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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
雪に埋もれて隠れた里とウサギともちともちつきと編
727/800

727 罪のない虚栄心

 武者姫は語った。

 王と王妃である両親によって大森林への遠征を禁じられ、もうドラゴンさんには会えないものと覚悟していた。

 行き違いがあり悲しい思いをさせてしまったのならば申し訳ないが、こうして再び相まみえることが叶うとは。言葉ではとても言い表せぬ僥倖である。

 そんな言葉を滔々と、腹式呼吸を思わせるはきはきと明瞭に聞き取りやすく述べる武者姫はなんか力強かった。

 我々や、ドラゴンさんにしがみ付いてきた凍えたエルフ、あわわわとしている筋肉ウサギの兄弟たちに、王都を守る兵士らがなにかせねばとあせりはするがなにもできることがなくてやっぱりただあわわわしていたり、ただ居合わせてドラゴンの威容に圧倒され、もしくは絶望している民衆たちの意識をあっと言う間に引き付けた。そして熱っぽく、まるで歴史に残る演説のように、その一言一言が人の心にしみ込んで行く。

 なぜなのか、よくは解らない。

 けれども武者姫の存在で、言葉で、今にも破裂しそうだった民衆のパニックは不思議にぴたりと落ち着いた。

 ドラゴンさんも体をぐんぐん縮めて子牛程度になっていて、ついさっきまでの怪獣に襲われた王都の感じが夢か嘘のようだった。

 いや、実際に襲われた訳ではなくて、めそめそともたれ掛かるドラゴンさんの重みで街がちょっと潰されそうになっていただけだが。だけとは?

 あと、挨拶せねばと使命感に駆られたらしいうちのじゅげむが「ドラゴンさん、こんにちはあああああ」と、張り切って挨拶している途中で金ちゃんにガッと担がれドラゴンさんから遠ざけられてガルガルとうなり保護されていた。

 金ちゃんは大森林的危機意識が高いので、ドラゴンさんに対しては本能的ななにかがそうさせてしまうのだ。毎回。

 なお、ドラゴンさんはその気になればどこまでも大きくなれる感じもあって、多少離れてもムダなのは金ちゃんも薄々解っているらしい。みたいな雰囲気がなくもない。

 距離を取ると言ったところで我々からもそう離れはせず、代わりに、ほどほどの場所にいたテオの背中に隠れ、でもサイズの関係で全然隠れず金ちゃんの筋肉がはみ出している。いじらしい。

 また、そう言えばフェネさんもドラゴンさんにはアレなんじゃなかったかと思い出し、今さらながらによく見るとテオのシャツのお腹の辺りが不自然にふくれて心なしかもふもふとしていた。

 そして微弱にブブブブと、なにかがバイブレーションしている。

 よかった。シャツに包まれ大体のシルエットしか見えないが、なんとなくまだ小動物の面影がある。今日は毛になってない。セーフ。

 前に思わぬ形でドラゴンさんと出会った時には魔力で練り上げた分体が秒でぴえっと消し飛んで、媒体である自称神の毛に戻ってしまっていたが今回は怯えるだけで済んでいるようだ。

 ドラゴンさんは矮小なにんげんなんか鼻息でどうにでもできそうな強大すぎる存在ではあるが、テンション上がってうっかりばややとさえしていなければみんな大体大丈夫みたいだ。

 周りでざわつく王都の一般市民的な住人たちもおどろき動揺はしているが、体調を崩したり気絶した者はないようだった。

 筋肉ウサギの兄弟たちがふうっと気を遠くしてるのは、冒険者としてエアストと冠されるドラゴンのやばさを知っていたがゆえの精神的なあれだったらしい。

 私知ってる。格闘マンガでちょっと実力を付けてきた主人公の前に超強い敵がテコ入れされて、最初はそこまででもなかったはずが読者の人気が出てきたかなんかであとからじわじわ強い設定と重たい過去が追加され、なんで最初からそれが解らなかったのかの説明のために相手の強さを感じ取るにもそれに見合った実力がいるみたいな話になるやつじゃろ? 違う気もしますね。

 そうして、気付けば。

 ドラゴンさんの出現で防壁の外に集まっていたギャラリーは貴人たる武者姫の身辺を守る護衛のようでいてもう部下の兵士みたいな騎士たちや街の兵に整理されてスペースが作られ、感激しつつも覇気にあふれた武者姫の指示でお付きの侍女らがてきぱきと働きあれよあれよと宴会の準備が始まっていた。

 武者姫は、設営の進む宴会会場を背景にこちらを向いて我々に言った。

「少し予定と違ってしまうが、預けた料理を並べてくれるか?」

 この流れだ。そうなる。わかる。

 しかし武者姫からの、当然とも言うべき指示を受けた時、我々はちょっとそれどころではなかった。

 ひんひんと暴れ回るメガネ。

 それを囲み、じりじりと距離を詰めて捕獲せんと試みる我々。

「やめて! やめて! 行かせて! 俺、行かなきゃ! ドラゴンさんから落ちたエルフ探して回収してあわよくば強めに感謝されるチャンスを逃したくないの……!」

「たもっちゃん、一回落ち着こう。全部出てんのよ下心が。隠して。せめて」

 今のメガネはさながら機嫌が悪い時には触れるものみな頭突きで黙らす野生のお寺の公園のシカ。野生なのにお腹が空いたら人類からおせんべいとかもらっちゃうあれのよう。

 我々はそれを、お土産屋さんでうまいこと言って買わされたシカせんべいを手に持ってどうどうとなだめている状態だ。シカせんべいは概念なので、実際にはなにも装備していない。

 たもっちゃんは今すぐこの場を飛び出して、ハイスピードで大森林から飛んできたドラゴンさんの背中から途中で脱落したと言うエルフの保護に向かおうとしていた。

 まあ、解る。エルフは多分、早急に保護したほうがいいように思う。

 彼らは魔法の素養や気位が高いが、大半が大森林からめったに出ない世間知らずだ。

 この世の中には卑劣で小ずるい人間がいくらでもいて、田舎から出てきた純朴な美少女をキミならナンバーワンキャバ嬢になれるよなどとスカウトし、アルコール多めの夜のお店に引き込んだりするのだ。恐ろしい。

 ただその美少女は実家が人族の国々とボコボコにやりあって文明の崩壊を引き起こし掛けたとか掛けないとか言う同胞を愛し守るエルフの里なのであとからうちのお嬢になにしてくれとんじゃいとその筋の恐いお兄さんたちが過剰な報復にくるのだが、そもそも被害なぞには遭わないほうがいい。わかる。

 またそれはそれとして、ぐだぐだとした我々のことを否定せず、親の実家の親戚の家みたいに迎え入れてくれるエルフの里の人々を少しの危険にもさらしたくはなかった。

 だから、そう。迎えには行ったほうがいい。

「わかる。わかるよ。でもメガネ、お前はダメだ。夜の街のスカウトだけでなく貴様の下心もだいぶよくないものを感じる」

「何でよぉ! 助けたエルフに感謝されてちやほやされたいだけでしょぉ! 罪のない虚栄心くらい許してよぉ!」

「タモツ、それを下心と言うんだ……」

 ゲームとしてのそれには全然詳しくないのだが、イメージだけでカバディカバディと中腰で包囲網をせばめつつ、私やメガネが言い合っていると一応一緒に腰を落としてメガネを確保する輪を作ってくれていたテオがどこかしんみりと悲しい様子で指摘した。

 我々に長めに付き合っていられるだけあって、最近はところどころでうっすらと様子のおかしい片鱗を垣間見せることもあるが、そこは腐ってもテオである。説得力が違う。

 なにやらメガネもはっとして、「テオが言うとマジっぽいからそれは俺が悪いかも知れない……」と一気にしおしおと勢いをなくした。


 ドラゴンさんに捧げるためのドラゴンさんを囲みちやほや称える会がぱややぱややと盛り上がり、全てのエルフが回収されて合流したのは数時間後のことである。

 エルフは魔法の素養に優れ、精霊にも愛される。精霊に好かれるかどうかはおのおのの人間性にもよる気はするが、少なくともその傾向があるのは確かだ。

 で、あるため、エルフは精霊に伝言を託して同胞と連絡を取ることもできるとのことだ。

 そう教えてくれたのは王都までどうにかドラゴンさんにしがみ付いてきた無事なほうのエルフで、彼らは「ただし」と補足する。

「精霊は気まぐれで……確実にとは……。魔道具や術式で魔力を封じられてしまえば、精霊と対話もできないし……」

 なので、精霊を通して連絡は取れるが、いつでも便利に都合よく使える方法でもないらしい。

 それはそう。そう言っただいぶ不便な制約がなければ、かつて人族にあれやこれやと連れ去られたエルフらももっと簡単に探せたし、助けを求められたはずだ。なんだか悲しくなってきちゃったな……。

 幸い、今回ははぐれて迷子と言うだけなので比較的早めに連絡が取れ、迎えに行くためになんだかんだで空飛ぶ船やドアのスキルで最も便利な男であるメガネが不安しかないテオのしっかりとした監視のもとで迎えに行くことになった。

 で、戻ってみれば回収したエルフが六人くらいいて、大半が脱落しとるやないかいとドラゴンさんにライドオンする厳しさを思った。

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