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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
たたみ掛けるトラブルと全てを解決するカロリー賛歌編
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681 ぱやぱやと

 違うの。聞いて。

 我々も悪気はなかったの。

 ただなんかこう、ようこそ! 神の家へ! みたいな感じでぱやぱやと明るい歓迎に、人としてやましさでいっぱいの我々の精神が耐え切れなかったと言うだけで。

 恐かった。それはもう、開いた扉のすき間に合わせてタテ一列のトーテムポールとなった我々も、そっと扉を閉めてしまうと言うもの。同時に、心もちょっと閉じてます。

 まあ、だからと言って恐らく親切にしようとしてくれている人に、この態度はない。解る。ひどい。我々がひどい。

 あまりにも慈愛にあふれた光属性の善意の波動にテンパってしまった。

 どう言えばいいのか……この感覚は。以前、美しきマダム・フレイヤからいただいた素敵な異世界ガラスで作られたぴかぴかの小鳥にときめいて勢いのままそのガラス細工を扱うお店に突撃したら、高級クリスタルさながらのきらきらしい高級品ばかりの店内に本能的な恐怖で震えた時に似ていた。あれが気おくれと言うものなのだろうか。だとしたら恐怖が強すぎはしないか。

 一方、さすがにこちらから訪ねておきながら急に怯えて物理で拒絶した我々に、神官のほうも「えっ、なんで」となったのだろう。

 閉じたばかりのやたらと大きく立派な扉をそっと、控えめに開き、まるで人に慣れない野良ネコとじりじり距離でも測るかのように「どうかされましたか?」とさらなる追い気遣いをしてくれた。まぶしい。にゃーん。

 それで我々の引率として申し訳なさに顔をぎゅっとさせているテオが謝罪からの祝福の儀式を受けたいと用件を告げ、うっかりそこにいただけと言う不遇さで我々に関わることになってしまった人のよさそうな神官にふっと曇ったような表情をさせた。

 どうして。

「えぇ……突然の拒絶……いや我々が全部悪いけど……」

「ごめんね。戸、閉めちゃってごめんね。あふれるような善性がまぶしかったので……」

 たもっちゃんと私は、光属性の神官職が陰りある表情を浮かべたことにおののいた。さっきまであんなに精神性で輝いていたのに。一体なにがよくなかったと言うの。我々の心が閉じて人見知り由来の無礼以外で。

 さっきまでと、さっきまでと違うやん。と、急にはわわわわ動揺し、その場にひざまずいてずるずるとした神官服にすがり付きそうな我々にその人はあわてた。

「違うのです。あの、今は……難しくて……」

 彼は、まだ若いのかも知れない。

 神官服の男性はもう泣くのではないかと言うような様子でそう言って、さっと周囲を窺うと我々をうながし扉から離れた。

 そして神殿の高い屋根を支える大きな柱の陰へと入り、いかにも気まずげにひそめた声で苦く言う。

「祝福は万人に授けられて然るべきもの。ですが、今は……申し訳ないことです。平民の方には、どなたかの御紹介がないと……以前は違ったのですが……」

 神官の男性は言葉を選び選びにそう語り、そして自分の口から出てくる言葉の不本意な響きに自分で失望しているようだった。

 彼は、一人でどんどん肩を落としてしょんぼりと、最後には柱の陰の薄暗い辺りで悲しげに屈み込んでしまった。

「バスティアン様がおられた時なら……どんなにお忙しくても話を聞いて、時間を作ってくださいました。それこそ万人に祝福を願う、立派な方でいらしたから。でも、今はバスティアン様がよそへ移られてしまって……もちろん大神官長様も素晴らしい方ですが、なにぶんご高齢。金に汚い貴族派が大きな顔で身分も寄付金もない者は信仰に値しないなどとふざけたことを……」

 神官は、若い理想を崩されて、そして目標のように尊敬していた人物と離され、鬱屈としたものをかかえていたのかも知れない。

 人目を避けるようにして物陰にしゃがみ、背中を丸め、両膝をかかえ、我々に語り掛けるようでいてぶつぶつと怨嗟に近いものを吐いている。

 心配だ。

「君は初対面の我々に何を言っているんだ。大丈夫か」

「まあまあまあね。組織がおっきくなるとね。色々ありますよね。派閥とか。知らんけど。元気出して」

 テオやレイニーやじゅげむを含めて一緒になってこそこそ屈み、若い神官を囲みつつ元気出してとばしばし肩や背中を叩いた。

 そう言う遊びだと思ってか、なぜかメガネや私の頭をピンポイントで狙いぼよんぼよんと弾ませにくる金ちゃんにボリューム重視の軽食を持たせながらにもう少し聞くと、その、なにやら神殿内の派閥争いに負けたかなんかでよそへ移った神官――バスティアン様について、意外な事実が明らかとなった。

 しょんぼりと心なしか体を縮めてしゃがみ込んだ神官に、食べられないものはないかと確かめながら大丈夫そうな甘いものを与えていたメガネが「えっ」とおどろきの声を出す。

「あの人なの? こないだまでクレブリで神殿立て直してた神官長が、そのバスティアン様なの?」

 たもっちゃんのこの声に、私もやっと「えっ」と気付いておどろいた。あの人なの?

 クレブリでは以前、地元の神殿が腐敗的な感じになっていた。それはもう、本来保護すべき対象の孤児からも、ろくなもんじゃねえと蛇蝎のごとく嫌われていたほどだ。

 そしてただ嫌われているだけでなく実際に、マジでダメなやつだったため視察でクレブリにやってきた某王子の尽力により当時の神官がいつの間にか総入れ替えになっていたなどのできごとがあった。

 ついでに思い出すのはお任せくださいとばかりに力強く親指を立てた王子の姿だが、あれは本当にあったことなのか私の勝手な妄想だったかもはや全く自信が持てない。公式の設定だったか二次創作で見たパロディだったかもうなにも解らないみたいな感覚に似ている。業が深い。

 まあ、それで。

 クレブリのガタガタになっていた神殿と信頼回復のため、入れ替わりに派遣されてきたのがあのイケおじだったと言う訳だ。

 たもっちゃんや私は、この奇遇になんだかおどろかされると同時にしっくりと深い納得を覚えた。

 やはり、かのイケおじはこの王都の神殿で元々、それなりの地位にあった人なのだろう。

 そのことを我々に気付かせた若い神官の様子から、ここを離れて時間の経った今もなお密かに尊敬を集めているのが見て取れる。

 なるほどね、と我々はしみじみと思った。

 やはり、イケおじは正義と言うことがよく解る。


 お祓いを受けにきただけなのになんだかうっかり神殿内部の闇的なものを垣間見た我々。

 血の涙を飲みながらにぎりしめていた寄付のために覚悟した高額硬貨をそっとなかったことにして、その日はそのまま帰ることにした。

 そもそもが誰かの紹介がないと平民は受け付けてくれないらしいと言うのに加え、例のイケおじ神官などのちゃんとした人を冷遇するような場所に寄付を納めるのがやだなと思ってのことである。

 それですごすごと買い食いやおみやげの高級菓子などを買い求めてから公爵家へ帰り、アーダルベルト公爵に使用人のかたがたのぶんも含めるとだいぶ大量になってしまったおみやげの焼き菓子をお渡ししつつティータイム的な時間になだれ込み、なんか神殿ひどかったですとめそめそ嘆いて言い付けておいた。

 権力には権力かと思った。

 こうして取り急ぎお祓い、と言う一応ながらに重要な案件が先送りとなり、ただただぼーっと渡ノ月をやりすごしていた我々。

 本当になぜなのか解らないのだが、そしたらいつの間にかに新年がきた。

「また一年が溶けちゃった……」

「ことよろでございます……」

 たもっちゃんや私が月日のすぎ去る速度にぼう然としてしまうのにも構わずに、異世界は秋。

 容赦なく一ノ月に突入である。

 ただし異世界も秋は収穫などで忙しく、新年を祝ったりするのは冬に入ってからなのでまだそれらしい雰囲気ではないのだが。

「はい、今年もよろしくねぇ」

 などと、おっとり挨拶を返してくれるきらきらしきアーダルベルト公爵やお屋敷の人たちに見送られ、一ノ月に入るなり我々はとある神殿へと向かった。

 とあると言うか、たもっちゃんのドアのスキルであらかじめ自立式ドアを設置させてもらってる自称神たるフェネさんの本体が神として祀られている洞窟を訪ね、本体もたまにはおいしいもの食べたいとガウガウ主張する大きいほうのフェネさんに備蓄の料理をメガネがせっせと提供し、そのかたわらで我々はまだ在庫のダブついている人工岩塩を本体キツネを信仰しているマーモット的な村人たちに使ってもらってと、水気多めの洞窟の中でなるべく乾いた辺りへ積み上げて、念のため本体のフェネさんから分体のフェネさんへと魔力を充填してもらい、それでは我々こう見えて急ぐので、とメガネ自慢の帆船で山間のマーモット村から近郊の街へ。

 そして到着したのは以前、資金面の調達方法から用途まであらゆる不正が発覚しテオのお兄さんなどの王都の騎士にえらいこと怒られた某不正の街の神殿だった。

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