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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
大事なことを大体忘れて放置して、そう言えばそれもあったね呪い編
740/800

740 詫びカロリー

※「誘拐」等、子供に対する犯罪行為について描写があります。ご注意ください。

 ダークエルフの幼女は、結果としてやべえメガネから助けられた格好になったこと、それからじゅげむがせっせと積み上げたフォローのおやつでだいぶチョロく懐柔された。

 あらゆる意味で心配である。

 困った時にはカロリーのゴリ押しでなんとかする私の感じにじゅげむがだいぶ近付いてしまい、そこは似なくていいと思ったがしかし、カロリーが大体のことを解決するのは純然たる事実だ。人にもよります。

 今回のカロリーは運よく、大丈夫なほうに転んだらしい。

 詫びカロリーをもりもりと摂取し、お腹が満ちて警戒がいくらか緩んだのだろう。

 幼い少女はパッチリと大きな両目に涙を浮かべ、身の上話と言う個人情報をぼろぼろとがっばがばに吐き出した。

「まえはね、まえはね、おとうちゃまとおかあちゃまがいたのよ。でもね、でもね、じんぞくにてきとーなのろいぐすりうっておかねかせいでくるっていっておでかけしてね、もどってこないの。まってたのよ。でもね、おなかがすいてね、ちょっとだけおそとにでたの。そしたらね、じんぞくにみつかってね、たべものあげるからおとなしくついておいでっていってね、つれてこられたの。おとうちゃまとおかあちゃまがおむかえにくるまでまっててっていうからね、まってるの」

 あまりに幼い子供の声で、まだ活舌の甘い子供の口調で、語られるのはなかなか緊張感あふれる背景だった。

 その内容に、思わずぽろりと言葉がこぼれ出る。

「誘拐だあ……」

 間違いない。まるで現場で見てきたみたいにその情景が想像できる。

 保護者のいないすきを突いての連れ去り……卑劣ですよこれは……。保護者の目の前ならいいと言う話では決してないけども。

 私には解る……。これまでの人生で触れてきた数々のフィクション作品とかでなんかそう言う悪いやつ見てきた……こわ……。

 ダークエルフの幼女は詫びおやつにほだされて、そのカロリーをもたらしたじゅげむにぎゅうぎゅうくっ付きちょこんと座る。そして両手で焼き菓子をもりもり口に詰め込みながら、それからなにがあったかも語った。

 いわく、「たべものくれたおじちゃまがいつのまにかべつのおじちゃまになってて、たべものはくれるけどおっきなはこにいれられて、でたらしらないところで、そこでまたべつのおじちゃまになってだーくえるふならのろいなんとかできるだろーっていってかけられたのろいをかえすおしごとしてるの」とのことだった。

 もうなにも解らない。

 語り手が子供であるがゆえの要領を得なさ。

 そして話の中のおじさん率が高さによってもはやおじさんが何人登場したのかも定かではなかった。

 いや、嘘。それは私が数を数えられてないだけである。つい自分のなんの話も聞いていなさを認められずに子供のせいにしてしまった。よくない。

 とりあえず、幼女の話の最後に出てきたおじさんがまだ幼いダークエルフの少女を利用し我々がハイスヴュステのおばばに頼んで掛けてもらった呪いの対処に当たらせていた可能性が高いように思う。多分。

 こんな時にメガネがいれば便利にガン見のスキルでもって事実確認が行えるのだが、今のメガネはほとんどしかばねの状態だ。私です。草で私がやりました。

 仕方がないのでテオにじゅげむと幼女と金ちゃんとフェネさんを頼んで少し離れていてもらい、贈賄の上で打ち合わせ済みのレイニー先生とメガネを起こす。

「たもっちゃん、起きて。たもっちゃん、ちょっと大事なお話があります」

「……はっ、何か凄く夢のある夢を見ていた……?」

「たもっちゃん、それは夢ではありません。いいですか、落ち着いてください。褐色ダークエルフは存在します。そしてどっかにおとうちゃまとおかあちゃまがいるらしいです」

「キェエエエ!」

「あっ、ダメだ。まだ全然ダメだこれ」

 たもっちゃんは褐色タイプのダークエルフの実在について、あまりに夢がありすぎたため一周回ってマジで夢だと思い込もうとしていたようだ。草で一旦眠らせたこともいくらか影響している気もする。

 しかしそれは夢ではないし、まだ所在の確認はできてないものの幼女の両親に当たる大人たちもいる。

 その情報を少し耳にしただけで、たもっちゃんは奇声を発して天を仰いだ。まるで大きな獲物を仕留め、獣がよろこび雄叫びを上げているかのようだ。

 夢のある夢てなんか日本語崩壊してない? と、突っ込む余裕も与えない秒レベルでの素早い崩壊。自我とかの。

 これはいけませんねと私はあらかじめ用意しておいたレイニーを用いた。

「先生! お願いします!」

「わたくしは先生では……」

 こんな時ばかり便利に使って……と、手にはしっかり賄賂の高級焼き菓子を確保し、それでいてぶつぶつ文句を言いながらレイニーはキエエとうるさいメガネを素早く障壁で囲んだ。

 そこへ私が火を付けた状態でアイテムボックスに収納していた恐いくらい眠くなる草のカサカサに干してあるものを、煙が出ているのを確認の上でぽいっと障壁の中へと放り込んでしまえばすっかり制圧は完了である。

 問題はメガネに大した情報が伝えられておらず、全然話が進んでないことくらいだ。

 いやあ、困りましたね……。

 移動がね……メガネ頼りなんですよね……。

 ドアからドアへ移動するスキルはものすごく便利ですっかり慣れ切ってしまっていたが、改めて考えてみればこうして、たもっちゃんが無力化されてしまった時には普段の生活圏から完全に切り離された環境で身動きが取れなくなってしまうリスクがあった。

 なるほどなあ……便利さとは、しばしばこうした致命的な脆弱性をはらんでいるものなのだなあ。

 今、たもっちゃんを無力化してるのは私とレイニーにほかならぬけども。あと草。

 仕方がないのでメガネを眠らせた障壁を換気の上で解除して、またむりやり起こして今度こそちゃんと話そうとした。

「いいですか、たもっちゃん。今度こそ落ち着いて聞いてください。ダークエルフのおとうちゃまとおかあちゃま、今ちょっと行方不明らしいです」

「ギェエエ!」

 ムリだった。

 それからも何度か眠らせては起こし、眠らせては起こし、エルフの話題に過敏なメガネに少量ずつの情報を与え、かれこれ三時間。

「もうマジでいい加減にしろよメガネ」

「じゃあ寝かすのやめてよぉ……俺がちょっと取り乱したらすぐさま寝かすのやめてよぉ……その草凄い効いちゃうからぁ……」

「人聞きの悪いことを言うな。草に罪はないやろが」

 たもっちゃんは起こされ取り乱しまた寝かされてをくり返し、トータルするとだいぶ寝ているはずなのに逆に疲れ切っていた。最後のほうにはやっと力尽きてきて、なにを聞いてもキエエと奇声を出す元気もなくなっていたほどだ。よかった。

 代わりに、疲労からくるネガティブか。思考がどんどん薄暗いほうへと落ちてしまった。

「誰よぉ、俺のダークエルフ一家をバラバラにしてこんな小っちゃいダークエルフちゃんに児童労働強いてた外道、誰よぉ。もう片っ端から尿路結石にのたうち回らせた上で封建社会のえげつない刑罰課そうよぉ。あと俺もちょっとでいいからその途中でぼこぼこにして留飲下げたい気持ちですぅ」

 俺のダークエルフかどうかはともかくとして、前半はまあちょっと解らなくもないかなとうっすら思う比較的マトモな嘆きかたをしながらに、たもっちゃんはしかし最後のほうでだいぶよくない感じを出した。

 持ち前の良識でそれを見すごせなかったのだろう。テオがメガネの肩に手を置いて、悲しいような真剣な顔で首を振る。

「タモツ、私刑は駄目だ。際限のない復讐を生んでしまう。いけない。私刑は駄目だ」

「テオのマジレス、凄い重いよね……」

 あと、近い。すごく近くでそれはいけないと変なプレッシャーを掛けてくる。近い。あと改めて顔がいい。すいませんでした。

 たもっちゃんはなんか、そんな感じでだいぶ引き気味に反省を見せた。

 友を血に染まる暗い道へと入らせまいと堅く決意するかのような、テオのどこまでも真っ直ぐで正しい説得が疲れた体にはトドメみたいになったのかも知れない。

 結果、よかった。

 たもっちゃんの暴走はこうして、テオの重たさによって止められた。

 全く手間掛けさせやがってよお。と、この時点で私は完全に上から油断していたのだが、テオの正しさは普通に私にも向いていた。

「お前もだ」

「えっ」

「以前は物証がなく、こちらにも密入国と言う弱みがあった。……いや、これは今もだが……。だから……そう、ともかく、罪に問うのは難しかった。しかし、今回は違う。エルフに対する犯罪は明確な罪だ。呪いの様な私刑ではなく、国に任せるべきだと思う」

 私は「アッ、ハイ」と言いながら思った。

 テオ、それずっと気にしてたんやなと。

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