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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
大事なことを大体忘れて放置して、そう言えばそれもあったね呪い編
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739 ある種の覚悟

 見た感じ人間に酷似した、そして人間よりもきらきらしい姿を持って慈愛のようなものをかもし出しそうなイメージがだいぶある天使。

 しかし我が家の天使はそもそもがポンコツなせいか、内面のにんげんの機微なにも解らぬ人外ムーブが全然隠せていなかった。

 そんなレイニーに私はもうちょっと空気読めやと理不尽なイラつきを覚えたが、これは人間が身勝手に、人の身には本来手の届かない高次元生物である天使に対して隣人のように近しい期待を持ちすぎてしまっていたのかも知れない。

 だって、レイニーはレイニーなのだ。

 愚かなる人類を天界とかの高い所から俯瞰でひとごととして眺めて育った天使に取って、変態メガネが変態性を抑え切れずに実年齢はどうか知らんが見た感じ幼女のダークエルフに黒ぶちメガネの奥の目をぐるんぐるんさせて迫らんとしてるのも恐らく些末なことなのだろう。

 いや……せやろか……?

 人の世を見下ろす天界や、そこに暮らす天使や神がいるのだとしたらなぜこの世はこんなに苦しみや訳の解らない不遇にあふれているのだろうか。

 もしかして、天界そんなあてにならない? みたいな感じがとてもある。

 これはもうダメだ。

 私が。ここは私がなんとかしないと……。

 自分は自分であんまりあてにならないのだが、それはそれとして今、なけなしの倫理観がメガネマジであかんぞと叫ぶ。

「たもっちゃん! たもっちゃんマジで落ち着いて! 幼女はあかん! いや大人でもハラスメントはあかんけど子供は大人が保護せなあかん! 人類の恥!」

「でもぉ! でもぉ! ダークエルフっぽいダークエルフがそこにいるんですよぉ! 目の前に! 俺の! すぐそこに! 幼女かどうかはどうでもいいんです! この世界ではダークエルフと肌の感じに関連性は何もなくても俺の中にずっとある褐色ダークエルフが手の届く所にいるんですよぉ!」

「時代に逆行したルッキズムこじらせやがって……!」

 この件に関してはまだ比較的常識のようなものを持っている私と、いついかなる時も常識を忘れないテオに取り押さえられながら、しかしメガネは全然勢いがすごかった。

 たもっちゃんは組み付く我々を引きずるようにぐいぐいと身を乗り出して、まだ幼げなエルフの女児に「お父さんとかお母さんとかお兄さんお姉さんいたりする?」などと聞いていた。

 このアグレッシブな探求心よ……。

 我々の必死の制止をものともせずに、褐色エルフがまだほかにも複数存在する可能性をなにやらはあはあと模索している。

 どうしてこんなになるまで放っておいたんだと誰かを責めたい気持ちになったが、よく考えたらメガネのやばさをなんとかするなら恐らく現状誰より近しい私の役割だった。

 なんと言うことだ。誰かのせいにしようと思ってたのに、逆に不都合な事実に気が付いてしまった。悲しい。

 ……けれども、私に一体なにができただろうか?

 エルフを前にしたメガネを止めるのは、不可能に近い難しさがあるのだ。私は思う。あれはむりよ、あれは。――と。

 そんな無力感にさいなまれるようでいて、今からでもなんとか自分だけは悪くないことにならないだろうかと往生際悪くよくない考えにだいぶ傾いてきた私のそばでは道義的な観点からか一緒になってメガネを止めんとしてくれていたテオが、「タ……タモツ……おれも、さすがに庇い切れない……幼子は……駄目だ……」と、ものすごく真っ当でものすごく深刻に、そしてはちゃめちゃ悲壮な感じで呟いていた。

 常識と忖度の間で揺れるテオですらもこれ。

 わかる。

 本気でダメなやつですね……。


 変態の目の前に突如現れたダークエルフ。

 目の前に現れたと言うよりは、我々のほうから押し掛けたような覚えもちょっとだけある。嘘。だいぶある。

 どうしてこんなことに……。信じて。我々、おばばの呪いをなんとかしたのがダークエルフだとは知らずにきたの。なんなら胸倉をつかみ合い、ケンカするつもりですらあった。

 それがキミ、こんなことになるとは。

 しかもこの世界では少数派のエルフの中でもさらに少ないダークエルフ、と言うだけでなく、幼女。

 エルフは長命で若い期間が長いみたいな話も聞くので実年齢はどうなのか私には判断が付かないが、見た感じがどうしても幼女。

 これはいけませんよ……。

 ダークエルフであると言うだけで百点満点に心配なのに、幼女なのは防犯の観点で本当によくない。

 あまりのヤバさに仲間としての責任でコイツをこの手でなんとかしなくてはと我々にある種の覚悟を決めさせそうになっていたメガネは、しかし今、しばらく暴れていたのがなにかの間違いだったみたいに冬の気配を色濃く残す枯れて湿った森の地面に粗大ゴミのように倒れ伏していた。

 むしって干して備蓄していたなぜかすごく眠くなる草で念入りにいぶしてこうなった。

 私がやりました。

 先ほど、私はある種の覚悟を決めそうになっていたと言ったな。

 あれは嘘だ。

 ある種の覚悟をすでに決め、草を駆使してなんとかメガネを無力化したところだ。ちょっとした事件の様相である。

 これはあれよ。血の気の多い冒険者パーティのもめごとで、クエスト中の事故でもないのになぜかうっかり行方不明者が出ちゃうし仲間もさっぱり心当たりがないとか言って迷宮入りする流れのやつですね……。

 いや、たもっちゃんは草で寝てるだけだ。

 事件性の香りただよう謎に包まれた失踪などはしないし、もうちょっとしたら普通に起きて恐らくまたダークエルフに目がくらみ同じくだりをくり返す。

 おっ、ダメだな?

 私たち、どうしてこんなことになっちゃったんだろうね……。などと考えている途中でその危険性に思い当たり、私はアイテムボックスを精神的に探って見付けたロープのようなものを取り出した。

「……しばっとくか……」

「手伝おう……」

 同じくテオもその可能性に行き着いたらしく、暗澹とした表情とは裏腹にめちゃくちゃテキパキと寝てるメガネをしばり上げてくれた。


 そして、これは決して。

 決してだまそうとかそうなるように狙ったとか恩を売って話を有利に運ぼうとしたとかではないのだが、急にどこからともなくやってきて訳の解らない内容をわめき訳の解らない勢いで自分に対して迫りくるヤバさがフルスロットルのメガネを結果としてどうにか止めたことにより、我々はダークエルフの幼女からなぜか運よく危ないところに居合わせて必死になって助けてくれた人みたいなはちゃめちゃな感謝を受けてしまっていた。

 言うまでもなく、誤解である。

 それも致命的にひどい部類の。

 ちゃうんや……わしら、そこで寝とる変態メガネの同行者なんや……。

 偶然居合わせて義によって助けたとかでは全くなくて、そもそも変態と一緒にやってきて変態が変質者として犯罪に足を突っ込む前にぶん殴ってでも止めたかっただけなんや……。実際には殴るなどはしておらず、草でいぶしてなんとかしたが。

 なんか、身近で大繁殖すると困るタイプの害虫を駆除するみたいな言いかたにどうしてもなっちゃう……。

 だから、こちらとしては身内の恥をこれ以上、取り返しの付かないレベルで傷が深くならない内になんとかしようとしただけだ。

 助けたと言うのは正しくないが、そんなこと言わない限り幼女に伝わるはずもない。できることなら我々も、このままなかったこととかにしたかった。できないけども。

 いや……できないかな……でき……いや、いけない。これ以上の罪を重ねてはいけない……。

 我々が、と言うか私が。

 そんなよからぬ感じで良心と保身で揺れておろおろ惑いまごついている間に、幼女の中では我々が正義の味方に違いないとの思い込みがどんどん強くなってしまった。

 裏返せば、彼女はまるで夢見るように、そう願わずにいられない境遇だったと言うことでもあった。

 どこかの誰かが自分のことに気が付いて、助けにきてくれるのを待ち望んでいたのだ。

 あと、なんかじゅげむがおやつ出しておやつとねだるので良心と保身の間で揺れながら、ん? はいはいとなんも思わず出してたら、じゅげむはそれをせっせとダークエルフの幼女のところへ全部運んで「たもつおじさんがごめんね。びっくりしたね。でもわるい人じゃないんだよ。だいじょうぶなんだよ」と、めちゃくちゃカロリーでフォローしていた。

 困ったらカロリーで押し流し、なんとかしようと試みる感じ。とても私……。まるで自分の姿を見るかのよう……。

 じゅげむがしっかり私の悪影響を受けていて、生活習慣と健康が心配……。

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