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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
雪に埋もれて隠れた里とウサギともちともちつきと編
726/800

726 純粋な言い訳

※ 怪獣映画に似せたパニック描写が少しだけあります。ご注意ください。

 ――さて、ここで大変重要な、そしてまじりっけのない純粋な言い訳をしたい。

 我々は先日、王城に呼ばれていつも元気な武者姫のほうからドラゴンさんへの供物を預かり届けるよう言い付かっていた。

 お仕事である。

 冒険者ギルドを通し、お賃金だって発生する。ありがたい。

 にも関わらず、ドラゴンさんのお住まいがある大森林にも向かわずに我々がいまだ王都でうろうろと高級菓子にはあはあ言って散財したり、知り合いのエルフにアポなしで突撃訪問したりしてご迷惑をお掛けしながら時間を浪費しているのには理由があった。

 最初は、ちょっとだけのつもりだったのだ。

 我々とうっかり行動を共にして、だいぶえらい貴族たるアーダルベルト公爵家にまで一緒に連れてこられてしまいこの世の終わりみたいにガチガチだった筋肉ウサギの兄弟たちも慣れてきて、お世話になった公爵家の皆様のために筋肉を駆使してもちをつきたいとか言い出したり、そんな弟たちとは別口で、かわいいを極める兄ウサがふりふりとした愛らしさによってかわいさに飢えた公爵家のメイドらに全力で飾られ、そのあり余る勢いが魔法少女に変身しそうな服の形に凝縮。その仕上がりにもう少し時間が掛かりそうだった。

 アーダルベルト公爵家は恩寵スキルのあれこれでだいぶ特殊な家なので、現在、公爵家の人間としては公爵本人しかいない。

 公爵も極めてきらきらしい人物ではあるものの、その美麗さはメンズとしてのジャンルであるためメイドらの、貴婦人などを飾るために磨かれた服飾センスを披露する機会が極端に制限されている。

 その長年に渡り鬱屈と抑制されてきた情熱と不満が、今まさに炸裂しているのだ。かわいいウサギの長兄を相手に。

 ごめんな……我々、ちょくちょくきてるけど……女子もいますけど……飾りがいがなくて……。

 それで、筋肉ウサギの兄弟たちの長兄であり、頭脳担当であり、ふりふりかわいい筋サーの姫たる兄ウサがちょっともじもじしながらもだいぶ楽しそうだったのと、走り出した公爵家のメイドらがもう誰にも止められないところまできていたのもありかわいい服の完成を待つことにした。

 と言っても、ウサギに似た獣族であるハーゼ族の体形に合わせて基本の服をシンプルに縫い、すでにあるレースやフリルをふんだんに使用して飾り立てる方式だ。

 ゼロから仕立てるものとは違い、何ヶ月もは掛からない。

 まあ、一日や二日だ。休んでもええやろ。

 みたいな気持ちで我々も王都をうろつき細々とした用事を済ませたりしていたのだが、それを知ってか、それともいるかいないか確かめるつもりだったのか。

 なにやら連日に渡ってどんどんと公爵家に武者姫からの使者がきて、いるか? いるな? よっしゃ、追加だ! と言った勢いで王城で話した時にはまだ用意できてなかったか渡し忘れたドラゴンさんへの捧げものが次から次に運び込まれて無限に増えて、それだけでなんか数日が掛かった。

 もうまとめてよこして欲しいと思わなくもないが、荷物、キッチリまとめたあとで詰め忘れが出てくるのもめちゃくちゃに解る。

 あるよね。段ボールに耐久性の観点からびちびちに布テープ貼ったあと、ちょっとした小物がどこからともなく出てくる永遠の謎とか。わかる。我々もそう言う人間なので。

 ――と、ここまでが現在の状況である。

 実際に言い訳したいのはここから。

 王のおわす首都である王城の街をすっぽりと陰らせ、まるで暗雲のような巨大さでその上空にどんよりとドラゴンさんが飛来した事件についてだ。

 反省だけはしている。


 王都の周りは平坦に、街道や農地が広がって見通しがいい。空もはるか遠くまで続き、地面と接する空際の線が互いにまざってかえって判然としないほど。

 その広い空を今、びかびかとメタリックに輝く巨大すぎるドラゴンが空があるはずのほとんどの範囲をおおい尽くして地上に文字通りの影を落とした。

 普段は見えず、そこにあるとも知れないが、防壁で守られた王都には上空の警備にドーム状の魔法防壁が備えられている。

 その丸みがちょうどいいばかりにほっぺたをくっ付け、全身でもたれ掛かるドラゴンの重みで王都を守る障壁のドームがなんとなく、ピシピシと悲鳴を上げている気がする。

 障壁のドームを含めた王都の街が、物理の意味でもあまりに偉大なドラゴンさんのクッションのようだ。なにこれ。

 剣と魔法とファンタジー生物にあふれる異世界においても、数少ない上位種であるドラゴンさんはレアである。

 その威容もまたしかり。雰囲気はだいぶうだうだしているが。

 だからそんなドラゴンさんが大勢の人の目に触れるのも、都市部に現れみしみしと重たくもたれ掛かるのも。だいぶめずらいしことだった。

 自然、民衆にわき起こる怪獣映画のような収拾のつかぬパニック。それはそう。

 この騒ぎ、そしてドラゴンさんの姿は王都の中のいい場所にある公爵家からもよく見えて、アーダルベルト公爵は庭から上のほうを見ながらに「これ、君達のせいじゃない?」と、大体の感じでひどい濡れ衣を着せてきた。

 事実とも言う。

 我々もちょっとそうかなとは思ってました。

 防壁と魔法障壁で守られた王都の街から急いでその外へ出て、たもっちゃんと私は力いっぱいのあせりを込めて空へと叫ぶ。

「鎮まりたまえ! 鎮まりたまえぇ!」

「ドラゴンさん! ドラゴンさん! 巨大怪獣みたいになっちゃってるから! ちょっと落ち着こ! サイズ小さめで行こ!」

 ドラゴンさんと我々は現在、それぞれゾウとアリに近いサイズ感である。

 正直、これ叫んでも聞こえなくない? とも思ったが、矮小なるにんげんがなんか言ってんなくらいのことは伝わったようだ。

 ドラゴンさんは丸みを帯びた障壁のドームにウロコ硬めのほっぺたをぐりぐりとすり付け、魔力によってピシピシ光るひび割れをいくつも作りながらにめそめそと言った。

「ワシ、ワシ、くるって聞いたから待ってたのに……おそーい……」

「あっ……それはごめん……」

 王都とその周辺に、地響きみたいにとどろくドラゴンさんの悲しすぎる嘆き。これにはメガネもさすがに素直に謝る。

 ドラゴンさん、我々をだいぶ待っててくれたのに全然こないもんだから悲しくなってどーなってんのと泣きながら飛んできたらしい。

 それはかわいそう。ごめんね。

 ただそもそもの、なぜ我々がドラゴンさんに捧げものを届けに行こうとしてたのをドラゴンさんが知っていたかと細かい疑問はあるのだが、それは、また大森林に行くことになるので待っててねとメガネが通信魔道具でエルフの里にもじもじはあはあとムダに報告の連絡を取り、ただ自然と存在するだけで大森林のほとんど頂点に君臨してしまうドラゴンさんを信奉してやまないエルフらが気を利かせ、ご都合などいかがでしょうかとお伺いを立てていてくれていたのが理由のようだ。

 孤高の勢いでレアな生物でありながら、それかそうであるがため、割と人と話すのが好きなドラゴンさんはわくわくと待った。

 なのに、なかなか大森林に現れない我々。

 そして今のこれである。

「えぇ……ごめん……」

「それはメガネが悪いわ全部……」

 なんか本当にそれはごめんと、たもっちゃんと私がどうがんばってもごまかし切れない非を詫びて、どうやらあわてて公爵家を飛び出してきた我々を心配して付いてきてくれていたらしい筋肉ウサギの兄弟たちがドラゴンさんをぼう然と見上げて「エアストのドラゴン……」などとつぶやきながらにふうっと気を遠くさせている間に、ドラゴンさんが空をおおい尽くすほど大きな体をしゅるしゅる縮めて地上のほうへと降りてきた。

 この途中、小さくなり行くドラゴンさんの背中からいくつかの人影が転げるようにぽろぽろ落ちて、それでいて危なげもなく我々の前に着地した。

 彼らは大森林のエルフたちだった。

 エルフらは三人。白皙の顔は今は蒼白と言うべきで、寒さにガタガタ震えて止まらない。

 これはドラゴンさんが悲しみに任せ、速度の意味でだいぶ飛ばしてきたためだ。取り乱したドラゴンさんを一人で行かせる訳にはと、とっさにしがみ付いてきたエルフらによると途中で何人が文字通り脱落したと言う。

「えっ……生きてる?」

「エルフは風の魔法が得意だからな。うまくやったはずだ。生きてはいるが、路銀は持っていないかも知れない」

 なぜならエルフは俗世を離れ、大森林で独自に生きる存在なので。

 寒さと風に体温を奪われ震えているエルフらに毛布やあったかい飲み物を配ってそんななにも安心できない話を聞かされていると、王都を守る防壁の門……は、元々開いたままだったのでばーんと開かれたりはしなかったものの、なんとなくそんな勢いでわあわあと騒がしい一団が現れた。

 武者姫である。

「ここまでお越しいただけるとは!」

 ドラゴンの出現で辺りは大事件の様相なのに、姫だけはうれしげにぴっかぴかだった。

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