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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
大事なことを大体忘れて放置して、そう言えばそれもあったね呪い編
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741 ごりごりに一生

 私などはもうね、エレルムレミを人とも思わず苦しめた悪しき大地主のような奴らはこの先ずっと呪いでごりごりに一生のたうち回らせてやんよと思ってしまっていたのだが、それは恐らく身勝手な正義だ。

 正しさと言うものは簡単に決められるものでなく、誰かに決められるものですらない。

 そして自分を正しいと疑わぬ者はかえって簡単に、自らを正しいと盲信したまま道を誤るものだから。

 わかるわかる。

 なんか聞かれて自信満々に答えた時ほどなにもかも完全に間違ってるもんな。わかる~! 今の話はこれとはちょっと違うやつの気もしますね。

 なお、我が家の良心である常識人テオは我々と言う当社比で言うと大体いつでも正しいが、彼の場合は自分と言うものを過信せず本当に自分が間違ってないのか割といつも自問していて逆に深く考えすぎてしまうがために我々がだいぶやらかし気味の時ですらもしかしたら我々にも一理あるのかもなどと迷いに迷い、結果として止めるのがちょっと遅れるなどするくらいに用心深い。

 自問し続けるのは恐らく大切なことのような気はするが、テオはマジで我々の外部良心なのでもうちょっと自分を信じてあげて欲しいと思う。

 そして今、そのテオが明確にアカンと言うのだ。

 ならば本当にダメなのだろう。

 私刑、アカン。

 なるほど覚えた。

 たもっちゃんと私は自然と正座してサーセンしたと頭を下げたし、そんな我々大人と少し離れた所ではいつの間にか無関係のようにささっと距離を置いたレイニーと金ちゃんやフェネさんに守られたじゅげむがダークエルフの幼女に対し「だいじょうぶだからね。わるい人じゃないからね」となにやら一生懸命に釈明しているのが見えた。

 多分だが、いつもの感じで無様をさらした我々のことを必死でかばっているような気がする。気い使わせてごめんやで……。


 で、こんな時。

 どうやら我々の手には負えないやつですねと顔を見合わせうなずいて、一つうまいことお願いしますと頼るのは我らが保護者筆頭のアーダルベルト公爵だった。

 麗しきアーダルベルト公爵はいつものように約束もなく急にきた我々の、わあわあと散らかった話を「えぇ……?」と言いつつ根気よく聞いた。

「ダークエルフの子供を? 保護して? 両親を探しに行きがてら子供を攫った一味を根絶やしにする予定? 駄目だよ」

 そして、当たり前でしょ。ダメだよ。と、戸惑い、のちに混乱し、最終的にはだいぶ真顔でそう言った。

 わかる。

 我々も一旦反省したはずが、アカンと言うのにまださりげなく私刑のムーブをまぜてしまった。よくない。往生際が悪い。

 また、これは少し話が前後してしまうが、我々はこれアカンなとあせるあまりに王都の門を通らずにドアからドアへとメガネのスキルで直接公爵家へときていた。

 一応、少しは考えた。

 しかし我々がおばばの呪いをなんとかした術師どんなやつよと軽率に、様子を見るだけのつもりで行ったのに全然それでは終われずにうっかり見付けたダークエルフのしかも幼女に取り乱し、ぎゃーぎゃー言って時間を浪費したために余裕と言うか、猶予がなくなってしまっていたのだ。

 幼女がいたのは木々に囲まれほかにはなにもない森の中の小屋だが、幼女には悪しき大地主たちをしつこく襲う尿路結石の呪いなどをなるべく早くなんとかすると言うお仕事があった。

 ダークエルフは生まれ持った高い魔力と魔法の素養を呪いに特化させた種族だ。

 だからなんとなくそばに置くのは恐ろしい。

 けれども呪いに苦しむ時間は短くしたい。

 その恐れと実益のかね合いで、人家からはいくらか離れ、しかしいつでも呼べるようそう離れてはいない森の浅い辺りに幼女一人で放っておかれている状態だった。

 大人としてはもう逃げちゃえよと思わなくもない環境ではあるが、当人はなにぶんまだまだ小さな幼女。それでなくても森はなんとなく恐いし、両親が迎えにくるからと恐らくは誘拐犯の適当な嘘を信じてもいた。

 さすがに雑な扱いをしてても朝と晩には食べ物を運び様子を見にくるとのことで、我々がある意味のん気にぎゃーぎゃー騒ぐ間にも誰がいつ様子を見にくるか解らないまあまあ危うい状況だったのである。

 我々もちょっと冷静になった辺りでそれを知って急いで逃げようと話したが、そうなれば子供を置いて行くことはできない。

 こんな所で一人にするのが普通に嫌だし、あと、ほかならぬ子供の口からだいぶ怪しい我々がここにきていたと大地主の手の者にでももらされてしまう危険性も考えられたからだ。

 幼児に秘密を持たせることは酷であり、またそうするべきでもないように思う。

 それに、幼女の元に現れたのが因縁のある我々であるとは解らないとしても、外部の人間に知られたとなればダークエルフの幼女を別の場所へ隠されてしまう可能性も高い。

 我々にしてはそこまでだいぶ考えて、仕方なく、そう。これはもうほかに選択肢なんかないくらいの感じで、ドアからドアへ直接移動するメガネのスキルでてへぺろと我々は食べ物をしっかり持って全然離さずじゅげむから金ちゃんの肩を譲られたダークエルフの幼女を連れて公爵家へと逃げてきていたのだ。

 そして、王都。

 アーダルベルト公爵家の有能なる使用人たちにより豪華に整えられている居間で、有能執事がぬかりなく完璧に用意したお茶のカップを繊細に手に取り傾けていた公爵が、お茶の熱さの移った息をふうと吐く。

 そのとろけるように美しい人は、宝石めいた淡紅の瞳でものすごく遠い所を見るみたいに、天井のようでいて天井ではないどこかに視線を投げ掛けて呟く。

「……事前に相談して欲しかったなぁ……」

 ひとりごとめいてどこまでも静かに、そんな言葉を唇からこぼした公爵いわく、解るけど……エルフも子供も保護しないとダメだけど……相談……して……。とのことである。

 それはもう、あれ。

 本当にごめん。


 もはや我々に迷惑を掛けられるために生きていると言っても過言ではない公爵は、しかしさすがに今回の件は現実を受け止めるのにちょっと時間が必要だったようだ。

 かわいそう。完全に我々と、我々が持ち込んだ懸案事項のせいだった。

 あと多分、公爵はかなりえらい貴族と言う身分はあるがそこそこ普通に生きているだけで、別に我々に迷惑を掛けられるために生きている訳ではなかった。

 間違えちゃったなと思ったが、結局のところ迷惑を掛けることには変わりないような気もする。大変。これは本当に申し訳ないとしか言えない。

 でも、ほっとくともっと大変になる未来がさすがの私にも見える。公爵にはどうにかここで、これ以上ひどいことになる前に色々となんとかがんばって欲しい。我々は封建制度のあやふやな社会とえらい保護者のご好意によってどうにかこうにか生かされている。くり返しになるが、本当に申し訳ない。

 こうして、本人はなにも悪くないのになぜかしょんぼりしたテンションで自室へと引き上げた公爵は、この日はもう一瞬たりとも出てこなかった。気持ちの整理がなかなか難しかったのだろう。わかるわかる。ただし本当に解っているかは怪しいし、私に解られたくはないかも知れないなと思わなくもない。

 だが、公爵はムダにきらきらしくああ見えて、大事な時には実直なまでの勤勉さを発揮する。

 責任感か危機感か、翌日には見事復活し、朝早くからきびきびとあっちこっちに手を回して忙しそうにしていた。

 同時に、俺も俺も。俺もダークエルフにいいとこ見せたい。などと言い、どう考えても事態を悪化させそうな予感しかないメガネを「駄目だよ」とだいぶ真顔で押しとどめるのも忘れない。

 たもっちゃんはちゃんときっぱり強めに何度も念押しした上でよく見てないと変な抜け穴を自分で開けてむりやり通っていることがあるので、アーダルベルト公爵はおかかえの料理長に命じて高級食材をふんだんに使った甘いものとしょっぱいものをこれでもかと用意し、これでレイニーを買収。暴走メガネの監視と抑制に当たらせた。適材適所である。

 公爵も、だいぶ前に悪魔にとりつかれた魔族が公爵家をぼこぼこに襲撃した事件のついでになんとなくレイニーが人外のアレでアレがアレな感じを知っていた。その時に上司さんからなんかもらってたこともあり、レイニーに対してはこれまでも我々へのものとは少し違った配慮を見え隠れさせていた部分があったように思う。多分。

 それが、ここへきての買収。からの、対メガネ監視作戦への投入となった。

 使えるものは天使も使えと言わんばかりのこの差配。このことに、私は思った。

「たもっちゃん、これマジで破壊神かなんかだと思われてない?」

「俺はエルフにモテたいだけですぅ……」

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