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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
運の悪さと宿命の敵、なんかこうなりましたね編
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644 集団行動に不適正

 ラオアンの街近郊の、森で発見されたダンジョン。これは別に、最近できたものと言う訳でもないらしい。

 ではなぜ今まで見付からずにきたのか。

 それはただ単純に、森の奥、軽く谷になった地形の底に入り口があり、普通に誰も気が付かなかっただけっぽいと聞いている。

 だがこれは厳密には恐らく正しくなくて、発見にいたった経緯を聞けば先日の、急に森に現れた魔獣の集団を討伐するため追い掛けているとそれらが地下に広がるこのダンジョンに逃げ込んだのだそうだ。

 群れをなすほどの大量の魔獣がどこに隠れていたのかと思ったら、ダンジョンを巣穴代わりにしてらしい。

 そして、事情通のメルヒオール少年によると、その魔獣の集団は悪魔と契約していた彼の母――ホラーツ家に後妻として入った奥方の使い魔的なものと言う。

 だから少なくとも奥方――もしくは彼女と契約した悪魔は、そのダンジョンの存在を知っていて魔獣の集団を隠すのに都合よく使っていた可能性が高い。なんとなく、私利私欲の風情あり。よくない。

 しかしまあ、それもダンジョンが発見された今となってはどうでもいい話だ。

 誰だ。こんな細かいことを言い出したのは。私か。じゃあしょうがない。

 それで、副ギルド長のおっさんもなんかすごく頼んできたし、我々もムダにだらだらしていたところだ。

 この辺でちょっと冒険でもしときましょうよとメガネが言い出し、まあそうね。と、みんなでお出掛けすることになった。

 我々の構成メンバーとしては冒険は冒険者のたしなみみたいな空気を出すメガネに、ダンジョンと聞くと私のターンですねと張り切ってしまうレイニー。

 と、基本レイニーは私から離れないはずなのにレイニーがダンジョンに行きたがるのでレイニーと一緒に連れてこられた私。関係性の逆転現象。

 それから、ハリガネムシから全快し若干ボディラインがすっきりした気がする金ちゃんもダンジョンに足を踏み入れてやたらとやる気でいっぱいで、お気に入りの骨を振り回し準備運動に余念がなかった。頼もしい。

 じゅげむは今日は塾の日で留守です。

 もちろん誰より頼りにされているテオもいて、その肩では白く小さくゴージャスな獣が「こんなダンジョンくらいで張り切っちゃってかわいいね」などと大物感を出している。

 でも私は知っている。いざ手頃な獲物が出てきたら、多分フェネさんが一番本能むき出しのイヌ科になると。

 今回は冒険者ギルドのお仕事で、ギルドの職員やほかの冒険者もいる中での探索である。

 我々には「ただし集団行動はDランク相当」の懸念材料があるのだが、それはなんか、ギルド側のすでに承知でとにかく人手不足の現実を前に多少の不安はぐっと飲み込んだようだ。大丈夫だろうか。

 お陰で、と言うべきか。そんな事情でメガネにもダンジョン内のとある区画が任された。

 ただし集団行動に不適正すぎる我々は、どうやらその対策で身内だけでまとめられいつものメンバーでの行動となった。なぜだろう。隔離の二文字が頭に浮かぶ。

 そんな中、うっすらただよう悲しみを吹き飛ばすみたいにメガネは言った。

「はい! 頑張りましょうね! お昼とおやつは用意してますからね! バナナはデザート扱いで別です!」

「大事なことだけども」

 もっと注意事項とかあるやろがなどと、ぶつぶつ言いつつ我々はダンジョンの奥へと足を進めた。

 先ほどギルドの職員や冒険者が集まっていたアーチ天井の連なる場所を仮に広間と呼ぶとして、我々に任されたのは広間の端の壁面にいくつか開いた通路のような洞窟の一つだ。

 広間もそうだが地下に広がるダンジョンは、なぜだかある程度の明るさがあった。

 足元に水のあふれた広間の中は水の下、それか水そのものが淡く発光しているかに見える。

 そしたら、あれ。下から照らされると人類はもれなく、恐い話する時に顔の下からライトで照らしたみたいなおもむきになる。余計な知識が増えてしまった。

 対して、大人がギリギリすれ違えるかどうかと言った、決して大きくはない横穴はごつごつとした洞窟めいた壁面と天井がぼんやり発光しているようだ。

 そして足元に水はない。横穴に入ってすぐが少し上り坂になっていて、それからゆるやかに下って行く構造のためだ。

 そのせまい横穴を進んで行くと、ちらほらと枝分かれした道がある。調査探索と言うことでそれらを一つ一つ確認し、たもっちゃんが時に過剰な凝り性でせっせとマッピングして書き留めていた。

 この地道かつ忍耐力の試される作業に、全然参加していないのに早急に飽きたのはレイニーと金ちゃんとフェネさんに私だ。

 まず、生命ではなく魔力のなにかであるらしきダンジョンモンスターならば容赦なく狩れるとうきうきしてたレイニーが、今のところ全然出てこないモンスターにじれた。

「わたくし、一人で先に行っても構わないでしょうか?」

 さすが我々のレイニーである。集団行動に適性がない。

 だがこれは、自らも集団行動ができないタイプのうちのメガネが「いや、駄目だよ」と即座に止める。

「調査探索だよ。調査しよ」

 ド正論だった。

 せまい横穴で一列に、テオとフェネさんを先頭に進んでいた我々の、二番目を歩くメガネは動物性の皮の紙とペンを手にして上半身だけむりやりひねって後方のこちらを振り返る。

 そうしてレイニーを止めていたのだが、その途中、はっとしてあわてた声を出す。

「あっ、リコ。金ちゃん止めて! あー! 金ちゃん! 金ちゃんまだ調べてない横穴に体ねじ込むの止めて金ちゃん! て言うかそこに穴あった? あー!」

 そう言われてレイニーの次に歩いていた私がさらに自分の後ろを見ると、最後尾にいた金ちゃんの姿がそこにない。いや、ないと思って視線を上へ下へとさ迷わせて探すと、足元で、腰布に包まれた筋肉質なケツ的なものがぷりぷりともがいているのが見えた。

 どう見ても金ちゃんのケツである。

 金ちゃんの上半身はうっすら光る通路の壁にめり込んで消え、そこに、むきむきの金ちゃんがギリギリ這って通れるかどうかの小さめの穴があるのが解った。

 小さめの穴にどうにか入り込もうともがく金ちゃんに、私は思う。

「私に金ちゃん止めるのはムリじゃない?」

「諦めが早過ぎんのよ」

 レイニーと列の順序を入れ替わり後ろへ戻ってきたメガネともうムリではとまあまあのあきらめでいっぱいの私が、金ちゃんのおケツに向かってお願いだから戻ってきてと語り掛け説得などしていると、頭の上からフェネさんの弾んだ声が降ってきた。

「ねー! つま! つま! なんかねぇ! あっちのほうからいっぱいこっちくる音がする! 我やる? 我いっぱい狩っていい?」

 完全にはしゃいだ感じで自称神の白い毛玉はたしたしと、小さな前足で妻たるテオの肩を叩いておねだりのように言いつのる。

 そのセリフを聞く限り、どうやらここまで全然見掛けなかったダンジョンモンスターがよりにもよって、このタイミングでいっぱい出てきたようだった。

 金ちゃんを穴からどうにか引っ張り出そうと屈み込み、無防備にわちゃわちゃしていたメガネや私。はちゃめちゃにあせった。

 ただよく考えたら私はいつでも無防備なので、モンスターがおっかないのは別に今に限った話ではなかった。今さらだった。

 レイニーやフェネさんがわあわあ言って我先にせまい洞窟でポジションを争い、最初から先頭にいたテオにぶつかりぎゅっと詰まってしまう所へあわてたメガネがさらにぎゅっと追加で詰まり、自分らで窮地を作り出しているのを後ろからただただ眺めつつ、私は戦力外として金ちゃんの尻をペンペン叩いて「金ちゃん、モンスターきたよ。出ておいで」と教えてあげた。親切。

 そうして始まった戦闘は、圧倒的に人間側が不利だった。

 地の利がモンスターに味方していたからだ。

 人間が歩いてどうにかすれ違える程度の、全体的に細長い洞窟めいた横穴はせまい。武器を持ち、振り回すには不利だった。

 そこへわんさかと押しよせたのは小型の、そして自在に飛び回るコウモリタイプのモンスターである。

 たもっちゃんは、薄いラバーのような飛膜を持った無数のモンスターに襲われ、卑怯なりと叫んだ。

「酷い! こんな場所でコウモリとか! めちゃくちゃベタじゃん! 狭い洞窟で襲うのに特化してるじゃん!」

 だいぶ集まってきたコウモリに巻かれて、誰がどこにいるのか、なにがどうなっているのかもよく解らない。そんな中、聞こえてくるのはただただ文句と負けおしみだった。

 まあこれも、レイニーやフェネさんが張り切ってほどなくモンスターをごりごりに制圧。ことなきを得た。

 ただし、失ったものもある。

 あとに残されたのは大量のドロップアイテムと、ものすごく落ち込んだ金ちゃんだった。

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