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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
大事なことを大体忘れて放置して、そう言えばそれもあったね呪い編
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745 ほのかなまま

 長命なエルフと矮小なる人類の寿命がだいぶ違いすぎ問題により、現在幼女のダークエルフちゃんことジゼラ=レギーナの初恋はどうやら、ほのかなままに消えてもらうしかないようだ。

 エルフ系の幼女が大人になろうとする頃、人類はちょっと骨とかになっている。諸行無常の響きしかないのだ。

 その一方で、ダークエルフの本気によってじゅげむが人類から逸脱した不老不死のなにかに改造されかねない危険性がにわかに浮上した件は、倫理について厳しめのテオが人外ゆえに倫理観が人とは違う自称神たる白いキツネに普段から監視と説得と教育に余念なく接してきたことが功を奏して「なんか知らんけどにんげん改造したらアカンらしい」と言う認識が、小さく白い自称神の獣とダークエルフの幼女の間でふんわり共有されていた。

 世界の安寧が常識人の献身によって守られていると言う好例である。

 いつもお世話になっております。

 罪のない幼い初恋を叩き潰す勢いの、エルフと人族では流れる時間が違いすぎ問題についてはこうしてうっすらまざまざと、ダークエルフの幼女にもこれはどうにもならないことだと伝わったようだ。

 小さな恋のなにかが始まる前に終わった感じに大人らが「あー……」と言う歯切れの悪さで幼女を囲み、元気出して。ほかにもいい相手が見付かるよ。じゅげむよりいい子はちょっと難しいかも知れないけど。まあまあまあそれはね。などと、だいぶ無責任なフォローを好き勝手にしていると、それをどうとらえたか。

 幼女はしっかりとうなずいて言った。

「わかった。はやくおとなになる。それでおにいちゃまとけっこんする」

 当事者の気持ちではなく種族の違いで叶わぬ思いはなにやら悲恋の香りがするなと思っていたら、この感じ。強い。

「解ってないやつだ……」

「がんばる」

「頑張ってもどうにもならないんだなぁ……」

 年はね……自分が年を取っただけ、相手も年を取って行くので……。

 幼女の周りに集まってざわつく大人の輪の中で、エルフならなんでもいいメガネもさすがにそこはちょっと冷静に指摘した。なんだか悲しそうにも見えた。

 しかし、ダークエルフちゃんはつよつよの幼女。

「せくしーだいなまいつになる」

 世界こそが自分に合わせるべきとばかりに、瞳に強い輝きを宿らせそんな確固たる姿勢を崩さない。

 でもなんでや。

「待って。それ誰に教えられたの? おばちゃんに教えてくれない? ことによってはメガネと言うメガネを叩き壊さなくてはならないの」

 幼女のセクシー発言にただよう言わされてる感を察知して、私は容疑者をほぼほぼ断定しながらに告げた。

 ただし、これには即時に本人からの異議が申し立てられる。

「何で俺って決め付けるんだよ。俺がそんな事言わせる訳ないだろ。いいですか、エルフはエルフと言うだけで尊いのですよ。ダークエルフも同様です。セクシーダイナマイツかどうかは重要ではないのです。そこに存在すると言うだけで世界が輝き祝福が吹き荒れるのです」

 たもっちゃんは老若男女エルフだったらなんでもいい持論をマイルドに隠して滔々と、冤罪であると訴えた。

「レイニーみたいに言うじゃん」

「やめてください」

 なんかレイニーみたいな口調で言うじゃんと思ったままに私が言うと、それを今なおアーダルベルト公爵から賄賂を受け取り続けてメガネのそばでびったびたに張り付き余念なく警戒に当たるレイニーがものすごく嫌そうに拒絶した。ダメだったようだ。

 しかし、なんと言うかあれだな……。変態が変態を隠すことを覚えたら、それはそれで危機感があるな……。

 ヤバめの変態性をマイルドに包んでぼんやりとごまかすメガネの姿に私がそんな、しみじみとしていながらになんとなく背後にひたりと忍びよる恐怖のようなものを覚えていたその時、「あっ、オレだわ」と、ダークエルフのおとうちゃまが完全にタイミングを逃した様子でなにやら心当たりを思い出すなどしていた。

 どう言うことかよくよく詰めよって聞き出すと、愛娘である幼女からどうしたらおにいちゃまをのーさつできるかしら? と相談されて、そらもう。ボンキュッボーンよ。と、くそほど参考にならない雑アドバイスをしてしまっていたらしい。

 父親。お前はなにを考えてそんなアドバイスをしたのか。アドバイスなのかそれは。

 またそれはそれとして、このおとうちゃまの問題アドバイス以前に誰が幼女にのーさつと言うよからぬ言葉を教えたのかと言うほのかな疑問もあった。

 結果、犯人はダークエルフのおかあちゃまでした。

 ダークエルフに悩殺されたら人族なんてイチコロよ! とのことである。

 選んでくれよ。幼児に教える言葉ってもんをよ。

 幼き者をすこやかにはぐくむ親として、キミたちにはあとでうちのテオからお話しがあります。


 ダークエルフのおとうちゃまおかあちゃま、なんかそんな予感はあったが案の定だいぶ危なっかしいものをただよわせていた。親として。なんかこう、小さきものを保護せなばならぬ責任的な立場としてのあれとして。

 いくらか一緒にすごすなどしてダークエルフの夫婦に対する解像度が上がって行くにつれ、その不安感が強くなる。

 と言うか、そもそも危なっかしいところがあるから幼児をうっかり一人残して行方不明になってしまっていたのだし、その原因も怪しい薬を売り付けた先で半分罠のようではありつつも丸っきり無実とも言えない感じで捕らえられ、さらにマジで怪しい薬を作らされていたと言うあれである。

 悪い意味で完成度が高い。

「不安だわあ……」

「リコに不安がられたらそれはもう極めて不安なやつなのよ……心配だね……」

 私とメガネが――この、うかつさと頼りなさでは抜きん出た私とメガネですらぼそぼそと、額をよせ合い「やだあ」とささやき合ってしまうレベルだ。

 そして、そうなると当然、我々よりも全然ちゃんとしたアーダルベルト公爵やテオも表情を曇らせ「わかる……」と私やメガネが頭突きの勢いで懸念を表しひそひそしている不安の輪に加わった。

 集まったからなにか素晴らしいアイデアが生まれるとかではないのだが、心配を共有することで自分だけじゃなかったと不安と危機感が改めて再確認できるのだ。いくら確認だけしてもあんまり意味はない気はしている。

 しかしこの、常識人だけでなく生まれてこのかたうかうかとしている我々にまで心配させるダークエルフ一家について、大丈夫だと力強く引き受けたのはやはり砂漠の民であるハイスヴュステの呪術師の弟子だ。

「子供はみな、村全体で育てます。仲間に迎え入れると決めたのですから、ダークエルフも同じ事。そちらのご両親も……少々未熟だと言うべきなのでしょうが、最初から親として生まれる人間はおりません。これから学び、成長すればよい事です。みな、手を貸します。見知らぬ土地で見知らぬ者に囲まれて、いきなりは難しいでしょう。けれど少しずつでも信用し、遠慮せず、その手を借りるのを恐れずにいてくれれば充分かと思います」

「何か、結構頼れそうな事言ってくれてる……。独身の綺麗事かも知れないけど……」

「たもっちゃんどうしてそんな一言多いの……」

 生粋の独身と出戻りの間には越えられない壁があるんやぞ。コミュ力とか結婚歴とかで。

 そんなムダなざわつきをまじえ、真っ当な運用としては人族の国には手にあまるダークエルフ一家の身柄は国外へ。

 自然環境は厳しいがコミュニティの絆と言う名の相互監視と口やかましい年よりには事欠かぬ、かも知れない砂漠の集落。ハイスヴュステの水源の村へと移住することになった。

 大人としては、満足とは行かないがまあそれが落としどころと納得できなくもない結論だったと思われた。

 ただし、子供には違った。

 ダークエルフの幼女たる、ジゼラ=レギーナはくりくりとした両目いっぱいに今にもこぼれ落ちそうな涙をためて、大人が引くほど悲壮に言った。

「おにいちゃまといっしょがいい……」

 そしてその小さな手はしっかりと、じゅげむの服をきゅっとにぎりしめている。

 私は、その様子に衝撃を受けた。

「……これが……生まれ持った女子力……」

「リコ、押し付けはよくない。俺、こう言う卑劣な裏技持った王子的な子供知ってる。女子力とかじゃない。めちゃくちゃ扱いに困る裏技。ジェンダーで型に嵌めようとするのはナンセンス。ただそいつの人間性による」

「たもっちゃんはたもっちゃんでひでえのよ」

 相手はまだ子供やぞと思ったが、当の幼女もどうしても自分の要求が通らないと解るとおとなしく泣きやみ「ちっ」みたいな顔をしており、頼もしくて逆になんか安心だった。

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