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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
常識人ではあるけれどマジでそう言うところやぞテオ編
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761 風林火山の男

 ずうずうしくも、いたいけな子供に自らをお兄ちゃんと呼ばせんとするスヴェンのよく解らない野望は我々や、不穏を察してすっ飛んできたテオによって阻止された。

「子供にでたらめを……」

「でたらめじゃないですー。ちょっとした可能性としての予定ですー」

 苦々しげにしかめた顔でテオに見られてこの態度。

「予定は未定のやつだあ」

 テキトーだあ。

 さながら都合が悪い時の我々のおもむき。

 特には根拠のない雑さ。そしてふてぶてしさがまるで他人とは思えなくもないが、断じてスヴェンはじゅげむの親戚ではない。

 そこはうやむやにしてはいけないと、私は一層の危機感を強めた。

「やべえじゃん。たもっちゃんみたいじゃん。不安要素強めのこの訳の解らないでたらめな主張。やべえやつじゃん」

「俺はエルフ以外には無害ですぅ!」

 打てば響く勢いで、やばいと言えばみたいな感じで引き合いに出した私に対しメガネが瞬時に言い返す。

 たもっちゃんのその言いぶんにわき上がる、そうか。と言う気持ちと、それでいいのか? みたいな気持ち。

「自覚はあるんだよな……更生するつもりがないだけで……。それはそれで最低だよ、たもっちゃん……」

 ここは私が食い止める。エルフさん逃げて……。

 と思ったけどよく考えたら私が変態を止められたためしはあんまりないのでエルフさんたち、とにかく逃げて……。


 そうこうしてるとおばばの穴倉での相談を終え、クズの元彼絶対殺すのありあまる意欲を呪いと言う形で消化してなんか晴れ晴れとしたオットーと、そのオットーが隠されたクズの事実を知ってしまってちょっと弱気になったところへ火のごとく攻め入り見事ぬるっと新恋人……の、ようになったアンドレアスが出てきた。

 本当にもう新恋人になっているのかは解らんが、アンドレアスは長年静かに時を待ち、今こそ勝機と空気を読むやここぞとたたみ掛ける風林火山の男なのだ。多分。風林火山の内訳がふわっとしか解ってないので今だいぶ大体の感じで言ってます。

 また、猟奇的なパッションにあふれすぎているオットーが自らの手を汚し元恋人を直接やりに行かずに済んでほっとしたのはそんなアンドレアスだけでなく、冒険者としてパーティを組み、仕事仲間で同年代のはずの二人の間に割り込んで今や自称愛息であるスヴェン。それから、以前何度か仕事で組んだテオも大体似たような気持ちのようだった。

 なんかめちゃくちゃみんなほっとしてたので、あれやろな。

「そこはかとない前科の香りを感じちゃうよね、なんかね。オットー、これまでもなんか色々やらかしてきたんやろなって」

 魔法や呪術の存在するこの異世界で、手加減はしているようだが明確な敵意を持って呪いを発注していると言うのに知人らの「今回はこのくらいで済んでよかった」と言わんばかりのこの空気。

 いつもは……? いつもはこんなもんでは済まないと言うの?

 そんな鋭い名推理を発揮する私に、全然なにも自重しないスヴェンが軽薄に口を滑らせる。

「あ、解る? 聞きたい? エリックがパーティの金持って消えてギャンブルで全部溶かして借金まで作って返せないなら奴隷に売られるって寸前で泣き付いてきた時の話と、エリックがべろべろに酔って遊んだ女が赤ん坊抱いて現れてなぜかオットーに引き取ってくれって言ってきた時の話、どっちがいい? あっ、どっちって言うか、ほかにも全然まだまだあるけど」

「なんでなん。なんでエリックそんなんで無事に生きてこられたん」

 向いてないやん。そんなん。生きること自体に。

 しかしまあ……あれよね。我々もテオが多数を救うため自らを犠牲にする格好で奴隷落ちしたのを見てるのでのっぴきならない事情かなんかで冒険者もうっかり奴隷になったりするんやなとひやりとするような恐怖心はまだちょっと持っているのだが、仲間の金持ち逃げの上の賭博の借金などと、そんなストレートな理由で奴隷になり掛ける人間が身近にいるって恐くない? ねえ。恐くない?

 もうなにも解らずに「なんでなん」とくり返す私に、たもっちゃんが横からとてもわかるとうなずいて見せた。

「何でなんだろうね。あなたがパパよ感出して赤ん坊置いて行こうとしてんのにエリックじゃなくてオットーに話付けようとしてんの、訳解んないのにめちゃくちゃ解る」

 なお、そうしてキリッと理解を示すメガネはいまだ砂漠の砂地にべたりと突っ伏し金ちゃんとフェネさんの座布団のお仕事をしていた。人外のお尻を冷やさぬと言う強い意志。

 これまであったろくでもない過去を勝手にバラして当事者であるオットーにおめーいい加減にしろよと叱られた口の軽すぎるスヴェンによると、エリックが作り出してきた借金は「いたしかたなし」とオットーが返し、赤子も割と前向きに引き取ろうとしたらしい。

「おっも」

「クズの恋人とそれに付随する問題への対応が重い……」

「そらクズと付き合ってんだからこっちもそれなりの覚悟はしてんだろ」

 恋愛ジャンルがさっぱり解らぬ私やメガネが引いてると、オットーは当たり前の話だとばかりにそんなことを言った。恐い。

 さらには、「そうだろ。恐いだろ」とスヴェンが無邪気に追い打ちを掛ける。

「しかもさ、赤ん坊。エリックの子じゃないのまあまあ解ってたのに引き取ろうとしてんだぜ」

「おっも……」

「子供は世界の宝だし……大人は子供を保護してよりよい環境で育てるのが役目だし……」

「マジな方向に意識が高い……」

 割とポップに怒りと暴力が直結している激情と、小さき者に向けられる深すぎる博愛。

 なんだろ。金ちゃんかな……。

 うちの金ちゃんなら今はなんらかの虫の足をしゃぶしゃぶしつつメガネを座布団からごろ寝クッションに出世させうっとりお昼寝しようとしてるよ。

 一方のオットーは人外レベルで情緒がったがたなので、いい感じのことを言いながら同時にスヴェンの胸倉をがっしりつかんで締め上げていた。マジで情緒がったがただった。

 そんなオットーの後ろにはのっそりと大きなアンドレアスがより添い、「そう言うところも、俺は好きだ」とか言い出して我々はなにを見せられているんだと心がだいぶ解散を叫ぶ。なにを見せられているんだ我々は。

 なお、普段から空気の傾向はあるが砂漠の村にきてから特に存在感がエルフの体重ほどもなく消え去っていた我が家の天使レイニーは、衛生観念の鬼の手腕を見込まれて砂漠の巨ネコ飼いから依頼され砂漠といえどもじめじめと湿度の高い雨期のネコを魔法を駆使した洗浄からの乾燥でふんわりと仕上げ、「おっ、ええ感じやんけ」と思ったのかどうかは知らないが、人を乗せられる騎馬サイズのネコたちにごろごろなつかれ私からの激しい嫉妬を一身に浴びた。妬ましい。

 あとハイスヴュステの水源の村で騎馬とする、足が多めの巨トカゲの洗浄と乾燥も頼まれて意外にぷにぷにとしたトカゲの足で踏まれたりするのもなんとなくうらやましかった。

 魔力か。それとも魔法がうまいとモテるのか。ネコとかに。チートめ。

 私、そーゆーのよくないと思います!

 と、まじりっけのない純粋な嫉妬でレイニーにうだうだと絡み、うざがられ、ネコからはでっかい肉球でぐにゅうと押され遠ざけられて、それはそれでありがとうございますと世界に感謝を捧げたりしながら砂漠で数日の休息とした。我々、すきあらばすぐお休みにする。仕方ない。体力のない中高年は自分を特に大事にして行くなどしたい。


 現在の季節は雨期である。

 そして雨期が明ければ夏がくる。

 夏はお中元の季節であり、お中元には肌をいい感じに保護してうるおう砂漠産のスゲーヘチマのジェルが定番である。と、言うことにしていた。

 毎年のシーズンごとに品を変え、気の利いたギフトを贈るのは私にはあまりに難易度が高い。むりですね。

 で、そうしたこちらの都合で定番とした保湿ジェルを今年も用意するためこそこそと、まだドアのスキルを隠しているオットーたちの目を盗み、魔族とその愛猫たちがむつまじく暮らす砂漠のピラミッドまでスゲーヘチマを収穫に行くと見せ掛けてほぼほぼ遊びの感じで訪ねて行って手持ちのおみやげを渡したり、本来の目的である異世界における砂漠の植物なのに油断するとずぼぼぼと空を飛んで逃げて行くヘチマを砂漠住まいの魔族たちにも手伝ってもらったりしながらどうにかこうにか捕獲して確保。

 夏に合う保湿ジェルの材料をそろえ、こんな時にしか出番のないでっかい魔女鍋で水にひたして保湿ジェルを作るだけなら放っておけばいいものを強靭な健康を付与したいがために無心でぐるぐるかきまぜて皆々様のお肌の健康を願ったりした。

 お世話になっております。美肌になあれ。

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