表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
のっぴきならないタイプのなにかなのは解るがこんなん絶対笑うやん編
777/800

777 天使とド健康転生者

 悪魔の力を吸い込んで呪われてしまったダンジョンに、同じ時期、同じ条件で出入りしてたのになぜかゴブ化せず無事でのんびり人のことを笑っていた我々。

 レイニーはかなりドライにどうでもよさそうだったので、大笑いしてたのは私だけと言う見かたもある。世間はいつも私を追い詰めるんだ。

 ともかく、同時期に、同じダンジョンに入っていながらに、人間が突如ゴブリンの姿に変わってしまう怪現象から逃れているのは今のところレイニーと私だけだった。

 ただしこれは実際のところ我々がなんかうまいことやったとかでは全然なくて、天使とド健康転生者たるそもそもの体質によって自動的かつ結果的にギリギリセーフだったらしいと判明している。

 あれよね。思いのほか運の要素が強い感じがひしひしとして、今さらながらに危ないところだったな……みたいなひやっとしたものがあるよね。

 けれども、この持ち前の体質でギリギリセーフの事実についてはガン見したメガネにこの地での信用が足らないために、冒険者ギルドや街のえらい人たちに対してもなんか多分そーゆー感じとふわふわの説明がなされたにすぎない。

 仕方ない。信用は一朝一夕には行かぬ。

 そして信用を得るまでの間に大体我々がなにかしらをやらかすなどし、永遠に信用には手が届かない。よくある。

 冒険者ギルドやお役人のえらい人たちもその辺の意識はちゃんとして、むやみには信用しすぎはせずに話半分みたいな姿勢でこの辺りの説明を聞いていた。

 まあそれはそれとして、ゴブリン含むえらい人らも期待した内容ではなかったのだろう。

「役に立たねえ……」

「参考にならないな……」

「それは我々のせいではないですね……」

 今回はこう、我々も一応なんのやらかしもなくただただ被害を受けているほうなので……。多分……えっ、多分……。そうだよね……? 心配……。

 こうして待ちと言う名のどこまでもうだうだと時間をつぶしている内に、体にいいお茶がきたと聞いて! みたいな感じで割と今回の件にも間接的に関わりがなくもないメルヒオール少年がばーんと現れて、体の弱い叔父のため、彼が敬愛しすぎているその人のため、私がむしって蒸して乾かして袋詰めにしたものを丹精込めてごろんごろんと抱き枕にしてばっきばきに強靭な健康を付与したお茶をこれでもかと巻き上げにきたりした。

 メルヒオール少年の桑色の頭の上では不可思議な光沢を放つ羽を持った小鳥のようなおっさんが優雅に、可憐に、もさもさと顔の半分を隠す金ぴかのヒゲを整えている姿が見られ、ああ、ここはそう言う街だったのだなあとなんだかしみじみしてしまう。

 で、これはメルヒール少年の顔を見てやっと思い出したことだが、我々が今いる呪われゴブ化ダンジョンから最も近いこの場所を正しくはラオアンの街と言う。

 いや、これまでにも街のえらい人とかが話の要所要所で多分何度も「我がラオアンの街は……」みたいに口にしてた気もするが、なんか全然意識に引っ掛からずにスルーしていた格好ではある。

 正直、今初めて聞いたくらいの新鮮な気持ち。そんな名前の街でしたか……。ちょっと全く印象にないんですけども……。

 そもそも覚えていないのに、思い出しましたと言い張る勇気。頼もしい。私です。

 こうしてなにもかもなに一つとしてはっきりとはしてない私においてすら、色んな意味でだいぶ印象が強すぎるメルヒオールの登場に、我々は沸いた。

「メルたんじゃん。おやつ? おやつ食べな。今ちょうど俺いい感じに天才の仕事したとこだから。俺が俺が」

「いやいや、たもっちゃん。そこはやはりボウルを押さえるプロとしての私のアシストあってこそよ」

「わたくし、何一つ根拠なく手柄を横取りするのはよろしくないと思います」

 ホットケーキが一に対してホイップクリームが二の割合で暴力的に積み上げたおやつの皿をメガネが小さなゴブリンの姿で若干よたよたと運んで差し出して、その全て俺のお陰とばかりのもの言いに横から食い付く私。

 の、さらに横からは指一本動かず、しかし繊細かつ全力の魔法で空気含有率を完璧にコントロールした完全なるホイップクリームを作り上げたレイニーがキリッとたしなめると見せ掛けてだから自分は誰よりもおやつをいただいていいはずなどと訳の解らないことを言い出した。

 そんな中、ホイップクリームと言う名の夢とカロリーでいっぱいの皿を受け取りながらメルヒオール少年が薄い青紫にぴかぴか輝く竜胆色の瞳を大きく見開いた。

「これ……このメガネ。このメガネかけたゴブリン、もしかしてあのメガネのおじさん?」

「そうだよ」

「あははははははははは!」

 わかる。そうなる。わかる。

 どっから声が出てんだって勢いでバカみたいに笑ってしまうし、なんか知らんけど涙まで出てくる。

 今のメルヒオールがそうであるように。

 わかる。私は深い共感にうなずく。

「だよね。そうなるよね。笑うよね。わっかる。ねえ、そのホットケーキのホイップにお花のジャムとかさらに追加してみたりする?」

「いや、リコ。メルたん意外と愛を知ってるみたいに見えてそれは叔父さんにだけだから。そこに強火過ぎるだけだから。実際はあんまり人の心持ってないからさ、これと一緒のリアクションしちゃ駄目なのよ」

 悪魔の要素ありすぎなのよ。これで大笑いできるのは。

 イエネコの大人くらいのサイズ感。そしてどこかしんなりとしたゴブリンの姿でありながら、たもっちゃんは不思議に悲哀を思わせる切なさをかもしてそんなことを言った。

 ちょっとなにをおっしゃってるか私には解らないですね……。

 メルたんのお皿にジャム載せてあげるお仕事で忙しいので……。

 ふんわりと、それでいて存在感たっぷりにお皿を飾るホイップクリームの優美さに竜胆色の瞳をぴかぴかさせて子供らしさを覗かせた僕らのメルたんは、それからさらに白き毛玉の神であるフェネさんと幼児のライム、ライムがいるために結果としてその養育者であるオットーとアンドレアスにまで囲まれた状態で顔と心に虚無をかかえたゴブリンがテオであると言うことを知ってまた元気いっぱいに笑った。

 わかる。そうなる。これは仕方ない。

 我々の心に人間味が足りないとかでは全然なくて。

 生まれながらに悪魔の素養に事欠かぬ少年はしかし、呪われて変化したほかの個体よりも一回り大きく、じゅげむにだらーんと抱っこされていながらにどことなくボスネコのような風格をかもすゴブリンが我が家のトロールだと知るとなぜかスッと真顔になった。

 そして神妙に、自らのおやつとしてすでに三分の二が消えているホイップクリームとジャムによって威力を増したホットケーキをじゅげむのお膝におっさんの風格で腰掛ける金ゴブにあーんとして分けてあげていた。

 金ちゃんは鷹揚なる強き男であるので、小さき者からの尊敬と捧げものはいつだって全部受け取ってくださる。

 例え今は自分のほうが小さくて憐れなゴブリンと化していて、いつもとは立場が逆転しじゅげむに抱っこされていることにめちゃくちゃ不満げな様子であろうと。さすがだ。

 また、僕らのメルたんはかしこく抜かりない男児であるので金ちゃんに捧げられたホットケーキはその時点でお皿に残った全てであり、ゴブリン化したトロールにあーんてした食器は共有しないと言う衛生面におけるリテラシーの高さも見せた。

 金ちゃんからメルたんへの共有はないと言うだけでメルたんが使った食器で金ちゃんにあーんとはしているのだが、すきあらば生肉とか虫とかむしゃむしゃしてる金ちゃんが誰よりもリスクをかかえてるから……口内環境とかに……。

 衛生観念の鬼であるレイニー先生、いつもありがとうございます。

 厳しくも優しいと見せ掛けてどこまでも苛烈な洗浄魔法……魔法だから水じゃないのに勢いすごくてなぜか溺れそうになったりするけど衛生面では助かっています。

 そうこうする内にオットーたちも冒険者ギルドのえらい人とかからメルヒオール少年が誰で、彼の生家であるホラーツ家がこのラオアンの街でどう言う地位にあったのか。そしてどうしてその悪辣な行いが明るみになり、没落したかを聞き出したらしい。

 で、なぜだか我々を見下ろすみたいにアゴを上げ、「ふーん、やるじゃん」などと、おとなしそうでいて意外と血の気多めの破天荒キャラみたいなリアクションを見せた。

 我々も別に街をぶっ潰したり代官を失脚させたりするのが趣味な訳では決してなく、なんか知らんけどそうなるだけなので、あれよ。そんな、やるじゃん。じゃねえのよ。

 あと破天荒はあくまでも前代未聞に似た意味合いで、字面から受ける無鉄砲と言うか豪快と言うかはちゃめちゃな感じはあくまでも誤用だった気がうっすらとする。ではこの誤用のほうをなんと言い換えればいいのか。解らない。日本語むずい。日本語しか解らないと言うのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ