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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
常識人ではあるけれどマジでそう言うところやぞテオ編
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758 行動力のかたまり

 本気なのか悪ノリなのか、全体的に軽薄な空気をまといすぎててあんまりなにも信用できない感じのあるスヴェンが長年パーティを組んでいる冒険者仲間の成人男性二人をパパと父ちゃんと呼び始めた辺りで、家庭と言うものにうらやましさを覚えたらしきフェネさんが「つま、我も子孫いたらいいと思う。我とつま、パパととーちゃんになればいいと思う。ちょっと子孫つかまえてくる」などと訳の解らないことを言い、まあまあの速度でまあまあの高さを飛行している船のふちからぴょーんと普通に飛び下りて行った。

 どうして。

 我々は、あまりに奔放な白き毛玉の自称神――の、本体の毛を媒体に魔力を練り上げちんまり作った分体の、小型犬のように軽やかな体が辺りを閉ざし立ち込める霧の向こうへ消えて見えなくなってしまうのを「嘘やろ」と見送ることしかできない。

 ちょっと待ってどう言うことなのと確認するヒマも、引き留めるすきもなかった。小動物が行動力のかたまりすぎる。

 霧の中へとダイブして見えなくなったフェネさんに、これ大丈夫かな。合流できるかなとそわそわ心配していたが、結果を言うと大丈夫だった。

 まあ……大丈夫と言うか……、これを大丈夫と言っていいのか解らんがとにかく戻るのは戻ってきた。

 フェネさんがどっかへ行ってしまったことでさすがにメガネも船を止め、高度を下げてその場で待機したのもよかったのだろう。

 船に残った人類が、どこ行ったどこ行ったとなにも見えない船の外をわあわあ言って見回していると、自称ながらになにやらありがたい神たる獣は白い霧を切り裂いて自力で船の上へぴょーんと戻った。

 その点はよかった。ほっとした。

 身軽と言う意味でも軽率と言う意味でも軽やかに、我々をあわてさせてフェネさんはそんなことは知らんとばかりになにやら元気いっぱいだった。

 船の上へと戻るやすぐに金の両目やかわいい顔をぴっかぴかと輝かせ、意気揚々とテオの前へと駆けよると「ふま! ひほん!」と口にミャーミャーくわえたなにかで全然なに言ってるか解んないけどとにかく自慢げに本日の収穫を見せびらかした。

 しかし、誰より先にリアクションしたのは私だ。

「ネッ……ネコチャンッ……!」

 その見覚えのある砂まみれのにゅるにゅるボディ。まるで液体のようなしなやかなフォルム。

 砂漠の……砂漠のネコチャンやんけ……。

 詳しく言うと砂漠に生息するネコチャンは砂漠の民の水源の村で騎馬とするでっかいネコチャンと、以前テオが剣奴としてコロシアムで戦おうとして人の心がないのかとひどい誹謗中傷を受けることになった地球で見るイエネコっぽいサイズながらに砂漠の砂に身を隠し動物や人間をバリバリ襲う、小さいけれど獰猛なネコチャンの二種類がいる。

 これは私が把握してるのが二種類なだけで、もっといる可能性と夢はある。

 なお、だいぶやべえと聞いていたナワバリコロシアムにおいてテオを心配していたはずがネコチャンが出てきた瞬間にネコチャンを心配する気持ちしかなくなってテオによからぬ感じで絡んでしまったのは私です。反省はしてます。

 それは今はともかく、伴侶と一緒に子育てしてみたくなったらしきフェネさんが急遽捕獲してきたネコはこの、小さいほうのネコチャンのことだ。かわいい。

 当然ながら不本意らしく、首根っこをフェネさんに噛まれて身動き取れない状態ながら、果敢に暴れてぐにゃぐにゃとしていた。かわいい。ネコチャン。フォーエバー。

 イエネコサイズの砂漠のネコチャンが砂から全身出てるのをじっくり見るのはなんだか新鮮な感じがしたが、上半身はだいぶネコだが後ろ足がもちゃっと毛皮と肉に包まれ隠されて、なんだかモグラみたいなおもむきがあった。

 かわいいねえ。かわいいねえ。

 ネコであってネコでない……いや、ネコだけど。

 それでいてこの世界一のかわいさに反して獰猛さをあんまり隠さず隠し持ち、砂漠の細かな砂の中に身を隠し人間を含めたその辺の生き物をむしゃむしゃと襲う。

 そんなネコチャンを適当に捕まえ、子孫と呼んで我が子とし、テオと一緒に育てようとするフェネさん。

 私ですらも、それは本当に可能だろうかと心配が胸をいっぱいにする。嘘。心配とうらやましさがぎりぎり勝ったり負けたりしている。

 それに、あれ。自称神と人類の伴侶の養子がちょうど手近にいたと言うだけの、その辺で捕まえてきた野生動物的な魔獣でいいのだろうか。こう、もうちょっと知的生命体のような風合いがあったほうがいいのではないかみたいな心配をさすがに覚えなくもない。

 でもかわいい。わかる。

 ネコチャンかわいい。

 我、もしかしたら生んでないけど生んだかもと混乱してしまうのもはちゃめちゃわかる。わかるよ。生んだかも。かわいい。

 フェネさんが砂漠でなにやらうまいことハントしてきたサイズとしては我々地球人の思うネコっぽい、野生のネコチャンであってネコチャンでないまあまあ獰猛で肉食の魔獣が生まれ持つ見た目のかわいさに目がくらみ、もう育てちゃおうよと一部の自称神とネコバカを錯乱させたこの件は、「返してきなさい」とめちゃくちゃ真顔のテオとメガネ。そして「やだ! うちの子にするもん!」と抵抗するフェネさんと私と言う、始まる前から完全に勝負の見えている無為な戦いを巻き起こした。

 フェネさんと私が負けました。

「あーっ! 子孫ー!」

 そんな哀切にじむフェネさんの叫びを背に受けて、ニャーニャー騒ぐ砂漠のネコチャンはわき目も振らず砂漠の砂にほぼほぼ着地しそうなくらい低くおろした空飛ぶ船から雑にぽいっとリリースされた。

 ひどい。でも平気。

 囚われの身から一転、自由を取り戻したネコチャンは強かった。

 ぽいっとされた空中でバッと体を大の字に広げ、空気抵抗を最大限に高めたかと思うと細かな砂地にビターンと全身で着地した。かわいい。そしてすぐさま超高速で細かな砂を巻き上げて、その内部へともぐって消えた。あっと言う間のできごとである。あざやか。

 正直、着地の瞬間は絶対痛そうにしか思えなかったがネコチャンは平気そうだった。あの小さな体のどこにそんな力がと思ったが、よく考えたらネコではなくネコに似た魔獣だ。

 特殊な訓練を受けた魔獣のネコチャンが自ら実施しています。安心。ぽいっとしたのは人間なので、そこはひどい。

 もっと優しく放してあげてよお! などと、私もフェネさんと一緒になって甲板のふちの手すりかじり付き、人の心を持たないか社会通念上の良識が高いがゆえに野生生物との距離感をだいぶ適切に取ろうとしているテオ。それからついでにメガネに向かい、やいやい責めるように絡みつつ、大自然に帰り行くネコチャンを寂しく見送った。

 ああー。ネコチャン……。もっとゆっくりして行けばいいのに……。最初からすごい迷惑そうだったネコチャン……。ネコチャン……かわいいね……。

 この、ちっちゃくかわいく自慢の毛皮でふかふかの獣族の子供にも見えていたフェネさんが急に張り切り船から飛び下り小さめながらに砂漠の魔獣を平気で捕獲してフンフン自慢げに戻った姿。

 それから、フェネさんが連れてきたネコチャンの息吹に強火で偏った一方的な愛をこじらせぐるんぐるんしてきた私ををうっかり目の当たりにしてしまい、もうだいぶパーソナル部分をこちらが勝手に知っていてなんとなく以前からの知り合いみたいな感じがしていたが、実際は全然出会ったばかりのオットーたちは引いていた。

「テオ、どうしてこんな……クセの強い奴らと……」

 我々のことをまだよく知らぬ男らが問い掛け、それにテオがもごもごと答える。

「悪い人間では……ないので……」

「めっちゃ返事をしぼり出すじゃん」

 ものすごいなけなしのフォローじゃんと。

 私もネコチャンのことを一瞬忘れて振り返ったし、口からはついそんな素直な感想が我知らずこぼれた。

 必死じゃん。

 まあ、それもこれも大体いつもの我々ではあるのだが、オットーたちはふとここで、改めて我々について少し考えたようだ。

 それはそう。よくない方向ではあるものの、彼らと我々はある意味最初からゼロ距離気味の勢いがあった。主にオットーがテオに絡みすぎたせいである。

 しかしその実、現段階での我々はテオと一緒にいるってだけの訳の解らない誰かだ。

 オットーたちも空飛ぶ船に「なにこれ」となり、でも、世の中は広い。めずらしいが、こんな魔道具もあるだろう。ものすごく高そう。みたいな困惑を胸の奥に押し込めて、努めて普通にしようと心掛けていたらしい。

 でもまあね。あるよね。物事には限界が。

 異常性がね。隠せてませんもんね我々の。誰が異常だ。

 オットーたちのなんでもないと思いたい正常化バイアス、もっと仕事してもいいのよ。

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