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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
のっぴきならないタイプのなにかなのは解るがこんなん絶対笑うやん編
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781 ちょっとした恩義

 ラオアンの街の薬屋に対し、我々にはちょっとした恩義があった。

 主に、金ちゃんが異世界のハリガネムシみたいな寄生虫かなんかにやられた時に、よく効くお薬を作ってもらったことがあるなどの。代金はちょっと多めにお支払いしてます。

 大変だったよね……。お薬飲ませるの……。

 お薬が存在するだけありがたいけども……。

 そんな、なぜだかふっと遠くを見てしまう記憶と共に、大荷物を背負った薬屋は息を切らせて森の中、テーブルにお茶とおやつを広げるなどしてだいぶ腰を落ち着けていた我々の前に現れた。

 我々はその時、ダンジョン前に出したちゃぶ台のようなテーブルを囲み、泣いている大人にドン引きの気持ちもあったのだろうか。気を使った子供らがレイニーもダンジョンに「行っていいよ」と言ってしまって「えっ、ホントに?」みたいな感じでそわそわし出した私の守護天使――のようなポジションで、実際その役割を果たしているのかは知らないが本来その保護対象である私からそんなに離れられないはずのレイニーにすかさずガシリと組み付いて、必死に説得しているところだった。私が。

「いやいやいや、待って。子供らと私だけなのはよくない。本当によくない。なんかあったらどうすんの。森だよ。なにがあるか解んないんだよ。山の天気は変わりやすいって言うでしょ。あれよ。私だけでは絶対になんの役にも立たない。見て。この村人感。あふれ出る秒殺されるモブキャラの風格」

 私は私がいかに頼りにならないかに関し、説明する言葉を惜しまない。

 それでだいぶ一気にまくし立てた私にタックルされたみたいな格好のまま、レイニーは困惑の色を浮かべて視線をよこす。

「リコさん、今、天気の話は関係ありましたか?」

 気にして欲しいのは絶対にそこじゃなかったが、子供らもこう言ってくれてるし、もうダンジョン行っちゃおうかなとそわそわしてたレイニーが落ち着いてきたのでよしとする。

 被害は私のイメージ暴落だけだ。

 そもそも暴落する余地があったのか、そして本当に大丈夫かどうかは謎である。

 と、そんなごちゃごちゃした場面を切り裂くように、若い薬屋はやってきた。

 だいぶ息切れした状態で。

「先生……せん……先生は……!」

 森の下草を踏み付けて、人の頭や肩を叩く高さの枝葉をかき分けながらにやってきたその若い男性は、我々の姿を視界に入れた瞬間に自ら背負った重たい荷物につぶされるみたいに、どっ、と地面に両手を突いてそう言った。

 ただ、まず、私には彼の言う先生がなんなのか解らない。

 あと、白い布を巻いた頭のてっぺんをこちらに向けてぜえはあと荒い息をくり返す姿がちょっとここから遠かった。

 彼は我々を視界に入れた瞬間に力尽き、まだだいぶ距離のある位置で倒れてしまっていたからだ。遠い。

 我々は我々のいるテーブルからまだ全然離れた場所で地面に崩れ、上がった息が全く落ち着かない若い男をそっと見ながらひそひそと言い合う。

「なんだろ……こわい……。なんか知らんけど必死すぎて……」

「リコさん、お静かに。下手に刺激しては……」

 いや、街の薬屋なのはうっすら思い出してはいたんですよ。なんとなく。お薬とか扱いそうな白っぽい格好してますし。

 でもほら。登場の仕方が……訳解んない感じになっちゃってるから……。

 私とレイニーの小声の感じに釣られてか、じゅげむとライムもひそひそとしている。

「おくすりやさんだ」

「おくすりやさんなの?」

 じゅげむも遠目に見て解るくらいにはちゃんと覚えていたようで、ライムにあれは街の薬屋だとキリッとうなずき教えてあげるなどしていた。

 やはり天才。うちの子の才気が止まらない。いとおしい。

 おやつもっと出しましょうねえ。それか、合間合間にしょっぱいものはさんで無限に食べちゃいましょうかねえ。

 そんな、ずっとだらだら食べていてもうなにも解らないダメな休日のような提案をしそうになってしまうほどだった。よくない。

 これをやりすぎてしまうと、たもっちゃんやテオやオットーたちが戻った時に子供におやつを与えすぎたのがなぜだかバレて子供の健康は大人が気を付けなきゃでしょうがとバチギレでお叱りを受けてしまうのだ。私知ってる。割とよくある。

 それでとりあえず一回体にいいお茶でも飲んどこっかと子供用のカップとその中身をレイニーにキンキンに冷やしてもらっていると、息切れで倒れ伏していた街の薬屋がのろのろと復活してきて手足を突いてさかさか這うように近よってきた。

「先生は……。先生は? もうダンジョンか? どうして行かせた、大丈夫なのか? ダンジョンに安全はないだろ。先生になんかあったらどうする。あのオブラートってやつを簡単に思い付く頭だぞ。先生の知識が失われたらどうしてくれんだよ……!」

「えぇ……こわ……」

 硬い地面をちくちく隠す夏草を手足で踏んで、四つん這いで迫りくる成人。こわい。さながら夜中に出会う黒光りする虫。顔に向かって飛んできたりしたらこれまでの人生で出したことのない悲鳴とか出ちゃう。

 しかし、街の薬屋が言いつのるなんか必死な内容で、先生がどうやらメガネのことをさしていると解った。解ったが、でもそれはそれでちょっと私、引いてます。

「メガネの弟子が勝手にどんどん増えて行く……」

 彼の口ぶりからすると、地球のうっすらとした有用知識――苦いお薬じょうずに飲めるオブラートなどを披露したせいなのだろう。

 たもっちゃんに大してなんの指導もしていない薬屋の弟子がいつの間にかにできていた。

 こわい。

 てっきり、お料理メガネの得意なことはなんとなくお料理だとばかり……。弟子ができるのだとしたら、お料理関連に限定されるとなんとなく思い込んでいた。

 それがまさか、こんなところで……。お薬は知識とか経験とが国家資格が必要とされる専門職のはずなのに……。異世界に国家資格の概念があるかどうかは解らない。

 とにかくはあはあと這いずる街の薬屋を前にして、世の中解んないもんだな……と思ったが、よく考えたら今さらだった。

 なんも考えずに行き当たりばったりのメガネがこの異世界にきてからだいぶ色々手を出して、手を出しただけでほったらかしにしてきた技術や発明と言う名の地球知識が、ちょっと振り返ってみただけでぽろぽろいくつも思い当たった。こわいですね。

 そいつならローバストの事務長とか王都のペーガー商会に仕様書を吸われ、技術使用料とかで振り込まれた俺の口座で寝てるよ。俺と言うより主にメガネとかの。

 かわいいよね。預金額に増えて行くマル。ごはんいっぱい食べちゃいましょうね。

 念のために申し上げとおくとガン見によって元々詳しい訳でもないのになんとなく仕様書を参照できるため異世界に地球の技術を持ち込みがちなメガネと違い、私はうっすらテレビとかで見たなんとなくのアイデアをふんわり横から放り投げる程度の悪逆なので口座のマルもそんな増えてないです。別の視点からするとちょっとは増えてるとも言えるので、だいぶグレーの色が濃い。

 マネーを前に、にんげんは愚か……。

 前世のテレビかなんかでかじった誰かの知識を勝手に利用し収益を得るのは人としてどうかと言う倫理の気持ちと、でも異世界にまで知財権は適用されないのでギリギリなんとかみたいな言い訳がましいこの気持ち……。

 ギルドで口座の残高確認した時とかに技術使用料の額面を見て、ああ……私が大事に守ってあげなきゃ……みたいな、胸の中にほの暗く灯るいとおしさをどう止めたらいいのか解らずにいる。

 よくない。自分の人間性を突き付けられている。

 徳、すきあらばできるだけ積んで行きたいと思ってはいます。

 そんな、深い反省のような空気を出しつつも実際は自分からうっすらにじむよくないところをそっと厚手のおふとんで隠す気持ちで横によけ、今日もなんだか暑いわねえとまだなんかメガネのことを先生と呼んでやいやい慕う街の薬屋を放置して、しかしそれはそれとして飲み物なんかを出してあげながらぐだぐだと時間を潰してお昼ごろ。

 いざこの呪われた姿をなんとかしてくれようと、意欲むんむんに悪魔の移り香でどうのこうのしているらしい元凶となったダンジョンの奥地へ分け入ったはずの呪われゴブリンとその加勢である人類の一団が、地下に向かって開かれたダンジョンの入り口からぞろぞろと出てきた。

「えっ、もう終わった?」

「ううん。お昼休憩」

 なんだよあっさり終わったじゃんと思って問うと、黒ぶちメガネのゴブリンがどこからともなく大きな鍋を出しながらに答えた。

 どうも、平素から冒険者に人気のないダンジョンであるため攻略が全然進んでおらず、探索に手間取ったり小さめのゴブリンの足が遅くて全くはかどってないとのことだ。

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