

 ドアからあふれる泥水はみるみる内に増して行き、地面にしみ込み足元の状態を悪くする。冒険者や兵士の頑強なはずの人間すらも熱い泥のぬかるみにはまり、転び、または転んだ奴に巻き込まれてさらに別の人間が転ぶ。

 もはやちょっとしたパニックだった。

 結局は、めずらしく逃げ遅れたのか我々と一緒になって熱めの泥にやられたレイニーが魔法を練ってドアの開口部を障壁で密閉。熱水の泥をピタリと止めるまで、フロアの盛り上がりは最高潮だった。悲鳴とかの意味で。

 あとに残されるのは泥水と、もっと濃度の高い泥にまみれた敗者感あふれる人間たちだ。

 なお、子供らは搭乗型ゴーレムごとオットーが遠ざけてくれており、無事で本当になによりだった。

5話更新の1。

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