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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
たたみ掛けるトラブルと全てを解決するカロリー賛歌編
680/800

680 正しいだけでは

 ある夜のこと。

 宝石のきらめきにも似た美貌のアーダルベルト公爵は、どこまでもうるわしく、けれども薄らと諦めを思わせるほほ笑みを浮かべてこう言った。

「人にはね、正しいだけではいられない時もあるんだよ」

 あまりにも寂しく悲しいその人が、夜中にもそもそ起きてきて「君達の話が頭から離れなくて、どうしてもラーメン食べたくなっちゃった……」などと言い我々がお泊りさせてもらっている公爵家の客室を訪れて背徳の夜食ラーメンを要求したあとでなければ、うっかりなにか重大な悲劇でもあったのではないかと勝手に察し同情してしまうところだ。危なかった。夜食のラーメンは我々もしっかりいただいた。

 そんな、夜中にラーメンなど食べる子ではなかったはずの、完全に悪い友達である我々からの影響が深刻に出ている公爵にじゅげむにはまだ言えてないのですがと大森林で金ちゃんが一瞬大自然に帰りそうなムーブメントがあったことなどを聞いてもらったりして我々は、大人――特に主人の健康管理に余念がなさそうな公爵家の有能執事などには内緒の、真夜中ラーメンの会をつつがなく終えた。

 翌朝には執事を始めとした公爵家の使用人がたにもう全部バレていたのだが、本当にいつ情報を捕まれたのか。それとも我々が知らずにいただけでもしや現場を押さえられていたのかと、全く解らなくて本当に恐い。

 こうして真夜中ラーメンの悪い子の会で最近の我々への理解をより深めた公爵は、我々をまじえての朝食の席ではそわそわとどこか気遣うような様子を見せて金ちゃんに自分の食事からお肉を分けてあげたりしてくれた。

 そしてふと。

 したたるような蜜色の髪を輝かせ、けれども淡紅の瞳に深い憂いをたたえながらにこちらをひたりと見詰めて言った。

「君達、一度神殿で祝福でも受けておいたほうが良いんじゃないかな」

 お祓い的なニュアンスで、やたらと真剣な提案だった。

 渡ノ月をすごすためどやどややってきた我々の、昨日から聞かされ続けた訳の解らない最近の話に公爵は色々と心配になってしまったらしい。

 確かに、最近の我々は不運にまとわりつかれているような気がする。

 元々が異世界転生などと言う訳の解らない感じでやらせてもらっている我々ではあるが、この頃の、金ちゃんハリガネムシ事件からのお気に入りの骨が砕けて意気消沈。

 その陰ではテオも大事な剣が折れていて、さらにはその事実すらうっかり忘れられていた。かわいそう。忘れたのは我々である。

 それでやっと剣を発注に行ったら行ったで盗賊に目を付けられた村に関わることになり、なんか知らんが男と女と冒険者ギルドのいざこざに巻き込まれたような、我々に男と女と組織のことが解る訳がないのでただ見ていただけみたいなこともあったような気がする。

 そして、極め付けが大森林で金ちゃんの過去との再会だ。

 あわや金ちゃんとの別離かに思われた、変異種トロールの群れとの邂逅。

 これはかなりひやりとさせられたものの、金ちゃんはすでに我が家の金ちゃんであると言うことを再確認する結果となった。おかえり。本当によかった。よかったのだが、なぜだろう。頭を連打すると食べ物が無限に出てくるスイッチとしての、この私の複雑な気持ち……。

 あと、直近でもう一つ。

 ほんの数日前である、大森林の間際の町でラーメン屋が燃えた件については安全管理者たるミオドラグの責任ながら、そのタイミングが我々がちょうどラーメンを食べにいそいそと訪ねた時であると言う点になんとなく偶然にしてはよくないものを感じなくもない。

 普段からヒヤリハットインシデントが発生していたと言うのなら、燃えるのもわざわざ我々がいる時じゃない可能性のほうが高かったはずだ。ただ、エルフは不在のあの状況で我々が、と言うかメガネが居合わせ初期消火に成功したのは不幸中の幸いではあった。

 だから、確かに。

 思い付くだけでもこうして最近色々あった。

 これを不運と言うのかも知れない。だとしたら人知を超えたなにかにすがり、お祓い的なものを提案したくなる気持ちも解らなくはないのだ。

 輝くような美貌を憂いに曇らせて、「私、心配」と今度は自称神たる白く小さなキツネ的な獣であるフェネさんのゴージャスな胸毛をもみしだき始めた公爵に、我々も「……ウッス……」とにぶい返事くらいしかできない。

 一方、公爵にもみしだかれているフェネさんは「このにんげん、ちょっとなでるのうまくなってて我やだぁ」と、大きな両目でうるうるとテオに助けを求めながらになんだか新しい扉を開こうとしていた。


 保護者のように心配の尽きない公爵さんとの朝食から、しばらく。

 我々はとある神殿の前にいた。

 こう見えて、我々は割と素直なほうである。

 素直すぎて謙遜などを言葉通りに受け取ってしまい、まあまあ嫌われがちなほどなのだ。悲しい。

 そんな持ち前の素直さを発揮し、一応……ねっ。こう言うのは気持ちの問題でもありますし。ねっ。お祓い、お願いしておきましょうね……。

 と、寄付と言う名の謝礼のためにえげつなく高額な硬貨をにぎりしめ、まずやってきたのは王都の中央神殿的な場所である。

 アーダルベルト公爵家があるのは王都。その食堂で朝食としつつお祓いを提案されたので、近場の神殿がここだったのだ。

 我々、神はそこにいませんと言うレイニー先生の教えもあって神殿にはあんまり縁がないのだが、神殿のお世話になってしまうととなんとなくすごくお金が掛かるみたいなイメージだけが強くある。

 これは我々が異世界にきた当初、か、ちょっと経ってから、もしくは結構まあまあしてからだったかもはっきりとは思い出せないとにかくだいぶ前のこと。

 この世界では視力を矯正する目的でのメガネが全く普及しておらず、代わりに神殿で視力回復に効果のある癒しの祈りを受けるほうが一般的である。しかし、それには結構なお金が掛かるのだ。

 ――と、言うような話を聞かされたのが医療費への恐怖と共にずっと頭に残っていたからだったかも知れない。

 そのため、神殿に向かう勇気を出すためにすでに涙目の我々がにぎりしめ、じっとりと生あたたかく手汗で湿気った異世界の硬貨も銀色もしくは金色と涙に血がまざるほど高い種類のものだった。

 我々は覚悟を決めていた。

 効能があるかどうかも解らない形のないものにこんな大枚をはたくくらいならもう多少の不運は見てみないふりでこのまま行こうかとも思ったが、ここは魔法の存在する世界だ。

 呪いすら、一部では確固とした技術としてそこにある。元気かな? 呪いが得意なハイスヴュステのおばば。

 だから……なんだっけ。あれよ。一応、ただのゲン担ぎになってしまったとしても、やるだけはやっておいたほうがいい。そんな気がするのだ。

 また金ちゃんが拾い食いして倒れたりしたらやだし、特にじゅげむになにかあったら本気で後悔してしまう。

 そんな気持ちで涙ながらに王都の神殿に殴り込んだ我々は、秒で負けてすぐに出てきた。

 いや、なにかされたとかではない。全く。

 平民の冒険者風情が気安く訪れていい場所ではないと追い出されたりはしてなくて、ただ、お城か? と見まがうような外観の、ものすごく高い塔をいくつも持った神殿のやたらとでっかい豪華な扉を、お前行けよ。いやあんたが開けなさいよ。などと完全にごちょごちょ押し付け合いながら、恐る恐るちょびっとだけ細く開いて中を覗くと、さすが王都なのだろう。神殿はめちゃくちゃきんきらと輝いていた。マジ大聖堂。

 扉の向こうに広がっているのは、何本もの柱。その柱で支えられ連なる、いくつものアーチ。それらのアーチが一部で集まり、高いドームを形作る天井。壁にはこれもアーチの構造で棚状のくぼみが設けられ、聖人を模したものなのか、乳白色の石材をなめらかに磨いた人物像が何体も並ぶ。

 そしてそれらの全てが絢爛に、だがあくまでもノーブルな装飾でおおわれているのだ。

 王都の神殿、中身もなかなかのお城感。

 神の家でありながら贅を尽くしたその様に、我々はごくりとなにかを飲み込んだ。なぜなのか。あれよね。富と権力が容赦なく詰め込まれてる感じがしますよね。

 我々もそう詳しくはないので大体の偏見ではあるのだが、地球時代につちかったよからぬ知識がささやくの。これは金のにおいがしまっせ、と。

 その時点で我々はすでにだいぶ気持ちで負けていたのだが、しかし、最後の一押しとなったのは光属性の他意のない善意だ。

 大きな扉を細く開いた所から縦一列に顔面を並べ、ほわわわと神殿を覗き込む我々に「何か御用でしょうか?」と、ちょうど扉の内側付近にいたらしき神官服の男性があくまでも優しげに声を掛けてきてくれた。

 閉めましたね。扉。せっかく声を掛けてくれたのに。我々は人でなしなので。

 アッ……アッ……すいません。つって。

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